男と猫

男と雨

　或る所に一人の男がいた。

　男は生まれつき盲目だった。 それ故、外に出た事が無かった男は外の世界に憧れを持っていた。

「ねぇ、外には何があるの？」

　男は母に聞いた。

「外は危ないし、家の中と違って何も楽しい事は無い。 変な事を考えるのはおよしなさい」

　男の母はそう言った。 だが、男は知っていた。 外の世界はこことは違うという事を。

　男はどうしても外の世界が気になり、或る日鍵を掛け忘れた母の隙を狙い外に出た。 外は雨が降っていた。
　男はなぜ蛇口を捻らなくても水に触れられているのか不思議で仕方なかった。
　そして男は地べたに寝っ転がり、大の字に身体を広げた。

「外というのは実に素晴らしい。 お母さんの言っていた外とはまるで違う」

「君は外に出た事は無いの？」

　ふと誰かの声がして聞き返した。

「あなたは誰？」

「私はあなたのお母さんよ」

「そんな訳が無い、僕のお母さんはあなたじゃない」

　男は母以外と話すことが無かったため、声の主が母親では無いことはすぐに分かった。

「可哀想な子。 君はずっとここに閉じ込められていたんだね」

　言葉の意図を読み取れず混乱していると、母と名乗る女はそっと抱擁ほうようした。 男にとってそれは初めての事だった。

「君目を盗られたんだね。 それに両手も」









　男と母親は実の親子ではなく、母親と名乗る女の子供であった事が後に分かった。
　男はアルビノで、人身売買によって偽の母親に売り渡されたものだったのだ。


　カネの為に息子を手放した母親と、それを買い取った母親。 男はどちらの元で生活するのが幸せだったのだろうか。