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革命編 八章:冒険譚の終幕
復讐の声
しおりを挟む停滞させている循環機構の自爆を防ぐ為に、アルトリアは創造神の肉体であるリエスティアと欠片を持つ帝国皇子ユグナリスに協力を仰ぐ。
それが承諾されたことを確認した後、アルトリアはケイルと共に部屋から離れた。
その後、兄セルジアスに先導されながら二人はウォーリス達が居る部屋に訪れる。
それを迎える形で立ちながら一礼して迎えるカリーナと、その傍に在る寝台に腰掛けるウォーリスの姿が見えた。
すると入室した三人を見るウォーリスは、アルトリアとケイルを見ながら声を向ける。
「――……今度は君達か。次は何を聞きたいんだ?」
「貴方、私達の母親を知ってたみたいだけど。どういう経緯で会ったの?」
「……私の母上の依頼を請け、私達と連絡を取っていた【結社】の構成員だった。それ以上の素性は知らなかったが、到達者すら撃退できる実力者だとは認知している」
「そう」
「……だが、成長した君と屋敷で初めて相対した時。確かに彼女と似た雰囲気を感じた。今思えば、母子だからこそ感じられたモノだったのかもしれないな」
改めてウォーリスはそう話し、メディアとアルトリアという母子が似た雰囲気を持っている事を話す。
それを聞いたアルトリアは渋い表情を強め、隣に立つケイルに視線を向けた。
するとケイルはその視線に気付き、敢えて問い掛ける。
「なんだよ?」
「……何でも無いわ。……それより、貴方にも手伝って欲しい事があるわ。エリクから事情は聞いてるのよね?」
「循環機構と創造神の欠片についてか。確かにそれは聞いている。……七つの欠片が必要だということは、創造神の肉体も必要なのだな」
「親子で察しが良くて助かるわ。……またリエスティアの魂を、別の容器に留める事は可能?」
「可能だ。我々が乗っていた遺跡は天界で破壊されたようだが、元ゲルガルド伯爵領地の鉱山跡にあの施設が残っている。それをアルフレッドに操作させれば、流用は可能だろう」
「そう。だったらアイツにも協力を仰ぐ必要があるのね」
「説得が必要なら、私が赴こう。アルフレッドなら、私の頼みを聞いてくれるだろう」
「随分と信用してるのね、アイツを」
「彼は私にとって、唯一の親友だ。彼もまた、私をそう思ってくれている。だからこそ、私の計画に付き合い続けてくれていたのだから」
「あっ、そう。だったらその時には、アンタに任せるわ。――……で、そっちも良いの? アンタの娘を、また利用することになってしまうけど」
ウォーリスから協力の承諾を得たアルトリアは、続いてカリーナへ問い掛ける。
すると僅かに悩む様子を見せながらも頷き、それを受け入れる様子を見せた。
「あの子とウォーリス様が応じているのであれば、私もそれを受け入れます。……それに、アルトリア様を信頼させて頂いておりますから」
「私を信頼ね……。……あんまり、人を信じすぎない方がいいわよ」
「え?」
「信頼してる相手にだって、嘘を吐いたり黙ってたりすることだってあるわ。……私はまさに、その典型なんだから」
信頼を向けているというカリーナの言葉に対して、アルトリアは微笑みながら自身に対する皮肉を述べる。
それを聞いていたケイルは微妙な面持ちを浮かべて溜息を吐きながら、思い出すようにウォーリスに視線を向けて問い掛けた。
「アタシも、お前に聞きたい事がある。……お前の仲間だった、あの悪魔野郎。アイツがアタシの一族を捕らえて、ゲルガルドの実験に使う為に運んだと言っていた。それは事実か?」
「……事実だ」
「それも、ゲルガルドの命令だったのか?」
「……違う。君の一族をゲルガルドに献上させるよう頼んだのは、私自身だ」
「なにっ!?」
「ゲルガルドに取り入るよう見せる為には、献上品が必要だった。そこでアルフレッドから得た情報で、ゲルガルドが欲しがっていたルクソードの血を引く実験体を用意させた。……それが、君達の一族だ」
「……ッ!!」
改めて自分の一族が狙われた原因が目の前に居るウォーリスだと知った時、ケイルは激昂を見せながら無意識に自身の左腰に右手を差し向ける。
しかしそこには本来あるはずの武器が無く、ケイルは舌打ちを漏らしながらウォーリスを睨んだ。
「チッ!! ……アタシの一族は、どんな実験に使われた?」
「……ユグナリスも扱っていた『|生命の火』。ルクソード血族だけが扱えるというその能力の発現条件と情報。それを実験で確認していたと聞いている」
「『生命の火』……。……あの皇子がやってた炎か」
「そうだ。『火』の称号を持つ到達者、その一族の末裔であるルクソード血族には特有の能力があった。それが『生命の火』と呼ばれている」
「……ッ」
「だがルクソード血族の中でも、『生命の火』は聖人に準ずる能力を持つ者しか扱えない。更に『生命の火』自体にも能力差があり、シルエスカのように魔法に似た形で炎を操るだけの者や、ユグナリスのように自身の肉体を炎へ変える事もある。ゲルガルドはその能力の発現条件と、個体差による能力差を確認していた」
「……その実験に使われた一族の中に、赤い髪の男と女は居たか?」
「確か、実験記録に有った。どちらも既に準聖人に到り、男の方は『生命の火』を発現していたと聞く。だから能力は、シルエスカと同程度だったとも研究記録に記載があった」
「……ッ!!」
ウォーリスはケイルから聞かれる話を元に、ゲルガルドの研究記録を思い出して話す。
それを聞くケイルは、その男と女が自分の両親である事を察した。
そして両親の顛末を、ケイルは敢えて問い掛ける。
「その二人は、どうなった?」
「……実験の途中、二人とも死亡している。その死体は、ある場所に保管されていた」
「ある場所?」
「ベルグリンド王国の南方領地。そこにある古城の地下だ」
「!」
「ゲルガルドは貴重と呼べる実験体は、死体となっても保管している事があった。君の一族の遺体も、何かに流用できる可能性を考えて保管していたらしい」
「……その場所は?」
「今はもう無い。『黄』の七大聖人ミネルヴァの自爆によって、旧王国の南方領地とそこに在った古城は地下ごと破壊された」
「!!」
「君の一族がそうした末路を辿ったのは、全て私のせいだ。釈明のしようもない。……もし望むのなら、私は君に討たれよう」
「……ッ!!」
改めてウォーリスはそう伝え、ケイルの一族をゲルガルドに献上し悲惨な末路を辿らせた罪をそうした形で晴らす事を受け入れる。
それを来たケイルは激昂の感情を高めながらウォーリスが居る寝台まで歩み寄り、その右手で凄まじい殴打を放った。
ウォーリスはそれを左顔面に受け、寝台へ勢い強く身体を沈める。
それを止めようとしたカリーナだったが、ウォーリスは左手を上げて庇おうとする彼女を制止させた。
「……いいんだ、カリーナ」
「ウォーリス様……!」
「彼女には、こうする権利がある」
「……何が、権利だよッ!!」
「グ……ッ!!」
上体を起こそうとしたウォーリスに対して、ケイルは憤怒のまま更に左右の拳を振り抜く。
そして顔面に容赦の無い殴打を幾度か浴びせながらも、セルジアスやカリーナは凄まじい憤怒を見せる彼女を止められず、アルトリアはそれを無表情のまま見つめ続けた。
それから唇を始めとして頬や額が切れて血を流すウォーリスに、ケイルは新たな怒鳴りを向ける。
「――……ハァ……ッ!! ……まだだ。まだ、テメェには聞かなきゃならない事がある……!!」
「……」
「アタシの一族を襲って攫った、アイツ……あの女も、お前の母親が雇った【結社】の一員らしいなっ!!」
「!」
「あの野郎は、何処の誰だ? お前の願いを叶えてやった実行犯だ、名前くらいは知ってるんだろっ!!」
「……」
ケイルは自身の幼い記憶に浮かぶ、自分の一族と家族を襲い攫った女魔法師の素性を聞き出そうとする。
しかしそれを聞いたウォーリスは僅かに表情を渋らせると、その視線を微かにアルトリアが居る方向へ動かし、すぐに戻しながら伝えた。
「……すまないが、それは言えない」
「あぁっ!?」
「その代わり、君の気が済むまで殴るといい。……それでも気が晴れないなら、私を殺すといいだろう」
「ウォーリス様っ!!」
「その代わり、私は絶対にその情報を教えない」
「……そうかよ。……だったら……っ!!」
ケイルの一族を襲った実行犯について情報を敢えて伏せるウォーリスに、ケイルは怒りを治められずに再び拳を振るおうとする。
それを止めようと間に庇おうとするカリーナの動きすら目に入る様子すら見えず、ケイルは感情のままにウォーリスを痛めつけようとした。
しかしその瞬間、アルトリアが声を発する。
「――……私の母親よ」
「!」
「……なに?」
「ナルヴァニアが雇ってた【結社】の構成員で、ウォーリス達と連絡を取り合い、リエスティアを隠した人物。……そういう事なんでしょ」
「……!!」
アルトリアの言葉を聞いたケイルは、驚愕しながらも呆然とした表情を浮かべて目の前にいるウォーリスへ再び視線を向ける。
するとその青い瞳には静かに瞼が落ち、彼女の言葉を肯定するように小さな頷きを見せた。
そうした二人の様子を見るアルトリアは、今度はウォーリスに声を向けた。
「私への義理立てのつもり? だったら余計な御世話よ」
「……さっき、君は言っていただろう。信頼できる相手でも、黙っている事はあると。……君が彼女に黙っている事実を、私が言うわけにはいかないと思ったまでだ」
「……マジなのかよ……。……おいっ、いつから知ってたっ!?」
二人の会話を聞いていたケイルは、アルトリアが自分より早く実行犯の正体に気付いていた事を怒鳴り聞く。
するとアルトリアは無表情のまま視線を落とし、それに答えた。
「……樹海で貴方が、私と実行犯の雰囲気が似てると言った時から」
「!?」
「御父様も、よく言っていたわ。私と母親が似た雰囲気を持ってたって。……でも確信したのは、母親がウォーリス達と繋がる【結社】の構成員だったとお兄様から聞いた時よ」
「……っ!!」
アルトリアの母親が自分の一族を襲撃し攫った張本人である事を知ったケイルは、呆然とした表情から徐々に怒りが再発し始める。
そして彼女に対して何かを怒鳴りそうになった瞬間、その場に居る全員に驚くべき出来事が発生した。
『――……あー、聞こえてるかなー? 人間大陸で平和ボケして暮らしてる、人類諸君ー!』
「!?」
「な、なんですか……この声……!?」
「……これは、『念話』だな」
「全員に届いてるの? まさか、誰が……」
突如として彼等の脳内に、女性らしき高い声が響き渡る。
それに動揺するカリーナを見ながら、ウォーリスは自分達に届いている声が魔法の『念話』である事を推測した。
更にアルトリアはその場の全員に『念話』が届いている事に気付き、その規模が予想以上である事を察する。
しかしそうした中でその声を聞いたセルジアスとケイルだけは、無言のまま表情の強張りを強めていった。
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