魔法を使えぬ魔法騎士〜家族を失った俺は復讐と旅をする〜

晴行

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Gドラゴン討伐

人質

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 銘は月光。
 魔力を通さぬその刃は、この世界の法則にのっとれば最弱。
 だが、ドラゴンの理屈に照らし合わせれば、その攻撃方法は『ありえない』ものであった。

「ぜあっ!!!!」

「!?!?!?!?!?!?」

 抜き身一閃。
 余裕ぶった態度をしていたレボは、驚愕を顔に張り付けて固まった。

「……は!?」

 俺には魔力が無い。
 厳密には魔力を体外に放出する方法を持っていないと言うべきか。
 魔法騎士たちが剣に魔力を乗せて攻撃するのに対し、俺の剣閃は単純な斬撃だ。
 だが、魔力の放出が全くのゼロというわけではないみたいで、微弱な魔力の漏出はあるみたいだ。
 完全に魔力の漏洩を抑える剣、それが月光。

 月の光のように鋭く、冷たくレボの半身を切り裂く。


「ぎゃああぁぁぁぁっ!?!? なんで!?」

 傷がつく?
 そう言いたいのかレボ。
 龍の最大の強み、自己再生能力。
 これらは魔力の攻撃を感知し、いわば受けた破壊の逆再生をしているにすぎない。
 魔力の全く乗らない攻撃を受けた場合。
 再生能力に狂いが生じ、ダメージは最大化される。
 ただの剣閃が、レボにとっては最凶の攻撃になるのだ。

「せやぁぁぁあっ!!」

 俺は魔法が使えない。
 魔力が体内に留まる分、身体能力は人より高い。
 ただそれだけの男だ。
 魔法騎士団にて最強と謳われるようになったのは、単純に修行の積み重ねによるもの。
 努力。
 支えてくれた家族。
 それが今の俺を作り上げているにすぎない。

「ぎゃあっ!? 治らない!?!? ちょっ、ちょっと待て!! 待ってくれえ」

 レボの利き腕である右腕を飛ばした。
 あとは回復不能なまでに切り刻む。
 こいつがどの程度ドラゴンの力を受けているか謎だが、このまま押し切ってやる。
 ありがとうイチモンジ。
 この瞬間をどれほど待っていたか。
 相手がなんの警戒もしておらず、こちらを舐めている状況で。
 イチモンジの月光は、魚をおろすようにレボを切り刻んでいく。
 部屋中を血で染め、レボの悲鳴で濡らしていく。

「やめ、やめてっ。やめてくれアルトっ!!」
「娘が、妻がそう言ったときやめたかよ?」

 血だらけになり命ごいするレボ。
 生命力が高くなっているのか、普通ならば即死するような怪我でも立っている。

「僕が悪かった。いったん休憩しよう、ね?」
「黙れ外道が」

 このまま首を刎ねる。
 決着かと思われたとき、レボはまた不快で独特な薄ら笑いをしたのだった。
 なんだ?
 どこからこの余裕が出てくる?
 死にかけの体で、なにを笑っていやがるんだ。

「リリィの為にも、ここまでにしといた方がいいですよ」
「……何だと?」
「あれ、言いませんでしたっけ? ふふふっ。氷のリリィさん……とっても綺麗なお方ですよね」
「貴様。リリィに何をした?」
「そうですねえ」

 レボは息も絶え絶えといった形で、しりもちをついた体勢から立ち上がった。
 そうして手を鳴らすと、見覚えのある男がノックをし、部屋に入ってくる。

「王……!?」

 さすがに驚いた。
 うつろな顔をした王が、銀色のトレーの乗った大きな給仕台を押してくるではないか。
 明らかに生気を失い、操られているのは明白だ。
 王が運んできた大きな給仕台は覆いがなされてあり、とても不自然なつくりになっていた。

「久しぶりのご対面じゃあないですかアルトさん? ほら、あなたの相棒は大変美味しく仕上がっていますよ」

 レボがパチンと指を鳴らすと、操られた王は給仕係のように隠された覆いを取り払った。
 その意味を理解し終えるのに、時間は必要としなかった。

「アルト……にげ、て」


 鎖に繋がれたボロボロの姿のリリィ。
 美しく気丈で芯の強かった俺の副官が痛ましい姿で囚われていた。
 虐待によりところどころ破けた下着のままで、動物のように首輪をされている。
 なんてことだ。一体なにをされたんだリリィ?

「お初にお目にかかります。僕の愛玩ペットのリリィです。いい声で鳴くんですよ」
「アル、ト。はやく、にげ、かてない、この男」
「こらこら。ワンかにゃあとしか喋るなと言っただろう僕のリリィ。今からお前をアルトの目の前で食い散らかしてやる」
「アルトはやく、逃げて!!」

 リリィ。
 俺のせいで、レボのようなクズに痛めつけられたのか?
 すまない。本当にすまない。
 でも、もう逃げないよ。
 こいつを倒すまで、俺の闘いは終わらないんだ。
 俺はまっすぐとレボを睨みつけた。


「……人質のつもりか?」
「いえ。はっきりさせたくて。僕の方がアルトさん、あなたより優れているとあんたを好いている女の前でね」
「本当にクソだなお前……死ねよ」
「いいですね、いいですねえその表情。ふぅ。ようやくその不気味な剣の仕組みも理解出来ましたので。時間稼ぎももういらないですね。くびり殺して差し上げますよ」

 メキメキとレボの体が変形していく。
 金色の羽が背中から生え、レボは色々な法則を無視して巨大化していく。
 窓から飛び出した俺は、中庭にて奴を迎え撃つ。
 金色のドラゴン。
 レボと契約し、一体化したすべての元凶。

 レボはその力の全てを開放し、人の姿を捨てたらしい。
 思った通り醜い姿だ。虫唾が走るくらいには。


「やっと仇を討てるよ、シェリー、ルナ」


 唐突に思い出した妻の名と娘の名。
 これが何を意味するのか、今の俺には考える時間すらなかった。
 ただ目の前に存在する金色のゴミを排除してやる。
 そのためには死んでもいい。

 そうだよな、シェリー。ルナ。
 よかった、死ぬ前にもう一度君たちの名前を思い出せて。
 必ず奴を殺してみせるから。
 そうしたら、俺を、パパを許してくれるかな。
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