異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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ミッドガルド国からの出立

三十八話・りそうのせかいは

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 明けない夜の世界。
 春の星座が輝く夜空、白い、ほんのりと輝く花が咲き乱れる草原。天の川が降り注ぐ湖の水を掬うと、星屑が手のひらにのる。そっと奥をのぞき込むと、さまざまな時代の魚が歌い、色とりどりの海藻が踊る、竜宮城のように美しい世界が広がる。
 ふかふかの腐葉土が敷き詰められて、のびのびと育つみどり。
 暖かな風がそよぐ、理想の世界。
 その草原に寝転んで、二人で語り合った。

 ずっとここにいたいね。

 ここなら、咳も出ないし、思いっきり遊びまわれるもの。

 ずっとここにいたいね。

 ここなら、ずっと子供のままだから。

 ずっとここにいたいね。

 ここなら______




 ____「貴方と、ずっと一緒にいれるもの」。






 鳥の声がして、目を覚ました__なんて、つくづくここは絵本か童話のような世界である。いや異世界だけど。
 あれから細々とした説明を受け、今日はいよいよ出発の日である。
 __にしても、この長い髪が問題だ。
 前世含め、髪の毛は大体ショートにしていて、長い時でも肩より若干下? ぐらいであったため、長い髪というのは違和感しかない。それに重いし、なんでこんなものを持って長旅しなきゃならないのだ。それに、多分短髪を見慣れているから、というのもあるだろうけど、髪が短くないとしっくりこない。私が私じゃない! って気がする。
 適当に鋏を出して、肩ぐらいの長さでばっさり切る。細かい調節機能までついた鋏だ。軽くあてるだけで、本職の美容師に勝るとも劣らない、見事なシャギーが出来上がり。いや本当にパラノイアワールド超便利。これがなくては生きていけない体になりそうなぐらい。
 切った髪は__まあいいや、パラノイアワールドで作った四次元ゴミバコにぽい、そのままゴミバコごと消しちゃえば証拠隠滅完了。
 軽やかになった頭で、スキップしながら、若干鼻歌混じりでみんなのところに向かった。





「ぎ」
「ぎ?」
「ぎゃあああああ!?」
 到着早々、ミシェルくんは涙を流しながら叫んだ。
 セラは固まり、レイは崩れ落ち、ライだははてなマークを浮かべている。
 いや、叫びたいのこっちだから。
 いきなり女の子の顔みて叫ぶってどうよ。
 ぎゃあああああ!? だよ。
 ミシェルくんは、唖然として口をパクパクして、「あ」とか「え?」とか母音ばかり口にしている。
 一番早く復活したセラは、「お前、何したのかわかってるのか?」と問い詰めてきた。
「え、なにって、なにかいけないことしました?」
「髪を切っただろう!」
「あ、はい」
「いいか、この中では、貴族家の血を引くライ、貴族と養子縁組したおまえ、神殿に預けられたミシェルの順で位が高い」
「はあ」
「そして髪が長く艶やかであるほど位が高いととられる」
「ふむ」
「そしてこの中ではお前が一番髪が短い」
「そうですね」
「つまりよくとられて荷物持ち、悪くとられて【×××】に見られる」
 __脳が、シャットアウトした。
 聞きたくない、聞いたら死ぬぞ、と言わんばかりに落とされた場所には、何が入るのだろうか。想像したくない。
 ん? つまりそれ、だいぶやばくなかろうか。
 でも伸ばすつもりはない。ロングはもうこりごりだ。ショートでいい。
 って伝えると、白い目で見られたあと、「そうか」「よかったね」と諦めたように言われた。
 それと、ついでに「これに魔力込めてください」とミシェルくんに言われたので、その__なんかツルツルに磨かれた、手のひら大の石? たぶん魔石ってやつ? に触れると、勝手に魔力(つまりMPの事だろう)が吸い出されていくような感じがした。一瞬で__なんと形容すればいいのか、光の加減で青にも赤にも黄色にも見える、不思議な色に変わった。
 そして、ミシェルくんは、それに何か念っぽいもの__たぶん魔力__をこめるようなそぶりをすると、それがこう、びよーんって、飴みたいな感じに伸びる。それを、くるくるってやると、なんかできた。いやほんとに、普段そこそこある語彙力が全部消え失せるぐらいに、衝撃的な光景だった。アレ、普通に硬かったのに。
 あらためて確認すると、できたのはチョーカーっぽいもの、前世の私には無縁なものだった。
 つけてください、無言の圧力。
 いやはまらないじゃん__と思いつつも、頭から通すとあら不思議、全自動直径調節機能付きチョーカー。頭より少し余裕があるぐらいにまで広がり、首につくと、緩すぎず、締め付けすぎずの絶妙な具合に変化。あらやだ、でもお高いんでしょう? いえいえそんなことはございません。私が用意したのは魔力ぐらい。
 具体的な効果は教えてもらえなかったけど、なんか、頭がすっと冷えた。冷静になった、と言えばいいだろうか? もうちょっといいようもあるかもしれないが、限りなくそんな感じ。
 それだけされると、じゃ、いくか。そういわれて、前衛__ライは歩き出した。
 えいやまって。徒歩? 大体大陸の端から端まで徒歩? この体力で、徒歩?
 しかしそれを当たり前の顔してやってる人たちに文句なんか言えるはずもなく、最後尾から歩き出した。
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