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革命編 七章:黒を継ぎし者
希望の実
しおりを挟むウォーリスに付き従って来たアルフレッドとザルツヘルムにより、彼等の計画が明かされる。
それは封じられていたゲルガルドを打ち倒す為の計画と、自分自身の意思で旅をしていたはずのアリアとエリクが、知らず知らずに彼等の計画に巻き込まれていたという情報だった。
しかも彼等が及ぼしている事態に深く関わる『黒』の七大聖人に、シルエスカや『青』は改めて深い疑念を抱く。
それ等が晴れる間も無く、『天界』に浮遊する白い大陸が神殿を中心に赤く輝きながら染まり始めていた。
この事態になる少し前、視点は神殿内部にてマナの大樹が生える空間に戻る。
自ら生み出した瘴気によって悪魔化したゲルガルドは、復活した創造神を得ようとする。
それをマギルス達によって阻まれ、激闘の末にエリクの持つ大剣に込められた到達者の魔力によって魂を消滅させられた。
しかしマギルスは肉体の心臓を破壊され、ゲルガルドを貫く大剣に裂かれる。
更に全ての寿命を大剣の破壊力に込めたエリクは、その命を全て使い果たして倒れた。
その場には三人の身体が倒れ、誰一人として動く様子が無い。
そんな彼等の戦闘が終わった事に一早く気付いたのは、意識の無い創造神とアリアの死体を両腕に抱きながら逃げていたケイルだった。
「――……なんだ……。……音も、ヤベェ殺気も無くなった……?」
森を駆け抜けていた足を止めるケイルは、その場で振り返りながらエリク達が戦っていた方角を見る。
先程まで執拗に感じられた敵の殺気や、それに立ち向かったエリクとマギルスの気配と戦闘音が無くなった事に気付いた。
ケイルは表情を強張らせ、最悪の展開を予想する。
それでも今の自分がやるべき事を考え、歯を食い縛りながら抱えている創造神とアルトリアの死体に意識を戻した。
「とにかく、創造神等を何処かに隠すしかない。……アイツ等の所に戻るのは、それからだ」
創造神を敵の手に渡さない為にも、ケイルはそのまま進路を戻して森の中を駆け巡る。
それからマナの大樹からかなり離れた場所まで移動した後、深い葉と木々に覆われた場所に創造神とアルトリアの身体を隠しながら横へ寝かせた。
そして改めて創造神に外傷の有無や脈の確認を行い、その様子を再確認する。
「――……脈も、呼吸もしてる。傷も特に無いから、問題は無さそうだが……。……コイツが創造神だとして、本気でアリアの魂が身体に入っちまってるのかよ……」
創造神の様子を確認したケイルだったが、改めてその存在について眉を顰めながら呟く。
ケイルの知る未来の『黒』と酷似した身体にも違和感はあるが、それ以上に嫌悪するアルトリアの魂がその肉体に移っている事が、現実味を感じさせなかった。
しかし数々の経験を経て、自分の知る常識など超越した現象がこの世界に存在することをケイルは知っている。
故に渋々ながらも溜息を吐き出し、目の前の創造神の存在も理解した。
「……それより、問題はこっちだな……」
ケイルは改めて視線をアルトリアの死体に移し、先程よりも渋い表情を浮かべる。
アルトリアの死体には身に纏う装束を全て赤く染める程の大量の出血跡があり、その出元と思われる胸部分に裂傷が存在している。
そして脈も無く息もしていないアルトリアを改めて確認し、創造神と見比べながらケイルは自身の考えを呟いた。
「……アリアの身体は、既に死んじまってる。……だがエリクの話が本当なら、創造神には生きてるアリアの魂がある。……もしも、死んでる身体の方をマナの実で修復したとして、生きてるアリアの魂を身体に入れたら……。……アリアは、本当に生き返るのか……?」
別れ際にエリクが伝えた言葉を聞いていたケイルは、改めて死んでいるアルトリアを生き返らせる事が可能かを考える。
しかし魂や生死の概念に関する詳しい知識を持たないケイルは、深く考えるのを止めながら首を横に振って止めていた息を吐き出した。
「はぁ……。……コイツ等の事は、『青』に任せちまうしかないな。……暫く、大人しく寝てろよ。アタシはエリク達の所に戻る」
意識の無い創造神にそう伝えたケイルは、周囲を確認しながらその場から退く。
そしてエリク達が戦っていた場所へ戻る為に、最悪の状況を想定しながら意識を消して戦闘態勢を崩さずに走り続けた。
それから無意識の全力で駆け抜けたケイルは、数分程でエリク達と別れた場所に辿り着く。
両足を踏み締め、左腰に収めている刀の柄を握りながら周囲を凝視すると、ケイルは目を見開きながら倒れているエリク達に声を上げた。
「エリクッ!! マギルスッ!!」
倒れている三人の身体を目にし、ケイルは無意識の状態を解きながら彼等の傍に近寄る。
倒れている三人の姿を見下ろしながら確認し、思わず表情を強張らせた。
「マギルス……。……マギルスは、駄目か……ッ」
心臓を敵の剣で貫かれ腹部を切り裂かれたマギルスの損傷と出血を見たケイルは、歯を食い縛りながら既に手遅れである事を察する。
そしてマギルスの隣で倒れている敵の姿も見て、その腹部を突き破っている大剣を見ながら呟いた。
「……コイツも、死んでるのか。………大剣を刺したのは、エリクか……」
動かぬ敵の様子から死んでいると察したケイルは、視線を移してエリクに意識を向ける。
エリクはマギルス達と違い肉体的な損傷は軽微に見え、僅かな希望を抱きながらケイルは膝を落として両手を伸ばした。
「エリク。……おい、エリク……」
頭を抱え持ちながらエリクの身体を正面に向けさせると、静かに揺らしながら瞼を閉じたままの顔に呼び掛ける。
しかし白く染まった髪と生気も無い老いた肉体となっていたエリクに、ケイルは再び歯を食い縛りながら苦々しい声を漏らした。
「……またかよ……。……この、馬鹿野郎が……っ」
エリクが自分の寿命を使い果たし、最後の一撃で敵の身体を貫いた事をケイルは察する。
そして首筋に指を当てながら呼吸も脈も止まっていたエリクに、ケイルは怒りと共に涙を両目から零した。
創造神の権能を得ようとしていたゲルガルドを打ち倒す事に成功しながらも、その犠牲は大きかった事をケイルは改めて思い知る。
自分と共に旅をして来た三人の死体を見ることになったケイルは、自分が彼等の最後を見届けられなかった事を、そして共に戦えなかった事を後悔する内情で満ちていた。
そうした後悔に苛まれるケイルは、エリクの身体を地面に預けながら立ち上がる。
そして僅かな可能性を信じ、手で涙を拭いながらマナの大樹へ視線を向けた。
「……あの馬鹿デカい大樹に生えてる実を、コイツ等に食わせれば。……生き返るんだよな……。……そうなんだよな、エリク……?」
マナの大樹に生えるという『マナの実』に僅かな希望を抱きながら、ケイルはその場に死体となった彼等を残して向かおうとする。
しかしここまでの疲弊で僅かに息を乱しているケイルは、精神的にも尾を引いた状況で足取りを重くさせながら歩き始めた。
「……?」
そうして歩く最中、ケイルの背後で奇妙な音が鳴る。
それを気にし振り向いた時、ケイルは目を見開きながら驚愕の表情を浮かべた。
「……っ!?」
「――……感謝する、傭兵エリク。……そして、その勇敢な仲間達よ」
ケイルが目にしたのは、大剣に突き刺されて死んでいたはずの敵の姿。
しかも先程の音が胸と心臓を貫いていた大剣が引き抜かれ地面に落ちた時の音であり、その持ち主であるエリクを見下ろしながらウォーリスは感謝を呟いていた。
その時、ケイルは驚愕と同時に身体を走らせる。
すると無意識へ至り、立ち上がっているウォーリスに迫りながら音速にも届く刃をその首筋を狙って薙いだ。
ウォーリスはそれを止めず、ケイルの刀が首筋に直撃する。
しかしその首は胴体と繋がったまま、異質な音を立てて刃を止めていた。
「ッ!!」
ケイルが斬り落とせなかったウォーリス首筋には、黒く染められた皮膚が浮かび上がる。
それが気力で強化した刃を受け止める程の硬度だと理解したケイルは、すぐに身体を回転させながら刀をウォーリスの手足に振り向けた。
しかしウォーリスは手足を黒く染め上げながら、その攻撃も防御する姿勢にならないまま受け止める。
更に全力で打ち込まれる刀に微動もしないウォーリスの状態は、無意識のケイルに先程とは異なる恐怖を抱き始めた。
そんなケイルに、ウォーリスは顔と言葉を向ける。
「……君達には感謝をしている」
「!?」
「おかげで、ゲルガルドを……私が最も憎悪していた、父親を殺す事が出来た」
「……クッ!!」
今度は自分に感謝を伝えるウォーリスに、ケイルは容赦なく刀を向け振る。
しかし撃ち込まれる箇所を正確に読み取っているのか、ウォーリスはミリ単位で斬り込まれる刃を全て黒い皮膚を出現させながら受け止め続けた。
それでも反撃をして来ないウォーリスは、マナの大樹へ顔を向けながら感慨深い声色で呟く。
「これで、ジェイクや母上に報いる事が出来た。……後は、私の願いだけだ」
「クソ、なんで一撃も……ッ!!」
「君達には、本当に感謝している。そして、申し訳なくも思っている。……だがマナの実は、私が使わせてもらう」
「なっ!?」
そう伝えるウォーリスに対して、ケイルの振り抜かれた刃が何も無い空気を斬る。
そこに居たはずのウォーリスが一瞬で消えた事を僅かに遅れて理解したケイルは、周囲を見渡しながらその姿を探した。
しかしウォーリスの姿は既に周囲には無く、ケイルは意識的にマナの大樹へ顔を向ける。
すると上空に見えるマナの大樹に、黒い一粒のような人影が存在している事を確認した。
「あの糞野郎、まさかっ!!」
ケイルはそう言いながら駆け出し、マナの大樹へ向かい始める。
そしてウォーリスはマナの大樹付近に滞空しながら、その先に在るモノを視線に捉えた。
「……あれが、『マナの実』か」
ウォーリスの青い瞳には、木々や重なり合う葉の隙間から一つの果実が映る。
炎や血液よりも美しい赤い輝きを持つ果実を目にしながら、ウォーリスは中空を移動し右手を伸ばした。
こうしてウォーリスが『マナの実』を得ようとする窮地の中、意識の無い創造神とアルトリアの死体に視点は移る。
すると残された二人の内、片方が微かに指を動かしながら緩やかに瞼を開いていた。
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