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革命編 七章:黒を継ぎし者

劇場の役者達

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 『創造神オリジン』の魂であるアリアが循環機構システムに接触したことで、思わぬ事態が起こる。
 それは五百年前に止められた『創造神オリジン』の計画であり、世界を滅ぼすという目的を叶える最終兵器の起動だった。

 天界エデンに浮遊する白い大陸はその形状を変化させ、巨大な砲塔は真下に現れる。
 更に大陸の真下に現れた巨大な時空間の穴に照準が定められ、その先には人間や魔族達が住み暮らす世界の情景が映し出されていた。

 そうして起こる異変の真実に気付いた、マナの大樹に取り込まれているウォーリスとアリアの二人だけ。
 しかし時空間の穴が出現した先にある世界の上空そらには、変形し砲塔を作り出す『天界エデン』の大陸が映し出されていた。

 すると理想郷ディストピアから意識を覚醒させ始めた人々が、倒れ伏す場所から起き上がり始める。
 それでも理想の夢から目覚めた彼等が見たのは、まさに最悪の現実とも言うべき景色だった。

「――……あれ、俺……いつの間に寝て……」

「死んだ女房と子供の、夢を見てた気がする……」

「……おい、なんだよアレ……!?」

「!!」

 人間大陸の中で健在だった国の人々は、黄金色に染まっている外の景色に新たな異常が現れている事に気付く。
 それは暗雲とした雲の合間に出現している巨大な穴と、その先に奇妙な白い大陸が浮かび底部分を見せているという奇妙な光景だった。

 しかし穴の大きさはともかく、その先に見える『天界エデン』の大陸にどのような異常が起きているか気付く常人ものは少ない。
 それでも各地に異常が見られ、特に動物や魔物を中心とした生物がまるで逃げ惑うかのように穴の中心地から離れる動きを見せ始めていた。

 それと同時期、『天界エデン』側に出現している月食あなの光に僅かな波紋が広がる。
 すると月食の通路みちを通過していた一隻の箱舟ノアが通り抜けを終え、艦橋ブリッジに立つ帝国皇子ユグナリスを始めとした者達が天界エデンの異変を間近で見る事になった。

「――……ここが、天界エデン……。……これがっ!?」

「なんだ、この異様な雰囲気は……?」

「見ろ、大陸が浮かんじまってるぞっ!?」

「その下には、巨大な穴が……。……あの穴に映っているのは、まさか我々が居た世界か……!?」

 異様な雰囲気を漂わせている『天界エデン』の景色を見た艦橋ブリッジの者達は、それぞれに驚愕を浮かべる。
 特に初めて『天界エデン』を見るユグナリスや干支衆達、そしてルクソード皇国からの乗員であるグラドを始めとした皇国兵士達も、異様な『天界こうけい』に唖然とした様子を浮かべた。

 そうした景色と天界エデンの現状を観察する妖狐族タマモとクビアの姉妹は、映像越しに『天界エデン』で起きている状況を分析し伝える。

「――……あの穴は、時空間で繋がってる穴やね。そして繋がってるのは、うち等が住む世界……!!」

「昔ぃ、爺婆じじばば達が言ってたわねぇ。天変地異の時もぉ、ああいう巨大な時空間の穴が上空そらに出現したってぇ」

「そこから天界うえの大陸が落ちて来て、人間大陸を埋もれさせたんや」

「じゃあ、今度はあの大陸が……!?」

 タマモとクビアの分析を聞いていたユグナリスは、五百年前と同じ天変地異が再び起きようとしている事を察する。
 そして目の前に浮かぶ巨大な白い大陸が自分達が住み暮らす下界せかいに落ちる可能性を知り、驚愕を浮かべながら尋ねた。

 それを肯定も否定もせず、クビアは敢えて今すべき事を伝える。

「そうさせない為にもぉ、あの時空間の穴を閉じるしかないわぁ」

「なら……!!」

「でもぉ、アレだけ巨大な時空間の穴を自力わたしたちだけで閉じるなんて不可能よぉ」

「そんな……!! じゃあ、どうすれば……」

「流石にあんな馬鹿デカい時空間の穴ぁ、到達者エンドレスだって長時間は開けるはずがないわぁ。だったらきっと、開いている装置が存在するはずよぉ。……それがありそうな場所はぁ、見た限りだとぉ……」

「……あの、白い大陸……!」

 クビアの状況分析を聞いたユグナリスは、映像越しに見える白い大陸に視線を向ける。
 そしてその中央にそびつ巨大な神殿へ視線を向けると、拳を握りながら艦長席に座るグラドに伝えた。

箱舟ふねを、あの大陸まで!」

「おいおい、あのヤバそうな状況で乗り込むのかよっ!?」

「その為に、俺達は来たんです」

「……そりゃそうか。……よっしゃ、行くぞっ!! 総員に、上陸準備の合図だっ!!」

「ハッ!!」 

 ユグナリスの意思に応じたグラドの声によって、皇国の兵士達を動かしながら乗員達に上陸準備を伝える。
 そして操縦する魔導人形ゴーレム達もそれに応じるように舵を切り、箱舟ふねを巨大神殿の在る白い大陸まで向かわせた。

 すると監視装置を扱っている魔導人形ゴーレムが反応を示し、艦橋ブリッジに備わる大きめの装置モニターにある光景が映し出される。
 それに気付き艦橋の全員が目を向けると、そこには見覚えのある箱舟ふねが破損した状態で不時着している様子が窺えた。

「あの箱舟ふねは……!?」

「ありゃ多分、皇国うち皇王様シルエスカを乗せていった同型の箱舟ふねだ!」

「破壊されてるように、見えますけど……!!」

「攻撃を喰らっちまったのか。……箱舟なかの連中は、無事だろうな……!?」

「エアハルト殿……。……あの箱舟ふねの近くに、御願いします!」

 シルエスカ達が乗って不時着した箱舟ふねを発見したユグナリスやグラドは、それに乗っていた者達の安否を気にする。
 そしてその要望に応える形で、グラド達を乗せた箱舟ふねは不時着した箱舟ふねの近くに着地した。

 貨物室の扉が開かれ、そこからユグナリスや機敏な獣族系の干支衆達が飛び出る。
 それに続く形で降りて来たのは、妖狐族のクビアとタマモの姉妹、そして魔銃を抱えている特級傭兵である『砂の嵐デザートストーム』団長スネイクと、元特級傭兵である『影の魔法師』ドルフだった。

 真っ先に飛び出した干支衆達は、周囲を警戒しながら神殿側へ向かい始める。
 しかしユグナリスは不時着している箱舟ふねを見ながら、後から降りて来たドルフとスネイクに伝えた。

「向こうの箱舟ふねに誰かいないか、見て来ますっ!!」

「あっ、おい!」

「……相変わらず早ぇな、あの皇子」

 有無も言わさずに駆けて行くユグナリスの尋常ではない速さに、ドルフとスネイクは呆れた様子を見せながら溜息を漏らす。
 そして少し考えた後、自分達もユグナリスを追うように不時着した箱舟ふねへ向かった。

 そんな三人の動きを見ていたクビアは、姉タマモに軽い口調でこう伝える。

「私もぉ、向こうの箱舟ふねに行くわぁ。干支衆そっちの事はぁ、任せちゃうわねぇ」

「ふんっ、言われるまでも無いわ」

 互いに素っ気ない様子で別れる妖狐の姉妹は、そうして別々の場所に向かって向かい始める。
 そして先行しているバズディールやシンを含んだ干支衆達は、神殿へ通じる入り口を探しながら走り廻っていた。

「――……あの神殿、周りに危ない結界が張られてるね!」

「ああ。どこか、神殿あそこまで通れる通路みちがあるはずだ」

「そういえば上空そらから見た時、変な門みたいなのが向こうに見えた気がする!」

「ならば、向かってみよう」

 『うし』バズディールと『さる』シンの提案を聞き入れた干支衆達は、神殿の正面出入り口となる門を目指し始める。
 そして彼等が向かうその先には、不時着した箱舟ふねの第一陣として赴いていた狼獣族エアハルトや皇王シルエスカ達、そしてアズマ国の二人が意識を戻し始めていた。

 こうした状況の中で、不時着した箱舟ふねまでユグナリスが辿り着く。
 そして傷付きながらも開かれている貨物室の扉を飛び越えて内部なかに入り込むと、大きな声を発しながら生存者がいないかを確認し始めた。

「――……誰か、誰かいませんかっ!? ……エアハルト殿、いないんですかっ!?」

 先に来ている事を知るエアハルトへ呼び掛けるユグナリスだったが、その返答は届かない。
 ただ虚しい程に空虚な反響音が鳴り響き、ユグナリスの表情に浮かぶ焦りを色濃くさせた。

 そして荒れた船内を移動しながら、破損した瓦礫などを飛び越えて艦橋ブリッジへ向かい始める。
 すると数分後に艦橋ブリッジの扉を開くと、そこに見えた人影に気付きながら呼び掛けた。

「居たっ!! あの、御無事で――……!」

「――……お前は……」

 ユグナリスが赴いた艦橋ブリッジには、青い衣を纏った一人の青年が立っている姿がある。
 そしてそのすぐ傍の壁には、白髪で老齢な男性がボロボロの姿で傷付き座らされている姿があった。

 そんな二人が互いに気付き、視線を合わせる。
 それは先に目覚めていた『青』と、現代のユグナリスが初めて対面した光景でもあった。

 こうして急変を迎える悲劇の舞台において、役者と呼べる者達が揃い始める。
 彼等は世界が滅びるという事態を認識できないまま、ただ自分が成すべき事を考えて動き続けるしかなかった。
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