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革命編 七章:黒を継ぎし者
逃れられぬ運命
しおりを挟むウォーリスの魂を得ようとする悪魔ヴェルフェゴールと相対した未来のユグナリスだったが、真の上級悪魔の能力に圧倒されてしまう。
そして窮地に追い詰められた瞬間、悪魔達が崇拝し魂を献上する『魔神王』の意思によって、魂を得ようとしていたヴェルフェゴールの行動は止められた。
そうしてヴェルフェゴールが精神内部から去ったウォーリスは、全ての生命力が放出されずに魂は無事なまま命を留める。
そんなウォーリスに駆け寄るカリーナは、倒れ伏すウォーリスに寄り添いながら涙を流して呼び掛け続けた。
「ウォーリス様! ウォーリス様……っ!!」
「……」
カリーナの呼び掛けに対して、ウォーリスは瞼を閉じたまま意識を戻さない。
亀裂が入り崩れ欠けていた肉体の崩壊は止まっていたが、左腕を失いエリクから受けていた致命傷も生々しく深い状況は、今もその生命に危機を及ぼす事に変わりは無かった。
そんなウォーリスとカリーナの姿を見ている周囲の者達だったが、最初に一人の人物が二人に歩み寄る。
それはエリクとケイルの傍に立っていた、アルトリアだった。
「――……アンタは、その男を助けたいの?」
「!」
「その男は少なくとも、帝国と旧王国の人間を十万人近くは殺してるわ。そして下界の連中を理想郷に飲み込ませて、全て殺そうともしている」
「……ッ」
「それが自分の精神に巣食ってたゲルガルドを倒す為に必要な行動で、大事な者達を守る為だったのだとしても、正直に言って度が過ぎた事をやった男よ。……例え生き永らえたとしても、そいつは自分のやった事に多くの人間から責め立てられ、苦しむことになる。それでもアンタは、その男を助けたいと思うわけ?」
カリーナを目の前にするアルトリアは、改めてウォーリスが犯して来た出来事を伝える。
それを鑑みて、ウォーリスを生かすべきか殺すべきかの成否を問い質した。
するとカリーナは言葉を詰まらせながら、ウォーリスの顔を改めて見る。
カリーナの記憶にあるウォーリスはまだ少年らしさが抜けない見た目だったが、今の彼は大人びた青年の姿でありながら、自分や多くの者達を傷付けながら歩み続けたボロボロの姿と成り果てていた。
そんなウォーリスを生き永らえさせたとしても、待っているのは重く圧し掛かる『罪』との戦い。
死を持ってすら贖い切れないであろう罪を背負わせてまでウォーリスを生かしたいのかと考えた時、カリーナはアルトリアへ視線を移しながら覚悟を決めた表情で答えた。
「私は、それでも彼に生きていて欲しいです……。……そして私も一緒に、彼の犯した事への償いを、一生を掛けて行います……!!」
「……それを、アンタ自身に誓える?」
「はい」
「そう。……だったら、誓ってもらうわ」
ウォーリスを生かし共に犯した出来事の償いを行うと伝えたカリーナに、アルトリアは冷たい視線で見下ろしながら右手を向ける。
そして虚空に光の粒子で文字を描きながら、先程カリーナが話した言葉をそのまま記載した。
すると虚空に描かれた文字が粒子状に紐解け、カリーナの身体に注ぎ込まれる。
僅かに黄金色に輝くカリーナは驚きを浮かべると、アルトリアは改めて告げた。
「アンタに『誓約』を施した。条件はアンタが言った通り、アンタ達は一生を掛けて自分達がやった事の償いをする。……もしそれを諦めたり投げ出したりしたら、アンタは深い苦しみの中で死ぬでしょうね」
「!」
「その『制約』を条件として、その男は救ってあげる。でもその男がまた人間を害して何かを行うとすれば、それでもアンタは死ぬ。……取り消すなら今のうちだけど、それでいいのね?」
「……はい」
「そう。――……じゃあ、ちょっとそこ退きなさい。そいつ、治してあげるから」
「!?」
カリーナにそうした『制約』を施したアルトリアは、その対価としてウォーリスを治すと告げる。
すると周囲の者達は驚きを浮かべ、真っ先にそれを止めようとしたのは皇国皇王であるシルエスカだった。
「待て、アルトリアッ!! そのような勝手が許されると――……」
「うるさいわよ、役立たずその一」
「ッ!?」
「ウォーリスをここまで追い詰めたのは、エリクと私よ。コイツ等をどうしようと、私達の勝手じゃない」
「だ、だがっ!! コイツ等がお前の課した『制約』を守る保証が――……」
「守らなかったら、一人の女が苦しみながら死ぬだけよ。私達にはどうでもいい、たった一人の女がね」
「!!」
「コイツ等がこの女を見捨てられる度胸があるなら、とっくの昔にそうしてるでしょ。……それとも、今度はアンタがこの女にちょっかい掛けて、そこに居る連中やウォーリスに皇国の連中を殺されたいわけ?」
「……ッ!!」
「コイツ等はね、たった一人の女を守る為だけにこんな事をしでかした連中なのよ。その恐ろしさが理解できるなら、黙って見てなさい」
異論があるだろう者達に鋭く冷たい青い眼光を向けるアルトリアは、有無を許さない豪語を放つ。
それを受けたシルエスカを始めとした者達は表情を強張らせ、アルフレッドとザルツヘルム、そしてウォーリスを改めて見つめた。
「……この男も、一人の女を守る為に……」
そんなアルトリアの話を聞いていたエリクは、ここに来て初めて対峙していたウォーリスの目的が目の前にいる女性を守る事だったと知る。
互いに命を削り合う激闘を交えたエリクは、それを目的としていたウォーリスに僅かな共感を抱いた。
そして倒れるウォーリスに歩み寄ったアルトリアは、屈みながらボロボロの肉体に右手を触れさせる。
すると周囲と地面を覆うような魔法陣が突如として展開され、周囲の者達が驚く様子を無視しながら肉体の修復を開始した。
「『到達者記号、消去開始。……消去完了。対象の状態、聖人形態に移行。肉体の修復開始……修復、完了』」
「……!!」
下界に存在する言語や魔法言語とは異なる言葉を呟きながら、アルトリアはウォーリスの肉体を修復させる。
まだ微かに残る『到達者』の要素を除外されたウォーリスの肉体は『聖人』へ戻ると、治癒できなかった傷や枯れた地面のような亀裂、そして崩れ散っていた左腕が瞬く間に修復されていった。
そして修復を終えて魔法陣が消え去ると、アルトリアはその場で再び立ち上がる。
時間にすれば数秒も経たないウォーリスの治療は、その場に居る全員を驚かせるに十分だった。
しかしそんなアルトリアから、その場に居る全員に警告が向けられる。
「あぁ、そうそう。言い忘れてたけど……もうすぐ、天界が下界に墜落するわ」
「なっ!?」
「創造神の計画が止まったと思ってるようだけど、そうじゃないわよ。――……下界を破壊するのに失敗した事で、計画は最終段階に移行された。それが、この天界を落として下界を木っ端微塵に吹き飛ばす事よ」
「ッ!!」
唐突に告げられるアルトリアの警告に、その場の全員が表情を強張らせる。
それは誰もが止められたと考えていた創造神の計画である世界の破壊が、今も継続しているという恐ろしい事実だった。
こうしてウォーリスは死を逃れながらも、世界の危機は再び舞い降り始める。
それは巨大な魔鋼で構築された天界そのものが下界へ降下し、大陸の魔鋼を全て爆発させて吹き飛ばすという事態を起こそうとしていた。
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