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蛇足
戦争【???】
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戦争というものは何か、を知っているのはこの中にどれほどいるだろうか。
例えば。軍隊と軍隊とが兵器を用いて争うこと。特に、国家が他国に対し、自己の目的を達するために武力を行使する闘争状態とか、そういうことが辞書には書いてある。だがそれはあくまでも、誰でも知っている『定義』であると俺は考えている。例えば資源を如何に効率よく運用するか、兵站の構築はどうするかなどの、帝王学のおべんきょう(この場合の資源が燃料資源か鉱産資源か人的資源かは問わない)。例えば、平和を感じるためのもっとも簡単な手段。例えばステーキやからあげが食卓にならんだときの権力者同士の争いあい。最も近い例は、二日酔いだろうか。飲んでいる間はひどく気持ちがいいし、起きた直後は二度と繰り返さないと誓うだろう。しかしいつかはまた繰り返すのだ。
そして、ひどい時代に生まれ直したもので、今この国は戦争状態にある。
しかも、国家と国家のメンツをかけた__なんてものじゃない。世界大戦__そう形容するのが相応しいだろうそれは、当然ながら魔術師団大尉格の俺も駆り出されるわけである。これはひどい。
今日も炎で敵を焼き、その絶叫を肴に、闘争という酒に酔いしれる。きっと終わった後はひどく気持ち悪いのだろう、と確信しながら。
この世界における「一騎当千」というのは、読んで字のごとく一騎ですべての敵を倒せるような実力を言う。その点で行けば、俺は「一騎当千」じゃない。「一騎当億」だからだ。なんとか勝利している状態で講和を終わらせる頃には、当時の体で俺は40代前半になっていた。ボロボロの体で家に帰った時に、自分の勲功が、王族の、お飾りの魔術師団長に与えられているのを見て、絶望したのだ。もう一度生まれ変わったところで、地位がなければどうにもできない__この国の歪みを正しく理解してしまったのだ。
だが体裁上俺も称えられ、貴族しか行けないようなパーティーに招待されたところで、俺は見つけた。__そうだ、見つけたのだ! いぶし銀か雪のように白い髪は、いっそ神々しいまでにすがすがしく光っている。こちらを一瞬だけ見た赤色の瞳は、炎のように、ルビーのように、鮮烈な印象を与えつける。
「あ、あの!」
気付いたら声をかけていた。それに反応して、彼女は振り返る。パールとレースを使って、派手過ぎず、しかし単純すぎないように技巧をこらして作られたと一目でわかるドレスは、やはり彼女によく似あっていた。
「えっと……どなた?」
「あ、え、っと、あ、アルフレッドです……魔導士団、大尉の」
「まぁ……魔導士団のお方でしたの。此度の戦では、ずいぶんの活躍なさったそうですね。素晴らしいわ。それで、アルフレッドというと……たしか、野戦突撃賞のお方でしたっけ?」
覚えていてくれた。
誰も、もう覚えていないと思ったのに!
それがわかっただけで、面白いように鼓動が早まる。その、鈴が鳴るみたいな美しい声も、社交辞令なのだろうけれど、「素晴らしい」という言葉も、何もかもがいとおしくてしょうがない。まるで、何十年何百年とおしこまれていたモノが一気に解放されたみたいな、すさまじい感情の奔流に、飲み込まれてしまったようだ。
ほしい。
彼女が、ほしい。
自分と20は年が違うであろう女性が欲しいだなんて、おかしな感性をしているだろうか、俺はわからないんだ、この気持ちは、感情は、名前をつけていいものなのか? 感情という型にあてはめてしまっていいものなのか。そんなことをしたら、きっとその枠組みの中からあふれてしまう。
「あの、貴女は」
「私ですか? 私はノーリ・エヌマーティッドですが……?」
ノーリ。
覚えたからな。
ありがとうございますとかそういう事をいって、即座にパーティー会場を抜け出した。
彼女と同年代の者として、生まれ変わる。転生する。そう気力をもって、魔力をこめて、気合をこめてスパーク一発。視界はいつも通り光に包まれて、全身を貫く痛みにはもう慣れて……気付いたら、意識を失っていた。
「ん」
起き上がった体は妙に重苦しくて、思うように動かない。
「あぁ、そうか。俺は生まれ変われたんだ」
姿見を確認する。上等な家系から受け継いだのだろう、曇りのない金色の髪に、澄んだ緑色の瞳。その下に書いてある名前から、今生での俺の名前が『ウィリアム・アップルヴァーン』であることを悟った。その隣の見慣れない文字は、読めないけれど「ノーリ・エヌマーティッド」と読むのだろう。……俺は、「ノーリ」には相応しい男になれただろうか。……いや、まだ3歳ほどの見た目だから「男児」なのだろうが。
「『ノーリ』は……『ノーリ・エヌマーティッド』はどこだ?」
ぐるぐるあたりを見渡す。そして見つけた。俺と、彼女であろう、白い髪に赤い目をした少女を描いた絵画。
どうやら「俺」は、もう『ノーリ』と知り合っていたらしい。
「……待っていてくれよ。お前に相応しい男になってみせる」
静かな決意をにじませて、ぐっと拳を握った。……柔らかい肉であったのも、甲高い声であるのも、そう気にすることではない。少なくとも、気にするやつがいたら、俺が殺す。
【バグ・エピソード 解放】
(なんですか、これー……)
少女は、攻略本に増えている謎過ぎる話を見て嘆息する。一体誰得なのやら。
……あぁ、でも、これもまた消えてしまう物語なのだと思うと。
読んでおくのも、悪くないのかもしれない。
例えば。軍隊と軍隊とが兵器を用いて争うこと。特に、国家が他国に対し、自己の目的を達するために武力を行使する闘争状態とか、そういうことが辞書には書いてある。だがそれはあくまでも、誰でも知っている『定義』であると俺は考えている。例えば資源を如何に効率よく運用するか、兵站の構築はどうするかなどの、帝王学のおべんきょう(この場合の資源が燃料資源か鉱産資源か人的資源かは問わない)。例えば、平和を感じるためのもっとも簡単な手段。例えばステーキやからあげが食卓にならんだときの権力者同士の争いあい。最も近い例は、二日酔いだろうか。飲んでいる間はひどく気持ちがいいし、起きた直後は二度と繰り返さないと誓うだろう。しかしいつかはまた繰り返すのだ。
そして、ひどい時代に生まれ直したもので、今この国は戦争状態にある。
しかも、国家と国家のメンツをかけた__なんてものじゃない。世界大戦__そう形容するのが相応しいだろうそれは、当然ながら魔術師団大尉格の俺も駆り出されるわけである。これはひどい。
今日も炎で敵を焼き、その絶叫を肴に、闘争という酒に酔いしれる。きっと終わった後はひどく気持ち悪いのだろう、と確信しながら。
この世界における「一騎当千」というのは、読んで字のごとく一騎ですべての敵を倒せるような実力を言う。その点で行けば、俺は「一騎当千」じゃない。「一騎当億」だからだ。なんとか勝利している状態で講和を終わらせる頃には、当時の体で俺は40代前半になっていた。ボロボロの体で家に帰った時に、自分の勲功が、王族の、お飾りの魔術師団長に与えられているのを見て、絶望したのだ。もう一度生まれ変わったところで、地位がなければどうにもできない__この国の歪みを正しく理解してしまったのだ。
だが体裁上俺も称えられ、貴族しか行けないようなパーティーに招待されたところで、俺は見つけた。__そうだ、見つけたのだ! いぶし銀か雪のように白い髪は、いっそ神々しいまでにすがすがしく光っている。こちらを一瞬だけ見た赤色の瞳は、炎のように、ルビーのように、鮮烈な印象を与えつける。
「あ、あの!」
気付いたら声をかけていた。それに反応して、彼女は振り返る。パールとレースを使って、派手過ぎず、しかし単純すぎないように技巧をこらして作られたと一目でわかるドレスは、やはり彼女によく似あっていた。
「えっと……どなた?」
「あ、え、っと、あ、アルフレッドです……魔導士団、大尉の」
「まぁ……魔導士団のお方でしたの。此度の戦では、ずいぶんの活躍なさったそうですね。素晴らしいわ。それで、アルフレッドというと……たしか、野戦突撃賞のお方でしたっけ?」
覚えていてくれた。
誰も、もう覚えていないと思ったのに!
それがわかっただけで、面白いように鼓動が早まる。その、鈴が鳴るみたいな美しい声も、社交辞令なのだろうけれど、「素晴らしい」という言葉も、何もかもがいとおしくてしょうがない。まるで、何十年何百年とおしこまれていたモノが一気に解放されたみたいな、すさまじい感情の奔流に、飲み込まれてしまったようだ。
ほしい。
彼女が、ほしい。
自分と20は年が違うであろう女性が欲しいだなんて、おかしな感性をしているだろうか、俺はわからないんだ、この気持ちは、感情は、名前をつけていいものなのか? 感情という型にあてはめてしまっていいものなのか。そんなことをしたら、きっとその枠組みの中からあふれてしまう。
「あの、貴女は」
「私ですか? 私はノーリ・エヌマーティッドですが……?」
ノーリ。
覚えたからな。
ありがとうございますとかそういう事をいって、即座にパーティー会場を抜け出した。
彼女と同年代の者として、生まれ変わる。転生する。そう気力をもって、魔力をこめて、気合をこめてスパーク一発。視界はいつも通り光に包まれて、全身を貫く痛みにはもう慣れて……気付いたら、意識を失っていた。
「ん」
起き上がった体は妙に重苦しくて、思うように動かない。
「あぁ、そうか。俺は生まれ変われたんだ」
姿見を確認する。上等な家系から受け継いだのだろう、曇りのない金色の髪に、澄んだ緑色の瞳。その下に書いてある名前から、今生での俺の名前が『ウィリアム・アップルヴァーン』であることを悟った。その隣の見慣れない文字は、読めないけれど「ノーリ・エヌマーティッド」と読むのだろう。……俺は、「ノーリ」には相応しい男になれただろうか。……いや、まだ3歳ほどの見た目だから「男児」なのだろうが。
「『ノーリ』は……『ノーリ・エヌマーティッド』はどこだ?」
ぐるぐるあたりを見渡す。そして見つけた。俺と、彼女であろう、白い髪に赤い目をした少女を描いた絵画。
どうやら「俺」は、もう『ノーリ』と知り合っていたらしい。
「……待っていてくれよ。お前に相応しい男になってみせる」
静かな決意をにじませて、ぐっと拳を握った。……柔らかい肉であったのも、甲高い声であるのも、そう気にすることではない。少なくとも、気にするやつがいたら、俺が殺す。
【バグ・エピソード 解放】
(なんですか、これー……)
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