虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 八章:冒険譚の終幕

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 創造神オリジンの欠片を持つ可能性がある五人目の出生を確認する為、アルトリアとケイルはガルミッシュ帝国領の南方に広がる樹海へ訪れる。
 そこで兄セルジアスの子供を妊娠している親友パールと再会したアルトリアは、ケイルと共に樹海に留まりその出産を手伝う決意を見せた。

 しかしその樹海に暮らす者達以外にはその情報は届かず、ローゼン公爵領地に戻ったエリクは唐突に消えた二人の行方について懸念しながら思考する。
 そんな彼が真っ先に思い付いたのは、本邸やしきに幽閉される形で留められているウォーリスに聞く事だった。

「――……アリア達の行先に、心当たりは無いか?」

 ウォーリスと傍に寄り添うカリーナが居る部屋に訪れたエリクは、厳かな声色と表情を向けながらそう尋ねる。
 それは純粋な焦燥感から来る表情だったが、余裕の無いエリクからは僅かに殺気にも似た圧が含まれていた。

 それに気圧され恐れの表情を浮かべるカリーナを庇うように、ウォーリスはエリクと向き合いながら尋ねる。

「どうして、私に聞く?」

「お前は、アリアに似ている」

「私が、アルトリア嬢に?」

「姿じゃない、考え方や行動が似ている。……お前もアリアも、自分を犠牲にしてでも大切にしているモノを守りたがる。……俺も似たところはある」

「……」

「だが俺は、アリアやお前のような知識が足りない。だからアリア達がどんな知識を使って、何をしようとしているか分からない。……だから、お前の知識と知恵を貸してほしい」

 消息が分からないアルトリア達の動向を追う為に、エリクはウォーリスの知識と知恵を頼る事を選ぶ。
 逆にそうした理由で協力を乞われたウォーリスは驚きを浮かべながらも、僅かに思考した後に言葉を見せた。

「……私も、何を目的として彼女アルトリアが動いているか分からない。それを考える為には、情報が必要だ。……傭兵エリク、お前が知る限りの情報を話せ」

「……分かった」

 旧王国ベルグリンドから始まる因縁から死闘を交えた間柄ながら、エリクとウォーリスは初めてまともな会話を交わす。
 既に魔法も使えず身体能力の大半を失ったウォーリスを目の前にしながらも、エリクは嫌悪や憎悪する様子など見せずに淀みなく自分が持つ情報を伝えた。

 自爆するマナの大樹を騙す手段に始まり、『白』に出会った時の話題も行う。
 それから現世こちらへ戻った事を伝えると、その話を聞いたウォーリスは思考した結果の結論を伝えた。

「――……なるほど。アルトリア嬢以外にも、創造神オリジンの魂……その欠片も持つ者がいたのか。……それはゲルガルドの研究情報にも無かった」

「それで、何か分かるか?」

「……私ならば、循環機構システムを騙していられる時間はかなり限られていると焦るだろう。今すぐにでも対策を考え、状況を改善すべきだと考える」

「!」

「その対策として、循環機構システムに介入する為に創造神オリジン権能ちからを更に高める必要性を思い付く。……ならばその目的と行動は、一つに限られるだろう」

「……創造神オリジンの欠片を、集めることか?」

「そうだ。ただ私と違い、彼女の性格では仲間である君達を殺害してまで欠片ちからを集めたいとは思わないはずだ」

「……確かに、そうだな」

「ここから先は私の推測だが、彼女は創造神オリジンの欠片を別の方法で用いる為に、探し出したという事かもしれない」

「……つまり今、アリアは創造神オリジンの欠片を持つ者を探している?」

「推測する限り、その可能性は高い」

「……アリア達は、何処へ探しに行ったんだ……?」

 ウォーリスの推測を聞いたエリクは、アルトリア達が創造神オリジンの欠片を持つ者達を探し始めた可能性を知る。
 それは見事に的を得ていた推測ながら、彼女達の行先については不明なままだった。

 しかしそこまでの推測を立てたウォーリスが、再び思考しながら口を開く。

「……心当たりがある」

「アリア達の行先か?」

「いや、そちらではない。……創造神オリジンの欠片、その権能ちからを持つ者についてだ」

「なに?」

「私はゲルガルドを倒す為に、人間大陸で強者と呼べる者達を調べた。特級傭兵から七大聖人セブンスワンまで、魔人や聖人を含めて全てだ」

「!」

「しかし現在の人間大陸で、ゲルガルドを倒しリエスティアに干渉できるアルトリア嬢の権能ちからと類似するような能力を持つ者は確認できなかった。……ただ一人を除いては」

「一人を除いて?」

「彼女の素性、出身国や国籍などについて我々は情報を得られなかった。ただ名前は知っているし、その強さも目の当たりにしている。……彼女だけなんだ、ゲルガルドを圧倒できた人間は」

「……誰なんだ? それは」

「メディアという名の女性だ。ゲルガルドを撃退できる程の実力を持ち、『黒』の精神を失ったリエスティアを保護して隠した人物でもある。彼女がもしかしたら、創造神オリジンの欠片を持つ者なのかもしれない」

「……メディア……。……何処かで、聞いた事があるような……」

 ウォーリスから『メディア』という名の女性について情報を聞いたエリクだったが、その名を別の場所で聞いた事を朧気に思い出す。
 しかしそれを思い出し切る前に、その女性メディアについて更なる情報をウォーリスは話した。

「彼女の行方については、私達も調べた。だがどうも、既に人間大陸には居ないようだ」

「!」

「死んだのか、それとも姿を偽って行方を眩ませているだけなのかは分からない。ただ宗教国家フラムブルグで指名手配されている者の中に、大聖堂を襲撃した者として同じ名前を持つ女性がいた」

「なら宗教国家フラムブルグに行けば、その女の事が分かるのか?」

「いや、宗教国家フラムブルグでも詳しい素性は不明だと聞く。……ただメディアの素性や行動については、私も調べさせ続けた者がいた」

「誰だ? それは」

「ザルツヘルムだ」

「!」

「彼は母上ナルヴァニアの依頼で、メディアと共に行動していた時期がある。彼女は【結社】として雇われ、我々に協力してくれていた」

「【結社】に……? なら、『青』はその女を知っているのか?」

「不明だがら、恐らく知らないだろう。仮に彼女が『青』の弟子だとしたら、もっと名が広まっていてもおかしくない強さだった。……それにザルツヘルム母上ナルヴァニアが死んだ事で、メディアの消息について調査は中断された。そして死霊術で復活させた彼には帝国の騎士団長に擬態し潜入させていた為に、集めていたメディアの情報を何も聞いていない」

「だから、ザルツヘルムなら何か知っているかもしれない。ということか?」

「そうだ」

「……ザルツヘルムは、今は何処に?」

「分からない。死霊術はまだ解いてはいないが、既に『青』が滅しているか、何処かで拘束しているはずだ」

 欠片を持つ可能性がある女性メディアについて聞いたエリクは、その手掛かりがザルツヘルムにある可能性へ至る。
 しかし互いに彼が拘束されている場所を知らない為に、その居場所についてそれ以上の言葉を交わせなかった。

 するとそうした話を聞き続けていたカリーナが、恐る恐る二人の会話に口を挟む。

「――……あ、あの……」

「?」

「ザルツヘルム様のことなら、多分……アルフレッド様が知っていると思います」

「!」

「アルフレッドが?」

「はい。今のアルフレッド様は、ウォーリス様の為に『青』という人と従っているので。それに色んな事を話す為に、しばらくの間だけ二人で一緒に行動しておられたはずですから」

「そうなのか……」

「だから多分、アルフレッド様ならザルツヘルム様の居場所に、心当たりがあるかもしれません」

 三年間の出来事を知らないウォーリスやエリクに代わり、カリーナがその情報を伝える。
 すると決意の表情を固めたエリクが、僅かに頭を下げて感謝を伝えた。

「ありがとう。お前達の話で、今の俺がやるべきことが分かった気がする」

「行くのか?」

「ああ」

「そうか。――……傭兵エリク」

「?」

「私が言えた義理ではないが。……アルトリア嬢を、お願いする」

「……」

「私達は彼女によって、ゲルガルドの呪縛から救われた。……本当に、感謝しているんだ」

「……そうか」

 改めて感謝している事を伝えたウォーリスの言葉を、エリクはその一言だけで受け入れる。
 そして黒獣傭兵団の外套マントを背中に見せながら部屋を出て行き、屋敷の廊下を歩きながら声を零した。

「……アリア達が欠片を持つ者を探しているなら、俺も欠片を持つ者を探す。そうすればきっと、同じ場所へ……そして同じ人物へ、辿り着くはずだ」

 自分が今やるべき事を判断したエリクは、アルトリア達と同じように創造神オリジンの欠片を持つ女性メディアの行方を追い始める。
 その手掛かりを持つかもしれないザルツヘルムからの証言を聞く為に、エリクは箱舟ノアに乗りアルフレッドが居る上空うえの白い大陸を目指した。

 こうして別々となったアルトリア達とエリクは、同じ目的で動き始める。
 はからずも彼等の行動は、『白』が述べた創造神オリジンの欠片を持つ者達が再び集まろうとする習性にも見えていた。
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