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革命編 八章:冒険譚の終幕
女達の想い
しおりを挟むガルミッシュ帝国領の南方に広がる大樹海へ再び訪れたアルトリアは、ケイルを伴いながら創造神の欠片を持つ五人目を探しに来る。
それが樹海の部族と思しき赤子であり、その母親が大族長の一族であるパールなのではないかという推測をアルトリアは立てていた。
そして再会した元族長ブルズにより、大族長に就いたパールが身籠っている事を聞く。
すると転移魔法で再び移動した二人は、遺跡のある中央集落へ訪れた。
「――……!?」
アルトリアは遺跡の屋上部分に転移した直後、以前に訪れた中央集落もまた様変わりしている事に気付く。
崩れた古い建物や天幕が敷かれただけの掘っ立て小屋のような様相だった集落にまともな木製建築物が立ち、以前の決闘騒ぎと同じ規模の人々がその街並みの中を往来している姿が見えた。
大きめの村と言うべき様相となっている中央集落に、アルトリアは見下ろしながら驚きの声を呟く。
「……随分と、文明が進んだわね。どうなってんの……?」
「――……おい、アリア。さっきの話! 樹海でお前等、何しやがったっ!?」
「うっ、まだ拘るのっ!?」
「お前まさか、樹海でエリクと誰かを結婚させて、あの大男と決闘させたのかっ!?」
「は、半分は当たってるけど! 半分は不可抗力よ!」
「不可抗力ってなんだよっ!?」
「私が樹海を彷徨って倒れて気を失ってる間に、エリクがそこの族長に騙されてその娘と婚儀を結ばされたのよ! それもエリクを決闘に参加させられるように、族長の仕向けた自作自演で!」
「はぁっ!?」
「でもちゃんと、離婚はさせてるわよっ!? そういう事もさせないようにしてたから、安心しなさい!」
「うるせぇっ! つまりテメェのせいでエリクが結婚してるんじゃねぇかっ!!」
「私のせいじゃないわよっ!?」
エリクが樹海で結婚した経緯を聞いたケイルは怒号を向け、アルトリアと口論を始めてしまう。
その凄まじい怒声と言い合いがその場に響くと、流石に中央集落を往来する者達も遺跡側を見て言い合いをする二人に気付いた。
それに気付いた者の中に、右手に黒曜石の穂先を取り付けた長棒を持つ女性がいる。
彼女はその怒声と屋上に見える見覚えのある金髪碧眼の女性に気付き、口元を微笑ませながら走り始めた。
そして建物の壁や屋根を伝いながら跳び、瞬く間に二人が居る遺跡の屋上へ辿り着く。
すると口論していた二人も屋上に訪れたその女性に気付き、振り向きながらその姿を見た。
「!?」
「――……やっぱり、アリスか!」
「パール!」
「戻って来たのか、良かった!」
その場に現れた人物とアルトリアは、互いに喜びの表情を浮かべて名前を呼び合う。
二人が居る屋上に現れたのは、彼女達が探していた現大族長にして女勇士パールだった。
褐色肌で茶混じりの長い黒髪を後ろに纏め、顔や腕に赤い塗料で施された紋様が塗られている。
その姿は以前よりも大人びており、それと腹部をかなり大きく膨らんでいた。
妊婦となっているパールの姿を見たアルトリアは、それにも改めて驚いて歩み寄りながら尋ねる。
「パール、貴方……本当に妊娠してたのね?」
「ん? ああ、そうだ」
「父親は誰なのよ? 樹海の外に住んでる男だっていうのは、聞いたけど……」
「お前の兄だ」
「……え?」
「だから、お前の兄だ。セルジアスだよ」
「……えぇっ!?」
当たり前のように父親の素性を教えるパールに、アルトリアは驚愕で表情を固めてしまう。
そんな彼女に対して、パールは堂々とした様子で話を続けた。
「お前の兄と再戦した。そして勝ったから、私の男にした」
「わ、私の男って……!?」
「お前も言っていただろう。……私は、あの男の子供なら産んでもいいと思った。だから再び勝負を挑み、勝利して種を奪ったんだ」
「……私、そんな話とか……子供が出来たとか、お兄様から何も聞いてないんですけど……?」
「当たり前だ。セルジアスには妊娠の事は話していないからな」
「はいっ!?」
「私が勝って、私が得た子供だ。だからこの子供を産んで育てるのは、私でいい。だから教えていない」
「……あ、頭が痛くなってきた……」
父親であるはずの兄セルジアスにすら妊娠を教えていない事を知り、妹アルトリアは頭痛にも似た眩暈を感じる。
すると二人の話を傍で聞いていたケイルが口元をニヤけさせ、頭を抱えるアルトリアの左肩に右手を置いて話し掛けた。
「……良かったな。これでお前も、立派な叔母さんってわけだ」
「ぐっ!!」
「子供が生まれたら、ちゃんと叔母さんって呼んでもらえるようにしろよ。叔母さん」
先程まで激昂していたケイルだったが、因果応報とばかりに以前に向けられた言葉を笑顔で返す。
それを聞かされ更に表情を強張らせたアルトリアは、言葉を詰まらせた。
そんな二人を見ながら、首を傾げるパールは改めてケイルへ問い掛ける。
「その連れは、誰だ?」
「……ケイルだ。一応、御嬢様の仲間だよ」
「そうか、名前だけは聞いている。私はパール。アリスとエリオの友だ」
「……もしかして、お前がエリクと結婚したって樹海の女か?」
「ん? そうだ。エリオは私に勝って妻にさせた事もある。だが決闘が終わった後に、すぐに離婚というものをした」
「……ふぅん……」
「?」
因縁を持つような眼光を向けるケイルに対して、パールは首を傾げる。
そして辛うじて現状に意識を戻したアルトリアが、思い出すように顔を上げて二人の会話に割り込んだ。
「そ、そうだ! パール、貴方に確認したい事があって来たのよ!」
「なんだ? さっきの話じゃないのか?」
「いや、そっちの事はとりあえず置いとくとして……。……何処か、落ち着いた場所で話せない? 誰にも話を聞かれない場所で」
「なら、遺跡の地下に行こう。そこなら誰も来ない」
「あっ、ちょっと! 何やって――……」
そう言いながら遺跡の屋上から飛び降りたパールを見て、アルトリアとケイルは慌てる様子を浮かべる。
しかし飛び降りた張本人は十メートル以上の高さからでも身軽に着地し、その場で見上げながら二人に声を向けた。
「どうした、来ないのか?」
「……アイツ、妊娠してるんだよな? いいのかよ、あんな動きしてて……」
「よくないわよ、普通なら。……でもパールも、出会った頃から普通じゃないものね……」
身重とは思えない動きを見せるパールに、改めて勇士の中でも異常な身体能力を持つ事をアルトリアは察する。
そして二人もそれぞれに屋上から降り、パールに付いて行きながら遺跡の出入り口へ向かった。
そこから階段を降りた三人は、薄暗くも崩れた場所から光が覗き込む地下に辿り着く。
すると胡坐で座るパールは、同じく座るアルトリアとケイルに向かい合いながら改めて尋ねた。
「それで、確認したい事とはなんだ?」
「……ちょっと、御腹を触らせてくれない?」
「なんでだ?」
「赤ちゃんの状態を確認したいの。良いかしら?」
「別に構わないが、触って分かるのか?」
「ええ」
そうしてパールの了承を得たアルトリアは、改めて近寄りながら彼女の膨れた御腹に触る。
すると瞼を閉じて集中力を高めると、自身の権能を使いながら子宮内の赤子の状況を探った。
そして瞼を開けて一息を漏らすと、手を離してパールに赤子の状態を伝える。
「経過は良好みたいな。あんな無茶な動きしてたら、流産してもおかしくないのよ? 少しは控えなさい」
「そうか? 私の母は、私が生まれる直前まで樹海で獲物を狩っていたと聞くが」
「……母親が母親なら、娘も娘ってことね」
「誉め言葉か、それは?」
「そうかもね。でも状態的に見て、そろそろ近いはずよ。出産は樹海でするの?」
「勿論、樹海で産む」
「そう……。……なら私が暫く滞在して、取り上げるのを手伝ってもいい?」
「お、おいっ!?」
パールの出産に立ち合うどころか手助けする意思を見せるアルトリアに、ケイルは動揺の声を向ける。
しかしそう決意した内心を、改めてアルトリアは二人に伝えた。
「この子がもしかしたら、私達の探している五人目かもしれない。仮に権能を持って生まれるなら、同じ権能を持つ私が取り上げた方が安全だと思わない?」
「で、でもよ……!」
「不安なら、貴方も残って手伝えばいいじゃない。そうすれば、エリクとの約束も破った事にはならないでしょ」
「……暫くって、どのくらいまで居るつもりだよ」
「状態を見ると、一週間以内には産気づくはずよ」
「まさか、それまでここに居るってかっ!?」
「当たり前でしょ」
「黙って出て来てるんだぞっ!? ……せめて一度、お前の実家に戻らないか? 何処で何をするか、誰かに伝えた方が良い。エリクも戻ってきたら、またアタシ達を探し回るぞ」
「それは、そうだけど……。でもそうすると、お兄様にも伝わって面倒臭いことになりそう。自分に子供が今にも樹海で産まれそうだなんて教えたら、きっと自分も連れていけって言い出すわ。連れていかなくても、自分から樹海に来るわよ」
「そりゃ当然だろ……」
出産を終えるまで留まる姿勢を見せるアルトリアに、ケイルは反発して戻る事を勧める。
しかし二人の話を聞いていたパールは、自分の意思を改めて伝えた。
「……アリスの言う通りだ。セルジアスならきっと、私ごと生まれた子供を一緒に傍へ置こうとするはずだ。だから、知られたくない」
「パール……」
「私は、樹海を任された大族長だ。私が樹海から居なくなるわけにはいかないんだ。……それにアイツにも、この帝国で大事な役割がある」
「!」
「せっかく腑抜けた姿から立ち直ろうとしているアイツを、邪魔したくない。……お前達も女なら、その気持ちは分かるんじゃないか?」
「……」
パールは自身の覚悟とセルジアスに対する思いを改めて伝えると、それを聞いた二人は同じ女として共感した面持ちを浮かべる。
するとケイルは深い溜息を漏らしながら、僅かに浮かせた腰を床に着いて天井を見上げながら呟いた。
「はぁ……。……分かった、お前等の好きにしろよ」
「ケイル……」
「でもアタシは、助産の経験とか全く無いからな。何も手伝えねぇぞ」
「それでもいいわ。どうせなら、自分の時にはこうなるんだって知っておくのも手よ」
「だから、なんでそういう話になる?」
「エリクが結婚してたくらいで怒るくらいなら、パールぐらい強気になってさっさと押し倒せばいいのに。でないとまた、誰かに横から取られるわよ?」
「殴るぞ?」
「うわっ! 止めてよ、ちょっとっ!!」
「……ははっ。アリスらしい、愉快な仲間を集めたな」
口論しながら殴り掛かろうとするケイルと逃げるアルトリアの様子に、パールは笑顔を浮かべる。
こうした経緯から、二人は誰にも自分達の居場所を伝えずに樹海へ隠れるように留まることになった。
それから一日が経過し、ローゼン公セルジアスや戻って来たエリクは二人の消息が分からなくなる。
アルトリアの突飛な行動によって再び別行動を強いられる事になったエリクは、彼女達を探すべく何をすべきか必死に考えることになった。
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