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革命編 七章:黒を継ぎし者
弱者と強者
しおりを挟むマナの大樹まで辿り着いたエリクとアリアは、そこで倒れていたケイルを発見する。
そして彼女の傍に落ちていた『マナの実』を見つけ、ケイルが左手を失った理由を察した。
更に『理想郷』を拡大し続ける循環機能を掌握する為、アリアは自らの魂をマナの大樹へ吸収させる。
すると循環機能の中枢へと辿り着いたアリアは、そこで人々に『理想郷』を見せるよう操作するウォーリスを発見した。
それに気付いたウォーリスは、互いの精神体を認識する。
そして皮肉染みた言葉を向けながら歩み寄りるアリアは、こうした事を述べた。
『どうやらこの世界では、アンタの計画は成功したみたいね。ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド』
『……何の話だ?』
『聞いてない? アンタの娘から、私の事を』
『!』
『あの子、私の事をこう言ってたんでしょう。――……この世界の、運命を変える存在だって』
かつて『黒』であり娘だったリエスティアが述べるアリアの言葉に、ウォーリスは僅かな驚きを抱く。
しかし口元を微笑ませながら瞼を閉じた後、再び睨むような視線を向けながら言葉を返した。
『……フッ、そうか。君こそが、リエスティアの言っていた子供だったということか』
『この状況を見る限り、そういう事みたいね』
『なるほど。……そして今度は、私の運命を変えに来た……ということか』
『変えて欲しいなら、素直にその場所から退くことね』
『残念ながら、それは出来ない。……ここに辿り着くまでに失った家族の為にも、私が退くことは許されない』
退く事を良しとしないウォーリスは、操作する光球を操ると中枢の光景を一変させる。
先程の黒い空間とは異なる真っ白な精神世界へ場所を移した後、操作用の光球を消したウォーリスは改めてアリアと向かい合った。
アリアもまた一変した世界には驚愕せず、ただウォーリスと対峙する事に集中する。
そして互いに鋭い視線を交えた中で、アリアはこうした言葉でウォーリスを問い質した。
「闘る前に、一つだけ聞いていいかしら」
「……何か?」
「アンタが作りたがってる魂だけの世界は、平等を売りにしてるみたいだけど。――……結局アンタは、そんな世界を作って何がしたいわけ?」
「……」
「肉体も無く、自我や精神も無いだけで存在するだけの魂達。そんなのが存在してたって、結局そんな世界は無意味な『虚無』でしかない。……何も無い世界を作るアンタは、いったい何がしたいのかしら?」
「……少なくとも、彼等は夢を見れる。幸福な夢を」
「!」
「現実で叶えられなかった夢を。そして、現実で失われながらも叶えていた夢を。彼等は幸せな時間の中で終われる。……辛い現実から逃げられない者達に、幸福を与える事が出来るんだ」
「……そういうのは、要らないお節介だって言うのよ」
「そう言えるのは、君のように現実と向き合える強い者達だけだ。……私達のような弱い者には、辛い現実の中で死を迎えるよりも、幸福な夢を見て果てたいと思うのは当然の事だ」
「現実と戦おうともしなかった男が、よく言うわ」
「何も知らない御嬢様が、よく言う」
「あら、よく知ってるわよ。――……アンタの目的は、自分の父親を討つ事だった。でも自分じゃ敵わないから、他人頼りの人任せで倒そうとばかり考えてた。でしょ?」
「……違う。私は自らも到達者になり、ゲルガルドを倒そうと考えていた」
「でも皮肉にも、それを自分では果たせなかった」
「!」
「そりゃそうよ。アンタの肉体に封じられながらも憑依していたゲルガルドは、魂だけでも到達者の能力を得ていたんだから。――……例えアンタが自殺しても、ゲルガルドの魂は輪廻へ行かずに現世に留まる。だから確実にゲルガルドを殺せる能力を持った敵を、作り出す必要があった」
「……ッ」
「情けない男ね。救いたい家族さえ救えず、倒すべき相手も自分では殺せない。……確かに、アンタは弱者みたいね。でもそれは、自分の弱さを笠にして現実と向き合っていないだけの――……単なる理想主義者よ」
そう左手の人差し指を向けながら告げるアリアに、ウォーリスは佇んだまま言葉を伏せる。
そして鋭く指摘するアリアの言葉は、ウォーリスの脆弱性を突くように続けられた。
「自分はこんなに不幸だけど、他人は少しだけ不幸なだけだろう。自分がこれだけ辛いが、他人は少し辛いだけだろう。……そんな風に自分の不幸自慢を積み重ねて、それよりマシだからと他人に小さな不幸や辛い出来事を負わせ続けてた結果が、今までアンタが起こして来た事よ」
「……」
「王国でも帝国でも、アンタはそうやって他人を不幸と呼べる状況に追い詰めた。その根底には、自分本位な思考でしかなかったんでしょう」
「……君に、何が分かる」
「分かるわよ。だって私とアンタは、よく似てるもの」
「!」
「自分勝手で、自分本位で。他人に興味がない癖に、そんな他人の事を理解するフリだけは上手くて。でも自分が、誰よりも優れている事を知っている」
「……違う」
「違わない。アンタはどんな不幸な他人よりも、遥かに自分の不幸が『上』だと常に考えていた。……アンタと私に違いがあるとすれば、それを『弱者』として考えていたか、『強者』として考えていたか。その違いだけよ」
「……黙れ」
「ほら、図星を突かれた。――……だから茶番だって言ってるのよ。アンタの起こす事、全てがね」
「……ッ!!」
初めて苛立ちの表情を浮かべたウォーリスは、アリアに自身の本質を突かれた事に憤怒を抱く。
それを煽るような物言いで向けるアリアに、ついにウォーリスが襲い掛かった。
精神で作り出した肉体で襲うウォーリスは、右手を手刀にしながらアリアの胸部を貫こうとする。
しかしそれをアリアは左手を受けると、それを固定しながら微動にもさせずに掴み止めた。
「ッ!?」
「生身での戦いだったら、アンタが余裕で勝つんでしょうね。……でも残念ながら、精神世界ではそういう戦いじゃないのよ」
「……クッ!!」
余裕を保ちながら受け止めたい手を離すアリアに、ウォーリスは一旦ながら距離を置く。
そして独特な歩法を見せながら横に歩き始め、アリアの周囲を回り始めた。
すると四分の一週ほどした時、ウォーリスの身体が無数に分裂しながら別れたように見える。
そしてそれ等の分身全てがアリアの周囲を取り囲んだ瞬間、四方八方から一斉に襲い掛かった。
アリアはそれをただ見据えながら、ウォーリス達が無数に放つ拳や蹴りの攻撃を受けて姿を覆われる。
しかし次の瞬間、それ等の分身全てを弾き飛ばしながら本物のウォーリスが膝を着く形で後方に跳び退いた。
「なんだと……っ」
「――……この形態になるのも、久し振りだわ」
「……!!」
余裕の声を見せながら歩み出るアリアの姿に、ウォーリスは先程とは異なる驚愕を浮かべる。
その姿は先程までのような血に濡れた赤い装束姿ではなく、全てを黒に染めるような服装へと変わっていた。
更にその服は生きているかのように形容を変え、その背に四つの黒い翼を生やす。
そして額と頭部に合わせて四本の黒い角を生やしたアリアは、金髪碧眼の色合いを全て黒色に染めた。
それを見たウォーリスは、姿を変えたアリアをこう述べる。
「その姿……。……まさか、貴様も瘴気を……!?」
「そうよ。そして悪魔の姿は、アンタへの借りでもあるわ。……だから今ここで、返してあげるっ!!」
「!」
未来と同じ悪魔の姿へ変貌したアリアは、右拳を握りながら瞬く間にウォーリスの眼前に迫る。
その勢いと速度はウォーリスですら追い切れず、次の瞬間に白に染まる地面を跳ねさせる程の衝撃をウォーリスに与えた。
地面へ叩きつけられた中空を舞うウォーリスは、一瞬ながら何が起こったのか理解を難しくする。
それでも容赦の無いアリアは、右脚を跳ね上げながらウォーリスを白い世界の奥まで蹴り飛ばした。
「グ、ゥ……ッ!!」
「御望み通り、アンタの心が折れるまで――……殺ってやるわっ!!」
吹き飛ばしたウォーリスに瞬く間に追い付いたアリアは、容赦の無い殴打を浴びせ続ける。
それを受けながら耐え忍ぶウォーリスは、精神体ながらに裂傷や血反吐を流しながら防御に回っていた。
こうして精神世界において対峙したウォーリスとアリアは、精神体での戦闘を始める。
それはウォーリスにとって初めての精神体同士の戦いであり、アリアにとってそれは自分が最も強い姿の時を具象化した姿でもあった。
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