1,210 / 1,360
革命編 八章:冒険譚の終幕
辿る先へ
しおりを挟む創造神の欠片を持つ可能性がある五人目の出生を確認する為、アルトリアとケイルはガルミッシュ帝国領の南方に広がる樹海へ訪れる。
そこで兄セルジアスの子供を妊娠している親友パールと再会したアルトリアは、ケイルと共に樹海に留まりその出産を手伝う決意を見せた。
しかしその樹海に暮らす者達以外にはその情報は届かず、ローゼン公爵領地に戻ったエリクは唐突に消えた二人の行方について懸念しながら思考する。
そんな彼が真っ先に思い付いたのは、本邸に幽閉される形で留められているウォーリスに聞く事だった。
「――……アリア達の行先に、心当たりは無いか?」
ウォーリスと傍に寄り添うカリーナが居る部屋に訪れたエリクは、厳かな声色と表情を向けながらそう尋ねる。
それは純粋な焦燥感から来る表情だったが、余裕の無いエリクからは僅かに殺気にも似た圧が含まれていた。
それに気圧され恐れの表情を浮かべるカリーナを庇うように、ウォーリスはエリクと向き合いながら尋ねる。
「どうして、私に聞く?」
「お前は、アリアに似ている」
「私が、アルトリア嬢に?」
「姿じゃない、考え方や行動が似ている。……お前もアリアも、自分を犠牲にしてでも大切にしているモノを守りたがる。……俺も似たところはある」
「……」
「だが俺は、アリアやお前のような知識が足りない。だからアリア達がどんな知識を使って、何をしようとしているか分からない。……だから、お前の知識と知恵を貸してほしい」
消息が分からないアルトリア達の動向を追う為に、エリクはウォーリスの知識と知恵を頼る事を選ぶ。
逆にそうした理由で協力を乞われたウォーリスは驚きを浮かべながらも、僅かに思考した後に言葉を見せた。
「……私も、何を目的として彼女が動いているか分からない。それを考える為には、情報が必要だ。……傭兵エリク、お前が知る限りの情報を話せ」
「……分かった」
旧王国から始まる因縁から死闘を交えた間柄ながら、エリクとウォーリスは初めてまともな会話を交わす。
既に魔法も使えず身体能力の大半を失ったウォーリスを目の前にしながらも、エリクは嫌悪や憎悪する様子など見せずに淀みなく自分が持つ情報を伝えた。
自爆するマナの大樹を騙す手段に始まり、『白』に出会った時の話題も行う。
それから現世へ戻った事を伝えると、その話を聞いたウォーリスは思考した結果の結論を伝えた。
「――……なるほど。アルトリア嬢以外にも、創造神の魂……その欠片も持つ者がいたのか。……それはゲルガルドの研究情報にも無かった」
「それで、何か分かるか?」
「……私ならば、循環機構を騙していられる時間はかなり限られていると焦るだろう。今すぐにでも対策を考え、状況を改善すべきだと考える」
「!」
「その対策として、循環機構に介入する為に創造神の権能を更に高める必要性を思い付く。……ならばその目的と行動は、一つに限られるだろう」
「……創造神の欠片を、集めることか?」
「そうだ。ただ私と違い、彼女の性格では仲間である君達を殺害してまで欠片を集めたいとは思わないはずだ」
「……確かに、そうだな」
「ここから先は私の推測だが、彼女は創造神の欠片を別の方法で用いる為に、探し出したという事かもしれない」
「……つまり今、アリアは創造神の欠片を持つ者を探している?」
「推測する限り、その可能性は高い」
「……アリア達は、何処へ探しに行ったんだ……?」
ウォーリスの推測を聞いたエリクは、アルトリア達が創造神の欠片を持つ者達を探し始めた可能性を知る。
それは見事に的を得ていた推測ながら、彼女達の行先については不明なままだった。
しかしそこまでの推測を立てたウォーリスが、再び思考しながら口を開く。
「……心当たりがある」
「アリア達の行先か?」
「いや、そちらではない。……創造神の欠片、その権能を持つ者についてだ」
「なに?」
「私はゲルガルドを倒す為に、人間大陸で強者と呼べる者達を調べた。特級傭兵から七大聖人まで、魔人や聖人を含めて全てだ」
「!」
「しかし現在の人間大陸で、ゲルガルドを倒しリエスティアに干渉できるアルトリア嬢の権能と類似するような能力を持つ者は確認できなかった。……ただ一人を除いては」
「一人を除いて?」
「彼女の素性、出身国や国籍などについて我々は情報を得られなかった。ただ名前は知っているし、その強さも目の当たりにしている。……彼女だけなんだ、ゲルガルドを圧倒できた人間は」
「……誰なんだ? それは」
「メディアという名の女性だ。ゲルガルドを撃退できる程の実力を持ち、『黒』の精神を失ったリエスティアを保護して隠した人物でもある。彼女がもしかしたら、創造神の欠片を持つ者なのかもしれない」
「……メディア……。……何処かで、聞いた事があるような……」
ウォーリスから『メディア』という名の女性について情報を聞いたエリクだったが、その名を別の場所で聞いた事を朧気に思い出す。
しかしそれを思い出し切る前に、その女性について更なる情報をウォーリスは話した。
「彼女の行方については、私達も調べた。だがどうも、既に人間大陸には居ないようだ」
「!」
「死んだのか、それとも姿を偽って行方を眩ませているだけなのかは分からない。ただ宗教国家で指名手配されている者の中に、大聖堂を襲撃した者として同じ名前を持つ女性がいた」
「なら宗教国家に行けば、その女の事が分かるのか?」
「いや、宗教国家でも詳しい素性は不明だと聞く。……ただメディアの素性や行動については、私も調べさせ続けた者がいた」
「誰だ? それは」
「ザルツヘルムだ」
「!」
「彼は母上の依頼で、メディアと共に行動していた時期がある。彼女は【結社】として雇われ、我々に協力してくれていた」
「【結社】に……? なら、『青』はその女を知っているのか?」
「不明だがら、恐らく知らないだろう。仮に彼女が『青』の弟子だとしたら、もっと名が広まっていてもおかしくない強さだった。……それに彼や母上が死んだ事で、メディアの消息について調査は中断された。そして死霊術で復活させた彼には帝国の騎士団長に擬態し潜入させていた為に、集めていたメディアの情報を何も聞いていない」
「だから、ザルツヘルムなら何か知っているかもしれない。ということか?」
「そうだ」
「……ザルツヘルムは、今は何処に?」
「分からない。死霊術はまだ解いてはいないが、既に『青』が滅しているか、何処かで拘束しているはずだ」
欠片を持つ可能性がある女性について聞いたエリクは、その手掛かりがザルツヘルムにある可能性へ至る。
しかし互いに彼が拘束されている場所を知らない為に、その居場所についてそれ以上の言葉を交わせなかった。
するとそうした話を聞き続けていたカリーナが、恐る恐る二人の会話に口を挟む。
「――……あ、あの……」
「?」
「ザルツヘルム様のことなら、多分……アルフレッド様が知っていると思います」
「!」
「アルフレッドが?」
「はい。今のアルフレッド様は、ウォーリス様の為に『青』という人と従っているので。それに色んな事を話す為に、暫くの間だけ二人で一緒に行動しておられたはずですから」
「そうなのか……」
「だから多分、アルフレッド様ならザルツヘルム様の居場所に、心当たりがあるかもしれません」
三年間の出来事を知らないウォーリスやエリクに代わり、カリーナがその情報を伝える。
すると決意の表情を固めたエリクが、僅かに頭を下げて感謝を伝えた。
「ありがとう。お前達の話で、今の俺がやるべきことが分かった気がする」
「行くのか?」
「ああ」
「そうか。――……傭兵エリク」
「?」
「私が言えた義理ではないが。……アルトリア嬢を、お願いする」
「……」
「私達は彼女によって、ゲルガルドの呪縛から救われた。……本当に、感謝しているんだ」
「……そうか」
改めて感謝している事を伝えたウォーリスの言葉を、エリクはその一言だけで受け入れる。
そして黒獣傭兵団の外套を背中に見せながら部屋を出て行き、屋敷の廊下を歩きながら声を零した。
「……アリア達が欠片を持つ者を探しているなら、俺も欠片を持つ者を探す。そうすればきっと、同じ場所へ……そして同じ人物へ、辿り着くはずだ」
自分が今やるべき事を判断したエリクは、アルトリア達と同じように創造神の欠片を持つ女性の行方を追い始める。
その手掛かりを持つかもしれないザルツヘルムからの証言を聞く為に、エリクは箱舟に乗りアルフレッドが居る上空の白い大陸を目指した。
こうして別々となったアルトリア達とエリクは、同じ目的で動き始める。
計らずも彼等の行動は、『白』が述べた創造神の欠片を持つ者達が再び集まろうとする習性にも見えていた。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる