虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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終章:エピローグ

憧憬の今を

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 魔大陸へ行く為に仲間達との合流場所に訪れたマギルスは、そこで同行者の選別を行うメディアと対峙する。
 かつてアルトリアを完封しケイルすら一蹴して見せたメディアと一戦を交えると、マギルスは相手の右腕を切り飛ばす程の実力を見せた。

 それによって合格者として認められたマギルスは、メディアの転移によって別の場所へ飛ばされる。
 するとその先で目にしたのは草の敷かれた平原であり、そこに立つ者達にマギルスは声を向けた。

「――……エリクおじさん! 久し振り!」

「……久し振りだな、マギルス」

「ケイルお姉さんも、久し振り!」

「よぉ」

 マギルスはそこで並び立つ、エリクとケイルに声を掛ける。
 二人は容姿的な変化こそ無いものの、エリクは無精髭が伸びた顔を見せ、ケイルは長く伸ばした赤髪を後ろで纏めている姿となっていた。

 そんな二人を見ながら笑って駆け寄るマギルスに、ケイルは問い掛ける。

「お前も、あの野郎メディアの選別を受けたのか?」

「うん、でも首は取れなかった。ケイルお姉さんは首を斬れたって言ってたけど、本当ホント?」

「ああ、でも首を落とす前に自分の首を掴んで繋ぎ直しやがった。……しかもありゃ、相当に加減してるな」

「あっ、やっぱり?」

「大方、御嬢様アリアの奴に釘を刺されてたんだろうよ。まったく、アイツもアイツでいつの間にあの野郎メディアと……」

 ケイルは不服そうな様子を浮かべながら、敵対していたはずのメディアがいつの間にかアルトリアに取り込まれていた事について疑問を呟く。
 それについて、エリクは平然とした様子で意見を口にした。

「アリアが隠し事をしているのは、いつもの事だ。母親メディアのことも、何か話せない理由があったんだろう」

「お前はそうやって、アイツアリアを甘やかし過ぎだ。アイツが来たら、少しは厳しく言えよ」

「それはお前ケイルに任せる。俺が言っても、誤魔化される」

「……お前なぁ」

 アルトリアに対して理解があるような意見を述べるエリクに、ケイルは更に不服そうな表情と声を向ける。
 そんな二人の会話を聞いていたマギルスは、首を傾げながら周囲を見て問い掛けた。

「あれ、アリアお姉さんはまだ来てないの?」

「ああ」

「そういえば、魔大陸むこうに行く方法ってどうやるのかな? 僕達が行ったみたいに、フォウル国がある山を登って越えていくの?」

「アタシやお前等はともかく、御嬢様アリアじゃ無理だろ」

「じゃあどうするんだろうね。エリクおじさん、何か知ってる?」

「……前に魔導国に寄ってアルトリアに会った時、何か作っていると言っていた。それで行くのかもしれない」

「何かって?」

「話だと、俺達も乗った飛行船のようなモノらしい」

「あー、また作ってるんだアレ。でも、アレで行けるのかな?」

「分からない。とりあえずは、アリアが来るまでは待つしかないという話になっていた」

「ふーん。アリアお姉さん、いつ来るのかな?」

「……集合は正午だから、もうちょいだろうな」

「そっか。じゃあ僕、ちょっと寝る!」

「ああ、そうしろ」

 魔大陸へ行く為の手段を聞いていない三人は、平原でアルトリアを待つ事になる。
 そしてマギルスは自身の抱える荷物を枕にしながら平原で横になり、数秒で寝息を立て始めた。

 青年に成長しながらも変わらぬ様子のマギルスに二人は呆れ顔の微笑みを浮かべると、ケイルはエリクに顔を向けながら話し始める。

「そういや、お前は今まで何やってんだ? 一年前まえは御嬢様の依頼で別行動だったから、碌に話せなかったしよ」

「……世界を見て回っていた」

「それは知ってるよ。見回りながら、何をやってたんだ? ……いや、何を考えてた?」

「……人間は、本当に滅びるべき存在なのか。それを考えていた」

「!?」

「俺は、【鬼神フォウル】と【始祖の魔王ジュリア】の話を聞いた。二人は人間の行動を憎悪し、一度は滅ぼそうとしたらしい。それが本当に正しかったのか、今の人間大陸を見て確認したかった」

「……で、どうだった?」

「人間は、確かに悪い面も多くある。一年前まえに見た非加盟国の在り方は、まさにそれだった。……きっと鬼神フォウル始祖の魔王ジュリアは、その人間の悪い部分を強く見たんだろう」

「……」

「それでも、人間にも良い部分はある。……いや、違うな。人間に限らず、どんな生物いきものも良い部分と悪い部分の二つの表情かおがあると思った」

「……へぇ」

「誰かにとって、それは良い部分にも見えるし、悪い部分にも見える。そうやって出来上がった世界が、今の姿になったんだろう。……結局、俺はそれが正しいのか間違っているか、分からなかった」

「……当たり前だろ。要するに世界ってのは、誰かの都合が良いような仕組みで作られて、誰かの都合が悪いような仕組みで作られる。それが当たり前なんだよ」

「そうなのか。……だとしたら、創造神オリジンは凄いな」

「え?」

創造神オリジンは、そういう仕組みの無い世界を作ろうとしたとアリアから聞いた。……人間も魔族も、そして魔獣も。へだたりの無い世界を天界エデンで作っていたらしい」

 エリクはそう話し、人間大陸を見て回った自身の感想を述べる。
 するとケイルはいつか見た創造神オリジンの記憶を思い出し、それに反論するような言葉を呟いた。

「……本当に、隔たりなんか無かったと思うか?」

「?」

「作った本人に隔たりが無いように見えても、小さな軋轢は必ずあったはずだ。単純に創造神オリジンの存在が軋轢それを抑え込んでいて、創造神それが居なくなった途端に人間も魔族も魔獣に敵対するような関係になったんじゃないか?」

「……そうか、そういう事もあるのか」

「そうだよ。……この世界は何が正しいとか間違ってるとか、そういうモンは無いんだ。……あるのはただ、その世界で生きるアタシ等の経験と、それで培われた思想かんがえだけだ」

「……」

「そうして出来上がったこの世界で生きてるアタシ等みたいな存在が、本当に滅びるべきかなんて誰かが正当化して決めるもんじゃねぇんだ。……そして正当化それを勝手に押し付けて来る奴こそ、本当の悪人なんだろうさ」

「……そうか。そうなのかも、しれないな」

 エリクはその言葉を聞き、自身の中に抱えた疑念の霧を僅かに晴らす。
 すると改めてケイルに顔を向けながら、口元を微笑ませた。

 それに気付くケイルは、珍しく自分に笑みを浮かべるエリクに動揺しながら問い掛ける。

「なっ、なんだよ?」

「やはり、ケイルが一緒に来てくれてよかった」

「!」

「俺が考えられない事を、お前は考えて言ってくれる。きっと俺だけで考えて行動したら、お前の言う『本当の悪人』になっていたかもしれない」

「……別にアタシが言わなくても、お前は大丈夫だろ」

「いや。お前が傍に居てくれたから、俺は自分のやりたい事を出来た。……ありがとう、ケイル」

「や、止めろよ。なんだよ、らしくない……」

 改めるように感謝を伝えられるケイルは、顔を背けながら別方向を見る。
 するとエリクも視線を移しながら正面を向き、そのまま言葉を続けた。

「聞いていいか?」

「……なんだよ」

「どうして、俺を好きになったんだ?」

「……えっ、ハァッ!?」

「俺は、お前に好かれるようなことをした覚えが無い。だから、その理由を聞きたかった」

「理由って、お前……」

 唐突な質問に困惑を強めるケイルだったが、エリクの真剣な横顔を見てそれに茶化す意図が無いことを察する。
 すると小さな溜め息を吐き出した後、その理由を明かした。

「……最初は、何を考えてるか分かんない野郎だなって思ったよ。……でもお前には、あの時の私に無いモノがあるように見えたんだ」

「無いモノ?」

「何者にも揺るがされない、真っ直ぐな意思。……あの頃のアタシには、それが無かった」

「……そうは、思えないが」

「あったんだよ、そういう時期が。たから最初は、お前のそういうところに憧れたんだ。……それがどんどんと強くなって、好意それになっちまった」

「……」

「で、そんなお前が御嬢様アリアほだされてるのを見て、府抜けにされちまったんだと思った。だからアリアの奴が嫌いになったし、元のお前に戻って欲しくてお前等を引き離そうとした。……でも、途中でそれは違ったんだと気付いた」

「違った?」

「お前に抱いてた憧れは、アタシが勝手に作り出してお前に押し付けてた理想だったんだ。アタシと同じように、お前も何かがあれば動揺するし、怒りもすれば涙も流せる人間だった。……それに気付いて、ようやくアタシは自分自身を見つめ直せたし、憧れなんかじゃないお前自身を見れてやれるようになった」

「……なら、今はもう……俺に向ける好意ものも無くなったのか?」

「……それが出来たら、アタシはここに来てねぇよ」

「!」

「それにあの御嬢様アリアが嫌いなのも、何も変わってねぇ。……ただアイツの頭と実力は認めてるし、お前がその相棒パートナーで居続けるのも文句は無いってだけだ」

「……そうか」

 改めてエリクに抱く好意おもいとアルトリアに対する心情こころを、ケイルに淀みなく明かす。
 それを聞き納得するように頷くエリクは、ある話を明かした。

「……何年か前に、リックハルトの船に乗った」

「ん?」

「その時に、若い船員に会った。……その船員は、俺達がマシラに行く時に戦ったログウェルとの戦いも見ていた、少年の船員だった」

「……!」

少年まえの時も、そして天界の時もログウェルと俺が戦う姿を見て、その船員は俺に憧れると言った。……俺はその時も、少年まえの時と同じことを言った」

「同じこと……?」

「お前はお前になれ、そう言った。……それで船に乗っている間、少し話をした。そして俺は、俺に憧れる理由を聞いた」

「……なんて言ってた?」

「『自分がなれない者だから憧れる』。そう言っていた。……それを聞いて初めて、俺も憧れという感情モノを理解して、共感した」

「共感?」

「俺は王国を出て、アリアに会ってから初めて自分の知らない世界を知りたいと思った。……それは俺が、アリアの姿に憧れを抱いたからだ」

「!」

「俺が知らない事を、そして出来ない事をするアリアに憧れたんだ。……俺にとって、アリアの姿は憧れだった」

「……だったってことは、今は違うんだな?」

「そうだな。……別未来で人間を滅ぼそうとしていたアリアに、俺は『俺の知るアリア』ではないと否定してしまった。きっと俺も、アリアに『理想のアリア』を押し付けていたんだ。……今のアリアもそれに気付いているから、俺の前では『理想それ』を演じていたんだろう」

「……お前、ちゃんと気付いてたのか」

「ああ。……だから一年前に話した時、もうしなくていいと言った」

「!」

「もう、俺の為に『理想アリア』にならなくていい。そう伝えた。……それ以来、アリアとは話せていない」

「……そうか。……お前がそれで良いと思えたなら、それでいいんじゃないか。……まぁ、それでアイツが変わるかどうかは別の話だろうけどな」

「そうだな」

 二人はそうして話を交わし、時が流れるのを待つ。
 そうして十数分が経つと、彼等の周囲に一つの気配が増えた。

 それに気付いたエリクとケイルは振り返り、そこに現れた気配の人物を見る。
 すると二人は驚愕の表情を浮かべ、ケイルはその人物の名を口にした。

「……エアハルト……!?」

「――……ケイティル……」

「……」

 その場に現れたのは、銀色の髪と鍛え抜かれた上半身を露にしている男。
 かつてマシラ共和国に一行が赴いたケイルを殺そうとし、エリクに討たれて左腕を失った狼獣族の魔人、エアハルトだった。
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