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勇者になるための準備
二十話・勇者コース実技その二なんてなかった。いいね?
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聖域を使えるようになってから一週間。
今日は、なんでも国王にお目通りするらしい。
そのため、いつにもまして気合を入れて飾り立てられている。
上品な茶色の、腕の関節より若干上ぐらいの丈のローブの裾には、若干色味が濃い、バラ、ユリ、ボタンの刺繍が、遠目にはただの線に見えるのではないかと思うほど細かく縫い付けられている。
その下には、多分天使の羽って本当にあったらこんなのだろうな、と思うほど真っ白い、シミやしわも一つもないシフォンブラウスが入っている。袖はロングパフリーズだ。ブラウスだけではない。ローブより色味を抑えたベストも着ている。それに加えて、ぴっちりと首に張り付いた襟には黒い紐リボンが結ばれている。ぶっちゃけるとすっごい暑い。
下は、ひざ丈のはずが、パニエを二、三枚入れたがためにひざ上丈になっている、茶色のフレアスカートだ。茶色、というより赤茶色というか、赤褐色に近いかもしれない。例に違わず、裾には白でバラ、ユリ、ボタンの刺繍が入っている。フリルやレースのたぐいはついていない。ただし、スカートを何枚も履いているようなものなので、蒸れる。すごい蒸れる。
髪の毛はゆるく縦にまかれていて、ハーフアップにされる。ねじりハーフアップ、ってやつだ。結び目には、見るたびに複雑に色を変える石と、生花に命の加護を施して……ようするにブリザーブドフラワーっぽくしたのの、この世界の神殿にしか咲かないという超貴重な花である、「シュケリーフェ・フラワー」……千日紅と鈴蘭を足して二で割ったような花で、茎にあたる部分にはアイビーのような蔦が付いている、そんな花がつけられている。贅沢にも二つも。
さらに、薄く化粧までされる。とはいっても、部分的にファンデーションを叩かれたり、薄くチークを乗せられたり、あと唇に透明なリップを塗られたり。見た事はないけど、すっぴん風メイクとはこれのことだ! とファッション誌にでかでかと乗ってそうな顔が完成した。この場合、元がいいのが相まっているのだろう。というか、この世界にメイクがあったこと自体が驚きだ。
さらに、最後の仕上げとばかりに、「どうぞ、ご自身に水の女神の祝福を」と念を押される。
たぶん、あれだ。ジン兄さんにやったのと同じようなヤツを自分にやれ、と。
「あ、はい。水魔法【オモルフォスアクア】」
こんなものか。
鏡の前には、髪の毛も目も濡れたようにしっとりと黒さが増した私がいた。
……………………?
あ、あれ?
なんの効果も持たせてないはず、なんだけど……?
ま、まあいいか。気のせい気のせい。
この時の私は、気づくべきだった。
そして王城。
やっぱり転移陣。ちょっとどういう仕組みで転移しているのか教えてほしい、切実に。
これが広く使われるようになれば、有り余ってる私のMPもなんとかできて、さらに生活の質が向上する。チートは皆のために使うべきだ。
と思ったけど、よく考えればパラノイア・ワールドで作り出せるんじゃないか。なんだ、聞く必要ないじゃん。
王様らしき玉座に座った男性は、長い赤茶色の髪に紫色の瞳をしている40代前半か30代後半ぐらいの男性だ。
「よく来たな、闇の女神を騙る平民の勇者よ」
……ン?
「勇者として国のために身を滅ぼすことを光栄に思うがよい」
………ンン?
「安心せい、其方ら平民の功は、すべて我が王族の功とする。汚らわしい名が広まらなくてよかったな」
…………ンンン!?
「え、いや、ちょっと待ってください!」
「なんだ平民。今は気分がいい。特別に、その穢い口を開くことを許してもよいぞ」
「や、闇の女神を騙るってどういう……!?」
すると、王様は、あからさまに眉間にしわを寄せて、こういった。
「神殿から、『サテライト家の養女を巫女として引き取ったが、ロクに奉仕せず、容姿を鼻にかけて闇の女神などと騙り驕っている』と苦情が来ている。サテライトの養女は其方しかいないだろう罪人」
ついに平民から罪人に格下げされた。
というか、神殿……ってことは、イザベラ様? 相当恨まれてるな、これは。……いや、養父様経由で情報が流れた可能性がある。
でも、あながち間違ってないかも。神殿には全然顔出してないし。でも、容姿を鼻にかけたことはない。
じゃあ、なんで? ……難しいことは苦手。
「は、はぁ………?」
「まあ、どうしてもというのなら、其方は顔もよいのだし、最低限役目だけ果たしたら愛妾にくわえてやらん事もない」
どうしてそうなった。
あれか、これがテンプレな愚王なのか。もうやだこの国。
一種の諦めにもにた感情を覚えならも、「いやです」とはっきり言えた私を、誰か褒めてほしい。
というか、初対面の人に「愛妾になれ」とか言うやつが王様でいいの? 上司が無能なら部下も無能なの? 一応国の中枢を担うんだから、もっとちゃんと部下を集めてよね。
すると、ちょっと残念そうな顔をして、「そうか」と言った。ちょっとかわいいかも………いや、私は騙されないよ!
なんてことを考えていたら、あっという間に謁見タイムは終了した。
【たとえば】
王城の倉庫には、あるはずのない黒い髪の人形が置いてあった。
【あのこ の こと を こう たとえると しましょう】
長い髪は、糸で作られたといわれても信じられない。むしろ、本物の髪の毛を使ったのではないかと思うほど、艶やかで、サラサラだ。
【いるはずのない いれぎゅらー そんざいのない みずのあわ】
ゆっくりときしみながらも腕を動かすと、自らの髪をくるくると指に巻き付ける。
【あのこ が きえても わたし が きえても だれの きおくにも のこらない】
人形が、下に向けて指をスライドし、髪から指を放すと、くるん、と二回ほど回ってからもとの位置に戻った。
【いのう いれぎゅらー すべてが あなたと わたしの ために ある ことば】
人形は、最後にこう言って姿を消す。
【だれもしらない けど わたしはこうしてる それが わたしの やくめ だから】
【せいや の きせき など ない の だから】
あとは何も残らない。
当然、人形の姿を見ていたはずの監視も、でた結論は「いつも通り」だ。
まさに、誰の記憶にも残らない。
それこそ、水の泡のように。
今日は、なんでも国王にお目通りするらしい。
そのため、いつにもまして気合を入れて飾り立てられている。
上品な茶色の、腕の関節より若干上ぐらいの丈のローブの裾には、若干色味が濃い、バラ、ユリ、ボタンの刺繍が、遠目にはただの線に見えるのではないかと思うほど細かく縫い付けられている。
その下には、多分天使の羽って本当にあったらこんなのだろうな、と思うほど真っ白い、シミやしわも一つもないシフォンブラウスが入っている。袖はロングパフリーズだ。ブラウスだけではない。ローブより色味を抑えたベストも着ている。それに加えて、ぴっちりと首に張り付いた襟には黒い紐リボンが結ばれている。ぶっちゃけるとすっごい暑い。
下は、ひざ丈のはずが、パニエを二、三枚入れたがためにひざ上丈になっている、茶色のフレアスカートだ。茶色、というより赤茶色というか、赤褐色に近いかもしれない。例に違わず、裾には白でバラ、ユリ、ボタンの刺繍が入っている。フリルやレースのたぐいはついていない。ただし、スカートを何枚も履いているようなものなので、蒸れる。すごい蒸れる。
髪の毛はゆるく縦にまかれていて、ハーフアップにされる。ねじりハーフアップ、ってやつだ。結び目には、見るたびに複雑に色を変える石と、生花に命の加護を施して……ようするにブリザーブドフラワーっぽくしたのの、この世界の神殿にしか咲かないという超貴重な花である、「シュケリーフェ・フラワー」……千日紅と鈴蘭を足して二で割ったような花で、茎にあたる部分にはアイビーのような蔦が付いている、そんな花がつけられている。贅沢にも二つも。
さらに、薄く化粧までされる。とはいっても、部分的にファンデーションを叩かれたり、薄くチークを乗せられたり、あと唇に透明なリップを塗られたり。見た事はないけど、すっぴん風メイクとはこれのことだ! とファッション誌にでかでかと乗ってそうな顔が完成した。この場合、元がいいのが相まっているのだろう。というか、この世界にメイクがあったこと自体が驚きだ。
さらに、最後の仕上げとばかりに、「どうぞ、ご自身に水の女神の祝福を」と念を押される。
たぶん、あれだ。ジン兄さんにやったのと同じようなヤツを自分にやれ、と。
「あ、はい。水魔法【オモルフォスアクア】」
こんなものか。
鏡の前には、髪の毛も目も濡れたようにしっとりと黒さが増した私がいた。
……………………?
あ、あれ?
なんの効果も持たせてないはず、なんだけど……?
ま、まあいいか。気のせい気のせい。
この時の私は、気づくべきだった。
そして王城。
やっぱり転移陣。ちょっとどういう仕組みで転移しているのか教えてほしい、切実に。
これが広く使われるようになれば、有り余ってる私のMPもなんとかできて、さらに生活の質が向上する。チートは皆のために使うべきだ。
と思ったけど、よく考えればパラノイア・ワールドで作り出せるんじゃないか。なんだ、聞く必要ないじゃん。
王様らしき玉座に座った男性は、長い赤茶色の髪に紫色の瞳をしている40代前半か30代後半ぐらいの男性だ。
「よく来たな、闇の女神を騙る平民の勇者よ」
……ン?
「勇者として国のために身を滅ぼすことを光栄に思うがよい」
………ンン?
「安心せい、其方ら平民の功は、すべて我が王族の功とする。汚らわしい名が広まらなくてよかったな」
…………ンンン!?
「え、いや、ちょっと待ってください!」
「なんだ平民。今は気分がいい。特別に、その穢い口を開くことを許してもよいぞ」
「や、闇の女神を騙るってどういう……!?」
すると、王様は、あからさまに眉間にしわを寄せて、こういった。
「神殿から、『サテライト家の養女を巫女として引き取ったが、ロクに奉仕せず、容姿を鼻にかけて闇の女神などと騙り驕っている』と苦情が来ている。サテライトの養女は其方しかいないだろう罪人」
ついに平民から罪人に格下げされた。
というか、神殿……ってことは、イザベラ様? 相当恨まれてるな、これは。……いや、養父様経由で情報が流れた可能性がある。
でも、あながち間違ってないかも。神殿には全然顔出してないし。でも、容姿を鼻にかけたことはない。
じゃあ、なんで? ……難しいことは苦手。
「は、はぁ………?」
「まあ、どうしてもというのなら、其方は顔もよいのだし、最低限役目だけ果たしたら愛妾にくわえてやらん事もない」
どうしてそうなった。
あれか、これがテンプレな愚王なのか。もうやだこの国。
一種の諦めにもにた感情を覚えならも、「いやです」とはっきり言えた私を、誰か褒めてほしい。
というか、初対面の人に「愛妾になれ」とか言うやつが王様でいいの? 上司が無能なら部下も無能なの? 一応国の中枢を担うんだから、もっとちゃんと部下を集めてよね。
すると、ちょっと残念そうな顔をして、「そうか」と言った。ちょっとかわいいかも………いや、私は騙されないよ!
なんてことを考えていたら、あっという間に謁見タイムは終了した。
【たとえば】
王城の倉庫には、あるはずのない黒い髪の人形が置いてあった。
【あのこ の こと を こう たとえると しましょう】
長い髪は、糸で作られたといわれても信じられない。むしろ、本物の髪の毛を使ったのではないかと思うほど、艶やかで、サラサラだ。
【いるはずのない いれぎゅらー そんざいのない みずのあわ】
ゆっくりときしみながらも腕を動かすと、自らの髪をくるくると指に巻き付ける。
【あのこ が きえても わたし が きえても だれの きおくにも のこらない】
人形が、下に向けて指をスライドし、髪から指を放すと、くるん、と二回ほど回ってからもとの位置に戻った。
【いのう いれぎゅらー すべてが あなたと わたしの ために ある ことば】
人形は、最後にこう言って姿を消す。
【だれもしらない けど わたしはこうしてる それが わたしの やくめ だから】
【せいや の きせき など ない の だから】
あとは何も残らない。
当然、人形の姿を見ていたはずの監視も、でた結論は「いつも通り」だ。
まさに、誰の記憶にも残らない。
それこそ、水の泡のように。
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