腹黒薬師は復讐するために生きている

怜來

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過去

過去ー②

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「いつものようにあの子は外に遊びに行ったわ。けれど、途中から大雨降ってきちゃって。私はカナリヤの帰りを待ってたんだけど。全然帰ってこなくてね。心配になって外に探しに行こうと思ったらあの子帰ってきたの。ビショビショに濡れたまま俯いて。その日からだったわ。あの子が笑わなくなったの。私も必死に笑ってもらおうと頑張ったけど一切笑わなかった。遂には急にどこかへ行ってしまったの」

どんどん声が小さくなっていく。シャリングは無言で話を聞いている。

「一週間経っても帰ってこなくて、近所の人も一緒になって探してくれたわ。けれどあの子は見つからなかった。だけどある日、急にあの子は帰ってきた。驚いたわ。急に消えて急に帰ってきた。何があったのか聞こうと思ったけどなんか聞いちゃいけない気がして聞かなかった。その日からいつも通りにあの子は毎日毎日絶やすことなく笑顔だったわ。ほんと、何があったのかね」

(一週間も家で…?カナリヤはどこにいたんだ?それに大雨の日からカナリヤは笑わなくなった。けど一週間経ったら笑いだした…この一週間に何があったんだ)

聞けば聞くほど深くなる疑問。

「まあ、今が楽しそうでよかったわ」

「あったあった」

カナリヤが大きな音を立てながら階段を降りてきた。

シャリングはビクッとし、何もなかったように振舞った。

「あ、そのクッキー食べたかったやつ」

一粒食べて美味し~と言いながらバクバク食べていった。本当に喜んでいるようだ。

カナリヤは本当に喜んでいる時とそこまで喜んでいない時の差はほとんど分からない。だから、最初の方は戸惑った。

だけど、一緒にいるうちに何となくわかってきた。今回は本当に喜んでいる様子だった。

「お義母さん。お義父さんは?」

「山菜採りに行ってるわよ」

「そう、せっかく久しぶり会えると思ったんだけどな。残念」

「もう行っちゃうの?」

「いいや、もう少しいようかな。だけど寄るところあるから早く帰らなきゃ」

カナリヤの母親は悲しそうにしている。

「あとこれ、作ってきたんだ。良かったら飲んで。体にいいから」

バッグから袋を出した。開けてみるとたくさんの瓶がある。その中には液体や粒の薬が入っている。

「まあ、ありがとう。お父さんも喜ぶわ」

「具合は大丈夫そうなの?」

「ええ、カナリヤの薬飲んでからだいぶ良くなったわ」

「そう、良かった」

それからは世間話をしたり城のことを話したりしていた。シャリングはその間は親子の邪魔をしないよう黙って聞いてた。

カナリヤは母親に城のことを話しているが半分が本当のことで半分がほとんど嘘だった。

(母親にまで嘘をつくのか)

シャリングは嘘とわかっていても黙って何も言わなかった。

「あ、そろそろ時間だ。行かなきゃ」

「あら、そう。早いわね。あ、じゃあ待ってて」

カナリヤの母親は棚から色々と取りだしなにか詰めていた。

「はい、これ。クッキーよ。お腹すいたら食べな」

「ありがとう!」

「それじゃあね。またいつでも来ていいからね」

「うん。じゃあね」

カナリヤは母親に手を振って家を後にした。
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