虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

精神の再会

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 鬼神フォウルの襲撃に遭ったエリクは、同じ魂を有する彼に現状を聞かされる。

 寿命が尽きた自分が、鬼神フォウルの血を飲んでいた事で辛うじて死んでいないこと。
 更に死者が見るはずの夢がマナの大樹を通じて現実世界にも拡大し、生きている者達も強制的に夢を見られていることをエリクは知った。

 すると自身が見せられている夢のかなめを破壊しようとする話になった時、夢のワーグナーは偽りの姿を変える。
 それはエリク達に理想郷ディストピアを見せていた、ウォーリス自身の精神すがただった。

 夢の中ながらも、改めてエリクとウォーリスは互いに顔を向け合う。
 しかし先程までと戦っていた相手ゲルガルドとは異なる雰囲気を持つウォーリスに、エリクは違和感を抱きながらそれを言葉で見せた。

「……そうか。やはりそっちが、お前の本当の姿か」

『本当の姿?』

「お前と初めて王国で会った時、底知れなさを感じた。挑めば負けると思った。……だが帝国で会ったお前は、それを感じなかった」

帝国あそこで戦った私は、脅威では無かったと?』

「いや。脅威だったが、怖くは無かった。……だが途中で悪魔のような姿になったお前からは、王国の時と同じ雰囲気ことを感じた」 

『……なるほど。ゲルガルドではなく、私を脅威として認識していたということか。……それは光栄と言うべきだろう、傭兵エリク』

 改めてエリクは対峙したゲルガルドとウォーリスの違いに気付き、目の前の相手が心の底から恐怖を感じていた相手だと自覚する。
 その評価を受けたウォーリスは口元を微笑ませ、それを素直に感謝するような言葉を伝えた。

 そんな二人の会話に、エリクに宿るもう一つの精神フォウルが苛立ちの声で割り込む。

「世間話なんぞしてる暇があったら、コイツを叩き出して夢から出るぞ」

「ああ」

 両手を重ねながら拳を鳴らすフォウルの言葉に、エリクも同意しながら大剣を構える。
 しかしそんな二人に対して、ウォーリスは淡々とした様子で伝えた。

『無駄だ。例えかなめとなっている私を今ここで倒したとしても、お前達は現実に戻る事は出来ない』

「あ?」

『マナの大樹から発する理想郷ディストピアの支配は、既に現実世界の大半を浸蝕している。既に範囲は、魔大陸の魔族達にも及んだ』

「!」

『この世界は、各々が望む理想郷ディストピアに沈んでいく。……そうなれば、生と死の境界を失った者達の魂で世界は溢れ、崩壊を起こすだろう』

「……それがテメェの手段ってわけか。世界を滅ぼす為のな」

『滅ぼす? それは違うな……私はこの世界を、そしてこの世界に居る全ての人々を、救いたいだけだ』

「なに?」

 ウォーリスは理想郷ディストピアの拡大に伴う目的を明かしながらも、二人を抱かせる。
 そして改めるように、二人に対して自分の目的とする世界の救済について教えた。
 
『この世界は、悲劇の舞台で出来上がっている。……それは何故か、お前達に分かるか?』

「あぁ? なんだ、いきなり」

『人は様々な理由で己と他者を比べる。身体能力・頭脳・技能・容姿・思想・立場・血縁。それ等をしがらみとして、様々な悲劇ばかりが生み出されている。……それ等の問題の根幹としてあるのは、肉体にくたいだ』

「肉体……身体?」

『そう。我々が生まれながらに持つ肉体こそが、我々に悲劇を生み出す母胎となっている。……私はその肉体いましめから皆を解放し、全てが等価となる存在……つまり魂だけの存在に、全ての生命を導くべきだと結論付けた』

「!!」

『肉体が無ければ、姿や血を原因とした差別など生まれない。精神じんかくなど無ければ、思想かんがえの相違で争う事も無い』

「何言ってやがる、コイツ……」

『純粋な魂だけになれば、悲劇は生まれない。だから私は輪廻の機構システムで現実世界を浸蝕し、彼等を理想郷ディストピアへ誘う事で肉体にくたいを殺し、精神じんかくを消滅させる。……これで本当に、全てにおいて平等な世界が作られる』

「……!!」

 互いにウォーリスの話を聞いたエリクとフォウルは、異なる表情を浮かべる。
 特にフォウルは嫌悪するような表情を浮かべながら、その話を理解する事を途中で放棄していた。

 しかしエリクは、その話を聞いて一定の理解を抱く。
 それはある意味、現実の世界では決して叶えられない『理想』とも言うべき世界の作り方だった。
 
 そうした事を語り終えた後、ウォーリスは改めて二人に左手を差し伸べながら声を向ける。

『傭兵エリク、そして鬼神フォウル。お前達も無駄な抵抗をせず、私の理想郷ディストピアを成す為に協力してくれないか?』

「あ?」

「!」

『これからは、生者や死者など関係ない世界を築ける。誰も虐げられる事は無く、誰も悲しまない世界を私が創り出す。……その理想郷ディストピアを、どうか受け入れてほしい』

「……」

「ケッ」

 改めてそう問け賛同を求めるウォーリスに、二人は異なる様子を浮かべる。
 エリクは神妙な面持ちを抱いていたが、フォウルは豪快ながらもあっさりとした言葉でウォーリスの語る理想を否定した。

「くだらねぇ。テメェの絵空事に、付き合ってられるか」

『絵空事か……』

「だろうがよ。ようは、テメェが嫌な現実から逃げたいだけだろうが。それを大層な御託を並べてもっともらしい言葉にして、情けない事を言ってるのに変わりはねぇよ」

『実に強者らしい言葉だ。……しかし、強者ばかりがこの世にいるわけではない。この世には圧倒的な強者よりも、圧倒的な弱者こそが多いのだから』

「!」

『弱者は常に、お前のような強者の暴力と支配で弄ばれて来た。その中で悲劇が生み出され、それを回避しようと懸命に働きかけていた弱者もいる。その者達の苦労など、お前には分かるまい』

「そういうテメェも、テメェの理想に他人を巻き込んでるだろうがよ」

『それを否定するつもりはない。しかし、私は弱者かれらの視点に立ってこの理想へ辿り着いた。強者の理論ばかりを振り翳す、お前とは違う。鬼神フォウル』

「ケッ、何が強者だ。結局テメェも、それで強者おれらを差別してるじゃねぇか。……強者だの弱者だの勝手に決めて、こんな理想を押し付けてるテメェに言われたくねぇなぁ?」

 そう言いながら煽るフォウルとウォーリスの言葉は、決して互いに相容れる事は無い。
 互いに自分こそが正しいという意見を経験を元に話す姿は、己の自信に満ちている事が窺えた。

 しかし一方で、二人の話を聞いていたエリクにウォーリスは視線を向けながら問い掛ける。

『お前はどうだ? 傭兵エリク』

「……」

『お前も、アルトリアとの旅を通じて見たはずだ。この世界に蔓延る問題を。……それを解決する方法は、私の理想郷しゅだんしかない。そう思わないか?』

「……そうかもしれない」

「オイッ!!」

 ウォーリスの言葉に同意するエリクに、思わずフォウルは怒鳴りを向ける。
 しかしその言葉に続くように、エリクは自分の解釈を伝えた。

「確かに、お前の言っている事は正しいのかもしれない。……だが、お前はあるモノを見ていない」

『あるモノ?』

「確かに、この世界は悲しい出来事が多いのかもしれない。……だがそれでも、悲しい事ばかりで世界は出来ていない」

『!』

「俺がアリアとの旅で見たのは、厳しく世界の中で、それでも笑えるように生きようとする者達の顔だ。……お前は、そんな者達の顔を見ていないのか?」

『……ッ』

 エリクはそうした事を問い掛けると、ウォーリスの表情が僅かに曇る。
 その脳裏しこうには最愛の女性カリーナが笑う姿が過りながらも、溜息を漏らしながら答えを返した。

『……それを踏みにじる笑みもまた、世界には存在する。お前も、それは知っているだろう?』

「確かに、そういう笑みもある。……だがやはり、世界は悲しみだけで出来ているわけではない。……だから俺は、お前の理想郷かんがえを受け入れない」

『……そうか。……やはりお前は、私の敵ということだな。傭兵エリク』

「ああ。……そしてお前は、俺の敵だ。ウォーリス」

 互いに相容れない事を理解したエリクとウォーリスは、互いに『敵』として認め合う。
 そんな二人の視線を遮るように、右拳を握った力強く握ったフォウルが左足を前に踏み出した。

「んじゃ、話は終わりだ。――……大人しく、俺等の中から消えろ。小僧っ!!」

 次の瞬間、迫るフォウルは右拳を放ってウォーリスの精神からだを撃ち抜く。
 容赦の無いその拳はウォーリスの精神からだを引き千切るように真っ二つに吹き飛ばし、それと同時に理想郷ディストピアで築いた王国ゆめの景色を打ち砕いた。

 しかし中空に崩れ消えていくウォーリスは、口元を微笑ませながら呟く。

『……わたしを壊したとしても、現実には戻れない。……自分の精神世界なかで、一生を終えるといい――……』

「ケッ。元々、この精神内部なかでしか俺はねぇよ」

 そう告げながら消えていくウォーリスの精神すがたを見ながら、フォウルは悪態を漏らす。
 そして白ばかりが拡がる見慣れた精神世界に戻ると、エリクは改めてフォウルの方を見ながら問い掛けた。

「……これから、どうすればいい?」

「俺が知るかよ。自分テメェで考えろ」

「……何か、ウォーリスの理想郷しはいから逃れる術があるはずだ。……何か、方法を知らないか?」

「だから知らねぇって言ってるだろ。……それに知ってたとしても、今は俺にどうこうするのは無理だ。俺の魔力はお前の生命力に注ぎ続けて、鬼神の姿にもなれんだろうしな」

「そうか。……すまん」

「ケッ」

 精神世界からの脱出を考えるエリクに対して、フォウルはそう述べながらいつもの姿勢で身体を横に倒す。
 そして肘を白い地面において手で枕を作り、エリクに背を向けながら休み始めた。

 そんなフォウルの背中を見ながら、エリクはどうにかして精神世界から現実へ戻る方法を考えようとする。
 すると次の瞬間、二人が居た精神世界ばしょに黄金の輝きが灯るように出現した。

「!?」

「なんだぁ?」

 突如として黄金色に輝くその部分に、エリクとフォウルは視線を向ける。
 するとその小さな光が徐々に人型の姿を模り始め、エリクは警戒しながら大剣を握った。

 そして上体を起こしたフォウルは、座ったままの姿勢で目の前に現れた黄金色の人型ひかりに注目する。
 すると何かを察するように溜息を漏らし、呆れたような言葉を見せた。

「……なんだ、テメェかよ。まだ俺のなかに居やがったのか」

「!」

『――……失礼ね。それにここは貴方の魂じゃなくて、エリクのなかでしょ?』

「……この声は、まさか……!?」

 向けられるフォウルの言葉に、黄金色に輝く人型ひかりが返答を行う。
 するとその声と口調に覚えがあるエリクは、身構えていた大剣を下げながら前に歩み出た。

 そして黄金色の人型ひかりは輪郭を整えていき、その容姿を鮮明にさせる。
 それによって判明した相手の正体に、エリクは驚愕しながら名前と声を向けた。

「君は、まさか……アリアなのか……!?」

『……久し振りね、エリク』

 エリクの精神世界に現れたのは、死んでいたはずのアリアの精神すがたをした人物。
 それは未来で自分エリクの精神内に居た制約のアリアと違いの無い、妖精フェアリーらしい姿をしていた。

 こうして理想郷ウォーリスの支配から脱する事に成功したエリクは、鬼神フォウルに続いて懐かしい存在と再会する。
 それは過去に自分に施された制約ルールの姿をしたアリアであり、懐かしき三人の姿が精神世界このばに集う事になった。
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