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革命編 七章:黒を継ぎし者

遺恨の対決

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 マナの大樹を機能システムとして用い、『理想郷ディストピア』を見せ人々の肉体と精神を滅ぼそうとするウォーリスの計画。
 それを止めるべく自身の死体からだを死霊術で操るアリアは、エリクを現実世界に呼び戻し二人でマナの樹を奪い返す決意を見せた。

 そして悪魔化したゲルガルドを討つ為に死んだ少年マギルスを別れの言葉で弔い、二人は赤い輝きを放つマナの大樹へと向かう。

 エリクは大剣を背負い直し、両腕にはアルトリアの魂が収められた創造神オリジンが抱えられている。
 その隣を歩くアリアは何も持っていないが、生気の無い白い肌色と赤い血の装束ドレスを身に纏う姿はその存在が異質である事を窺わせた。

 互いに交えるべき言葉を尽くしたのか、二人は沈黙したままマナの大樹へ向かい歩く。
 すると大樹の根本が窺える位置に来た時、二人の視線にある人物の倒れた姿が映った。

「――……あれって……」

「……ケイルだ、間違いない」

 赤服の色合いや赤い髪の為に分かり難く感じながらも、赤い光に照らされて大樹の境となっている地面へ倒れているケイルの姿を二人は発見する。
 そして二人は視線を交わして頷き合うと、創造神オリジン結界まもりから出ないようにケイルが倒れている場所へ向かった。

 すると赤い光で気付き難い中、二人はケイルが左手を失い地面に大量の血を流している事に気付く。

「ケイルの左手が……!」

「私がるわ。しばらく傍に居て」

「ああ、頼む」

 左手を失い意識の無いケイルに近寄った二人の中で、アリアが膝を屈めながら容態を確認する。
 その傷口を見て鋭利な刃物で切った後だとすぐに察したアリアは、周囲を確認しながら切断されたケイルの左手を探した。

 するとマナの大樹の根本に、二つの物が落ちているのに気付く。
 それは腐り崩れ欠けている左手らしき残骸と、銀色の茎を持った一つの赤い果実だった。

 アリアはそれを見て、ケイルが陥った状況を理解しながらエリクに話す。

「……あの一番奥に落ちてるの、マナの実だわ」

「なにっ!?」

「ケイルは多分、あのを掴んだのよ。でもマナの実の凄まじいエネルギー量に左手が耐え切れなくて、左手が腐り落ちそうになったんだわ。……だから」

「自分で、斬り落としたのか……!?」

「アレじゃあ、左手の再接合は不可能ね。とにかく止血して、失血死を防ぐしかないわ」

 状況を伝えながらケイルの腰鞄に手を伸ばすアリアは、止血が出来そうな包帯を見つける。
 そして切断されて剥き出しになっている骨や神経を魔力で形成する薄膜で保護しながら抗菌処理し、左腕を縛り胸部分に着けたまま包帯で固定した。

 魔法での治療ではなく一時的な緊急処理で治す光景を見るエリクは、アリアにその方法を行う理由を問い掛ける。

「魔法では、治さないのか?」

「魔法も万能じゃないわ。特に喪失した腕一本を丸ごと再生させるとなると、被術者ケイルの細胞や血液をかなり使用する必要がある。でもこんなに失血が酷い状態だと、再生する為に必要な血液と細胞が体内から逆に足りなくなって、ケイルの命そのものに支障を及ぼす可能性があるの」

「そうなのか。……マギルスや君の身体は、どうやって修復なおしたんだ?」

「死体の身体を治すのは、壁や地面を補強するのと一緒。同じ細胞せいぶんを使って土属性の魔力で臓器や骨なんかを形成して、損傷した部分に嵌め込むだけよ」

「それで、修復なおしたという事になるのか?」

「生きてる人間にする場合は、もっと複雑な工程もあるわ。神経や骨、それに筋肉繊維や細胞の接合も必要だし。……今はとりあえず、この形で処置をしておきましょう。復元の治療は、『青』に任せるしかないわ」

 エリクの問い掛けに答えながら処置を終えたアリアは、ケイルの状態を起こして傍の木に背を預けて座らせる。
 出血の勢いは治まったケイルは荒かった息を落ち着かせている様子が窺えると、エリクは安堵の息を漏らした。

 そしてケイルの傷について『青』に託す事を伝えたアリアは、改めて『マナの樹』を見上げながらその根元に落ちている『マナの実』に視線を落とす。

「……なんとか、あの実を回収したいけど。それも後で、『青』に任せるしかないわね」

「!」

「私も実物は初めて見たけど、凄まじい魔力と生命力を秘めた実だわ。触れただけで手を腐らせるなんて、尋常じゃない。……エリク、貴方も触っちゃ駄目よ。いい?」

「だが、あの実を君達に食べさせなければ……」

「それで貴方の手も腐り落ちるんじゃ、意味が無いわ。……『青』なら多分、あの実に関して扱い方を知ってるはずだから。後で『青』と合流できた時に、聞いてみて」

「……分かった」

「じゃあ、行きましょう。……マナの樹まで」

 マナの実に関する扱いについてそう述べた後、立ち上がったアリアは歩き出す。
 それに僅かに遅れるエリクは、アリアのやや後ろを歩きながらその背中を追った。

 そして二人は、赤く輝いているマナの樹の太い根と幹へと辿り着く。
 しかしエリクは大量の冷や汗を浮かべ、息を乱しながら疲弊した様子を強めていた。

「……はぁ……。……はぁ……!!」

「エリク、大丈夫?」

「……俺の生命力いのちが、この大樹に吸われているような気がする……」

「実際に吸ってるんでしょうね。貴方はこれ以上、近付かない方がいいわ」

「だが、君も……?」

「死んでる私には、吸える生命モノなんか無いわ。……ただあるとしたら、一つだけ。私の魂でしょうね」

「!」

「マナの樹は、膨大なエネルギー回収装置なのよ。生命力や魔力、そして魂。それ等を吸収して星全体に散布する、言わば星の循環機構システムそのもの。……この大樹がもし破壊されたりしたら、世界そのものが終わると言ってもいいかもね」

「……この大樹が、世界の生命いのちを……」

「それを私が掌握する為には、私自身もマナの大樹に吸収されるしかない。――……エリク。私の身体こと、任せたわよ」

「!!」

 そう告げながら微笑むアリアは、自身の右手を伸ばして大樹の根に触れる。
 するとアリアの身体を青い光が包んだ瞬間、マナの大樹へとそれが流れていく光景をエリクは見た。

 更に次の瞬間、アリアの身体から崩れるように倒れる。
 それを駆け寄りながら右手で抱えるエリクは、両腕にアルトリアと創造神オリジンを抱えながら緩やかに地面へ置いた。

「……アリア……。……頼む、成功してくれ……っ!!」

 自らの魂をマナの大樹へ吸収させたアリアの意思を汲み取ったエリクは、その成功を望むように祈る。
 そして赤い光で満ちるマナの大樹に仄かな青い光を灯すアリアの魂は、循環機構システムの内部を通り抜けていた。

『――……どこっ!? どれが、循環機構システムの中枢なの……!?』

 精神世界とは異なる黒い空間で遡る精神体のアリアは、自信の魂を保護しながら自我を保ち続ける。
 そして自分の魂を吸い上げる循環機構システムを探りながら、ウォーリスが掌握している中枢を目指そうとした。

 すると黒い世界から一転し、アリアの精神体は眩い光に包まれる。
 その先に抜けながら辿り着いたアリアは、そこで目にする光景に驚愕を浮かべた。

『……これが、世界の循環機構システム……その中枢……っ!!』

 アリアの精神体で見る景色は、まるで星々の大海にも思える様々な色合いに満ちた夜空の如き世界となる。
 その場所に舞い降りるアリアは人間ひとの姿を精神体で形成しながら、その中枢ちゅうしんと思しき場所に歩み進んだ。

 そこには色の別れた八つの巨大な光球が存在し、その光に手を伸ばし弄りながら操る一人の精神体すがたを確認する。
 その人物に敢えて声を向けるアリアは、皮肉染みた言葉を向けた。

『人の理想ゆめもてあそんで、何が楽しいのかしら? ――……ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド』

『――……アルトリア嬢……』

『さぁ、茶番はここまでよ。今ここで、私とアンタの因縁を終わらせてあげるわ』 

 精神体のアリアは睨む表情と言葉を向け、ウォーリスに対して向き合う。
 そしてウォーリスもまた精神体の肉体を扱いながら、光球に伸ばしていた手を収めて精神体からだと意識をアルトリアに向けた。

 こうしてマナの大樹に吸収されたアリアの魂は、循環機構システムを掌握するウォーリスと邂逅する。

 それは二人にとって、十八年振りの再会と言ってもいい。
 そして未来を知るアリアにとっても、自分を死霊術で操り今回と同様の策謀に加担させたウォーリスとの遺恨の決着でもあった。
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