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革命編 八章:冒険譚の終幕

共和国の再編

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 帰還したアルトリアはウォーリスを目覚めさせ、創造神オリジンの肉体であるが故に消されたリエスティアの魂について消息を問う。
 すると魂が生きたまま輪廻に留まっている事を推測したアルトリアは、彼女リエスティアの魂を肉体に戻す為にある手段を述べた。

 それからユグナリス達が乗って来た箱舟ノア天界エデンから飛び立ち、丸一日が経過しながら人間大陸の上空を移動する。
 すると早朝の朝日に照らされる箱舟ノアは、ある大陸に辿り着いた。

 そこはガルミッシュ帝国が存在する大陸から、更に南下した大陸。
 更に強固な山頂に築かれた都市の付近へ着地した箱舟ノアから、衣服を着替えたアルトリアを含むエリク一行が降り立つ姿が見えた。

 更にその後ろから帝国皇子ユグナリスと元特級傭兵のスネイクとドルフが降り立ち、水の流れる堀に囲まれた都市を覆う外壁かべを見上げる。
 すると更にその後ろから、ウォーリスとカリーナが続くように降りて来た。

「――……『青』が連絡してくれてるはずよ、王宮へ行きましょうか」

「ああ」

「わーい! 久し振りに戻って来たね、ここ!」

「……マシラ共和国。体感、四年か五年ぶりくらいか」

 アルトリアは自ら先頭を歩き、その後ろをエリクが付いていく。
 そして懐かしむような声を発するマギルスを見た後、外壁を見上げるケイルはその国の名を口から零した。

 かつてアリアとエリクが故郷くにから逃亡しする為に移動した国、マシラ共和国。
 初代『黄きん』の七大聖人セブンスワンマシラの血族を奉る国であり、暖かな気候と豊かな自然を有する場所。

 そのマシラ共和国に久方振りに来訪したエリク達は、以前にも通った都市の中層に繋がる大門へと足を運ぶ。
 するとそこには、以前とは異なる装飾ながらも黄色い闘衣とういを纏う二十名程の人々と共に、傭兵らしき装備を纏う者達の姿が見えた。

 それを見たアルトリアやエリクは、思わず表情をしかめながら足を止める。

「……もしかしてアレ、闘士部隊? 解散したんじゃなかったの?」

「だが、ゴズヴァールが居ないぞ」

「そうね。……誰か来るわ」

 足を止めた一行が警戒を抱いていると、待ち構える者達の中から二名が歩み出ながらアルトリア達に近付いて来る。

 一人目は闘士の服を纏い、茶色の長い髪を後ろに纏めている二十代程の女性。
 二人目は傭兵らしき姿で、綺麗に剃られて輝く禿頭の厳つい顔をした五十代前後の男性。

 その二人が近付き顔が詳細に見え始めると、後ろの位置で立っていたドルフが気付くように声を漏らした。

「……ありゃ、グラシウスか」

「知ってる人ですか?」

共和国ここで傭兵ギルドのマスターやってる人だ。おっさんの方な」

「女性の方は?」

「そっちは知らんが、結構な綺麗どころだな」

 ドルフとユグナリスのそうした会話が耳に届いたアルトリア達は、改めて歩み寄って来る男を見る。
 その男の顔に見覚えがある事を改めて認知した一行は、それがマシラ共和国で出会った傭兵ギルドのマスターであるグラシウスだと思い出した。

 そして口元の笑みを浮かべたグラシウスが、右手を振りながら一行に声を掛けて来る。

「――……よぉ、お前さん達! また元気に滅茶苦茶やってたんだってな?」

「貴方も元気そうね、グラシウスさん。……でも、随分と老け込んだわね?」

「うるせぇっ。お前等が共和国ここで滅茶苦茶やった後に、こっちは苦労したんだぞ!」

「出て行く私達をこの国に留めようとしたからでしょ、自業自得だわ」

「それを言われちゃ、なんも反論は出来んがな」

 声を向けながら歩み寄るグラシウスは、改めてアルトリアとそうした会話を行う。
 するとその会話を中断させるように、共に来た闘士服の女性が鋭い眼光をアルトリアやケイルに向けながら声を掛けて来た。

「――……久し振りだな、お前達。特にそっちの二人は」

「えっ。……えっと、貴方……誰だっけ?」

「な……ッ!!」

「ケイル、覚えてる?」

「……誰だっけか……?」

「こ、この……っ!!」

 一行の中で特にアルトリアとケイルへ敵意にも似た感情を宿す言葉を向けるその女性について、二人は思い出せずに首を傾げてしまう。
 するとマギルスが覗き込むように女性の顔を見て、うえを見ながら何かを思い出して声を向けた。

「……あっ、思い出した! 十番目のおばさんだ!」

「おばさんじゃない! まだそんなとしじゃないし、名前はメルクだっ!!」

「十番目、メルク……。……あぁ!」

「……あっ」

 マギルスの言葉で自分の名を明かした女性メルクに対して、アルトリアとケイルはその暗示ヒントから記憶の奥底にある人物を思い出す。
 それはマシラ共和国で闘士部隊と戦闘たたかいになった際、アリアが一対一で勝利して倒し、更に昏睡状態のマシラ王に会う為にケイルが昏倒させた闘士部隊の第十席メルクだった。

 するとメルクは衝撃の表情を浮かべ、二人に対して問い掛ける。

「……お、お前達……! まさか本当に、私を忘れていたのか……!?」

「いや、だって……ねぇ?」

「色々とあったからなぁ。すまんが、ほとんどうろおぼえだ」

「おばさん、席順ぼくたちの中で一番弱かったもん。しょうがないよ」

「……こ、コイツ等……っ!!」

 因縁があると思っていた当人達がまったく自分メルクの事を覚えておらず、更に同じ闘士部隊だったマギルスには名前すら憶えられていない。
 その事実と煽りにしか聞こえぬ言葉に憤りの表情に浮かべるメルクだったが、辛うじて歯を食い縛りながら大きく息を吐き出してから改まるように言葉を告げた。

「ハァ……。……マシラ王ウルクルス様の御用命により、お前達の来訪を出迎えに来た……っ」

「あぁ、そうだったの。御苦労様ね」

「……つ、付いて来てもらおう。王宮まで先導する……っ」

 微笑みながら言葉を返すアルトリアに、メルクは憤怒を我慢しながら背中を見せて歩き始める。
 グラシウスも先程のやり取りに対して苦笑にがわらいを浮かべながら、先導する二人は大門側へ歩き始めた。

 それに追従する形で大門に備わる小門を潜り抜けた一行と護衛となる闘士や傭兵達は、改めてマシラ共和国の首都へ入る。
 すると僅かに変わり映えした首都の風景を見回しながら、アルトリア達は懐かしむような声を零した。

「……懐かしいわね、この国も」

「そうだな」

「まぁ、あんまり良い思い出は無いけどね」

「君が闘士に捕まった時のことか」

「そうそう。王子の誘拐犯だなんて冤罪を着せられて、闘士部隊に捕まったのよね。……そう言えば、その時に貴方と戦ったのよね。えっと、メルクさん?」

「……そうだ」

「御互いに誤解があってああなったけど、申し訳なくは思ってるのよ。だから、あの時の事は御互いに水に流さない?」

「……私はその水を浴びせられ、お前に倒されたんだがな……っ」

「あっ」

 思い出すようにエリクと話していたアルトリアは、改めてメルクと初めて遭遇し戦った時の事を話す。
 しかしそうした物言いは二人の間にある因縁を水に流すどころか、逆に水に油を注ぎ込んで火を点けるようなモノとなった。

 沸点を超えそうな怒りで身体を震わせるメルクを見たアルトリアは気まずそうな苦笑を浮かべながら、話題を変えてケイルに話し掛ける。

「そ、そうそう。あのお婆ちゃん、元気かしら。下層したで物件の管理をしてた!」

「ああ、そうだな。……時間があれば、あの婆さんにも顔を出しとくか」

 以前に訪れた際、住む場所を探す為に下層の物件を管理していた老婆の事を二人は話す。
 しかしそれを聞いていたグラシウスが、何かを思い出しながら後ろで喋る二人に老婆に関する情報を教えた。

「……下層したで土地の管理してた婆さんだったら、随分前に死んでるぞ?」

「!!」

「えっ!?」

「確か、お前さん達が共和国ここから出てってから半年くらい経った頃か。その後、あの土地は共和国ここの役人が管理するようになったんだ。低級の傭兵連中もよく世話になってる場所だから、よく覚えてるんだがな」

「そうだったの……」

「……逝っちまったのか、あの婆さんも……」

 自分達の知る老婆が既に他界していた事を知り、二人は表情を渋らせる。
 特にケイルは自分の姐と馴染み深い老婆だった為か、彼女自身が思うよりも精神的な衝撃ショックを強く感じていた。

 するとそんな二人の様子を見ていたエリクが、何かを思いながらグラシウスに問い掛ける。

「あの老婆は死んだ後、どうなったんだ?」

「さぁな。ただこの国じゃ遺体は火葬にされて、遺骨は公共墓地に埋められるはずだ」

「そうか。……後で、その場所を教えてくれ」

「いいけどよ。あの婆さんとお前等、そんなに付き合いがあったのか?」

「あの老婆には、家探しで世話になった。……アリア、ケイル。後で墓参りに行こう」

「……そうね」

「……そうだな」

 気落ちする二人を慰めるように、エリクは老婆の墓参りへ行くことを勧める。
 その気遣いに気付いた二人は苦笑を浮かべながら、応じる声を見せた。

 するとその会話を聞いていたメルクもまた、その老婆について思い出した事を口にする。

「……その老婆とやら、確かゴズヴァール殿が気に掛けていた御婦人だな」

「えっ、ゴズヴァールが?」

「何でも昔、王子だったウルクルス様と懇意のある者だったと聞いた事がある。たまに下層に訪れては、ゴズヴァール殿が世話もしていたらしい」

「!?」

「あの土地は荒くれ者が来る事が多く、その御婦人に危害を加える事もあったそうだが。ゴズヴァール殿がその御婦人と懇意にしているのが分かると、そういう手合いが御婦人を襲うような事態は極端に減ったそうだ」

「……!!」

「確かあの御婦人の埋葬も、ウルクルス様とゴズヴァール殿の名で執り行われていたはずだ。それに公共墓地ではなく、しっかりとした墓も建てられていたと思うぞ」

「……」

「墓の場所を聞きたいなら、後で私がゴズヴァール殿に聞いておくが。どうする?」

「……え、えぇ。お願い」

 メルクはそうした事情を伝え、老婆が別の墓地に埋葬されている事を伝える。
 アルトリアとケイルは互いの顔を見合わせ、あのゴズヴァールが老婆に対して手厚い待遇をしていた事に驚きを浮かべていた。

 するとその話題が途切れると、今度はマギルスがメルクへ問い掛けて来る。

「ねぇねぇ、ゴズヴァールおじさんは? 王様のとこ?」

「ああ」

「そっかぁ、でも闘士部隊って解散したんだよね。またゴズヴァールおじさんが闘士長いちばんになって作ったの?」

「その通りだが、ゴズヴァール殿はもう闘士長ではないぞ」

「アレ、じゃあ誰が闘士長いちばんなの?」

「私だ」

「……え?」

「だから私だ。今は私が、新生闘士部隊の闘士長だ」

「……うっそだぁ!」

「クッ、コイツ……!!」

 再編された闘士部隊の闘士長をメルクが務めていると聞き、マギルスは思わず笑いながら否定する。
 しかし憤怒を浮かべながら拳を握るメルクに、今度はエリクが問い掛けた。

「なら、ゴズヴァールは何をやっている?」

「元老院の議長を務めている」

「……え?」

「元老院も三年前に解体され、一年前に改めて再編された。そして各元老院の纏め役として、ゴズヴァール殿が議長となっている」

「あの牛男が、議長……?」

「……マジかよ」

 その話を聞いたアルトリアやエリク達は、ゴズヴァールが共和国このくにの議長となっている事に唖然とする。
 今まで闘士として名を馳せた魔人が、人間の国で議長を務めているという情報は、昔の彼を知る者達であれば耳を疑いたくなる話だった。
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