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革命編 七章:黒を継ぎし者
最終兵器
しおりを挟むマナの大樹から生み出されるウォーリスの姿を模った『神兵』達の出現を目撃したエリクは、否応も無く交戦を開始する。
しかし圧倒的な物量と破壊力を誇る『神兵』の強襲を受け続け、エリクは心身共に大きな消耗を強いられた。
そうして誰の助けも得られない中でエリクが求めたのは、自身の魂に宿る鬼神フォウルの助力。
しかし他力本願の助力を、フォウルは拒む。
そして魂を経由して生命力に転換させていた鬼神の魔力を、直接的にエリクの肉体に注ぎ込む事で半ば強制的に魔人化を果たさせた。
すると『神兵』を相手として教え導くように、鬼神の力を扱い慣れるようにエリクへ伝授する。
それはエリクにとって、今まで足りていなかった超人的な戦闘経験を蓄えさせていった。
そうした一方で、マナの大樹内部の状況に場面は移る。
悪魔ヴェルフェゴールと交わした契約によって魂を代価としていたウォーリスは、理想郷を停止しながらも別の事態を引き起こそうとした。
それを止める為に精神体で向き合っていたアリアは、白の生命力と黒の瘴気を纏わせた攻撃を放つ。
その激突によって二人の精神体が在る空間は白と黒の螺旋が築かれ、暫くしてそれが治まる。
すると螺旋を描いた中心地点に、向かい合う形で睨み合うアリアとウォーリスの姿が見えた。
「――……クッ!!」
アリアは右足を踏み込ませた姿勢で放つ両手の手刀を、ウォーリスの精神体に向けている。
しかしそれは作り出されている障壁によって阻まれ、アリアの攻撃が通らなくなっていた。
そして障壁越しに睨むウォーリスは、循環機構の制御権を得たまま投影した操作盤《パネル》を扱う。
アリアはそれを見ながら両腕を引かせた後、再び素早い突きを繰り出した。
「ッ!!」
「無駄だ。循環機構の制御権が在る限り、お前は私に届かない」
「……これ以上、何をしようってのよ……っ!!」
「決まっている。――……カリーナを確保し、再び理想郷を拡げる」
「!?」
「私の理想に必要なのは、カリーナだけだ。――……他は全て、もう何も要らないっ!!」
そう叫び唸るウォーリスの言葉と共に、投影された操作盤から銀色の姿をした人型の映像が浮かび上がる。
更に操作盤を通してウォーリスの精神体を読み取ると、彼の姿を模写するように銀色の人型が容姿的な変化を遂げた。
それを間近で確認するアリアは、厳しい表情を浮かべて察する。
「まさか、『神兵《しんぺい》』を動かす気……!?」
「ああ、そうだ。――……なるほど、『神兵』は創造神の劣化品というわけか」
「止めなさいっ!!」
アリアは『神兵』を起動させようとするウォーリスに対して、瘴気の爪を纏わせた右手の手刀で迫る。
それが辛うじて障壁を突き破り、操作盤を扱うウォーリスの左手を掴み止めた。
「!」
「ウォーリス、アンタいい加減に――……!?」
「な、なんだ……っ!?」
ウォーリスの手を掴んだ瞬間、周囲に投影されていた操作盤が突如として黄金色に輝きを強める。
するとウォーリスが操作していないにも関わらず、次々と操作盤が出現し二人が見た事の無い言語で起動を始めた。
それを視線で追うアリアは障壁が失われた事に気付き、驚愕を浮かべながら流し映る操作盤の言語を確認する。
「この言語は……!!」
「なんだ、何が起こって……そうか、お前の影響かっ!! アルトリアッ!!」
「!?」
「創造神だ! まさか、お前の魂が強制的に――……!!」
突如として起きた現象が『創造神』の魂を持つアリアの精神体が干渉した事によって起きたと推察するウォーリスは、掴まれていない右手で必死に操作盤を使いながら制御権を戻そうとする。
しかし目まぐるしく動く操作盤は止まる様子を見せず、ウォーリスは焦燥を色濃くしながらアリアに怒鳴りを向けた。
「どういうことだ……何をしている、創造神ッ!!」
「知らないわよっ!! そんなに嫌なら、さっさと止めなさいっ!!」
「止められないから言っているっ!! ――……なんだ、この情報は……!?」
「……これは、まさか……!!」
二人は目まぐるしく動く映像の情報に、ある人物達の画像が映し出された事に気付く。
二人にとって見た事の無い顔がほとんどの画像だったが、アリアには一つだけ覚えのある顔が確認できた。
それは実際に見たわけではなく、ある者の魂に存在した人物。
その名をアリアは口にし、驚愕を浮かべながら目の前に映る情報の意味を読み取った。
「これは、鬼神フォウル……。……まさかここに映ってる画像は、全員が――……到達者っ!?」
「!!」
「でも、なんで到達者の情報なんか……。……いや、違う。まさか、この循環機構がやろうとしているのは……!?」
見えている画像が到達者に関する情報だと気付いたアリアは、循環機構が何を創造神に見せようとしているのかを察する。
それを証明するように、二人の真横に出現した巨大な投影がある物体を映し出した。
「これは……!」
「……やっぱり、これは……『天界』の起動制御機構……!!」
「なにっ!?」
「『天界』は今まで、休眠状態だったのよ。それが循環機構と接触した創造神に反応して、起動し始めた……!!」
投影された映像が自分達に居る『天界』の立体図である事を理解したアリアは、今まで色の付かなかった各所が次々と赤い色を指し示している事に気付く。
それが『天界』全体の機構を可動させている状態だと知り、アリアはウォーリスに睨みを向けながら伝えた。
「ウォーリス! 今すぐに、私に制御権を渡しなさいっ!! まだ間に合うっ!!」
「どういうことだっ!?」
「このままじゃ、本当に世界は滅ぶのよっ!! アンタの大事にしてる人間と一緒にっ!!」
「!!」
「早く――……っ!!」
制御権を譲渡するよう伝えるアリアを遮るように、次々と動き出していた操作盤の動きが突如として停止する。
それが何を意味するか理解したアリアは、表情を強張らせながら呟いた。
「『天界』が、完全に起動した……。……これは、今から制御権を得たとしても……間に合わない……!!」
「何が間に合わないんだっ!?」
「……五百年前、復活した『創造神』は世界を滅ぼそうとした。それを止められたのは、天界の機能が休眠状態に入ってたからよ」
「!!」
「つまりこれは、その続き。……『創造神』が世界を滅ぼそうとした計画が、また起動したってことよ」
自身の推察を伝えるアリアは、立体図で浮かぶ『天界』の構造が変形していく光景を目にする。
それは白い魔鋼で出来た白い大陸の下部の構造であり、その部分に巨大な砲塔のような形状が出現し始めた。
更に魔力を用いた数多の魔法陣が中空に描かれ、その下に時空間魔法と同じ転移の穴が出現する。
その穴には人々が暮らしている下界の光景が映し出され、それを確認したアリアは推察を確信に変えた。
「あの馬鹿デカい砲塔が、星を破壊する天界の最終兵器……。……アレが撃たれたら、下の世界はお終いよ……!!」
「……ッ」
「しかもアレは、ただの砲撃なんかじゃない。……物質どころか、精神や魂すらも全て破壊する……!!」
「何故、そんな事が分かるっ!?」
「創造神の魂が、それを伝えて来るのよ」
「……なら、アレが放たれれば……」
「人間も魔族も、何も関係ない。……全てが消え去る。……アンタの大事な人間もね……!!」
「……!!」
アルトリアと同じように『創造神』の記憶に干渉されたアリアは、『天界』が隠し持つ本当の最終兵器について語る。
それは五百年前に果たされなかった『創造神』の計画であり、世界を本当の意味で消滅させる最悪の手段だった。
こうして事態は最悪の形で進み、『創造神』によって強行された五百年前の悲劇が再現される。
それは自分の創り出した世界を全て破壊する、『天界』の最終兵器が呼び起こされる事になったのだった。
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