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なんか貴族になるらしいよ、私
六話・でかくなってる(確信)
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つやつやの、真珠のようなお肌。労働感も、生活感も感じない、白。そのくせ、唇だけは、くすみのない桃色である。
肩までの、艶のある黒髪は、複雑に編み込まれている。いったい寝ている間に何をしたのだろうか。まるで、上質な墨で塗りたくったように、光以外が存在しない黒である。
目は、黒真珠か、黒曜石か……宝石のように、あるいは星のように__黒い星というのもおかしな話なのだけれど__微塵の汚れも存在しない。
まるで、石膏か何かでできた彫刻が動いているようだ。最早、この肌の下には血が通っていないのではないか、と思わせるほど。あるいは、絵本に描かれた白雪姫の挿絵を彷彿とさせる。
って、現実逃避してる場合じゃないか。
「えあのなんで私成長して」
「そら前の恰好だったらあまりにも貧相だからな」
そりゃ二歳児の体じゃ貧相でしょうね!
私が、反論しようと口をパクパクしていると、ロキさんはポンと手を叩いた。
そして、可愛らしい顔立ちを笑みで彩って、甲高い、声変わりしたらどうなるのか想像もつかないような声でこう言った。
「あ、そうだ!」
その瞬間、ぽひゅん、と音がして、水瀬くんが煙に包まれた。
元の、可愛らしいが弱々しい赤い垂れ目は、若干目尻が下げられて、前より数段優しげな印象を受ける。
髪の毛も、青一色になり、まさに「元の姿に戻った」と言える。
「領主様が、今外で待っておられます。入れて差し上げてもよろしいですよね?」
ですよね? に、否定の余地などない威圧を感じた。……実際、私も一領地を統べる領主を待たせるわけにはいかないから、とコクコク頷く。
水瀬くんが扉を開けると、あの若々しい領主様が。同時に、入れ替わるように水瀬くんは外に出た。
「エルノア・スターライト」
「はい」
よく響くテノールが、私の名前を呼ぶ。
銀色の髪の毛が、光を浴びて輝いている。……私は前世でも今世でも黒髪黒目だ。青と赤に変わった水瀬くんが羨ましい。
領主様は、私に視線を合わせる。
私が寝そべっているせいで、しゃがむ……というより半ば寝転がるような体制になって、ちょっと申し訳ない。が、痛みのせいでまともに動けない。
「きみの境遇が決まった。詳しく話しておこう」
そこからの話は、無駄に長いうえに、遠回りな言い回しがあってものすごくわかりにくかったので要約すると。
このミッドガルド神聖国に、四つの領地があるのと、それにそれぞれ神殿がある事は、まず一般常識らしいので割愛して。
「エルノア」の両親を問いただした結果、私の使う召喚魔法……パラノイア・ワールドは、神術でも魔法でもない、全く新しい「ナニカ」の可能性が高い、という事がわかったそうだ。そして、それを生かすために、ミシェル……水瀬くんの実家の本家筋、サテライト公爵家に養女として入る事が決められたそうな。
ちなみに、サテライト公爵家は、王領の名家である。トゥリアンダフィリャ領以外では、きっちり爵位が付いているらしい。トゥリア……めんどくさいからトゥリアンでいいや、では、商業が発達しているため、力を持った商人が金で爵位を買うのを防ぐためだとか。
あと、トゥリアン領は工業が発達していて、領花は薔薇。クリノン領は農業が発達していて領花は百合。でもって、パイオーニア領は工業が発達していて領花は牡丹。王領では魔法研究が活発に行われていて領花は花蘇芳らしい。
領色は、それぞれの家系の、目と髪の色だ。だから、領主家のものらしい馬車も、白と青で統一されていたのだろう。
と、脱線はここまでにして。
サテライト公爵家に入ると、そこだけがかなりの力を持つ事になる。ただでさえ、最早世襲レベルで宰相職を独占している家なのだそうで、国が乗っ取られる危険性があるそうだ。
なので、基本的に神殿で、巫女見習いとして過ごしておいて欲しいらしい。
で、体を引き延ばしたのは、ユグ学園に入れて、魔法を習わせて、即戦力にするため。
ここからは、パラノイア・ワールドを使って、腹の内を見て得た情報だ。失礼だとはわかっているが、生きるためだ。
まず、領主にしか知らされない事だが、この世界には、階層ごとに「クリア」と「ゲームオーバー」がある。ゲームみたいだな、と思った。
「クリア」した階層は、その後千年、この世界を実質的に治める権利を持つらしい。
前にクリアしたのは、天空浮遊島。今は、誰も支配していないらしい。
浮遊島の「クリア」条件は、「世界の終焉をもたらす」。
中央大陸の「クリア」条件は、「大陸のどこかにいる悪魔の【魔王】を消す」。
地底界の「クリア」条件は、「一つの種族を滅ぼし、新たな種族で埋め合わせる」。
地底界のクリア条件には同情するが、そこはまあどうでもいい。
問題は、中央大陸のクリア条件だ。
魔王は、この世界の誰よりも強い。神であってもかなわない。
で、私を、魔王を討伐するための勇者に加える、というわけだ。
こんな感じである。
正直、魔王とかクリアとかどうでもいい。勝手に治めさせておけばいいのに、と思う。
でも、ユグ学園は魅力的だ。行ってみたいと思っている。上では割愛したが、もうすぐ入学試験があるらしい。それに私が参加する、というわけだ。
「以上だ。はいかイエスで答えろ」
それもう一択ですよね__と思いながらも、断る気などさらさらないのでこう言った。
「はい、です」
肩までの、艶のある黒髪は、複雑に編み込まれている。いったい寝ている間に何をしたのだろうか。まるで、上質な墨で塗りたくったように、光以外が存在しない黒である。
目は、黒真珠か、黒曜石か……宝石のように、あるいは星のように__黒い星というのもおかしな話なのだけれど__微塵の汚れも存在しない。
まるで、石膏か何かでできた彫刻が動いているようだ。最早、この肌の下には血が通っていないのではないか、と思わせるほど。あるいは、絵本に描かれた白雪姫の挿絵を彷彿とさせる。
って、現実逃避してる場合じゃないか。
「えあのなんで私成長して」
「そら前の恰好だったらあまりにも貧相だからな」
そりゃ二歳児の体じゃ貧相でしょうね!
私が、反論しようと口をパクパクしていると、ロキさんはポンと手を叩いた。
そして、可愛らしい顔立ちを笑みで彩って、甲高い、声変わりしたらどうなるのか想像もつかないような声でこう言った。
「あ、そうだ!」
その瞬間、ぽひゅん、と音がして、水瀬くんが煙に包まれた。
元の、可愛らしいが弱々しい赤い垂れ目は、若干目尻が下げられて、前より数段優しげな印象を受ける。
髪の毛も、青一色になり、まさに「元の姿に戻った」と言える。
「領主様が、今外で待っておられます。入れて差し上げてもよろしいですよね?」
ですよね? に、否定の余地などない威圧を感じた。……実際、私も一領地を統べる領主を待たせるわけにはいかないから、とコクコク頷く。
水瀬くんが扉を開けると、あの若々しい領主様が。同時に、入れ替わるように水瀬くんは外に出た。
「エルノア・スターライト」
「はい」
よく響くテノールが、私の名前を呼ぶ。
銀色の髪の毛が、光を浴びて輝いている。……私は前世でも今世でも黒髪黒目だ。青と赤に変わった水瀬くんが羨ましい。
領主様は、私に視線を合わせる。
私が寝そべっているせいで、しゃがむ……というより半ば寝転がるような体制になって、ちょっと申し訳ない。が、痛みのせいでまともに動けない。
「きみの境遇が決まった。詳しく話しておこう」
そこからの話は、無駄に長いうえに、遠回りな言い回しがあってものすごくわかりにくかったので要約すると。
このミッドガルド神聖国に、四つの領地があるのと、それにそれぞれ神殿がある事は、まず一般常識らしいので割愛して。
「エルノア」の両親を問いただした結果、私の使う召喚魔法……パラノイア・ワールドは、神術でも魔法でもない、全く新しい「ナニカ」の可能性が高い、という事がわかったそうだ。そして、それを生かすために、ミシェル……水瀬くんの実家の本家筋、サテライト公爵家に養女として入る事が決められたそうな。
ちなみに、サテライト公爵家は、王領の名家である。トゥリアンダフィリャ領以外では、きっちり爵位が付いているらしい。トゥリア……めんどくさいからトゥリアンでいいや、では、商業が発達しているため、力を持った商人が金で爵位を買うのを防ぐためだとか。
あと、トゥリアン領は工業が発達していて、領花は薔薇。クリノン領は農業が発達していて領花は百合。でもって、パイオーニア領は工業が発達していて領花は牡丹。王領では魔法研究が活発に行われていて領花は花蘇芳らしい。
領色は、それぞれの家系の、目と髪の色だ。だから、領主家のものらしい馬車も、白と青で統一されていたのだろう。
と、脱線はここまでにして。
サテライト公爵家に入ると、そこだけがかなりの力を持つ事になる。ただでさえ、最早世襲レベルで宰相職を独占している家なのだそうで、国が乗っ取られる危険性があるそうだ。
なので、基本的に神殿で、巫女見習いとして過ごしておいて欲しいらしい。
で、体を引き延ばしたのは、ユグ学園に入れて、魔法を習わせて、即戦力にするため。
ここからは、パラノイア・ワールドを使って、腹の内を見て得た情報だ。失礼だとはわかっているが、生きるためだ。
まず、領主にしか知らされない事だが、この世界には、階層ごとに「クリア」と「ゲームオーバー」がある。ゲームみたいだな、と思った。
「クリア」した階層は、その後千年、この世界を実質的に治める権利を持つらしい。
前にクリアしたのは、天空浮遊島。今は、誰も支配していないらしい。
浮遊島の「クリア」条件は、「世界の終焉をもたらす」。
中央大陸の「クリア」条件は、「大陸のどこかにいる悪魔の【魔王】を消す」。
地底界の「クリア」条件は、「一つの種族を滅ぼし、新たな種族で埋め合わせる」。
地底界のクリア条件には同情するが、そこはまあどうでもいい。
問題は、中央大陸のクリア条件だ。
魔王は、この世界の誰よりも強い。神であってもかなわない。
で、私を、魔王を討伐するための勇者に加える、というわけだ。
こんな感じである。
正直、魔王とかクリアとかどうでもいい。勝手に治めさせておけばいいのに、と思う。
でも、ユグ学園は魅力的だ。行ってみたいと思っている。上では割愛したが、もうすぐ入学試験があるらしい。それに私が参加する、というわけだ。
「以上だ。はいかイエスで答えろ」
それもう一択ですよね__と思いながらも、断る気などさらさらないのでこう言った。
「はい、です」
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