虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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終章:エピローグ

愛の意味

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 『闇』の属性魔法を扱うのに長けた元【特級】傭兵ドルフからその教えを受けようとするエリクは、彼が赴いたというガルミッシュ帝国領の南方に広がる樹海へ向かう。
 そこはかつてアリアと訪れた樹海ばしょであり、そこに棲む部族であるパール達と出会った思い出の場所だった。

 そんなエリクに同行する事となったのは、休暇を取らされ政務から一時的に外れたローゼン公セルジアス。
 彼等は馬車と幾人かの護衛を引き連れてローゼン公爵領を南下し、四日ほどの道程を経て南方領みなみを治めるガゼル伯爵領地へ訪れた。

 そうした道中、セルジアスはエリクと二人で会話を行う機会に恵まれる。
 その話題は彼等と共通する人物達の話であり、主にセルジアスにとっては問題児の妹アルトリアに関する話だった。

「――……なるほど。貴方と妹は、そうした経緯で出会ったのですね。初めて知りました」

「そうか。……俺はその時に、アリアに会わなかったら。何をすべきか分からずあの森の中に隠れて、そして何もせず死んでいたかもしれない」

「だから、妹に恩義を感じておられるのですか?」

「……恩義とは、違うかもしれない。……最初にアリアと会った時。俺はそこまで、アリアのことを信じていなかったと思う」

「そうなのですか?」

「ただ俺は、自分があの状況で何をすべきなのか分からなかった。そこに、やるべき事アリアが現れた。多分、それだけで付いていったんだ」

「……」

「俺はずっと、誰かに言われた事しか出来なかったからな。自分がしたいと思えることも無く、ただ戦うことで生きる傭兵が生業となった」

「……望むべくもなく、傭兵になるしかなかったのですね」

「そうだな。……だがアリアは、そんな俺に傭兵それ以外の景色せかいを見せてくれた。一緒に旅をして、色んな国へ行って。そこで生きる者達と会って。……そして生きていく中では、自分で考え悩むということも必要だとアリアは教えてくれた」

「なるほど。貴方にそうして接していく内に、妹も自分を変えられたのでしょうね」

「……アリアは、そんなに変わっていないと思うが?」

「そう思われますか?」

「よく人を騙すし、約束してもいつも破る。それに、自分で何でも解決しようとする。そしていつも、自分の周りに居る者達を気に掛ける。そういうところは、何も変わらない」

「そこですよ、私が変わったと言っているのは」

「え?」

「私の知る妹は誰かを気に掛けるような言動を、令嬢然れいじょうぜんと演じていた社交的な場以外ではあまり見せた事がありません。内情はそう思っていても、決して優しい部分そうしたところを見せようとはしなかった」

「……そうなのか?」

「ええ。そんな妹が貴方や仲間達の前ではそうした姿を見せていたのだとしたら、それは妹自身も自分の言動を改めようと努力していたのでしょう。貴方達の為に」

「……確かに、そうなのかもしれないな」

 セルジアスとエリクは互いに自分の知る女性アルトリアの話をし、そうした内情を吐露させる。
 そうして共通の人物を話題にしながら打ち解けるような会話をする中で、セルジアスは公爵としてではなく彼女アルトリアの兄として質問を向けた。

「一つ、質問をしても?」

「なんだ?」

「貴方は、アルトリアの事をどう思っていらっしゃるのですか?」

「!」

「マギルス殿や他の方達から話を聞く限り、貴方と妹はただ旅の同行者、そして仲間以上の関係を築いているのだと思えます。……なので、実際に貴方に御伺いしてみたかった。貴方にとって、今のアルトリアをどのように思っているのかを」

「どのように……」

「こう言えばいいでしょうか。――……貴方は妹を、アルトリアを愛していらっしゃるのですか?」

「……」

 真剣な表情で問い掛けるセルジアスに、エリクは僅かに思考を巡らせる。
 すると視線を横へ流しながら、馬車の窓越しに見える景色を見ながら口を開いた。

「……好きと愛は、どう意味が違うんだ?」

「え?」

「俺はその、二つの違いがよく分からない。……俺は、アリアが大事だ。だからアリアが傷付いたり、死んで欲しくない。そうなるんじゃないかと思うと、苦しい感じがする」

「……!」

「だが俺がそう言うと、アリアも苦しそうな顔ばかりする。そして逆に、俺にそうするなと言う。だからきっと、アリアも俺を大事に思ってくれているんだと分かる」

「……」

「俺はその感情おもいこそが、『好き』という意味と思っていた。……だが『愛』という言葉の意味が、よく分からない」

「愛の意味、ですか?」

「ああ。……俺は多分、幾つも『愛』という感情を持った者達を見て来た。……だがその全員が『』の為に自分自身すら望まぬことを行い、愛する者も、自分自身も、何もかも失う道に進み続けていた」

「!!」

「『愛』の果てには、様々な結末がある。そして俺自身、その結末の悲しみひとつを体験した。……だから俺は、アリアへの感情おもいを……『それ』にしたくない」

「……」

「それに、多分。俺が『愛してるそうだ』と言ったら、アリアは俺の前から消えてしまうだろう」

「え……」

「多分、アリアも同じだ。俺と同じように、『』の先に在るモノを何度も見て来たから。……だから俺達は、今のままで居たいと思っている」

「……そうですか。……そうですね。確かに、『』の先に在るモノは……幸福だけではありませんからね」

 この時のエリクは、仲間達にすら明かしていないアリアへの感情おもいを兄セルジアスだけに明かす。
 それを聞いたセルジアスは驚きながらも言葉の意味を理解し、改めて目の前に居る傭兵エリク遠く離れた妹アルトリアが想像し難い過酷な旅をして来た事を理解した。

 そうして言葉を止めたセルジアスに、エリクは視線を戻しながら言葉を向ける。

「だがそれは、俺達が臆病なだけなのかもしれない」

「!」

「俺達は『それ』を抱えた者達の果てを何度も見たが、その途中も何度も見て来た」

「途中……?」

「『それ』の為に戦える者達。そして、『それ』に支えられて笑顔になれた者達」

「!」

「俺はそういう者達も、何度も見て来た。……だから『それ』を得て幸せそうな者達の姿は、とても眩しく見えた事もある」

「……エリク殿……」

「俺達は『それ』で得られる幸福よりも、『』の果てにあるモノが怖いんだ。……それを乗り越えられる日が来たら。俺達の感情おもいも、変われるのかもしれない」

 エリクは自分自身とその中に在る感情おもいをそう述べると、セルジアスは僅かに口元を微笑ませる。
 そして頷きながらその答えに納得し、自身の意見も伝えた。

「……もし、貴方達がそれを乗り越えられる時が来たら。私はそれを、快く祝福しましょう」

「祝福?」

「妹にとっては不甲斐ない兄でしょうが、私にとっては唯一の家族とも呼べる妹です。……改めて貴方には、妹の事を御願いします」

「……そうか。……分かった」

 それから馬車の中で幾度か会話をした二人は、力量差など関係なく互いに認め合う間柄を築く。
 様々な形でアルトリアと関わって来たセルジアスだったが、それが初めて他者に見せた『兄』としての言葉でもあった。

 こうして数日間の道中を経て信頼を強めた二人を乗せた馬車は、ガゼル伯爵領地の中心地である都市へ到着する。
 それからガゼル伯フリューゲルに都市へ迎えられると、伯爵本人フリューゲルを案内役として護衛となる領兵達を数十人ほど伴い、南方に広がる樹海へと赴く事となった。
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