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革命編 七章:黒を継ぎし者
寄り添う灯火
しおりを挟む到達者であるはずのゲルガルドは、相対するメディアに圧倒されながら完全に意識を彼女だけに振り向ける。
その合間を縫うように実験施設を発見し侵入に成功したウォーリス達は、地下の階段を降りながら囚われているリエスティアを見つけようとしていた。
地下二十メートル程まで下れる階段を降り切ったウォーリスは、周囲を見渡し思った以上に広い内部構造を確認する。
すると施設内部では赤い点灯と警笛音が鳴り響き、自分達の侵入を知らせるような状況が作り出されていた。
それを見渡しながら後ろから付いて来たアルフレッドに、ウォーリスは声を向ける。
『アルフレッド! 内部構造を把握し、侵入警報を鳴らしている主要施設を抑えられるかっ!?』
『可能です!』
『なら頼む!』
『はい!』
ウォーリスはそう頼み、侵入警報を鳴らす施設の主要装置をアルフレッドに任せる。
それに応じたアルフレッドと共に二人は駆け出すと、壁に備わる配電盤を発見しながらその傍に近付いた。
すると義体のアルフレッドは首筋の裏から接続部の付いた配線を取り出し、配電盤を弄りながら接続部の形状を変化させる。
そして配電盤に備わる接続部と合うように取り付け、義体の瞳を大きく見開きながら施設内部の情報を引き出し処理し始めた。
その段階で遅れていたジェイクも追い付き、二人を発見して傍まで近付く。
すると鳴り響いていた警報と赤い点灯が止まり、接続したままのアルフレッドはそのままの表情で口を開いた。
『――……この施設を掌握しました。今から監視装置に接続し、リエスティア様を探します』
『頼む!』
『……凄い』
瞬く間に施設の各装置を掌握し始めるアルフレッドに、何が起こっているか理解し切れていないジェイクですらも驚嘆を漏らす。
そして数十秒程の時間を必要としながらも、アルフレッドはリエスティアの居場所を把握した。
しかし同時に、その表情には驚愕が浮かぶ。
すると接続部を離しながら配線を首筋の裏側に収納し直したアルフレッドは、振り返りながら二人に情報を伝えた。
『……リエスティア様の位置を確認しました』
『場所はっ!?』
『ここから地下五階にある室内です』
『そうか、ならば――……』
『ウォーリス様、御待ちください』
リエスティアの居場所を確認したウォーリスは、振り返りながら更なる地下を目指そうとする。
それを引き留めるように声を向けたアルフレッドは神妙な面持ちを浮かべており、ウォーリスはそれに怪訝な表情を向けながら問い掛けた。
『どうした?』
『……情報を抜き出す際、ここで行われている実験の情報も確認しました。……ここは、魂に関する実験を行う施設のようです』
『魂の、実験……?』
『どうやらこの施設を用いて、ゲルガルドの肉体となる方達が魂を消去されていたようです。……そして今現在、リエスティア様もその装置に繋がれています』
『なんだと……!? ならば尚の事、急いで止めなければっ!!』
『御待ちくださいっ!!』
『!』
『もう一つ、重要な情報を確認しました。……ウォーリス様、貴方に関する事です』
『私に?』
『……どうやら、歴代の者達もそうだったように。次の肉体に選ばれていた貴方とゲルガルドの間には、何かしらの秘術を用いて回線が繋がっているそうです』
『なに……!? ……まさか、私の行動や思考が読まれているのかっ!?』
『いえ、そうした効能の無い限定的な回線のようですが。……しかしその回線を経由した場合、ゲルガルドの肉体に何かあった時、離れていたとしても貴方の肉体へ魂を移せるようになっています』
『!?』
『例え今現在のゲルガルドを倒したとしても、それは肉体だけのこと。……奴の魂はそのまま貴方の肉体に憑依し、ゲルガルドに肉体が乗っ取られます』
『な……っ』
『そんな……!!』
アルフレッドは施設内部の情報から、ウォーリスに施されていた秘術を知る。
それを伝えたことでウォーリスとジェイクは驚愕の声を漏らし、暫しの沈黙が生まれた。
仮にゲルガルドを倒す事が叶っても、次は自分が同じ存在になる。
その事実を知らされたウォーリスは、表情を強張らせたまま顔を伏せて呟いた。
『……そうか。……やはり私は、ゲルガルドから逃れられない運命らしい……』
『兄上……』
『ウォーリス様……』
『……リエスティアの場所に行こう。……案内を頼む、アルフレッド』
顔を上げながらも穏やかに微笑み頼むウォーリスに、アルフレッドは僅かに苦々しい表情になりながら頷く。
そして先導するように先頭を走るアルフレッドに続き、ウォーリスとジェイクはその後を追った。
すると僅かに後ろを走るジェイクに、ウォーリスは話し掛ける。
『ジェイク、頼みがある』
『!』
『リエスティアを取り戻したら、あの子を連れて皇国に逃げてほしい。出来れば、アルフレッドも連れて』
『……でも、兄上は……?』
『私は、一緒には逃げられない。……分かるな?』
『……まさか……』
『彼女ならば、奴を倒せるかもしれない。……だがもし、奴にこの身体が乗っ取られてしまうのなら。……その前に、自分で死のうと思う』
『っ!!』
『二人とも、カリーナとリエスティアを頼む。……それが、最後の願いだ』
覚悟を決めたウォーリスは、自らの心残りである家族のことを弟であるジェイクに託そうとする。
今まで焦燥感に包まれていたはずのウォーリスには落ち着きが戻りながらも、そこには諦めを強く宿した哀愁が漂っているのを前後を走る二人は感じ取った。
しかしジェイクは翡翠の瞳から僅かに涙を浮かべながら、歯を食い縛ってウォーリスに声を向ける。
『……何か、何か手段があるはずだ。兄上が、助かる方法が……!!』
『もう、いいんだ……』
『良くないよっ!! ……僕も、アルフレッド殿だって知ってる! ここまでずっと苦しみながら戦っていたのは、兄上だっ!!』
『……ッ』
『その兄上だけが、全てを背負って死ぬなんて……僕が許せないっ!!』
『……ジェイク』
『僕は諦めないよっ、最後まで諦めないっ!! ……だから兄上も、絶対に諦めちゃダメだっ!!』
涙を零しながらも怒鳴るように言うジェイクに、ウォーリスは困惑した表情を浮かべる。
すると先頭を走るアルフレッドもまた、その言葉へ同調するように声を向けた。
『私も、まだ全ての情報を確認したわけではありません。もしかしたら、貴方とゲルガルドの回線を切断できる情報があるかもしれない』
『!』
『諦めるのは、それからでも遅くはないでしょう。……どうですか? ウォーリス様』
『……すまない、二人とも。……ありがとう』
励ますように話す二人に対して、ウォーリスは顔を伏せながら感謝の言葉を向ける。
すると影になっている表情から小さな涙が零れ、諦め冷えていたウォーリスの心情に再び熱さが戻ってきていた。
こうしてウォーリス達は、リエスティアの居る更なる地下へ向かう。
そしてゲルガルドから逃れられないウォーリスの為に、親友と呼べる二人もまた希望の灯火を探す事を決意するのだった。
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