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終章:エピローグ
選別の戦い
しおりを挟む妖狐族クビアが治める帝国領東部へ赴いたマギルスは、そこで転移用の魔符術が織り込まれた紙札を受け取る。
それを使い自らを転移させ、ある場所に辿り着いていた。
「――……ここに来てるのかな? お姉さん達」
『ブルルッ』
「あれ、この感じ――……こっちかな?」
マギルスはある大陸の森林地帯へ飛ばされ、周囲を見回しながら合流しようとしている仲間達を探す。
そして近くから気配を感じ取り、そちらの方へ走り跳びながら向かい始めた。
すると森林を駆け抜けた先で、マギルスはある光景を目にする。
それは地面が幾多も吹き飛び土煙が立ち込める中、人影が幾多も見えた。
それを見たマギルスは、驚く様子を見せながら声を上げる。
「……あれっ、シルエスカお姉さん? ……それに、誰だっけ? 侍の人?」
「――……むっ!?」
「マギルスか……!」
土煙の中に見えた人影を見て、マギルスは覚えのある人物達に声を向ける。
そこには長い赤髪を纏め赤い二本の槍を構えるシルエスカと、長刀を抜いている武玄の姿が在った。
しかもその二人は誰かと対峙するように身構え、土煙の中央へ視線を向けている。
それにマギルスも注目すると、土煙を払うように現れた人物の様相を見て驚きを浮かべた。
「……あっ、アリアお姉さんの母親!」
「――……おー、来たね。首無族の少年」
二人と対峙するように立っているのは、銀髪赤瞳の姿を隠していないメディア。
それと対峙している二人の光景を見ながら、改めてマギルスは不思議そうに問い掛けた。
「ねぇ、これどういうこと? なんで僕達の集合場所に居るわけ?」
「それは――……」
「あぁ、ちょっと選別してただけだよ」
「!」
問い掛けに答えようとしたシルエスカを遮るように、メディアはそうした理由を聞かせる。
マギルスはその言葉の意味を理解し損ね、首を傾げながらメディアに対して再び問い掛けた。
「せんべつ?」
「この二人、ケイルちゃんと一緒にアズマ国から来たんだけどね。一緒に魔大陸に行くって言うから、私がその資格を持ってるか調べてあげてるのさ」
「えっ、二人も来るの?」
「……同行しようとしたのは事実だが。コイツがいきなりそう言って、我々を襲って来たんだ……っ!!」
「ぬぅ……っ」
メディアの言葉に対して、シルエスカや武玄は苦々しい表情を浮かべて肯定する。
既に二人はメディアと交戦状態にあったのか、身に着けていた衣服が幾らか擦り切れている様子が見えた。
そんな二人に対して、この行動を『選別』と称するメディアが無慈悲な言葉を向ける。
「それで、うん。君達、不合格だね」
「!?」
「君達の実力程度だと、魔大陸の入り口で死んでもおかしくないよ。いや、むしろ同行者としても邪魔でしかない」
「クッ!!」
「ぬかすなっ!!」
メディアの言葉を聞いた二人は表情を激化させ、違いに武器を向け飛び出す。
そしてシルエスカは瞬時に二本の魔槍に一本に合わせながら『生命の火』を纏わせ、凄まじい踏み込みと速度でメディアに赤槍を全力で放った。
対する武玄も自身の自身の最大火力の生命力を込めた斬撃の奥義、『龍一閃』を放ち向ける。
互いに以前と比べ物にならない程の威力と速度で放った一撃に対して、メディアはそれを両手で軽く受け止めながら無力化した。
「!?」
「な……っ」
「……はい、返すね」
「ッ!?」
無傷で二人の必殺技を受け止めたメディアは、掴み止めた赤槍をシルエスカに投げ返す。
その無造作な投げは『生命の火』こそ纏っていなかったが、シルエスカの投擲速度は遥かに凌駕しながらその顔の真横を通り抜けた。
その先に在る幾多の木々や岩を貫通しながら、数百メートル先で赤槍は岩肌に突き刺さって止まる。
受け止めるどころか反応や回避すら出来なかったシルエスカは戦々恐々とした面持ちを浮かべ、目の前の相手が常軌を逸した存在である事を改めて自覚させられた。
「……これが、メディアか……ッ」
「そう、そういうとこ。この程度で驚いてるようじゃ、魔大陸では生きていけないよ? なんせ私も、最初に魔大陸へ行った時はヤバイのと遭遇して何十回か殺されたからね」
「!?」
「分かるかい? 魔大陸はね、今の私でも命の貯蔵が無いとあっさり食い殺される場所なんだよ。そんな私にすら一発も入れられない君達が、向こうに行って何かの役に立つのかい?」
「……ッ」
「邪魔にしかならないよね、純粋に足手纏いなのさ。……だからアルトリアは、私に選別の役目を任せてくれてるんだよ」
「!!」
「なに……!?」
「君達が魔大陸に入るのは、十年は早い。今回は大人しくして、もっと修業してから自分の足で魔大陸に行きなさい」
「……クソッ!!」
「……ぬぅ」
諭すように微笑んで告げるメディアの言葉に、シルエスカも武玄も自身の実力が魔大陸では通じない事を改めて実感させられる。
幾多の戦いを経て以前とは比べ物にならない程の修練を積んでいるはずの二人だったが、その自信を砕くメディアとの圧倒的な力量差と言葉に嘘が無い事を感じ取ってしまった。
そうして二人は構えを解き、武玄は左腰に携える鞘に長刀を戻す。
するとそれを見ていたマギルスは、別方角を見ながらメディアに問い掛けた。
「……ふーん。その選別って、ケイルお姉さんもやったの?」
「そうだよ。でも彼女は合格だった、見事に私の首を斬り落としたからね。いつかの再戦を成功させてたよ」
「へぇ。強くなったんだね、ケイルお姉さん。……で、僕も選別をしなきゃダメな感じ?」
「そういうこと。私に一発でも攻撃を入れられたら、報酬としてアルトリアが居る場所へ転移してあげるよ」
「つまりここは、アリアお姉さんが用意した魔大陸行きの試験会場ってことかな。……ちなみに、エリクおじさんとアリアお姉さんは?」
「エリク君は申し分無し。アルトリアも権能は失ってるけど、それを補うくらいの武装は用意してたから。まぁ、油断さえしなきゃ大丈夫じゃないかな」
「そっか。――……あの三人が合格なら、僕も合格しなきゃねっ!!」
そう言い放つマギルスは、自身の青い魔力と白い生命力を混ぜ合わせながら身体に纏わせる。
そして精神武装の上位互換である精命武装を鎧状にしながら全身に身に着け、自身の大鎌を大剣へ変化させた。
それを見たメディアは感心するような表情を浮かべ、微笑むような声を向ける。
「凄い凄い。君、もしかして首無騎士王の一族だったりする?」
「ロードナイト? なにそれ?」
「首無族の到達者、その一族のことさ」
「!」
「ただ首無騎士王自身は、私の母さんが第一次人魔大戦の後に戦って殺してるんだけどね。だから母さんと姿が似てる私って、首無族達からは凄い嫌悪されたみたい。それを知らずに、追い掛け回された事もあるよ」
「……魔大陸に居るの? 僕と同じ首無族が」
「そりゃいるよ。みんな、君と同じ格好をしてたよ」
「へぇ、そうなんだ。――……じゃあ、僕が同族に代わって首を取ってあげるよっ!!」
「おぉっと!」
同族の話を聞いたマギルスはやる気を漲らせ、踏み込みと同時に青い閃光となってメディアに大剣の刃を迫らせる。
それをメディアは見切り、上体を仰け反らせながら首を切断しようとした大剣の刃を回避した。
しかしすぐに両手首を返して大剣の刃を縦にしたマギルスは、そのままメディアの首を斬り落とそうとする。
すると今度はメディアが左手を前へ出し、目の前に迫る大剣の刃を掴み止めた。
「!」
「残念、斬れませんでした――……っと!?」
大剣を掴み止め余裕を見せようとしたメディアに対して、マギルスはその死角を狙うように自身の跳ね上げた脚撃を相手の背中に食らわせようとする。
しかし大剣を押し退けながら身を捻って脚撃を回避したメディアは、マギルスの顔面へ凄まじい速さの右拳を放った。
すると次の瞬間、青い兜を被るマギルスの頭部が散るように吹き飛ぶ。
それに対して外野となっていたシルエスカは、驚愕を浮かべながら叫んだ。
「マギルス――……!?」
マギルスの頭部が砕け散ったと思ったシルエスカだったが、凝視して見た光景に再び唖然とした様子を浮かべる。
砕け散ったのはマギルスの纏っていた精命武装の青い兜だけであり、マギルス自身の頭部は無事だったのだ。
間一髪で兜を身代わりに殴打を回避したマギルスに、メディアは崩れた姿勢のまま称賛を向ける。
「やるねぇ」
「まだまだぁっ!!」
「おっと」
余裕を残すメディアに対して、マギルスは大剣に青い魔力を込め始める。
そして振り抜かずに直接、大剣の魔力斬撃をメディアに当てようとした。
それを察知したメディアは崩れた姿勢のまま片足だけで即座に飛び避け、空中に浮遊する。
しかしマギルスはその行動を読み切ったのか、魔力斬撃として溜めた魔力をそのまま自身の両足に纏わせながら凄まじい加速で飛翔した。
「おぉ!」
「もら――……たぁっ!!」
追撃しながら迫る青い閃光に、メディアは感心した表情と声を再び向ける。
そしてついに振り下ろされたマギルスの大剣が、防御した相手の左腕を切り飛ばした。
ニヤけた表情を浮かべるマギルスはそのまま着地し、纏わせていた精命武装を解いて大剣を大鎌に戻す。
そして斬り飛ばされた左腕を右腕で掴み取ったメディアは、そのまま切断された左腕を癒着させ地面へ着地しながら振り返って告げた。
「――……うん、君も合格だ」
「わーい! ねぇねぇ、魔大陸の同族とどっちが強いかな?」
「うーん、まだ魔大陸の方じゃない? 君の場合、能力は強いけど地力はそこまでじゃないでしょ」
「えー、そうなの?」
「でも、まだ伸び代はあるみたいだし。魔大陸に行けば嫌でも強くなるよ、頑張りなさい」
「はーい!」
マギルスの実力についてそう述べると、メディアは魔大陸行きに同行する事を認める。
すると完全に左腕を繋ぎ戻した後、二人は歩み寄りながら近付いた。
そしてメディアは右手をマギルスの肩に付け、そのまま別の場所に転移させる。
シルエスカや武玄はそれを見ながら、改めて幾多の激戦を乗り越えて来た彼等一行の実力が人間大陸の中でも突出している事を理解した。
そんな二人に、メディアは再び微笑みながら声を向ける。
「どうする? まだ出発まで時間もあるし。挑戦すらなら、まだやってあげてもいいけど」
「……いや、いい」
「修練を、し直そう……」
「そう、良かった。……まぁ、人間大陸にも少しは戦力を残しておいた方がいいだろうし。君達は君達で、人間大陸でやることがあるかもね」
「……何の事だ?」
「こっちの話。――……じゃ、アズマ国でいいかな? 送り返しとくよ」
「!」
魔大陸への同行を諦めた二人の意思を確認し、メディアはそう述べる。
すると二人に対して両腕を向け、そのまま離れた位置から相手を転移させた。
触れもせず転移させられた二人は、その場から姿を消す。
すると一人だけ残ったメディアは、腕を組みながら呟きを浮かべた。
「さて、アルトリアが誘ったのは彼等で終わりかな。そろそろ私も行って――……あら、もう一人来た」
選別を終えようとするメディアだったが、不意に別方角に現れた気配を感じ取る。
そちらに視線を向けると、少し時間が経ってから一人の人物が姿を見せた。
それに対してメディアは微笑み、声を向ける。
「やぁ、君も来たんだね」
「――……フンッ」
その場に現れた人物に、メディアは親し気に声を掛ける。
それに対して鋭い眼光を向けるその人物は、最後の選別を始めたのだった。
応援ありがとうございます!
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