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革命編 七章:黒を継ぎし者

天才の実力

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 【結社】の構成員でありウォーリスの母親ナルヴァニアと顔見知りだと名乗るメディアという女性によって、合流したウォーリスとジェイク達は別地域にあるかもしれない実験施設に赴く。
 そして重力操作と飛翔魔法を使って三人を伴いながら向かうメディアは、凄まじい速度ながらも隠密性を有したままゲルガルド伯爵領地の南東に向かった。

 そしてジェイクが把握している情報により、一時間にも満たぬ内に国境沿いにあるという渓谷の鉱山地帯まで辿り着く。
 するとメディアは木々が深い場所に降り、三人を降ろしながら地面へ着いた。

『――……はい、到着っと』

『……こんなに早く……!』

『のんびり歩いたり、馬車に乗ったりするワケじゃないんだし。空を飛べるなら、これくらい普通でしょ?』

『……』

 初めて空を飛んだ三人は精神的な疲弊があるのに対して、メディアは特に変わらぬ様子で微笑みながら述べる。
 魔法技術としては高位に位置する重力操作と飛翔魔法を行い、それと並行するように現状でも周囲に結界と偽装魔法を施しているメディアは、まさに驚くべき技量を見せていると言ってもいい。

 初めて相対した際には実力の底が見えなかったメディアに対して、ウォーリスはここに至るまでに自分を上回る実力者ではないかという可能性を考えながら警戒を抱く。
 アルフレッドもまた同じようにメディアの実力が自分達を上回る事を予想し警戒していたが、それと相反するように信じ切っているジェイクは周囲を見回しながらメディアに尋ねた。

『しかし、こんな広い鉱山ばしょで……どうやって実験施設を探せば……?』

『うーん、そうねぇ』

『……我々だけで手分けしても、探すのに苦労しそうな場所ですね』

『もし探せ出したとしても、ゲルガルドが監視と警戒を怠っているはずがない。もし捜索しているのがバレたら、逆に返り討ちにされてしまう』

 ジェイクの尋ねた事柄に続き、アルフレッドとウォーリスは実験施設を探す上で懸念していた事を伝える。

 山二つ分ほど規模がある鉱山地帯には、付近に人気ひとけも無く周囲には広大な自然しか存在しない。
 そんな場所に建てられているかもしれない研究施設の入り口を探し出し、更に『神』に近しい実力を持つゲルガルドと相対する必要さえある。

 そうなった場合、普通の人間であるジェイクは戦力とはならない。
 ウォーリスとアルフレッドが二人掛かりで奇襲を仕掛けても、ゲルガルドには歯が立たないだろう。

 リエスティアを取り戻す上で最大の障害となるゲルガルドを無視したまま、実験施設の捜索を進められないと考えるウォーリスとアルフレッドの言葉。
 それを聞いた上で、メディアは首を傾げながら腕を組んで考えた後、こうした事を述べ始めた。

『……ひとつ、良い手段《て》があるわよ』

『良い手段?』

『そう。ゲルガルドを何とか出来て、リエスティアって子がいる施設を探せる方法。やってみる?』

『……やる前に、説明を聞かせてください』

『説明しなきゃ、ダメ?』

『お願いします』

『しょうがないなぁ。じゃあ、教えてあげる。その手段ほうほうは――……』

『――……!?』

 その手段をメディアから聞いた時、ウォーリス達は思わぬ驚愕を浮かべる事になる。
 そして様々な異議が彼等から交えられながらも、メディアはそれ以上の策が無い事を伝え、ウォーリス達の話に取り合わずに話を切り上げ始めた。

『――……というわけで、貴方達はそうなったら一緒に動いてね』

『……貴方は、正気ですか?』

『正気しかないけど?』

『……そうか、貴方はゲルガルドの実力を知らないから……。……止めておいた方がいい。幾ら卓越した魔法技量を持っていたとしても、ゲルガルドには勝てない』

『別に勝たなくていいんだよ。貴方達がリエスティアって子を救い出すまで、時間稼ぎをすればいいだけなんだから』

『それも出来ないって言ってるんです!』

『もぉ、強情な子だね。ウォーリス君は。でもそういうとこは、お母さんに似てるかもね』

『!』

『大丈夫、少しはお姉さんを信じてみなさい。――……じゃあ早速、始めるから!』

『あっ、ちょっと――……っ!!』

 微笑みを見せながら自分の身体だけを浮遊させ始めたメディアは、そのまま鉱山地帯の上空へ飛翔する。
 それを追えないウォーリスが止める間も無く、メディアは鉱山地帯が見渡せる位置に移動しながら真下の地域を見下ろした。

 そして山の向こう側に見える少し離れた町を確認しながら、両手の平を合わせて叩く。
 すると僅かに魔力の波動が流れ、鉱山地帯周辺に送り込まれながら瞳を閉じて何かを探り始めた。

『……周囲まわりには、あの子達以外に人はいないね。動物や魔物も、ほとんどいない。……じゃあ、やってみようか!』

 メディアはそう言いながら外套が覆っているふところを自身の右手でまさぐり、ある物を取り出す。
 それは目と鼻部分を覆える白い仮面であり、それを身に着けながら両手を左右に振り向けた。

 すると次の瞬間、両手の手袋グローブに嵌められた白い魔石が魔力の光を発する。
 それと同時に周囲には百を超えるだろう魔力球体ボールが生み出され、メディアは口元を微笑ませた。

『……さぁ、行くわよっ!!』

『……!!』

 メディアは生み出し展開させた魔力球体ボールの数々を、真下の鉱山地帯に一気に放つ。
 魔力球体ボールは凄まじい速度と軌道を描きながら大地まで辿り着くと、地面に着弾すると同時に凄まじい光と爆発を生み出した。

 その直撃こそ受けていないウォーリス達は、周囲から巻き起こる爆発の風と土埃を受けながら驚愕する。
 しかも続けて生み出した魔力球体ボールを撃ち落としたメディアは、次々と鉱山地帯を破壊し始めた。

『こ、こんな事を……本当にあの人だけで……!?』

『ウォーリス様、やはりあの女性メディアは……!』

『間違いない、聖人だ。……しかしこれだけ高威力の魔法を、連続で撃ち出せる聖人がいたなんて……っ!!』

 ジェイクは見た事も無い魔法の攻撃が大地を削っていく光景を目にし、驚嘆を漏らす。
 しかしウォーリスとアルフレッドは共に彼女メディアが『聖人』であると確信し、更に自分達の予想を更に超えた実力者である事も理解した。

 それでも彼等の持つ不安は、たった一つの可能性じんぶつによって不安を余儀なくされる。
 それは彼女メディア以上の実力を持つ存在であり、それがまさに攻撃を続けていたメディアの前に現れたことを察した。

『ッ!!』

『来た……ッ!!』

『えっ!?』

『ゲルガルドだ! ……奴はやはり、ここに居たのか……!!』

 ウォーリスとアルフレッドは上空に転移して現れたゲルガルドの威圧感けはいを感じ取り、鉱山地帯の何処かに潜伏していた事を理解する。
 しかしジェイクにもそれを教えながら、身を隠すように二人はジェイクを掴みながら地面へ身体をかがめた。

 すると三人が気付くよりも早く、メディアは上空に現れたゲルガルドに気付く。
 そして鋭く厳しい表情を浮かべながら現れたゲルガルドは、鉱山地帯を破壊していた謎の人物メディアに憤りの声を向けた。

『――……貴様、何者だ?』

『通りすがりの、魔法使い』

『何故、ここを襲った?』

『ムシャクシャしてたから、ついやっちゃった。――……そういう貴方は、ゲルガルドさんかな?』

『……誰かの差し金か。……まぁいい。貴様を処分してから、お前の後ろにいる者を処分すればいいだけだ』

 ゲルガルドは名乗らず顔を見せない謎の魔法師おんなに対して、容赦なく殺そうと右手を翳し向ける。
 そして魔力を集束させようとした瞬間、それに合わせるようにメディアも右手を向けた。

 すると次の瞬間、集束しようとしていた魔力が突如として四散し纏まりを欠く状態に陥る。
 その現象に瞼を見開きながら驚くゲルガルドだったが、その原因をすぐに理解しながら呟いた。

『……集めようとした魔力が崩された。……そうか、貴様も同じ能力ちからを……!』

『だとしたら、どうする?』

『……ならば自らの手で、処分するだけだ』

 魔力を用いた攻撃が行えない事を理解したゲルガルドは、肉体から生命力オーラほとばしらせながら纏う輝きを強める。
 そして消えたように見えるほど凄まじい加速を見せながら飛翔し、メディアに迫りながら左腰に携えていた剣を抜いて襲い掛かった。

 しかしメディアはそれに揺るがぬ態度で相対し、迫るゲルガルドにただ向き合う。
 そして二人が衝突すると同時に白い光が発せられ、その明るさに僅かに瞼を落としたウォーリス達は、次の光景に驚きを浮かべた。

『……まさか……!?』

『……ッ!!』

 義体からだの機能を駆使して衝突した二人の姿を確認したアルフレッドは、驚く声を漏らす。
 ウォーリスも瞼をしっかり開いたまま、上空そこで起きていた景色に唖然とした様子を浮かべた。

 その景色とは、まさに拮抗したように見えるメディアとゲルガルドの攻防戦。

 容赦も躊躇も無く剣を振り五体を操るゲルガルドに対して、それ等を全て避けながら両手に作り出している魔力の手刀けんで切り返すメディアの姿。
 あのゲルガルドに対して一進一退の攻防を繰り広げる事が出来ているメディアの実力に、ウォーリスとアルフレッドは驚愕を露にさせていた。

『……あのゲルガルドと、互角に戦えているなんて……!』

『そんな、まさか……!?』

『あの女、本当に何者なんだ……!?』

 そうして驚愕するウォーリス達を他所に、上空でもまた驚きを持つ者がいる。
 それこそメディアと実際に相対しているゲルガルドであり、自分と肉薄した接近戦を繰り広げられる魔法師メディアの存在に予想外の驚きを浮かべていた。

『……ッ!!』

『なるほどね。……貴方、本物じゃないでしょ?』

『!』

『本物の到達者エンドレスだったら、こんなに弱いはずがないもの。そうでしょう?』

『……貴様ッ!!』

 まるで余裕を保ちながら挑発するメディアの言葉と態度に、ゲルガルドは激昂しながら更に攻撃の勢いを強める。
 しかしそれすら避けて受け流すメディアは、逆にゲルガルドの腹部に右足を叩き込みながら蹴り飛ばした。

『グッ!!』

『それに実戦不足。基礎能力は高いみたいだけど、経験が足りないんだね。……それとも、その身体のせいかな?』

『……貴様、何者だッ!! ……まさか、貴様も転生者かっ!?』

『ははっ、違うよ。単に私が、貴方より才能があるだけ』

『……!!』

『私、天才だからね。――……天才が凡人に、負けるわけがないもの』

 微笑みを浮かべながらそう語るメディアに、ゲルガルドは初めて驚愕と畏怖の表情を浮かべる。
 そうしたゲルガルドの表情を引き出させるメディアの姿に、逆にウォーリスは畏怖を超える希望の光を見たような気がした。

 するとメディアは、ある方向に左腕を向ける光景が確認される。
 それを見たアルフレッドは訝し気に思い、そちらの方角に視線を送りながら少し駆け出し、そこから見える景色を一望した。

『……ウォーリス様、ジェイク様!』

『!』

 アルフレッドの呼び声で、ウォーリスとジェイクは釘付けになっていた上空から視線を逸らす。
 そして同じ場所まで赴くと、そこから見える鉱山地帯を眺め、初めてそこに不自然な景色を確認した。

『あの部分だけ、森が削れていません。……恐らく……』

『結界か!』

『つまりあそこに、実験施設がある!』

実験施設あそこを攻撃されたから、ゲルガルドは出てきたんだ……!』

『つまり、リエスティアもあそこに……!! ――……アルフレッド、ジェイクも一緒に連れて行く! 頼んだぞ!』

『はい。――……ジェイク様、失礼します!』

『えっ、うわっ!?』

 ウォーリスはそう言いながら駆け出し、削られた鉱山地帯の中で残る不自然な森へ向かう。
 そしてジェイクを背負ったアルフレッドは、凄まじい速さで走るウォーリスを追いながら同じ場所を目指した。

 こうして恐るべき実力ちからを見せたメディアは、到達者エンドレスであるはずのゲルガルドと互角以上の戦いを見せる。
 それを彼女メディアあばいた実験施設がある森に向かったウォーリス達は、リエスティアを救い出そうと走り続けたのだった。
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