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なんか貴族になるらしいよ、私
七話・ユグドラシル学院・入学試験
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ユグドラシル学院は、超実力主義である。
魔力が強い者が敬い、恐れられる。逆に、魔力が弱い者は、ないもののように扱われる。
だから、イザベラ=ユグドラ=カミチュリアは焦っていた。
手には、白い宝玉が。
幸い、今年、彼女の同期生には平民がいるらしいから、そこまで目立たないだろうが……。
それでも、イザベラは焦っている。
現枢機卿の娘 イザベラ=ユグドラ=カミチュリアは、魔法も神術を使えなかった。
たたん、ととん。馬車が揺れている。
私は、今、ユグドラシル学院の入学試験に来ている。
なんでも、今年は、スウキキョウという偉い人の娘と同期になるらしい。
そのため、領主様から「くれぐれも悪目立ちしてくれるな」とだけ念を押された。
実際、私も、お世話になる神殿の偉い人の娘ににらまれたくはない。
イジメとか、怖いしね。ただでさえ「平民」と侮られているのに。
で、実技試験__つまり、魔法を使う試験では、普通隔離して行われるらしいが、神殿と領に選ばれたなんたらという口実で、私の分だけ公開される事となった。
見せしめ、というか公開処刑ですね分かります。
実技試験棟、という、魔力を吸収する素材でできた、透明なドーム状の建物の中で行う、実技試験。
グラウンドを含めた小学校の敷地が、軽く三つが並べられそうな、広い場所だ。
そのど真ん中に、私は立ってる。
ふっと思いついたんだけど、魔法を組み合わせる事は出来るんだろうか。
例えば、風属性と炎属性の魔法で、熱風を巻き起こすとか。
とりあえずめんどくさいから、使える魔法のうち、強そうな方を全部組み合わせてみようかな、と考えてみたり。
クスクスクスクス、私の魔法を肴にして、笑い合う貴族の御令嬢方。
いいもん、全力で魔法を使ってやるもんね。
「では、エルノア・スターライト。魔法を」
わざわざ、公爵家じゃなくて、旧姓で呼ぶ当たりに悪意を感じるのは私だけだろうか。
……目を閉じると、体内を血液のように循環する魔力を感じる。
それを、切り離すようにして、カッと目を開ける。
「【メテオ】【トルネード】【ウンディネ】【ラグナロク】【ボルト】【ルナライト】」
覚えてる限りの魔法名を、朗読するイメージで読み上げる。
その瞬間だった。
……異変が起こり始めたのは。
まず、透明な外郭が明るみ始めて、大粒の炎が降ってきた。
とっさにパラノイア・ワールドの結界で防いだからいいものの、それが無かったらどうなっていた事か。
炎の雨による洗礼が終わったら、今度は、立ってられないぐらいの強風が吹きつけた。
一部の御令嬢は吹き飛ばされている。どこの紙だよってんだ。
で、さらに、外郭の中身を覆うように、大洪水が起こる。びしょ濡れである。
追加で、実技棟の床がボコボコ盛り上がる。一部は、完全に地面から離れている。そして私は思った。あれ……ここって木の幹の中だったはずだよね……? と。
そして、盛り上がった地面……というより土の塊を、雷が撃ち落としていく。
その後、土は、何故か真っ黒焦げになっていた。……あれ? 確か、地面に落ちた雷って、吸収されるから実害をもたらさないんじゃなかったっけ?
そして、ひとしきり色々な魔法を受けきったあと。
それらすべてが生温かったとさえ思える。
__光が。
上など向いていなかったはずなのに、太陽を直接見たような、強い光が目を刺した。
目を閉じても、瞼の裏は真っ白だ。
そして、光が消えたと思って目を開けると、天井付近に、手のひらぐらいの光の球体が。
それは、ゆっくりと縮小していき。
まるで、白い実が弾けるように、細かな光の礫となって、実技棟の床に降り注いだ。
イザベラは、とても困惑していた。
だって、同期の「エルノア」という平民は、卑しい身分で、貴族の血のひとかけも入っていないはずだ。
なのに、中央大陸の、いや、浮遊島や地底界の魔術師全ての魔力を使ってもできないような事をさらりとやってのけたのだ。
_____連続詠唱。
それは、別の属性の魔法を、連続で複数詠唱する事。
別の属性に魔力を切り替える場合、それだけで大量の魔力を消費するのが普通だ。
第一、使える魔法の属性にも制限があるはず。
なのに、エルノア、という平民は、炎、風、水、土、雷、光、の六属性の魔法を連続で詠唱して、見事やりきってみせたのだ。
イザベラ自身も、連続詠唱を見た事自体はある。しかし、光、雷、の二属性だけの連続詠唱、しかも第一段階で、やりきったあと倒れて、その後三か月程まともに歩けなかったぐらい、それほど難しいのが普通だ。
しかしエルノアは、その全ての属性を第三段階、しかも最終段階に匹敵するかそれ以上の威力でやり遂げたのだ。
普通じゃない。
平民に魔法が使えるはずがない。
でも、実際にやってのけた。
このままだと、イザベラの魔力の無さも隠し通せないかもしれない。
幸い、彼女には身分があった。国全体で信仰されている聖樹教の、枢機卿の娘。それだけが、彼女の「いいところ」だった。
そして、イザベラは思いついたのだ。
魔法と言うのは、「精神」を糧にして行使するのが一般的だ。
だったら、心を壊してしまえば……?
イザベラは、自らの妙案にしびれた。
そして、イザベラは___。
魔力が強い者が敬い、恐れられる。逆に、魔力が弱い者は、ないもののように扱われる。
だから、イザベラ=ユグドラ=カミチュリアは焦っていた。
手には、白い宝玉が。
幸い、今年、彼女の同期生には平民がいるらしいから、そこまで目立たないだろうが……。
それでも、イザベラは焦っている。
現枢機卿の娘 イザベラ=ユグドラ=カミチュリアは、魔法も神術を使えなかった。
たたん、ととん。馬車が揺れている。
私は、今、ユグドラシル学院の入学試験に来ている。
なんでも、今年は、スウキキョウという偉い人の娘と同期になるらしい。
そのため、領主様から「くれぐれも悪目立ちしてくれるな」とだけ念を押された。
実際、私も、お世話になる神殿の偉い人の娘ににらまれたくはない。
イジメとか、怖いしね。ただでさえ「平民」と侮られているのに。
で、実技試験__つまり、魔法を使う試験では、普通隔離して行われるらしいが、神殿と領に選ばれたなんたらという口実で、私の分だけ公開される事となった。
見せしめ、というか公開処刑ですね分かります。
実技試験棟、という、魔力を吸収する素材でできた、透明なドーム状の建物の中で行う、実技試験。
グラウンドを含めた小学校の敷地が、軽く三つが並べられそうな、広い場所だ。
そのど真ん中に、私は立ってる。
ふっと思いついたんだけど、魔法を組み合わせる事は出来るんだろうか。
例えば、風属性と炎属性の魔法で、熱風を巻き起こすとか。
とりあえずめんどくさいから、使える魔法のうち、強そうな方を全部組み合わせてみようかな、と考えてみたり。
クスクスクスクス、私の魔法を肴にして、笑い合う貴族の御令嬢方。
いいもん、全力で魔法を使ってやるもんね。
「では、エルノア・スターライト。魔法を」
わざわざ、公爵家じゃなくて、旧姓で呼ぶ当たりに悪意を感じるのは私だけだろうか。
……目を閉じると、体内を血液のように循環する魔力を感じる。
それを、切り離すようにして、カッと目を開ける。
「【メテオ】【トルネード】【ウンディネ】【ラグナロク】【ボルト】【ルナライト】」
覚えてる限りの魔法名を、朗読するイメージで読み上げる。
その瞬間だった。
……異変が起こり始めたのは。
まず、透明な外郭が明るみ始めて、大粒の炎が降ってきた。
とっさにパラノイア・ワールドの結界で防いだからいいものの、それが無かったらどうなっていた事か。
炎の雨による洗礼が終わったら、今度は、立ってられないぐらいの強風が吹きつけた。
一部の御令嬢は吹き飛ばされている。どこの紙だよってんだ。
で、さらに、外郭の中身を覆うように、大洪水が起こる。びしょ濡れである。
追加で、実技棟の床がボコボコ盛り上がる。一部は、完全に地面から離れている。そして私は思った。あれ……ここって木の幹の中だったはずだよね……? と。
そして、盛り上がった地面……というより土の塊を、雷が撃ち落としていく。
その後、土は、何故か真っ黒焦げになっていた。……あれ? 確か、地面に落ちた雷って、吸収されるから実害をもたらさないんじゃなかったっけ?
そして、ひとしきり色々な魔法を受けきったあと。
それらすべてが生温かったとさえ思える。
__光が。
上など向いていなかったはずなのに、太陽を直接見たような、強い光が目を刺した。
目を閉じても、瞼の裏は真っ白だ。
そして、光が消えたと思って目を開けると、天井付近に、手のひらぐらいの光の球体が。
それは、ゆっくりと縮小していき。
まるで、白い実が弾けるように、細かな光の礫となって、実技棟の床に降り注いだ。
イザベラは、とても困惑していた。
だって、同期の「エルノア」という平民は、卑しい身分で、貴族の血のひとかけも入っていないはずだ。
なのに、中央大陸の、いや、浮遊島や地底界の魔術師全ての魔力を使ってもできないような事をさらりとやってのけたのだ。
_____連続詠唱。
それは、別の属性の魔法を、連続で複数詠唱する事。
別の属性に魔力を切り替える場合、それだけで大量の魔力を消費するのが普通だ。
第一、使える魔法の属性にも制限があるはず。
なのに、エルノア、という平民は、炎、風、水、土、雷、光、の六属性の魔法を連続で詠唱して、見事やりきってみせたのだ。
イザベラ自身も、連続詠唱を見た事自体はある。しかし、光、雷、の二属性だけの連続詠唱、しかも第一段階で、やりきったあと倒れて、その後三か月程まともに歩けなかったぐらい、それほど難しいのが普通だ。
しかしエルノアは、その全ての属性を第三段階、しかも最終段階に匹敵するかそれ以上の威力でやり遂げたのだ。
普通じゃない。
平民に魔法が使えるはずがない。
でも、実際にやってのけた。
このままだと、イザベラの魔力の無さも隠し通せないかもしれない。
幸い、彼女には身分があった。国全体で信仰されている聖樹教の、枢機卿の娘。それだけが、彼女の「いいところ」だった。
そして、イザベラは思いついたのだ。
魔法と言うのは、「精神」を糧にして行使するのが一般的だ。
だったら、心を壊してしまえば……?
イザベラは、自らの妙案にしびれた。
そして、イザベラは___。
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