異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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勇者になるための準備

二十七話・世界の秘密

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 祝福。
 青い、あたたかな光に包まれた瞬間。
 まるで、心臓の奥にじんわりと人肌より暖かいお湯が染み込んでいくように。
 そして、同時に__「世界の秘密」が、ほんの少しだけ、明かされる。




 この世界には、宗教が存在する。その名も「聖樹・ユグドラシル教」。
 その中でも、「聖樹教」は、浮遊島とか神話の「異界の神々」を信仰するもので、「ユグドラシル教」は、ユグドラシル__この世界を支える大樹そのものを信仰するもの。そして、「聖ユグドラ教」は、上記二つに加え、「みんな友達! みんな仲間!」っていう考え方を加えたもので、私や水瀬くんが所属している神殿はこの考え方をもとにしている。ちなみに、聖樹教とユグドラシル教は常に対立しているそうな。

 そして、生れ落ちた瞬間から、どの宗教に所属するかは

 「運命変転」「運命胎動」「定変更さだめのへんこう」などと呼ばれる能力を使わない限り、生まれもった運命を変える事は不可能だ。そして、その能力にも穴がある。この世界は、いわば精密機械。どこか一つが狂えば、他のところで不調が出る。それは、どこか遠くの知らない人ではない。とても身近な人。大切な人を、大きな災厄が襲うのだ。それは大怪我だったり、借金だったり、トラウマだったり。そして、最終的に死ぬ。
 それは、神に贄を捧げる事により、運命を変える事を意味する。つまり、変えられない運命もある。その運命とは、例えば、誰かが魔王を倒す、だとか……そういう、世界に直接影響を及ぼす運命だ。
 そして、運命に抗う事は__同時に、世界という名前の機械を狂わせる事を意味する。本来、人間は運命の存在を感知する事はできない。しかし、極まれに__本当、ごくごくまれに、自分の運命を感知する人間がいる事がある。そういう人間は、能力を使わずに運命を変更する可能性が__実は、ない。そうやって、運命を感知し、変えようとあがく事すら、計算の中に入り、歯車は回る。
 しかし、完璧にもほころびは存在する。ほころびは、世界を浸食し、やがて闇を作る。闇は一等強い人間にとりつき__それが、魔王となる。
 その魔王を殲滅するため、異界の神のお告げに従って選ばれるのが、勇者だ。
 闇は安寧をもたらす。同時に、世界を浸食する。
 夜は闇の片鱗だ。深紅の月が夜を照らし出す時、魔王は闇の本性を現す。しかし、青白い月が星とともに空を照らす時、または太陽がさんさんとあたりを照らす昼間は、魔王は真の姿を現す。

 光は全ての力を助長させる。

 闇は安寧と終焉をもたらす。

 炎は人間の生活をささえる。

 水は生物の生命を維持する。

 風は世界を一筋繋いでいる。

 地はすべてを包み込み愛す。

 全てが、崩れそうなバランスの上で成り立っている。




 う。
 うわああ。
 中二病だ。これ作った人絶対中二病だ。
 ラノベみたいに、中二病が神様に転生して作った世界みたいだ。
 だって、上の文章が直接脳内に響いたんだもん。原文ママで書き写すとあれになるんだもん。絶対中二病だよコレ絶対!
 青いのに暖かい光に、一瞬でも感動した私がバカだった。ここは中二病が作った世界だったんだ。
 ……でも。
 ミシュの記憶の中にあった、白い髪の少女。
 あのひとが言うには、この世界を「理想郷アルカディア」に変える……とか言ってたよね。
 ただの中二病にしてはやりすぎだ。せっかく作った世界を壊すだなんて!
 そして、世界の仕組み。これだけはわかりやすかった。運命を一つ変える事によって、ねじ曲がる世界は、それこそ精密機械のように、一ミクロンの狂いもないものだったのだろう。
 つまり、私が今、こうして思考する事さえも運命通り、と……。
 クズだ。絶対作った人中二のクズだ。
 もしくは、人の思考を読みたがるド変態野郎だ。
 なんて考えていると、不意に眼下で音がした。


 がちゃん

 がちゃん

 がちゃん


『らいどーる』

『うんめいへんてん』

『もくひょう:じぶん』
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