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革命編 八章:冒険譚の終幕

恩義と贖罪

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 現世に帰還したアルトリア達は、リエスティアの魂を肉体に戻す為にある策を提案する。
 それに彼女の両親であるウォーリスとカリーナも協力する形となり、一行はマシラ共和国へ訪れる事になった。

 すると新生された闘士部隊の闘士長メルクと傭兵ギルドマスターのグラシウスの出迎えを受け、彼等から共和国内の後日談を聞かされる。
 その内容において、マシラ一族に忠誠を持つ元闘士長ゴズヴァールが再編された元老院の議長を務めている情報が明かされる事になった。

 そうした話を聞きながら驚きを浮かべるアルトリアやエリク達は、ついにマシラ一族が住む王宮に辿り着く。
 すると出迎えを行ったグラシウスは、傭兵達と共に足を止めながら一行を見送る様子を見せた。

「――……んじゃ、俺達はここまでだ」

「あら、一緒に来ないの?」

「俺達が受けた依頼は、無事にアンタ等を王宮ここまで送り届けることだ。後の事は、闘士部隊こっちに任せちまうさ」

「そう、じゃあここで御別れね」

「いや。お前等、王宮ここの用事が終わったらギルドに寄ってくれ」

「傭兵ギルドに? ……まさか、また勧誘でもするつもり?」

「違う違う、ちょっと頼まれモンを渡したくてな。手早く渡しちまいたいから、来てくれよ?」

「はいはい。それじゃあ、また後で」

 依頼を終えて用事を伝えたグラシウスは、傭兵達と共に帰っていく。
 それを見送るアルトリア達は、改めて開かれた王宮の門に向けて歩き始めた。

 以前は不本意な形で訪れる事になった王宮に再び足を踏み入れたアルトリアとエリクは、王宮内なかの様相を見回しながら懐かしむように会話を行う。

王宮ここも、久し振りに来たわね」

「そうだな」

「覚えてる? 貴方が王宮ここに一人で乗り込んで、私を助けようとしたこと」

「ああ。……あの時は、君が拷問を受けているかもしれないと思い、すぐに助け出さなければと思った」

「私も、エリクなら王宮ここに来ちゃうかもと思ってたけど。まさか本当に一人で正面から乗り込んで来るなんて、流石に驚いたわ。しかも死刑にされちゃいそうになるんですもの」

「……俺が処刑そうされそうだった時、ケイルが助けてくれると言った。だから、大人しく待っていた」

「そうそう。あの時は助かったわ。ケイル」

 二人は王宮ここでの出来事かこを話しながら、隣を歩くケイルに視線を向ける。
 すると彼女は表情を渋らせながら呆れるような息と言葉を吐き捨てた。

「――……あの時は、お前等が厄介事ばっか起こして。こっちが苦労させられっぱなしだったぞ」

「そう言わないの。貴方だって、人の事は言えないんだから」

「……フンッ」 

「今にして思えば私達、何度もやり合ったわね。……『かれ』の言う通り、何かが違えば本気で殺し合う関係になってたかもしれない」

「……言っとくがな。アタシがその気なら、いつでもお前の生意気なつらなんか首から斬り離してたっての」

「あら、そんな事したらエリクに嫌われるわよ。……あぁ、大好きなエリクの為に我慢してたってことね?」

「……お前、本気でるぞ?」

「あらやだ、怖い。エリク助けて!」

 煽るような言葉を向けるアルトリアに、ケイルが鋭い睨みを向ける。
 その視線から隠れるように移動するアルトリアは、エリクの身体かげに隠れながら笑みを浮かべた。

 そんな二人の間に挟まれる形のエリクは、両者を見ながら言葉を向ける。

「アリア、あまりケイルを揶揄からかうな」

「はいはい、分かったわ。ごめんなさい」

「ケイルも、あまり怒るな」

「……チッ」

「俺は二人のおかげで、共和国このくにで助かった。それに、れいを言えていなかった気がする。……二人には、本当に感謝している」

「ぅ……ぬぅ……っ」

 死刑に処されそうだった自分を助けてくれた二人に、エリクは数年の時を経て改めて感謝を伝える。
 それを聞いた二人は気恥ずかしそうな面持ちを浮かべ、顔を逸らしながら苦笑を浮かべた。

 そんな三人の会話に、マギルスも加わって来る。

「――……僕も王宮ここで、お姉さん達をやってること手伝ったよ! お姉さんだけじゃ失敗してたもんね!」

「そうか。マギルスも、ありがとう」

「へへぇ」

「――……もうすぐ謁見の間だ。私語は謹んでもらおう」

「はいはい、分かりました」

 先頭を歩くメルクはそう伝え、後ろで喋り尽くす一行に注意を向ける。
 それに素直に従う一行は私語を止めた後、改めて王宮内の宮殿に入場し、謁見の間に辿り着いた。

 そこには玉座に腰掛けるマシラ王ウルクルスと共に、闘士服とは異なる衣服を纏った魔人ゴズヴァールが傍に控えている。
 更に彼等の傍には魔法師の衣を纏った老師テクラノスも立っており、それぞれが健全な様子を見せていた。

 更にウルクルス王の隣には、同じ亜麻色の髪をした十歳前後に見える少年が椅子に座っている。
 するとアルトリアやケイルの姿を見て笑みを浮かべた少年は、椅子から立ち上がりながら二人の名を呼んだ。

「アリアお姉さん! リディア叔母おばさん!」

「……もしかしてあの子、王子? 随分と大きくなったわね」

「あのガキ、叔母オバさんって言うのめろ……っ!!」
  
 呼び掛けて来る少年がウルクルスの息子である王子アレクサンデルだと分かると、改めて彼が成長した姿を眺める。
 身体は細くとも身長は百三十センチ程の高さまで成長し、以前は言葉すら言えなかった様子とは裏腹に、今は幼くもハッキリとした声を向けられるようになっていた。

 そうして訪れる一行を前に、玉座に座っていたマシラ王ウルクルスも王子同様に立ち上がりながら階段を降り始める。
 すると周囲の者達もそれに追従し、ウルクルス王は改めて同じ場所たかさから帰還した一行を出迎えた。

「――……アルトリア姫、それにリディア殿。君達の無事な姿を見れて、嬉しく思う」

「貴方も元気そうね、マシラ王。それに王子も」

「君達のおかげだ。……ゴズヴァールから聞いた時には驚いた。まさか君達が、この世界を救う為に戦ってくれていたとは。共和国このくにの王として、改めて御礼を言わせて欲しい。ありがとう」

「別に貴方達の為にやったんじゃないから、気にしなくていいわ。税を使った御礼も要らないわよ?」

「ははっ、君ならそう言うとは思っていたよ。……その代わりとなる願いを、今回は頼みに来たという事だね?」

「ええ。――……マシラ王ウルクルス。そして王子アレクサンデル。貴方達が継承して来たマシラの秘術で、輪廻からすくって欲しい魂があるわ」

 そう言いながら後ろを振り返るアルトリアは、その先に居る人物を見る。
 すると帝国皇子であるユグナリスが、深々と羽織る外套マントの下に隠すように背負うリエスティアの顔を見せた。

 更にその傍に、その両親であるウォーリスとカリーナが歩み出る。
 その中で特にウォーリスに警戒を抱くゴズヴァールとテクラノスは、互いに睨む視線を向けながら僅かに身構えた。

 そうして目の前に現れる彼等に対して、ウルクルス王は改めて問い掛ける。

「前もって情報は聞いているが……彼等がそうなのか?」

「ええ。で、お願いしてるのは馬鹿皇子あいつが背負ってる子」

「……なるほど、確かに彼女の身体には魂が感じられない」

「そういうこと。多分、あの子の魂は生きたまま輪廻に留まってる。貴方達の秘術なら、それも掬い取って肉体に戻せるんじゃない?」

「……確かに、それは可能だ」

「――……ほ、本当ですかっ!?」

 ウルクルス王はリエスティアの状態を見て、一族の秘術を使えば彼女の魂を輪廻から呼び戻せる事を明かす。
 それを聞き喜びの表情と声を向けるユグナリスだったが、僅かに躊躇う表情を浮かべるウルクルス王が訝し気に問い掛けた。

「だがそれには、彼女と同じ血を引く者の協力が必要になる。……彼等はそれを、承諾しているのだろうか?」

「……」

 心配事を口にするウルクルス王は、ウォーリスとカリーナを見ながらその真意を尋ねる。

 マシラ一族の秘術を用いて対象者となる人物の魂と会う為に、その血縁者の血液を提供する必要があった。
 更に血液を提供した血縁者も輪廻へ同行する事となり、ほぼ強制的に輪廻に居る対象者の魂に赴く事になる。

 この場合の対象者は、輪廻に魂が留まっているリエスティア。
 そしてその血縁者として血液を提供し輪廻へ同行するのは、彼女の両親であるウォーリスとカリーナである。

 今回の異変における元凶とも言うべき存在が彼等だと知らされているウルクルス王は、二人が秘術に協力し輪廻へ同行できるのか不安な部分が多い。
 すると彼に寄り添うように立つカリーナが、覚悟をするような表情を浮かべながら声を発した。

「――……御願いします。どうかリエスティアを、私達の娘を御救いください」

「!」

「今回の事態ことで多大な御迷惑を行った償いは、必ずさせて頂きます。……どうか、御願いします」

 母親として前に歩み出ながら頭を深々と下げて頼むカリーナを、周囲に居る者達は見る。
 隣に居るウォーリスはそれを見ると、渋る表情を浮かべながらも無言のまま頭を下げるだけに留まった。

 そうして頭を下げる二人の願いを聞くウルクルス王は、瞼を閉じて数秒ほど沈黙しながら考える。
 すると改めてカリーナ達を見据えながら、願いの返答を伝えた。

「……アルトリア姫に多大な恩義がある。そしてリディア殿には、レミディアの事では償い切れていない。この二人の頼みと言う事であれば、私に断る理由は無いだろう」

「!」

「アレク、秘術を行うよ。……ゴズヴァール、テクラノス老師。彼女に秘術を行いたいので、その準備を御願いする」

「よろしいのですね? ウルクルス様」

「ああ」

御当主マシラの御意思、確かにうけたまわりました」

 アルトリア達への恩義と贖罪という事で、ウルクルス王は秘術を用いる事を了承する。
 それに対してゴズヴァールとテクラノスは従うように頭を下げ、秘術が行える環境作りを別室で行い始めた。

 するとユグナリスやカリーナは息を漏らし、願いが通った事を安堵する。
 しかしウォーリスは、僅かに表情を強張らせながら渋る表情を強めていた。

 こうしてマシラ一族の秘術を使い、リエスティアの魂を輪廻から呼び戻す策が進められる。
 しかしいまだに自分の抱える罪と向き合えないウォーリスは、曇る表情を見せ続けていた。
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