魔法を使えぬ魔法騎士〜家族を失った俺は復讐と旅をする〜

晴行

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Gドラゴン討伐

失ってはいけないもの

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 空が割れ、夜が降ってきた。
 王国の民は今日が最後の日なのだと皆で身を寄せ合う。
 あのときと同じだ。
 ドラゴンの襲撃。
 これから始まるのは、人類を餌となす金色のドラゴンによる殺戮なのだ。

「させるかよ」

 俺は、アルト=グリンデバルドは微笑んだ。
 そうだろう。今日が終わらせるときなんだ。
 周囲を見渡せる広場までやってきた。
 ここなら、奴がどこへ向かおうが追跡することができる。

『努力など、工夫など無駄ですよ人類。魔法ですら我らドラゴンによって与えられた結果に過ぎない。あなたたち人類は畑で育てられた供物にすぎない。抵抗はやめ、運命を受け入れなさい』

 レボはもはや自分が金色のドラゴン……Gドラゴンによって意識を乗っ取られたことすら理解できないだろう。
 愚かな男は、邪悪なドラゴンによって復活の依り代にされたのだ。
 恐ろしいほど低い声でさっきのように脅してきたので、俺はこう答えたんだ。

「うるせえウンコ色のヘビトンボが。人類に狩られるための存在が喋るな」
『……不愉快ですねぇ殺します!!』
「やってみろ害虫」
『サルが……相変わらず口だけは達者です。死ねえ!』

 キュォォォォォォン。
 急降下。
 そして、翼を広げた体当たりを繰り出してくる。
 空気を切り裂き、砲弾が射出されたかのような破裂音を伴い。
 金色の巨体は一瞬にして俺の目の前へと迫ってきた。

 ……好都合。
 
 空にいるのを落とすより、向かってきたのを落とすほうが楽だ。
 俺は月光を構え体勢を低くする、
 狙いは奴の翼の付け根だ。
 イチモンジの刀は、魔力による即時回復を当てにしているドラゴンにとっては特効。
 調子に乗っている所悪いが、このまま翼をぶった斬りにさせてもらう――――。


 !?




 ガッ。
 ズガァァァァァァァァァァァアアアアアアン!!!





 自分の体が宙に舞ったことに気づくのに、数秒間は必要とした。
 正確には空中に滞在したのは数秒も無かったので、俺は全身に走る衝撃でその事実に気が付いた。
 斬れなかった!?
 そして俺は吹っ飛ばされ、民家の壁を数枚破壊してがれきの中に横たわっていた。


「……ごほっ、がはっ」


 肺が潰れた。
 巨体による質量の攻撃は、確実に人体の組織を破壊に至らしめた。
 口の端から生暖かいものがつたう。
 腕で拭うと、どす黒い赤が拭った服の袖に広がった。
 呼吸をするたび、しゅうしゅうと変な音がする気がする。


『弱っわいですねぇぇぇぇぇえ!! さっきみたいに斬れると思ったんですか? 馬鹿ですねえぇぇぇぇえ!! 金と同じ硬度を誇る完全体となった僕の皮膚に、そんな雑魚金属で作成したなまくらが通用するとお思いですかぁ?』

 ……。
 肺がつぶれ、肋骨が何本か折れたか。
 こんなもんか。
 戦闘継続可能だ。
 俺は奴の言葉を無視し、立ち上がり、体についた埃を払う。

 さっきは失敗したな。
 刀が悪いんじゃない。
 俺の斬りこみが甘かった。
 
 こんなもんじゃねえだろ、アルト=、グリンデバルド。
 シェリーとルナの苦しみを思い出せ。
 倒れるな、立ち上がれよ早く。

 倒せ。
 奴を殺せ。
 目の前に敵がいるぞ。
 怨念を動力にして、動け俺の足。

「ちぇええええいっ!!」
『無駄ですねえ!!』
 
 渾身の一刀はかわされ、再び奴は空中に。
 目にもとまらぬ速さで夜空を舞い、こちらの攻撃をかく乱する。
 そうしている間にも俺の体力は奪われ続ける。
 まるで無限にある体力を自慢するかのように、奴は自由に飛行を続けた。



 ちっ。
 視界が霞む。
 終わりが近づいてくる。
 恐怖はないが、焦りはある。

 どうする、このままでは……。



 繰り返される同じ展開に、俺は朦朧と意識を保つのがやっとだ。
 戦闘が始まってからどれくらい経過したのだろう?
 幾たびか刃を交え、それでも奴の皮膚硬度を突破できずにいた。
 じわじわと削られる生身の身体は悲鳴をあげ、立っているのがやっとの状態だ。

 俺の剣撃は奴の体表にうっすらと傷をつけるだけで、肝心の中身に届かない。



 あと一撃するのが限界かもな。
 俺も、ずいぶんとヤキが回ったもんだ。



 はっきりいって、これ以上は疲れたよ。
 次の一撃にかける。
 死と引き換えによって放つ奥義で、奴を粉々に粉砕してみせる。



『そろそろお仕舞ですかねえ、さようならアルトさん。人間にしては、そこそこ厄介だったと言っておきましょう』
「フーッ……」




 体の中の空気を、すべて抜くイメージ。
 真空状態をバネにして放つ究極の斬撃、【アンサー】。
 いざという時のためにとっておいた、俺の唯一のとって置きだ。
 まさに目の前に迫る死、その引き換えに最後の技を放つ寸前だった。


「―――ないで」


「?」




 声が聞こえた。







「死なないで、生きて。あなたはまだ大丈夫」
「パパ頑張って。負けないで」





 シェリー、ルナ。
 …………。
 うっすらとほほ笑む二人の姿は、背中を押すように暖かい眼差しを向けてくれていた。
 そうだ。俺は。




「死なないでぇっ!! ごしゅじんさまっ!!」



 ラナ!?
 なぜここに!?
 Gドラゴンを挟むように、ラナは背後から現れた。
 どうして、行先は告げていなかったはずなのに。

『アルトさんの知り合いですかあ? ふふっ、美味そうな女の子だ!!』

 一瞬だった。
 Gドラゴンは、背後のラナに瞬きの間だけ気を取られた。
 奴の中身であるレボは、俺に懐いているラナを再び妻と子のように八つ裂きにしようと考えたのだろう。
 意識が俺から離れた。
 俺はその瞬間を見逃さなかった。


「らああああああああああああっ!!」

 一瞬にして、星の数ほどの斬撃を奴の身体に加える。
 やらせるか、やらせるか!!
 もう絶対に失ってなるものか!!
 俺がこの子を、ラナを守る。
 これが全力だ。これ以上ない、最強の技だ。
 いけ、俺のすべてをかけて勝負した。
 たのむ、食らえ、ダメ―ジを受けてくれ。
 腕が動かなくなるまで、限界まで技を発動し続ける。 
 風圧で周囲の地面がえぐれ、手のひらの皮が全部めくれてもかまわない。
 頼むから効いてくれ!!


『………………』


 ザシュ。
 バガァァァァ……っ。

 やった。
 やった、やったぞ!!
 金色の皮膚を、俺の技は突破することができた。
 Gドラゴンは輪切りになって地面へと倒れこむ。
 勝った……。
 いやまだだ、ドラゴンの核。
 冷静に俺はドラゴンの命の源である核を探し出し、刃を突き立てようとする。
 これを壊せば、すべてが終わるんだ。

「いだい、やめてくれよぉ……」

 レボの声だ。
 Gドラゴンの肉塊から、醜く融合したレボの顔が覗いていた。
 涙を流しながら、俺に命ごいしてくる。

「ずるい、ずるいですよアルトさん……僕死にたくないですよ。謝りますから、謝りますから殺さないで。その核だけは、その核だけは壊さないで。アルトさん……アルトさんんん」

 本当に。
 こいつは本当になにも変わっちゃいないな。
 じゃあなレボ。お前のことはたぶん二秒で忘れるが、地獄で勝手にがんばれよ。
 ザン!
 核に剣を突き立てると、煙をあげGドラゴンの肉塊は溶け始めた。 

「ぎゃぁぁあぁああああああああぁぁぁぁぁ……っ。痛い、痛い痛い痛い……っ!?!?!? ああああぁぁぁぁ助け、たすけてママっ、死にたくない、死にたくないぃぃ……」









 終わった。
 すべて終わった。
 疲れた。
 力が抜けたように、地面に吸い込まれるように倒れこむ。

「ごしゅじんさま!? 大丈夫ですかごしゅじんさま!? お願いですお返事をしてくださ……」
 

 ラナが無事でよかった。
 もう、視界が白んで……。
 意識はそこでぷっつりと途切れた。

















 ●●●


「今日のスープは、いかがでしたか?」
「とっても美味しかったよラナ。リリィとサバトも気に入ってお代わりしていたね」
「あの、一緒に暮らしてくれて、ありがとうございます。本当に感謝しています。……パパ」
「……むず痒いな、やっぱそう呼ばれると」
「料理も上達したので、将来はパパと結婚します」
「……おいおい」


 小さな森の中に、小さな屋敷がある。
 モンスターは不思議と寄り付かない。本能的に、魔物は強者の領域を荒らさないことと関係しているのだろうか?
 ペンフィールドの一角にあるその屋敷は、存在を秘匿されている。
 領主のロザリーナは足しげくその場所に通い、色々な相談をしていることからヤパン国にとってかなり重要な人物であることは間違いなさそうだ。
 どうやら子持ちの男と、その娘が二人で住んでいるらしいが。
 
 永遠に家事見習いでいるつもりの娘と、そこはかとなく娘の将来を心配する父親は幸せに暮らしている。
 悲しみを背負った二人ではあるが、小さな幸福はどこにでも、そこら中たくさん転がっていることを知った。

 人生は回転する木馬なのかもしれない。
 きっと誰しもが不幸と幸せの風景を繰り返している。
 この親子は、これからきっと幸福だけを拾う人生を歩んでいくだろう。
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