虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

黒の原点

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 創造神オリジンの精神世界に侵入したアリアは、そこで湧き出る憎悪の瘴気どろを抑える未来のユグナリスと遭遇する。
 互いに過去と未来において遺恨のある関係の為に、会話こそ交えなかった二人はそれぞれに自分が行える役目を果たそうとしていた。

 未来のユグナリスは『生命の火』を用いて、創造神オリジン憎悪どろを浄化しながら表層こうどうに出ないようにする。
 その間にアリアは自身が生み出す瘴気を纏い、精神世界の中心部から溢れ出ている創造神オリジン瘴気どろへと飛び込んだのだった。

 そうして再び一人になったアリアは、創造神オリジン瘴気どろを深く潜り続ける。
 しかし精神体ながらも悪魔の姿となって真下に向かい続けるアリアに、創造神オリジンの瘴気は強く干渉しようとしていた。

「――……ッ!!」

 アリアの精神体からだに付着して来る創造神オリジン瘴気どろから、アリアは強い憎悪の衝動を感じ取る。
 常人であれば発狂しそうな程の憎悪かんじょうと共に押し寄せる瘴気の干渉を受けながらも、アリアは強靭な精神力でそれに耐え続けていた。

 同時にアリアがそうした干渉を受けながら精神体からだを通して流れ込んで来るのは、創造神オリジンが世界を滅ぼす原因となっている憎悪の記憶。
 しかしそれは、創造神オリジンが実際に体験した出来事とは少々異なる記憶だった。

「……この記憶は、創造神オリジンの……。……いや、違う。……これは、『黒』の……!?」

 顔を腕で覆うように防ぎながら潜るアリアは、瘴気の干渉によって見える記憶が『黒』の七大聖人セブンスワンとして生まれた者達の記憶である事を理解する。
 それは幾何百万年という時間を積み重ねた『黒』の肉体からだが蓄積させ続けた情報であり、創造神オリジンを絶望させている要因でもあった。

 ある瘴気どろの記憶には、幼少時代と思しき『黒』が視ていた景色が映り込む。
 そこは豊かな者と貧しい者が存在する街並みの景色であり、『黒』は貧しい者の位置に立つ存在こどもだった。

 そんな街に生まれ人々が暮らす生活を見る『黒』には、両親と呼べる存在はいない。
 しかし幼く痩せ細った『黒』を掴みながら取り囲む者達を朧気に見上げ、その次に起きた記憶を視たアリアは表情を険しくさせながら吐き気を漏らした。

「う……ッ!! ――……また……!」

 嫌悪感を強めながらも瘴気どろの中を潜り続けるアリアは、共に流れ込んで来る『黒』の記憶を見続ける。
 そこには一般的に『幸福』と呼べるような記憶は存在せず、理不尽に苛まれ続ける『黒』の体験だけが強く干渉して来た。

 流れ込んで来る『黒』の記憶の干渉を受けながらも、アリアは自身の口を手で覆いながら精神体にも関わらず押し寄せて来る吐き気を我慢して呟く。

「……これが、全部……『黒』の記憶……。……まるで、世界中の『負』そのものを詰め込んだような……。……こんな記憶を見せられ続けたら、誰だって……っ!!」

 辛うじて自身の意識を保ち続けるアリアは、創造神オリジンが世界を破壊しようとする衝動に駆られる理由を理解する。
 それこそが転生し続ける『創造神オリジン』の肉体からだに蓄積された記憶であり、彼女が生み出した世界で生き永らえた『黒』の経験が原因だったのだ。

 だからこそ五百年前も現在も、復活した『創造神オリジン』が憎悪に飲まれ世界を破壊しようとする。
 アリアはそれを理解し、淀みなく溢れ続ける瘴気どろを止めて精神の核となっている現在の自分アルトリアを起こす方法を考え続けた。

「……創造神オリジンの肉体に蓄積した記憶が、この瘴気どろの発生源だとしたら。例え創造神オリジンの肉体を破壊しても、次に転生しても引き継がれる。……この瘴気を、止める術は無いわ」

 そうして考え続けるアリアは、瘴気を止める為の方法が無い事を悟る。

 死んでも転生する肉体からだに蓄積し続けた『創造神オリジン』の憎悪を全て消し去る方法など、通常の手段では存在しない。
 そして創造神オリジンの憎悪に干渉を受ける精神アルトリアについても、肉体と魂を隔離する以外に干渉を防ぐ手段が無いのだ。

 そうした結論を自身で導き出したアリアは、噴出していた瘴気どろの中から流れが滞る深部まで辿り着いた事を自覚する。
 すると真っ暗な瘴気どろの中を見渡しながら、必死な面持ちで現在の自分アルトリアを探し始めた。

「……いたっ!!」

 全く視界の利かない瘴気どろの中ながらも、アリアは自身の瘴気で覆う薄膜の瞼越しに何かを見つけ出す。
 そして背中に生える四つの悪魔の翼を広げると、瘴気どろの中を泳ぐように精神体からだを更に潜らせた。

 そんなアリアの視界に映るのは、瘴気どろの暗闇に沈む白く淡い光。
 の中には、人影のようなモノが閉じ込められている事に気付いた。

 アリアは悪魔の翼を羽ばたかせながらその光まで近付き、瘴気で覆う自身の両手を広げる。
 そして光に触れないように注意深く確認し、その光の内部に横たわる人物の姿を目にした。

「はぁ……。……やっと居たわね。私」

 深い溜息を吐き出しながら光の中を見るアリアは、そこで眠る自分自身の姿アルトリアを目にする。
 その光の中で安息を吐きながら瞼を閉じて息を整えている自分自身アルトリアを見て、アリアは神妙な面持ちを浮かべながら呟いた。

「……創造神オリジンの瘴気に飲まれる前に、自分で精神を守る結界を張ったのかしら。……いや、それにしては……」

 創造神オリジンの肉体に取り込まれていたアルトリアの精神が瘴気に飲まれていない状況を見て、アリアは疑問を抱く。
 しかし次の瞬間、その疑問に答えるような不可解な声がアリアに響き聞こえた。

『――……おかえりなさい。アルトリア』

「……アンタは、私の身体に居た時にも聞こえた……」

『良かった、間に合って。……私も、その子の精神を守り切れるか分からなかったから』

 瘴気どろの中で透き通るように響く女性の声に、アリアは周囲を見渡しながら確認する。
 しかし自分達以外の姿は見えず、それでもアリアはこの状況から声の主が誰であるかを推測するように尋ねた。

「アンタ、もしかして……創造神オリジン?」

『……』

「この状況で私達に話し掛けられる奴なんて、私達の魂でこの肉体の持ち主……創造神オリジン以外には考えられない。……アンタが、創造神オリジンなのね」

『……少し、違うかな』

「え?」

『私は確かに、創造神オリジンと呼ばれる存在から生まれた。……でも私は、創造神オリジンじゃない』

「じゃあ、誰だって言うつもりよ」

『皆は私の事を、こう呼ぶよ。――……くろって』

「!」

『私は、創造神かのじょが死を望んだことで生まれた存在。……創造神オリジンの、もう一つの人格。それが最初の、『わたし』だよ』

「なんですって……!?」

 瘴気どろの中から呼び掛ける女性の言葉を聞き、アリアは驚愕を浮かべる。
 それは『黒』と呼ばれる存在にとっての原点であり、創造神オリジンに繋がる重要な存在でもあった。
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