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革命編 八章:冒険譚の終幕
老騎士の最後
しおりを挟む決着したかに見えたエリクとログウェルの死闘は、まだどちらの命も潰えていない。
それを終える為に瀕死の状態で動き出したログウェルに、同じく瀕死のエリクとその周囲に居るアルトリアやケイルは驚愕を見せた。
しかも瀕死にも関わらず、ログウェルが発する殺気は衰えずに周囲の者達を威圧する。
アルトリアやケイル、そして走り寄って来るユグナリスもその殺気に気圧され、表情を強張らせた。
すると意識を朦朧とさせていたエリクはその殺気に反応し、朦朧とした意識の中で両足を立たせて身体を立たせようとする。
そんなエリクにケイルは驚愕し、肩を掴みながら止めた。
「おい! ……まさか、まだやる気かよっ!? 幾らなんでも、もう終わりだろ……アレはよ……っ!?」
「……まだ、だ」
「!」
「俺と奴の、どちらが死ぬまで……。……そう決めて、戦った」
「……っ!!」
エリクはそう話し、止めるケイルに鋭い眼光を向ける。
それには敵意や殺気こそ含まれていなかったが、強い決意がケイルにも窺えた。
ケイルは渋る様子ながらも掴み止めていた肩を離し、エリクは緩やかに立ち上がる。
そして一向に回復しない治癒と回復の魔法を施すアルトリアに、視線と声を向けた。
「アリア」
「エリク……」
「君の声が、聞こえた。……奴に、勝ってくる」
「……」
彼女の命令に応える為に、エリクは足を引きずるように再び歩み出す。
それを止められない二人の女性は、渋る表情を強めながら見届ける決意をした。
しかしそれに反するように、近付く二人を止めようとする者もいる。
それはログウェルの弟子でもあるユグナリスであり、近付く二人の間に割って入るように『生命の火』を纏った身体を飛び込ませながら呼び止めた。
「もう止めてくれっ、二人ともっ!!」
「……!」
「ログウェルは戦える状態じゃないだろっ!! これでもう、決着でいいじゃないかっ!!」
「……退け、ユグナリス」
「ッ!!」
「言うた、はずじゃ。……儂等の戦いに、口出し……するなとな……」
殺気を放ち怒気を含んだ声を向けるログウェルは、止めるユグナリスに警告を向ける。
それに歯を食い縛りながら耐えるユグナリスは、その場を退かずに荒げた声を発し続けた。
「嫌だっ!! ――……アルトリアッ!! 何か、何か方法は無いのかっ!?」
「……」
「よく分からないけど、要するにログウェルの権能や聖紋を誰かに渡せばいいんだろっ!! だったら殺さずに渡す方法だってあるはずだろ、なぁっ!?」
「……多分、無理よ」
「!?」
「今更になって聖紋と切り離しても、制限が解除されてる権能はそのままよ。だったら、聖紋で解除されていない権能を持ってる相手に、奪わせるしかない」
「だ、だったら! 殺さずにそうすればいいじゃないか!!」
「私みたいに、魂を分けて権能を分裂させて、弱めることは出来るかもしれない。……でも、創造神の欠片に刻まれている権能そのものは除去はできない」
「や……やってみなきゃ、分からないだろっ!!」
「出来てたら、とっくに昔の私がやってるわよ」
「!?」
「昔の私が自分の短杖に自分の魂を権能ごと分けたのは、強まっていく権能を除去できないかと試したから。……でもそれは失敗して、結局は分裂させた魂に相応の権能が分裂しただけだった。……完全に権能を消し去るということは、魂を消し去るのと同義なのよ」
「……ッ!!」
「権能ごと魂を消すか、奪うか。どちらかの手段しかない。……どちらを選んでも、ログウェルは死ぬしかないのよ」
「……なんで……なんでっ!!」
ログウェルを殺す以外の手段を模索しようとするユグナリスだったが、アルトリアの言葉によってそれを否定されてしまう。
それでも首を横に振りながら涙を流し始めるユグナリスは、表情を強張らせ決意の瞳を見せながら『生命の火』を身体に纏った。
そして精神武装の剣を生み出して右手に持つ構え、静かに見据えるエリクと対峙するように構える。
「ログウェルを殺すつもりなら、俺がアンタを殺すっ!! そうすれば、他の方法を探すしかないだろっ!!」
「……」
「絶対に、ログウェルは殺させないっ!! ……俺の大事な恩人を、殺させるもんかっ!!」
涙を零しながらエリクと相対するユグナリスに、周りに居る者達は顔を伏せながら説得する言葉すら向けられない。
それが嘘偽りの無いユグナリスの覚悟であり、情けなくも勇敢な姿から強い意思が伝わっていた。
するとその時、ユグナリスに視線を向けていたエリクが瞳を大きく見開く。
そして彼の背後で起きている状況に気付き、その場で叫んだ。
「止めろっ!!」
「!?」
エリクが叫ぶと同時に、他の者達も気付くように顔を上げる。
そしてユグナリスも振り返ると、そこには地面に座るログウェルと、その正面には彼の砕かれた長剣の刃先が亀裂の間に挟まれ地面から突き立てられていた。
すると次の瞬間、ログウェルは自らの身体を正面へ傾ける。
そして地面へ倒れ込むと同時に、亀裂から突き出た長剣の刃先がログウェルの心臓を貫いた。
「……ログウェルッ!?」
全員が予想もしなかったログウェルの自殺に絶句する中、ユグナリスだけは叫びながら赤い閃光となって駆け付ける。
そしてログウェルの身体を起こし、心臓に突き刺さった刃に困惑の瞳を向けながらアルトリアに呼び掛けた。
「ア、アルトリアッ!! ログウェルを、ログウェルを治して――……」
「……余計なことを、せんでいい……」
「!?」
叫ぶユグナリスに対して、抱えられるログウェルは瞼を薄らと開きながら声を向ける。
そして胸から伝わる血が地面へ落ち、血が溢れる口を動かしながら叱るような言葉を続けた。
「まったく……。……お前さんは、度が過ぎるほど優し過ぎる……。……儂は、世界を滅ぼそうとした者じゃと言うのに……」
「アンタが、アンタがそんなことしたいと、本気で思うわけないだろ……っ!!」
「……ほっほっほっ。……そうじゃなぁ……」
「!!」
「……じゃが、このまま……儂は死ぬ。……そうなれば、世界は滅ぶ……。儂のせいで……」
「!!」
「それは、儂が嫌なんじゃよ……。……だから、儂を安心して……逝かせておくれ……。ユグナリス……」
「……ッ!!」
微笑みながら最後の頼みを向けるログウェルに、ユグナリスは歯を食い縛りながら涙を零し続ける。
そんな二人にエリクは歩み寄りながら、声を掛けた。
「……いいんだな?」
「うむ。……ありがとう、傭兵エリク。……最後に、楽しい戦いだったわい……」
「……俺は、怖かった」
「当たり前じゃて……。それこそが、戦いの楽しさなんじゃから……」
微笑むログウェルに対して厳しい表情を浮かべるエリクは、互いに戦いの感想を述べる。
そして緩やかに身を屈めたエリクは、辛うじて無事な右肘を動かし、ログウェルの胸に突き刺さる折れた長剣の刃を押した。
刃は更に深々と突き刺さり、その背中まで刃が貫通する。
それから緩やかに瞼を閉じるログウェルはそのまま呼吸を止め、身体から力が抜けて抱える腕に重みが増したのをユグナリスは感じた。
「ログウェル……。……ログウェル……ッ」
「……」
ユグナリスはその両腕に最愛の師匠の亡骸を抱えたまま、擦れた声で呟きながら大量の涙を零して顔を伏せる。
それを見るエリクは表情を僅かに沈め、壊れて血塗れの腕を僅かに震わせていた。
こうして、『世界を滅ぼす者』と予言された老騎士ログウェルは逝く。
その最後を間近で見送ったのは、彼が自ら育てた最高の弟子と、彼が自ら臨んだ最強の戦士だった。
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