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革命編 七章:黒を継ぎし者
希望の集結
しおりを挟む五百年前に果たされなかった『創造神』の計画が再発動し、天界を浮遊する白い大陸が最終兵器としての全貌を明かす。
その状況の中で天界に到着した帝国皇子ユグナリスを乗せる箱舟は、不時着している箱舟の傍に辿り着いた。
そうして干支衆達と別れて不時着している箱舟の内部を確認するユグナリスは、その艦橋にて『青』の七大聖人と遭遇する。
見た目こそユグナリスと変わらぬ青年風の容姿をした『青』に、ユグナリスは正体も分からぬまま問い掛けた。
「――……あの、貴方は? この箱舟に乗って来た方、ですよね?」
「……なるほど。お主は、現代のユグナリスか」
「え?」
何も知らないユグナリスの態度や今現在の格好から、『青』は自分の知る『未来の赤』ではない事を悟る。
そして見知らぬ『青』が自分の名を知る事を聞いたユグナリスは、僅かな驚きを見せながらも再び問い掛けた。
「あの、他の方は? エアハルト殿や、それに……アルトリアやリエスティアは?」
「……他の者達は、理想郷から目覚めつつある。……だが、こうなっては……」
「え?」
「事態は、最悪の方向に進んだ。……創造神が望んだ生命の殲滅が、再び始まろうとしている」
「生命の、殲滅……。なんなんです、それはっ!? それに、創造神が望んだって……!!」
「今、この天界で起こっている事だ。……最早、我々ではどうしようもない」
「!」
「――……おいっ、皇子! 誰かいたの――……!?」
渋い表情を浮かべながら諦めの言葉を零す『青』に、ユグナリスは困惑した表情を浮かべる。
そしてユグナリスの背後越しに追い付いた特級傭兵スネイクとドルフが、『青』の姿を確認しながら驚きを零した。
「その青服、まさか『青』か……!?」
「そっちで倒れてる爺さんは、確かテクラノスじゃねぇか。随分と老けやがったな」
「……スネイク。そして、確かドルフだったか。……なるほど、現代の皇子はそうした者達を味方に付けたか」
ドルフは特徴的な青色の法衣を纏う青年を『青』だと断定し、その正体を見破る。
一方で床に倒れている白髪の老人が過去に指名手配を受けていたテクラノスだと認識できるスネイクは、互いに疑問の言葉を吐き出した。
そんな二人がユグナリスに付き従う光景を見て、『青』は奇妙な納得を浮かべる。
しかしそんな様子など無視するように、ユグナリスが前に歩み出しながら『青』へ詰め寄った。
「俺達は、今ここに着いたばかりで何が起こっているのか分からない! 何か事情を知ってるなら、教えてくださいっ!!」
「……既に、我々に出来る事は無いぞ」
「それでも! 何もせずに立ち尽くしているだけなんで、俺は嫌だっ!!」
「……『赤』の末裔らしい言葉だ」
他者の言葉より自身の想いによって突き進もうとするユグナリスの姿に、『青』はかつて共に肩を並べた旧友の姿を重ねる。
そして『青』は簡潔に、現状を三人に伝えた。
「我々は創造神の復活を阻止し、その権能を支配しようとしていた者達を討とうとしていた。……しかし、どうやら創造神が復活らしい。そして、天界の制御権を得てしまったようだ」
「!!」
「そして今の状況は、五百年前の再現……いや、再稼働と言ってもいい。創造神が再び、世界の破滅を果たそうとしているのだ」
「そ、そんな……。……創造神と言うのは、リエスティアとアルトリアの事ですよね!? その二人が、それをやろうとしていると……!?」
「分からぬ。そもそも創造神として復活してしまった場合、どちらかの記憶が肉体に残されているかも不明だ。あるいは創造神の意思によって、操られている状態なのかもしれん」
「……っ!!」
「例えこの状況で創造神を打ち倒し、再び封じる事が出来たとしても。再稼働した殲滅兵器を我々だけで止める事は難しい。……だからこそ、打つ手が無い」
そう述べる『青』の言葉を聞き、『創造神』の魂と肉体を持つ二人が以前とは異なる状態にある事をユグナリスは理解する。
すると『青』の話を聞いていたスネイクやドルフは、焦りの表情を色濃くさせながら問い質した。
「おいおい、世界中の奴等を殲滅するって……マジな話なのかよ……」
「それが『創造神』の目的だ」
「……五百年前も、同じ状況になり掛けたんだよな。その時は、どうやって止めたんだ?」
「!」
「そ、そうだ! 五百年前にも止められたなら、同じ方法でやれば……!!」
不意に問い掛けたドルフの言葉に、スネイクやユグナリスも驚きを浮かべながらも表情を明るくさせる。
しかし『青』は首を横に振り、その方法について否定するように伝えた。
「五百年前と現在では、状況が何もかも違う。何より問題なのは、天界の制御権を完全に制御できる到達者がいないことだ」
「え、えんどれす……?」
「創造神と同じ、神に位置する存在だ。天界の制御権は、到達者にしか得られない。……しかも天界に現存する到達者は、我々の敵対者だけだ」
「……ウォーリスって野郎か」
「!」
説明する『青』の言葉から指し示す相手を、対峙した事のあるスネイクが察するように口にする。
それに頷きながら同意する『青』は、その相手についても言及するように伝えた。
「そう、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。奴は到達者だが、我々と敵対関係にもある。……そして奴の目的は、理想郷を拡大し全ての魂を浄化することだったのだろうが。それが果たされずに創造神の計画が再始動したという事は、ウォーリスが討たれて創造神に制御権を乗っ取られたと考えた方がいい」
「ウォーリスが討たれた……!?」
「現状を見る限り、そう考えるのが妥当だろう。……だとすれば、天界に居る到達者は一人だけ。世界の破壊を望む、『創造神』だけだ」
理想郷の停止と世界を破壊する兵器の起動を知った『青』は、現状をそう分析して語る。
それは実際の状況とやや異なりながらも、五百年前の出来事を知る『青』の経験を元に導き出した結論でもあった。
だからこそ諦めを見せる『青』に対して、再びユグナリスが反論するような声を向ける。
「……貴方の話は分かりました。……それでもやはり、俺は諦められない」
「では、どうするつもりだ?」
「決まってます。創造神を説得して、今の状況を止めさせるんですっ!!」
「!」
「創造神が今の状況を起こしているなら、創造神に止めてもらうしかない! そうじゃありませんかっ!?」
今までの話を聞いたユグナリスは、事態を解決する為の策としてこうした提案を向ける。
それを聞いたスネイクやドルフは引き気味の表情を浮かべ、『青』もまた溜息を漏らすように呟いた。
「……創造神は全てを憎んでいる。人の言葉など、聞く事は無いだろう」
「創造神は、そうなのかもしれない。……でも、その元になった二人の意思が残ってるなら、説得は出来るかもしれない!」
「!」
「リエスティアもアルトリアも、俺が良く知ってる女性です。どちらかの意思が創造神に残っていれば、良くも悪くも必ず答えてくれるはずだ!」
「……創造神に『魂』と『肉体』の意思が残っている可能性は、限りなく薄いぞ」
「それでも、全く無いよりはマシです!」
創造神の素体となった二人の意思に可能性を見出すユグナリスに、『青』は僅かな驚きを浮かべる。
それは『青』自身では導き出せなかった可能性であり、事態を曖昧に捉えることが出来ている部外者だからこそ思い浮かべる事が出来た案でもあった。
そのユグナリスは頭を下げた後、『青』に感謝を伝える。
「状況を教えて頂き、ありがとうございます。近くに俺達が乗って来た箱舟があるので、その人と一緒に避難してください」
「……創造神の前に行く気か?」
「はい」
「それは、死を意味するぞ」
「俺は、あの二人を取り戻す為に天界に来たんです。……それが果たせられないのなら、俺が生きている意味も無い!」
「……そうか。……やはり、赤の末裔だな……」
自分がやるべき事を改めて見出だせたユグナリスの表情と声色に、『青』は納得したような面持ちを浮かべる。
そして振り返りながら艦橋を出ようとしたユグナリスに、後ろに居るドルフとスネイクが通路を塞ぎながら声を向けた。
「お前、本気でやる気かよ。神様の説得なんてよ」
「はい」
「……やっぱ面白いな、この皇子。神様をぶっ倒すんでもなく、説得して世界を救おうってか?」
「馬鹿馬鹿しいことだっていうのは、自分でも分かっています。……それでも、俺は行きます」
真面目に問い掛けるユグナリスの言葉に、ドルフもスネイクも呆れるような表情を浮かべる。
しかし二人は口元を微笑ませ、互いに背中を振り向かせながら自分の伝えた。
「どの道、可能性を信じなきゃ何も救われないんだろ。俺の弟もな。……だったら、最後まで付き合うぜ」
「えっ」
「俺も、お前の馬鹿が何処まで通じるか見届けたいんでね。――……いいよな、イオルム」
『――……』
「……二人とも……。……ありがとうございます」
創造神の説得に同行する事を伝えるドルフとスネイクに、ユグナリスは感謝と微笑みを向ける。
そんな三人の姿を目にする『青』は、背を向けているユグナリスにこうした言葉を向けた。
「ユグナリス、お前の為に用意していた装備がある。それを着ていくといい」
「えっ。俺の?」
「我が案内する。……それに創造神の下まで向かうのならば、七大聖人である我の案内も必要となるだろう」
「い、いいんですか……?」
「無論だ。……『人類《ひと》の希望』。かつてそう呼ばれた『赤』の血を引く者が言う可能性ならば、我も信じてみよう」
二人に続いてユグナリスの可能性に希望を見出す『青』は、そう語りなら自ら案内するように通路側へ歩み出る。
そして自ら導くようにユグナリス達を船内へ案内し、エリク達の装備が置かれていた貨物室の部屋へ向かった。
ユグナリス達はそれに応じる形で付いて行き、四人は共に行動を始める。
それは世界の滅びを阻止しようとする、一つの希望に集結する戦士達の姿だった。
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