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終章:エピローグ

踏み出す者に

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 ガルミッシュ帝国に再訪したエリクは、ローゼン公セルジアスが治める領地の本邸まで招かれる。
 そこでガルミッシュ皇族であり皇帝代理を務める皇后クレアに迎えられ、自身の要件を伝えた。

 その後、今度は皇后クレアからある相談が持ち掛けられる。
 それはエリクの仲間であるケイルと、元ルクソード皇王シルエスカの行方についてだった。

 重苦しく厳重過ぎる警備が敷かれた客室に招かれた真の意味が相談それだと理解したエリクは訝し気な様子を浮かべ、改めてクレアに問い掛ける。

「……どうして、その二人を?」

「実は、その御二人に御願いがあって帝国でも探しているのですが。この情勢下でもあるのか、行く先が分からず。そちらに居られるマギルス殿も、御存知ないという事でしたので」

「マギルス、知らないのか?」

「うん。僕、ケイルお姉さん達と別れて帝国こっちに来ちゃったし。今はアリアお姉さんの居場所くらいしか知らない。アリアお姉さんも魔導国むこうに居るから、今は知らないってさ」

「そうか。……あの二人に、何を頼むつもりなんだ?」

 ケイルとシルエスカの行方を探る帝国側の意図に、エリクは訝し気に問い掛ける。
 すると皇后クレアは僅かに渋る様子を浮かべながら、重い口を開いた。

「……実は、私の息子ユグナリスですが。今もその右手には、『赤』の聖紋が刻まれています」

「!」

「以前の事件において、映像を通して彼女が……メディアが話したログウェル殿が事件を起こした真相。それが本当であれば、彼と同じ権能ちからを持つユグナリスもまた、『聖紋カギ』を持つことによって世界を滅ぼす危険があるのです」

「……だがそれは、確か到達者エンドレスになる必要が……。……そうか、奴は王子だったな」

「はい。……『権能ちから』を持つ故に『聖紋』の影響を受けないユグナリスですが、皇帝となれば否応なく到達者の立場となるでしょう。なので今も皇帝には就けず、ここで軟禁しているような状況なのです」

「!」

「それを解決するには、誰かに『赤』の聖紋を譲る必要があるのですが。……何分なにぶん、『赤』に選ばれ易いルクソードの血を持つ者も少なく。またユグナリスと同じ聖人に到れている者も帝国にはおらず。途方に暮れている状況なのです」

「……だから、ケイルかシルエスカに『赤』の聖紋を?」

「はい。以前にも『赤』の七大聖人セブンスワンとなった彼女達であれば、再び『赤』に選ばれるかもしれないと思い、聖紋の譲渡を御願いしようと思っています」

「……だとしたら、ケイルは駄目だな」

「!」

「ケイルも、俺達と同じ権能ちからを持っている。『赤』の聖紋を持っていると、同じ危険性ことになるだけだ」

「……では、シルエスカ様に御願いするしかありませんね。シルエスカ様の行方に、御心当たりは?」

「ケイルと一緒に、アズマ国に居るはずだ」

「!?」

「俺がアズマ国へ寄った時、ケイルと一緒に修業をしていると聞いた。半年ほど前だが、今も一緒のはずだ」

「そうですか、アズマ国に……。……ありがとうございます。同盟国を通じて、シルエスカ様には御願いを伝えてみます」

「伝えても、シルエスカは承諾しないだろう」

「!」

「話だと、シルエスカは『赤』の血に縛られるような生き方を望まないと言っているらしい。同盟国に戻っていないのも、それが理由のようだ。だから、また『赤』の七大聖人セブンスワンになるのは拒むかもしれない」

「……しかし、もうシルエスカ様に御願いするしか……」

 エリクは自分自身の見解を見せ、シルエスカも『赤』の聖紋を再び宿す事を拒絶するだろうと伝える。
 それを聞き表情の強張らせながら悲痛な面持ちをクレアが浮かべると、エリクは少し考えながら再び問い掛けた。

「アリアや『青』には、その事を相談したのか?」

「……いえ、御二人の居場所だけ聞いた状況です。……ユグナリスを危険視されて、ログウェル様と同じような状況にさせたくなくて……」

「だったら、相談した方がいい」

「!」

「アリアだったら、何か良い方法を思い付く。もし不安なら、俺が『青』にも説得する」

「……よろしいのですか?」

「ああ。俺達の持っている権能ちからだ、他人事には出来ない」

「……ありがとうございます」

 頭を下げながら感謝を述べるクレアと共に、ローゼン公も礼を見せる。
 それを受けたエリクは本邸内に設けられた通信用の魔道具を用いて、魔導国ホルツヴァーグに居る『青』と連絡を取る事になった。

 そうして繋がった投影越しに、エリクは『青』に用件を伝えて尋ねる。

「――……と、いうことになっているらしい。何か、解決策はあるか?」

『――……解決方法と言っても、聖紋の譲渡を行うか、聖紋自身が移動するか。そのどちらかしか無かろう』

「なら、それを出来る聖人に心当たりは? ケイルやシルエスカ以外で」

『……ルクソードの血筋で聖人に達している者は、恐らく帝国皇子ユグナリスとその二人以外に人間大陸には居らぬだろうな』

「他の聖人では駄目なのか?」

あかの聖紋は、ルクソードの血筋以外に宿った前例が無い。恐らく他の聖紋と違い、その血筋にしか宿らぬのかもしれん』

「そうか……」

『……だが、選定ではなく保留ならば。譲渡や移動以外の方法はある』

「!?」

「あるのか? どんな方法だ」

 通信越しに思考した『青』は、何かを思い出しながら別の方法がある事を明かす。
 同席している皇后クレアやセルジアスはそれを聞きながら驚きを浮かべると、エリクは別方法について問い掛けた。

『ルクソード以降の赤が幾度か途絶え、何百年か空席だった事は知っているか?』

「そうなのか?」

『ルクソードが去ってから二百年後にあか七大聖人セブンスワンになったのは、その血筋である二代目のソニアだ。だが奴も百年も経つとあかを退き、人間大陸から姿を消している。……そしてその百年後に、シルエスカが三代目のあかになった』

「……その話。『赤』が居なかった間、聖紋はどうなっていたんだ?」

『それを知っているのは、聖紋それを管理していたルクソード皇国……いや、今のアスラント同盟国。もしくは、継承したシルエスカ本人しか知らぬはずだ。……だが、ある程度の予測は出来る』

「予測?」

『恐らく、何か別の形で聖紋を保管していたのだ。空席となっているきんの聖紋が、ミネルヴァから斬り取られた右手に宿ったままであるようにな』

「!?」

『儂もそれに似た方法を使っているが、そうした方法で聖紋が保管されていた可能性はある。……そちらに居る皇后は、何か御存知ではないのか?』

「……いいえ。赤の聖紋に関する継承方法は、私も知りません。当時の皇王ちちと聖紋に選ばれる可能性がある者にしか、明かされぬ情報でしたので……」

『そうか。ならば、シルエスカに聞くしかあるまいな。――……少し待て、儂が確認する。明日の朝、再び連絡を入れよう』

「頼む」

「お、御願いします……!」

 事情を聞いた『青』は、その解決方法を探すべく空席の中で『赤』の聖紋を継承したシルエスカにその方法を確認すると告げてくれる。
 それを頼んだエリクと皇后クレアを見ながら頷いた後、『青』は通信を途切れさせた。

 それから改めてエリクに顔を向けた皇后クレアは、頭を下げながら感謝を伝える。

「ありがとうございます、エリク様」

「いや、後は『やつ』の情報次第だ。まだ解決するかは分からない」

「それでも、僅かながらに希望が見えました。これも、貴方のおかげです」

「俺も最初は、『やつ』を危険な敵だと思っていた。だが今までの事を通じて、話せば分かる男だと思えた。……何か困った事があれば、『やつ』に相談すればいい。アリアの師匠だけあって、色々と知っている」

「……確かにまだ、私達には『かれ』に対する偏見があるようです。……この機会に、それを改められればと思います」

「そうだな」

 エリクは自身の経験を踏まえた上で、そうした意見を向ける。
 それを聞き受け入れる様子を見せるクレアは納得し、自国だけでは解決できない事態に対して他国の有力者に相談するという方法も可能なのだと理解した。

 するとその会話を聞きながら壁際に立っていたマギルスは、エリクに問い掛ける。

「おじさん、今日は泊まってくの?」 

「……ああ、そうだな。そういう話になるか」

「じゃ、僕の部屋で寝なよ! 寝台ベット、二つあるし!」

「そうか。……それで、いいだろうか?」

 明日の報告を聞く為に泊まる事になったエリクに、マギルスは自身が提供されている部屋へ来るよう告げる。
 それに対して本邸の主であるセルジアスに問い掛けを向けると、頷きながら答えた。

「勿論です。その間に私の方でも、ガゼル伯爵家からの御連絡を御伝えさせて頂きます」

「分かった」

「じゃあさ、久し振りに遊ぼう! 今のおじさん、どれぐらい強いのか見たいし!」

「……壊れないか?」

「じゃあ、広い場所でやろうよ! それとも、都市ここの外でやる?」

「――……その話、俺も混ぜてください」

「!」

「!?」

 エリクとマギルスが再び模擬戦あそびを行おうと話す中、その部屋の扉を開ける音と共にその声が響く。
 すると全員が扉側に目を向けると、そこには長い赤髪を後ろに纏めた青年、帝国皇子ユグナリスが訪れていた。

 そしてユグナリスの青い眼光は鋭くエリクに向けられながら、改めて声を向ける。

「俺と一度だけ、立ち合って欲しい。傭兵エリク」

「ユグナリスッ!?」

「あなた、何を……!!」

「ローゼン公、それに母上も止めないでくれ。……俺は、貴方と全力で戦ってみたい」

「……何故だ?」

「どうしてログウェルが、貴方と最後に戦いたいと思ったのか。それを知りたいからです」

「!」

「ログウェルの復讐をしたいとか、そんな考えで戦うつもりは無い。……ただ、俺と貴方で何が違ったのか。それを知りたいんだ」

「……」

「お願いします。……俺が前に進む為には、どうしても必要な事なんだ……!」

 頭を下げながら頼むユグナリスに、セルジアスやクレアは動揺した面持ちを浮かべながら止めようとする。
 しかしエリクだけはその様子と言葉の意味を汲み取り、少し瞼を閉じて考えてから答えを発した。

「……いいだろう」

「!」

都市まちの外で戦おう。……マギルス、一緒に来るか?」

「うん!」

「エ、エリク殿……!」

「奴は本気だ。それにコレが、奴から聖紋が離れない理由なのかもしれない。……だったら、スッキリさせた方がいい」

「!」

 そう言いながら話すエリクは、クレアやセルジアスを諭しながら部屋の外へ出て行く。
 マギルスやユグナリスもそれを追うように歩き、部屋からも屋敷からも出て行った。

 それから三人は都市の郊外へ走り出ると、誰の気配も無い平原に赴く。
 すると青馬ファロスに乗って見るマギルスは、二人の間に立つような位置で声を向けた。

「――……じゃあ、僕が審判やるね。僕がヤバそうだなって思ったら止めるから、その時に負けてた方が負けてね! それでいい?」

「ああ、それでいい」

「……っ」

 エリクはそう言いながら背負う黒い大剣を右手で持ち、自然体のまま構えぬ様子を見せる。
 逆にユグナリスは『生命の火』から自身の聖剣けんを生み出し、そのまま構えを見せた。

 その右手には『赤』の聖紋が輝き、『生命の火』に呼応した波動ちからを放っている。
 それを感じ取るエリクは油断しない表情を浮かべると、そんな二人に対してマギルスが声を向けた。

「じゃ、行くよー。――……はじめっ!!」

「ッ!!」

「!」

 開始の合図を放ったマギルスの右腕が振り下ろされた瞬間、『生命の火』を纏わせたユグナリスが凄まじい速さで迫る。
 それを見たエリクは冷静に迎撃し、互いの剣が重なりながら火花を散らした。
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