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革命編 七章:黒を継ぎし者
相容れぬ望み
しおりを挟む創造神の計画を止めたアルトリアだったが、ここで新たな事態が生じる。
それは世界の破壊を共に防ごうとしたウォーリスが起こした事であり、傍に寝かされていた創造神を確保しようとしたのだ。
周囲に居る未来のユグナリスと鬼神フォウルは、そうした行動に出たウォーリスを咄嗟に止めようとする。
しかし彼等が襲い掛かる前に、ウォーリスは創造神の肉体を盾にして見せた。
そうした事態に僅かに遅れて気付いたアルトリアは、近くに立ちながら動かぬように命じるウォーリスを鋭く睨む。
そんな周囲の視線に対して、ウォーリスは厳しい表情を向けながら口を開いた。
「――……何か誤解させてしまったようで申し訳ないが、私はお前達の味方にしていたわけではない」
「なに……!!」
「下界の破壊されてしまう事は、私の思惑とは大きく異なってしまう。だから協力し、それを止めただけだ」
「……創造神をどうするつもりだ、テメェは」
「決まっている。再び理想郷を展開する鍵とし、全ての者達の魂を輪廻へ帰す。――……そして世界を、再始動させる」
「!!」
ウォーリスはそう語り、自らが目的としていた計画を明かす。
それを聞いたフォウルや未来のユグナリスは驚愕を浮かべながらも、アルトリアだけは僅かに口を引き締めながら両拳を握った。
するとウォーリスは傍に一つの操作盤を出現させながら、それを左手で素早く操作し始める。
「協力に感謝する。ユグナリス皇子、そして鬼神フォウル。理想郷を展開した後、お前達の精神体は輪廻へ送らせてもらう」
「チィッ!!」
「クッ!!」
そうしたウォーリスの言葉を向けられた後、二人の周囲に黒い空間が突如として出現する。
するとそこから金色の鎖が出現し、それ等が二人の反応速度よりも早く精神体の四肢と口を覆うように絡め取った。
瞬く間に捕縛された二人は自身の膂力で鎖を引き千切ろうとするが、それが叶わない。
物理的な鎖ではなく精神体を拘束するのに特化したような鎖の能力は、驚異の実力を持つ二人に対して有効さを示していた。
そんな二人の様子を見た後、ウォーリスは振り向きながらアルトリアに声を掛ける。
「アルトリア嬢、君にも感謝はしている。……だが私の目的の為に、再び『鍵』としての役目を担ってもらおう」
「……ふっ」
強制的に協力させようとするウォーリスに対して、アルトリアは鋭い眼光を僅かに和らげる。
そして口元を微笑ませながら声を漏らすと、ウォーリスは不可解な表情と声を向けた。
「何がおかしい?」
「……アンタの行動を、私が予想しなかったと思うの?」
「何……?」
「私に操作まで任せたのは、アンタにとって必然の失敗だったわね」
「……まさか……!?」
勝ち誇るような笑みを向けながら語るアルトリアの言葉に、ウォーリスは何かを察する。
するとそれを否定するように、左手の近くに展開していた操作盤を扱いながらある事を確認した。
その数秒後、ウォーリスの表情が唖然とした感情に染まる。
更に歯を食い縛りながらアルトリアを睨み、憤怒の籠った声を向けた。
「……貴様、私が施した構築式を……っ!! だが、何時……!?」
「私が、ここを出て行く前よ」
「!!」
「あの時に、アンタが循環機構に施していた構築式《プログラム》を消去しておいたわ。ついでに、同じ構築式を受け付けない為の構築式を私も入力しておいた」
「な……っ!?」
「これでアンタは、あの膨大な構築式を再び書き換えて入力し直さないといけない。……あれほど手の込んだ構築式を、今すぐ再構成する事が出来るのかしら?」
「貴様……っ!!」
微笑みながらそう尋ねるアルトリアに、ウォーリスは明らかな怒りを向ける。
こうした事態になる前、再び創造神の計画が再始動した時にアリアはウォーリスから操作盤で状況確認が出来るようにしていた。
しかしあの切羽詰まった状況の中で、アリアは別の思惑を持ちながら操作盤を扱っていた事が明かされる。
それこそが、この事態が終息したら起こるであろうウォーリスのの行動を阻害する手段。
世界が破壊されようとしている状況で既にそれを止めた後の事も考えていたアリアは、そうした仕込みを既に施していたのだ。
当の本人であるウォーリスはそれに気付けず、世界を破壊する計画を停止を試みながら神兵達の制御が精一杯。
仮に気付いたとしてもそちらに手が回せぬ程の状況だと理解していたアリアは、そうした置き土産を残して後の事を自分自身に託したのだった。
再び目的を阻むように立ち塞がったアルトリアに、ウォーリスは明らかな敵意を向けて攻撃をしようとする。
しかしアルトリアも身構えながら、こうした言葉を向けた。
「ウォーリス、いい加減に諦めなさい」
「……それは出来ない」
「どうしてよ。……世界の再始動して、アンタの大事な存在だけを守って。どうするつもり?」
「……お前には、分からないだろう」
「何がよ」
「暴力と恐怖によって人生を縛られた者が、何を望むのか。……貴様のような人間には、永遠に分かるはずがない」
「……」
憎悪と憤怒を宿しながらも、哀愁に満ちた青い瞳を向けるウォーリスはそうした言葉を向ける。
それに対して少し考えるような様子を見せたアルトリアだったが、そこでウォーリスは次の行動を始めた。
右手に掴む創造神を自身の胸に引き込んだウォーリスは、左手で操作盤を再び扱う。
するとウォーリスの精神体と創造神の肉体が突如として粒子状になり、光となって消え始めた。
「ウォーリスッ!?」
「さらばだ、アルトリア。私にとって、永遠の宿敵よ――……」
消える二人に手を伸ばそうとしたアルトリアだったが、そこで姿が完全に消えてしまう。
それと同時に鎖に拘束されていた未来のユグナリスとフォウルが解放され、姿勢を戻しながら口を開いた。
「野郎はっ!?」
「ウォーリスは、何処へっ!?」
「……多分、外よ」
「!?」
「……ウォーリス、アンタは……」
アルトリアはそう明かし、ウォーリスが循環機構から外へ出た事を伝える。
その予測は的中しており、エリク達が居るマナの大樹周辺でも新たな変化が起きていた。
「――……ねぇ、またなんか出て来たっ!!」
「!」
「……アレは……!?」
新たな異変に最初に気付いたのはマギルスであり、マナの大樹に起きた変化を一早く周囲へ伝える。
それが伝わり他の者達も視線を向けると、マナの大樹から新たな人影が生み出されている事を理解した。
それを知り全員が警戒しながら身構えると、マナの大樹から出て来たそれが落下するように地面へ着地する。
今まで出て来ていた神兵とは異なる動き方をする存在に、エリクを始めとした全員が不可解な様子を浮かべた。
「なんだ、神兵ではないのか……?」
「顔は、同じに見えるが……」
「……アレは、まさかっ!!」
「……この感じ、奴は……っ!!」
武玄や『青』を始めとし、木々の上で陣取っていたスネイクやドルフは再び出て来た人の姿が神兵と酷似している事に気付く。
しかしユグナリスはその人影が抱え持つ銀髪の赤い装束を身に着けた女性らしき姿に驚愕し、エリクもまた他の神兵からは感じられなかった感覚が何かを察した。
すると着地した人影は、顔を上げ腰を立たせながら目の前に見えるエリク達に視線を向ける。
そして右手で抱え持った女性の顔を見ると、ユグナリスは確信を持って叫んだ。
「間違いない……! リエスティアッ!!」
「!」
ユグナリスはそう叫びながら人影に走り近付き、最愛の女性に近付く。
しかしそれを阻むように、その人影は左手を翳し向けて凄まじい閃光と共に気力の砲撃を放った。
「うわ――……っ!!」
「避けろっ!!」
「クッ!!」
気を取られていたユグナリスは反応が遅れ、そのまま閃光に飲まれてその場から吹き飛ばされる。
それに反応できた者達は射線から外れるように砲撃を回避し、左右に跳び退きながら回避して見せた。
ユグナリスを除いた者達は踏み止まり、改めて現れた人影が敵である事を確認する。
そして傍に立つエリクとマギルスは、その場に現れた人影の正体に気付いた。
「おじさん、アイツってもしかして……」
「ああ、間違いない。……奴は、本物のウォーリスだ……!」
言葉と共に剣を握る手の力を強めたエリクは、改めて対峙している人影がウォーリスだと理解する。
そして砲撃を放ち終わった後に左手を下げたウォーリスは、そんなエリクへ視線を向けながら呟いた。
「……傭兵エリク。……私達の望みを邪魔する者は、全て排除する……っ!!」
憎悪と憤怒の混じる焦燥の表情を浮かべたウォーリスは、凄まじい気力を体外から放つ。
その波動を受けるその場の者達に底知れぬ生命力を感じ取り、僅かに身体を震わせた。
こうして再び敵対したウォーリスは、自らの望みを叶える為に牙を向く。
それを阻むように立ちはだかるエリク達は、再び彼と対峙する事になった。
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