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革命編 八章:冒険譚の終幕
死闘の執念
しおりを挟む到達者の激闘は決着を迎え、うつ伏せに倒れる老騎士と膝を着きながらも意識を保つ戦士という構図を見せる。
激しくも短い二人の戦いは魔鋼で作られた天界の大陸を大きく破壊しながらも、辛うじて原型を保つことになった。
その決着から時間は僅かに遡り、神殿内部の聖域に場面は戻る。
権能を奪われそうになっていたアルトリアはリエスティアに肉体を借りた『黒』によって救い出され、聖域の手前に位置する光の渦で待機していたケイル達の前に連れて来られていた。
『――……お待たせ』
『!?』
『アリアッ!!』
『……ケ、ケイル……』
『ケイルさん、お願いね。じゃ、私は向こうの相手をして来るから――……』
『!!』
目の前に現れた『黒』と服や髪を乱したアルトリアの姿を見たケイルは、そのまま走り寄る。
そして肩を貸すケイルにアルトリアを預けた『黒』は、メディアの相手をする為に姿を消した。
呼び止める間も無く去った『黒』を他所に、ケイルは口から血を垂らすアルトリアに呼び掛ける。
『おいっ、大丈夫なのかよ?』
『……ちょっと、無理し過ぎたわ……』
『当たり前だろ。ったく、勝手に一人で突っ走りやがって』
『しょうがない、でしょ……。……でも、なんでリエスティアが……?』
『アタシもよく分からねぇよ。でも状態的には一時的なモンで、外の戦いが終わったら元に戻るらしい』
『外……。……そうだ、エリク……!!』
『黒』の出現に困惑していたアルトリアだったが、ケイルの話を聞いて外で起きている戦闘を思い出す。
そして貸されている肩から離れようとすると、それを引き寄せ留めながらケイルが強い口調で呼び止めた。
『待てって。……黒からの伝言だ。二人の戦いは、止めるなってな』
『はぁ……!?』
『止めても意味が無いってよ。お前は絶対にそれを止めようとするだろうから、止めないよう釘を刺せって頼まれたんだ』
『……ッ』
『そんで、もう一つ。――……止めるんじゃなくて、エリクを応援してやれってよ』
『!』
『お前の姿と声を聞けば、アイツがやる気を出すってさ。……ったく、なんでアタシが……』
愚痴を零しながらも『黒』に伝言を頼まれたケイルは、それを伝える。
するとアルトリアは渋る表情を強めながらも僅かに顔を伏せ、落ち着く為に一呼吸を漏らしながら顔を上げた。
『……分かったわよ。……なら、行きましょう』
『ああ。――……クビア。お前はそのガキの御守り、頼んだぜ』
『言われなくてもぉ、あんな外なんか行きたくないわよぉ。聖域に行くのも嫌だしぃ、廊下で待つわぁ』
傍に控えるクビアはそう述べ、その廊下に留まることを伝える。
それにケイルは頷き、肩を貸していたアルトリアをそのまま背負った。
するとそんな三人の傍に居るシエスティナは、不安気な表情を見せながら光の渦を見ている。
それに気付きケイルは気付くと、その心境を察しながら声を向けた。
『黒の話が本当なら、聖域に居る限り誰にも勝てやしねぇよ。安心しろ』
『……お母さん、大丈夫?』
『ああ、別未来に黒の強さは見た。……今は、母親を信じてやれ』
『……うん』
母親を心配する子供の姿を見て、ケイルは過去に起きた母親と姉妹の出来事が脳裏に過る。
それを振り払いながら走り始めたケイルは、背負うアルトリアと共に神殿の外へ向かった。
その途中で閉まる入り口の大扉へ視線を向けると、アルトリアに声を向ける。
『おいっ、お前の権能だけで扉を開けられたりするか?』
『……扉の前になったら、止まって。操作してみるから』
『分かった』
荒い息を零すアルトリアは辛うじて意識を保ち、そう伝える。
そして凄まじい速力で十秒も経たずに辿り着いたケイルは立ち止まり、それに反応したアルトリアは右手を真横に翳した。
すると二人の真横に一つの操作盤が投影され、アルトリアは右手を動かし操作しようとする。
しかし次の瞬間、アルトリアは胸部に凄まじい痛みを感じ、急な咳き込みと僅かな吐血を見せた。
『ゴホッ!! ガハ……ッ!!』
『おいっ、どうしたっ!?』
『……私の権能は、母親からの借り物なんですってよ。……だから、強まった権能に私の魂が耐え切れなくなったみたい……』
『お前、それ……。……まさか、権能を使い続けたら……!?』
『……まだ、大丈夫……。……開けるわ……』
咳き込みながら口から顎下に血を滴らせるアルトリアは、魂に及ぶ傷を我慢しながら操作盤に右手の指を付ける。
そして必要な情報を入力し終えると、創造神の肉体や魂を必要とせず大扉を開き始めた。
ケイルは渋い表情を強めながらも開いた大扉を見据え、熱風にも似た波動を感じながら走る。
そして大扉の外へ出ると、両腕で挟むアルトリアの両脚をしっかりと固定し、注意を呼び掛けた。
『しっかり掴まってろよっ!!』
『……ッ!!』
その言葉に応じるアルトリアは、両腕をしっかりとケイルの首を通して正面に移動させて服を掴む。
すると走り続けるケイルは、下まで続く長い大階段を飛び降りるように駆け下り始めた。
凄まじい速度ながらも正確に足場へ両足を着けながら加速し、二十秒にも満たぬ時間で最下層まで辿り着く。
更に足を止めることなく走り続け、凄まじい波動が放たれる場所へ向かった。
それから二人は、エリクとログウェルが殴り合う姿が見える場所まで辿り着く。
そして背から降ろし左肩を貸しながら立たせたアルトリアに、ケイルは呼び掛けた。
『アリア!』
『……ケイル。私が拡声させるから、貴方がエリクに声を届けて』
『は?』
『私じゃ、やっぱりダメよ。……私は、彼の知ってる女じゃないんだから……』
『お前、まだそんなこと……!』
『私は、違うのよ。……私の声じゃ、彼には届かない……』
二人の激闘を直に視認しながらアルトリアは、現状のエリクに自分の声が届かないと考える。
そうした弱音にも似た自虐を漏らすにケイルは苛立ちの表情を強めながら、右手で彼女の胸倉を掴みながら怒鳴った。
『お前、いい加減にしろよっ!!』
『!』
『昔がどうとか、今は違うとか、そんなのは関係ねぇっ!! お前はどうしたいんだっ!?』
『……私は……』
『エリクはな、昔だろうが未来だろうがそんなの関係ねぇんだよ! 別未来も現在も、お前を守りたくてずっと一緒にいようとしてんだっ!! そんなこともまだ分からねぇくらいに阿保なのかよっ!?』
『……!!』
『だったら、今のお前がそれに応えてやれ! 中途半端に、他人に託してんじゃねぇよっ!!』
ケイルはそう怒鳴ると、胸倉を掴む右手を離しながら鋭い眼光を向ける。
それを言われたアルトリアは僅かに頭を下げた後、一息を漏らしながら顔を上げて表情を引き締めながら口元を微笑ませて呟いた。
『……相変わらず、説教だけは上手いわね』
『あぁ? ――……!!』
『!?』
小言を零すアルトリアに対してケイルが悪態を漏らそうとした瞬間、その視界に収めていた到達者達の激闘に変化が起こる。
ログウェルの殴打に対して反応が遅れたエリクは、そのまま防御も反撃も出来ずに一方的に打たれ始めた。
それを見たケイルは、隣のアルトリアに強い口調で呼び掛ける。
『アリアッ!!』
『分かってるわよ、やればいいんでしょっ!! ――……エリクッ!!』
『――……!』
『エリク、必ずログウェルに勝ちなさいっ!! ――……これは、雇用主からの命令よっ!!』
痛みを堪えながら振り絞るように発したアルトリアの声は魔法によって拡声され、倒れ掛けるエリクに届く。
そしてその声が届くと同時に、エリクは上体を起こし前へ踏み込みながらログウェルへの反撃を開始した。
二秒にも満たない衝突によって二人の両拳は、両腕と共に破壊され折れ砕ける。
それでも止まらない二人は頭突きを衝突させながら血を溢れさせると、エリクの喉元を狙ったログウェルの脚撃が跳ね上がった。
しかしエリクはそれを口で掴み止めながら噛み止め、ログウェルを大きく中空へ投げ上げる。
それに合わせて身を沈めて屈んだエリクは、凄まじい跳躍を見せながらログウェルと衝突した。
その直後、二人は動かぬまま地面へ落下する。
そして瓦礫と化した周囲の土煙からエリクと思しき影が立ち上がり、そのまま地面へ座る様子が二人にも見えた。
それを見た二人は言葉も無く、示し合わせたように再びケイルはアルトリアを背負う。
そして座るエリクへ駆け寄ったケイルは、アルトリアを背から降ろしながら声を向けた。
「――……エリク!」
「……ケイル……アリア……。……ッ」
「おいっ!!」
呼び掛ける二人の声を聞いたエリクは、そのまま起こしていた上体を地面へ傾ける。
それを支えるようにケイルは屈みながら傍に駆け寄り、倒れそうなエリクの上体を支えた。
そして見るからに瀕死となっているエリクに対して、ケイルはアリアへ呼び掛ける。
「アリア、治せるかっ!?」
「……やってみるけど……多分、無理よ」
「到達者同士のってやつか……! それでも、やってくれっ!!」
辛うじて瞼を開きながらも朦朧としている瀕死のエリクを、二人は回復しようとする。
そんな彼等から離れた位置に、滞空していた機動戦士が両足から着地した。
そして開いた操縦席からユグナリスが飛び出し、地面へ着地して走りながら声を発した。
「――……ログウェルッ!!」
エリクの容態を心配するアルトリア達と違い、倒れ伏すログウェルの安否をユグナリスは懸念して名前を呼ぶ。
その声がログウェルに届いたのか、壊れた右手の指を微かに動かした。
すると次の瞬間、地面に突っ伏していたログウェルの顔が緩やかに動き始める。
そして微かに除き見えるその瞳が、エリクを見ながら声を発させた。
「――……まだ、じゃよ……」
「!!」
「コイツ……!?」
「まだ、儂は……死んでおらんぞ……。……傭兵、エリク……」
「……ッ!!」
両腕と噛み持たれた右脚は折れ曲がり、背骨がほぼ全て砕かれた状態にありながらも、ログウェルは意識を戻して死闘が終わっていない事を告げる。
そして無事な部分と砕かれた両腕と左足を這うように動かし、エリクの方へ進み始めた。
こうして二人の戦いは、再び望まれた決着へ進もうとする。
その周囲に居る者達は表情を強張らせ、互いにそれぞれの対応を見せようとしていた。
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