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革命編 七章:黒を継ぎし者
互いの理想
しおりを挟むマナの大樹内部にて、再び邂逅したウォーリスとアリアは精神体での激闘を始める。
本来ならば圧倒的な戦闘経験と実力を誇るウォーリスだったが、生身ではない精神体での戦闘経験は皆無に等しい。
一方で現世と未来の経験を引き継ぐアリアは、自ら生み出す瘴気と共に最も手強い悪魔化した姿でウォーリスの精神に挑んだ。
精神力の強さが最も影響する精神体の戦闘において、アリアは優位に立ちながら圧倒し始める。
しかし一秒毎にそれに対応するウォーリスの動きが、徐々に良くなり始めている事にアリアは気付いた。
「――……ッ!!」
「……なるほど。精神体の戦い方は、そうやるのか」
蹴り飛ばし殴り掛かろうとしたアリアに対して、ウォーリスは初めてそれを防御しながら白い床に足を噛ませる。
そして自らも最も強い心象を思い、自身の魂から生命力を引き出してその身体に纏わせた。
瘴気と相反する生命力の闘衣を纏ったウォーリスは、生命力の剣を両手に形成する。
そして追い撃ちを掛けようと跳び蹴りを放ったアリアを剣で薙ぎ、鋭い足刀を迎撃して見せた。
「チィ……ッ!!」
心象として再現している悪魔化したアリアの攻撃速度に順応したウォーリスは、それから最小限の回避と防御のみで攻撃に転じ始める。
その戦闘技術は圧倒的にアリアを上回り、その喉元に矛先を突き付けるまで十秒にも満たなかった。
「ッ!!」
「王手だ」
ウォーリスは容赦なくアリアの喉元に矛先を突き入れ、アリアの精神体に損傷を与える。
生身とは異なりながらも確かな衝撃と痛みを実感するアリアは、吹き飛ばされた後に床へ跪きながら呼吸を乱して吐血した。
「ガハッ、ゲフ……ッ!!」
「敗北を認めろ、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。……そしてお前も、幸福な理想郷に沈むがいい。そうすれば、苦しまずに逝けるぞ」
見下ろしながら右手に持つ生命力の剣を頭に突き付けるウォーリスは、アリアに降伏を勧告する。
それに対して息を乱しながらも顔を上げたアリアは、口元を微笑ませながら嫌味ったらしく告げた。
「……生憎と、生まれてこの方……幸福な夢なんて一度も、見た事は無いわ……」
「!」
「家族や周りからは疎まれて、本音で話し合える相手なんか一人も居た事が無い。……オマケに婚約者や周りの連中は、馬鹿ばっかりだし。……だから私は、一人で静かに暮らしたいと思った」
「……ならば、その理想を見せてやる」
「それは、もうやったのよ」
「なに?」
「実際にやってみたら、クソつまんない生活だったわ……。……毎日が変わらない、ただ生きるだけの日々。そんな刺激の無い理想なんて、もう私は求めちゃいないのよ」
「……ならば、貴様の理想とは何だ? こんな醜悪で理不尽に染まった世界の中で、お前は何を理想として見ている?」
そう問い掛けるウォーリスに対して、アリアは矛先を向けられたまま立ち上がる。
そして吐血する口元を微笑ませながら、鋭い眼光と共に挑発的な言葉を向けた。
「そんなの、決まってるじゃない。――……私が求めてるのは、そんなクソつまらない世界を抜け出させてくれる、刺激的な相手よ」
「……!」
「そんな相手を仲間にして、一緒に旅をしてながら、一緒に色んな事を知っていく。私はまさに、自分の理想を叶えてたのよ。――……それを邪魔したのが、アンタなのよ。ウォーリス」
「……ッ」
「私の理想をぶち壊したアンタが、私に理想を見せてやるですって? ……だったら私も、アンタの理想をぶち壊してやるわ」
そう告げながら鋭い憎悪を向けるアリアの青い瞳を、ウォーリスの青い瞳が見つめ返す。
するとアリアは右手を真横に動かしながら扇状に動かし、ある投影を浮かべた。
それを見た時、落ち着き払っていたはずのウォーリスが劇的に表情を変化させる。
アリアはそれを確認しながら影のある笑みを浮かべ、ウォーリスに挑発染みた言葉を向けた。
「これが、アンタが大事にしていた理想でしょ?」
「……お前が、どうしてそれを……!?」
「アンタがリエスティアを帝国に送り出したのは、自分の娘を守る為じゃない。本当に守りたかったのは守る為よね。……だからあんな三文芝居までさせて、彼女を今回の事態から遠ざけて敵対させる私達から意識を逸らそうとした」
「……!!」
「私はね、アンタのそういう弱点を知ってるのよ。……そんな私が、何もせずにここに来たと思うわけ?」
「……まさか……っ!!」
表情を強張らせ始めるウォーリスに対して、アリアは深みのある笑みを強める。
そして投影の映像を切り替えると、そこから見える光景がウォーリスの青い瞳を見開かせた。
そこに映し出されていたのは、現『緑』の七大聖人ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。
その隣に後ろ手に拘束された状態で立つのは、今までリエスティアに付き従っていた侍女だった。
「……貴様……ッ」
「アンタが理想郷を拡げて探していたのは、侍女でしょ? でも見つからなかったから、相当に焦ってたのよね。……そりゃそうよ。私が彼に、保護を御願いしていたんだから」
「まさか……。ログウェルが、彼女の重要性に気付いているはずが……!!」
「あったのよね、それが。私が現在の私に伝えておいたんだから」
「!?」
「悪魔の魔眼を通して、アンタはリエスティアや侍女の状況を探ってたんでしょうけど。私達の行動全てを視ていなかった時点で、アンタは詰んでるのよ」
「……ッ!!」
そう言いながら右手の人差し指を向けるアリアは、嫌味の強い微笑みを向ける。
逆にウォーリスは追い詰められた表情を浮かべ、歯を食い縛りながら睨み返した。
そうして相対する二人の心情的な形勢は逆転し、アリアは脅迫を向ける。
「アンタの大事な彼女を魂まで滅ぼされたくなかったら、今すぐ循環機能を明け渡しなさい」
「……馬鹿な。敵意の無い人間を殺せば七大聖人は死ぬ。あの男が、自分の死を冒してまで……!!」
「それなら、既に承諾済みみたいよ。その合図が、彼女を別の場所に転移させる事だったみたいだし」
「なっ!?」
「アンタ達がゲルガルドの扇動に従うフリをして帝国を奇襲した時点で、現在の私やログウェルは切り札を一つ確保する必要があった。その切り札こそが、アンタが自分の父親からも生死を隠したがってた侍女なのよ」
「……ッ!!」
「本当は、こんな手段なんか使いたくなかったんだけどね。……こうなった以上、これが私からアンタへの王手よ。ウォーリス」
向けているはずの矛先と同等以上の脅迫を突き付けるアリアに、ウォーリスは動揺を含んだ表情を浮かべる。
一方でアリアは自ら首元に矛先を近付けながら、人差し指を向けたままウォーリスの胸に突き付けた。
こうして圧倒的な優位に立つウォーリスは、自らの理想であり居場所でもある最愛の女性を人質に取られる。
そしてこの状況を予め想定し企てていたアリアは、ウォーリスの弱点となる理想を脅迫するという盤外戦術を用いたのだった。
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