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革命編 七章:黒を継ぎし者

少年との別れ

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 未来において築き直されていた制約ルール回線パスにより、アリアとエリクは再び精神内部で再会する。
 しかしエリク達に会いたくなかった事を正直に明かすアリアだったが、ウォーリスが用いる理想郷ディストピアの支配を解く為に助力を求めて来た。

 それに応じたエリクは、自分の精神なかに居る鬼神フォウルと再び別れる。
 そして現実世界に意識を戻し、自らの死体からだを修復し終えて操るアリアと再会を果たした。

 エリクは灰色に戻る髪色と疲弊した様子を残しながらも、アリアと改めて向かい合いながら現状を尋ねる。

「――……この、結界は……?」

「私じゃないわ。恐らく、創造神こっちが勝手に張ってる結界よ」

「なに? ……意識は、戻って無いように見えるが」

「多分、創造神オリジン体質からだよ。『クロエ』と同じように、創造神オリジンも自分を対象とした魔力効果を受け付けない仕組みがあるようね。だから傍に寝かされていた私も、この理想郷《ひかり》を浴びずに済んだ」
 
「そうなのか」

「でも問題は、創造神コイツが傍に居ないと理想郷の光を遮断できないこと。恐らく大気中の魔力そのものに強く干渉してるこの赤い光の中では、私も強い攻撃魔法が使えない。……私単体ひとりでは、せいぜいここに創造神オリジンを運んで、貴方との回線《パス》を復旧させて呼び起こすくらいしか出来なかったわ」

「……そんな君が、マナの樹を奪い返せるのか?」

 自身の状況を明かしたアリアに、エリクはそうした疑問を向ける。
 すると口元を微笑ませながら、エリクの顔に右手の人差し指を向けた。

「だから、貴方を起こしたのよ。――……エリク。貴方は創造神オリジンを担いで、私と一緒にマナの樹まで来て頂戴」

「!」

「私達は創造神オリジンの張ってる結界を防壁にして、マナの樹まで辿り着く。そして私がマナの樹に接触し、私自身の精神と魂をマナの樹に吸収させるわ」

「なにっ!?」

「恐らくウォーリスも、まだ機能システムを完全に掌握し切れていないはず。そこを私が奪い返して、ウォーリスを吐き出させる。――……そのウォーリスを、貴方が倒して。エリク」

「……だが、奴は到達者エンドレスだ。……俺の大剣けんに残っている巫女姫エンドレス魔力ちからも、ほとんど残っていない」

「それは、恐らく大丈夫。ウォーリスは肉体も吸収されたはずだから、肉体側に働きかける到達者エンドレスとしての能力ちからも吸い取られてるはずよ。排出された直後だったら、すぐに殺せるはずだわ」

「……そうなのか……」

 簡潔に述べるアリアの策を聞き、エリクは疲弊した思考ながらも早い理解を浮かべる。
 しかし同時に浮かんだ疑問を、アリアに対して躊躇いながら尋ねた。

「だが、そうなった時……。……マナの樹に吸収された君の魂は、どうなる?」

「……言ったでしょ。私が本来、逝くべき場所に戻るだけだって」

「それは……。……また俺は、君を犠牲にするしかないのか……っ」

 微笑みながら告げるアリアの言葉に、エリクは苦々しい面持ちで顔を伏せながら呟く。
 そんなエリクに対して、アリアは冷たい手を伸ばし掛けながらも、留めるように手を止めながら拳を握って伝えた。

「今ここで、私達がしなきゃいけないの。……未来の時みたいにね」

「だが……っ!!」

「そもそも、犠牲それに該当させるのも変なのよ。……私はそもそも、この世界には居ないはずの存在なんだから」

「!」

「この世界の私は、創造神こっちにいる方が本物よ。……貴方が守るべき相手も、そっちよ」

「……それでも……。……ここに居る君も、守りたいと思うのは駄目なのか……?」

 苦々しくも自分の本音を向けるエリクに、アリアは困ったように微笑みを浮かべる。
 そして膝を落としながら顔の高さを重ねると、エリクに対して真剣な表情を向けて答えた。

「私一人も守れない人が、二人も守れるわけがないでしょ」

「……ッ」

「だからエリク、貴方は強くなりなさい。生きて今の私を守れるくらいに、強くなるの。そうでなきゃ、私が貴方を認めないわ」

「……アリア……」

 そうした言葉を強い表情と共に伝えるアリアは、屈めていた膝を立たせる。
 するとエリクも虚脱感が強く残る身体を立たせ、改めてアリアと向かい合いながら頷いた。

「……分かった。今の君に認められるくらい、俺は強くなってみせる」

「それでいいのよ。――……じゃあ、行きましょうか。マナの樹まで」

「ああ」

 二人はそうして身体をマナの樹に向け、互いの意思と目的を合致させる。
 そして地面に寝かされている創造神オリジンをエリクは腕の中に抱え持った。

 そして不意に、傍に倒れているマギルスに目を向ける。
 心臓むねを貫かれ腹部を切り裂かれているマギルスの遺体を見ながら、アリアにこう尋ねた。

「マギルスは、助からないのか……?」

「……無理ね。貴方を起こす前に見たけど、完全に死んでるわ。せいぜい出来るのは、死体からだを修復させるくらいよ」

「そうか。……なら、頼んでもいいか?」

「……分かったわ。ちょっとギリギリまで離れてて。創造神そいつの傍だと、上手く出来ないから」

「ああ」

 エリクは死んでいるマギルスの無惨な姿を余りに思い、事を起こす前に遺体の修復を頼む。
 今まで苦難を共にした仲間であり、幾度も自分達の窮地を救って来たマギルスの死を、せめて弔うべきだというエリクの意思をアリアが汲み取ったのだった。

 そしてギリギリまで離された創造神オリジンとその結界内部で、アリアはマギルスの遺体からだを修復する。
 破損した心臓や腹部の臓器を修復し傷口を塞ぎながら、血に塗れながらも見た目だけは綺麗な姿へと戻る事が出来た。
 
 そんなマギルスに改めて顔を覗き込むエリクとアリアは、彼等なりに別れの言葉を告げる。

「ありがとう、マギルス。……お前の分まで、俺は強くなる」

「……アンタが旅に加わった時には、どうしようもない子供ガキだと思ったけど。でもアンタが居てくれたから、あの旅も少しは明るく出来たのかもね。……輪廻むこうで会いましょう。マギルス」

 互いにマギルスへ向ける言葉を終えると、意識と身体をマナの樹に振り向ける。
 そして二人は隣り合わせに歩み出し、不気味な理想郷あかの光を放ち続けるマナの樹を目指した。

 そしてその場には、赤い光を浴びるマギルスの遺体だけが残る。
 こうして二人は旅を通じて出会った少年マギルスとの死をかち、ウォーリスとの最後の戦いへ向かったのだった。
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