異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

文字の大きさ
8 / 60
なんか貴族になるらしいよ、私

六話・でかくなってる(確信)

しおりを挟む
 つやつやの、真珠のようなお肌。労働感も、生活感も感じない、白。そのくせ、唇だけは、くすみのない桃色である。
 肩までの、艶のある黒髪は、複雑に編み込まれている。いったい寝ている間に何をしたのだろうか。まるで、上質な墨で塗りたくったように、光以外が存在しない黒である。
 目は、黒真珠か、黒曜石か……宝石のように、あるいは星のように__黒い星というのもおかしな話なのだけれど__微塵の汚れも存在しない。
 まるで、石膏か何かでできた彫刻が動いているようだ。最早、この肌の下には血が通っていないのではないか、と思わせるほど。あるいは、絵本に描かれた白雪姫の挿絵を彷彿とさせる。


 って、現実逃避してる場合じゃないか。
「えあのなんで私成長して」
「そら前の恰好だったらあまりにも貧相だからな」
 そりゃ二歳児の体じゃ貧相でしょうね!
 私が、反論しようと口をパクパクしていると、ロキさんはポンと手を叩いた。 
 そして、可愛らしい顔立ちを笑みで彩って、甲高い、声変わりしたらどうなるのか想像もつかないような声でこう言った。
「あ、そうだ!」
 その瞬間、ぽひゅん、と音がして、水瀬くんが煙に包まれた。
 元の、可愛らしいが弱々しい赤い垂れ目は、若干目尻が下げられて、前より数段優しげな印象を受ける。
 髪の毛も、青一色になり、まさに「元の姿に戻った」と言える。
「領主様が、今外で待っておられます。入れて差し上げてもよろしいですよね?」
 ですよね? に、否定の余地などない威圧を感じた。……実際、私も一領地を統べる領主を待たせるわけにはいかないから、とコクコク頷く。
 水瀬くんが扉を開けると、あの若々しい領主様が。同時に、入れ替わるように水瀬くんは外に出た。

「エルノア・スターライト」
「はい」
 よく響くテノールが、私の名前を呼ぶ。
 銀色の髪の毛が、光を浴びて輝いている。……私は前世でも今世でも黒髪黒目だ。青と赤に変わった水瀬くんが羨ましい。
 領主様は、私に視線を合わせる。
 私が寝そべっているせいで、しゃがむ……というより半ば寝転がるような体制になって、ちょっと申し訳ない。が、痛みのせいでまともに動けない。
「きみの境遇が決まった。詳しく話しておこう」
  
 そこからの話は、無駄に長いうえに、遠回りな言い回しがあってものすごくわかりにくかったので要約すると。



 このミッドガルド神聖国に、四つの領地があるのと、それにそれぞれ神殿がある事は、まず一般常識らしいので割愛して。
 「エルノア」の両親を問いただした結果、私の使う召喚魔法……パラノイア・ワールドは、神術でも魔法でもない、全く新しい「ナニカ」の可能性が高い、という事がわかったそうだ。そして、それを生かすために、ミシェル……水瀬くんの実家の本家筋、サテライト公爵家に養女として入る事が決められたそうな。
 ちなみに、サテライト公爵家は、王領の名家である。トゥリアンダフィリャ領以外では、きっちり爵位が付いているらしい。トゥリア……めんどくさいからトゥリアンでいいや、では、商業が発達しているため、力を持った商人が金で爵位を買うのを防ぐためだとか。
 あと、トゥリアン領は工業が発達していて、領花は薔薇。クリノン領は農業が発達していて領花は百合。でもって、パイオーニア領は工業が発達していて領花は牡丹。王領では魔法研究が活発に行われていて領花は花蘇芳らしい。
 領色は、それぞれの家系の、目と髪の色だ。だから、領主家のものらしい馬車も、白と青で統一されていたのだろう。
 と、脱線はここまでにして。
 サテライト公爵家に入ると、そこだけがかなりの力を持つ事になる。ただでさえ、最早世襲レベルで宰相職を独占している家なのだそうで、国が乗っ取られる危険性があるそうだ。
 なので、基本的に神殿で、巫女見習いとして過ごしておいて欲しいらしい。
 で、体を引き延ばしたのは、ユグ学園に入れて、魔法を習わせて、即戦力にするため。

 ここからは、パラノイア・ワールドを使って、腹の内を見て得た情報だ。失礼だとはわかっているが、生きるためだ。

 まず、領主にしか知らされない事だが、この世界には、階層ごとに「クリア」と「ゲームオーバー」がある。ゲームみたいだな、と思った。
 「クリア」した階層は、その後千年、この世界を実質的に治める権利を持つらしい。
 前にクリアしたのは、天空浮遊島。今は、誰も支配していないらしい。
 浮遊島の「クリア」条件は、「世界の終焉ラグナロクをもたらす」。
 中央大陸の「クリア」条件は、「大陸のどこかにいる悪魔の【魔王】を消す」。
 地底界の「クリア」条件は、「一つの種族を滅ぼし、新たな種族で埋め合わせる」。
 地底界のクリア条件には同情するが、そこはまあどうでもいい。
 問題は、中央大陸のクリア条件だ。
 魔王は、この世界の誰よりも強い。神であってもかなわない。
 で、私を、魔王を討伐するための勇者人身御供に加える、というわけだ。


 こんな感じである。
 正直、魔王とかクリアとかどうでもいい。勝手に治めさせておけばいいのに、と思う。
 でも、ユグ学園は魅力的だ。行ってみたいと思っている。上では割愛したが、もうすぐ入学試験があるらしい。それに私が参加する、というわけだ。

「以上だ。はいかイエスで答えろ」
 それもう一択ですよね__と思いながらも、断る気などさらさらないのでこう言った。
「はい、です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...