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★あなたの棺
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「さぁ、言ってみなさい、貴方の一番は誰ですか」
足を振り上げ、股間に一発、爪を立てて、首に一発、じゃあじゃあびゅうびゅう、そんな擬音が似合うように、壊れた蛇口をさらに叩いたように、とめどなく血があふれる。死ぬ気配はない。
「ひ、じご、じ、地獄に帰れ、バケモノが!」
どうやっても死にそうにない__いやむしろ生きているのかすらわからないこのバケモノは、何を考えている、そもそも何か考えている? 何か、自分が、触れてはいけないものに触れてしまったのではないか? 誰だ、やつは、いったい、何なのだ。
杏樹は気にもとめない。
「言ってみなさい、ほら、貴方の一番は誰ですか」
「くそ、くそったれが!」
「ねえ聞かせてください、私に、貴方の一番を」
耳元で、優しく、優しく、ささやいた。比喩じゃなくて、悪魔の声だ。甘く低く、腹の奥を膿ませるような声。首をふってのがれようとすると、手の甲と目があって、固まった。顔にあるものとちがい、球体ではなく、ひらべったく伸ばして張り付けたような赤い目は、じぃっと、責めるかのように、こちらを見てくる。
「ほらほら、ほラホらホラ! 怖がることはありません、おべっかも結構です、本当に、私には必要なのです、貴方の言葉が、貴方の心に巣食う最愛は、誰ですか、名前を、名前を言ってください!」
「黙れ、キャベツのクズ! 妻の名以外に誰を望む、お前は私に何を言わせようとしているんだ!」
杏樹は返答に満足したように、笑った。唇を閉じても自然と上がってしまう口角のせいで閉じきれず、不気味な、三日月型の笑み。ベットサイドの棺桶を一瞥して、幸福そうに、私の服をやぶった。
「おい、やめろ、まて」
「遠慮しないでください」
「やめろ、お前、何をする、何をしようとしているんだ!」
「だから、遠慮はいりませんよ、ラディウス・スヴェトルーチェ、なに、あなたは本当にいいお方です、私は貴方ほど一途で盲目な人間を知りませんよ、見た事も食べた事もない」
「脳天ぶち抜かれたいのか!」
部屋中に響く大声に、杏樹はおびえなかった。気にもしない。むしろ、うっとり、聞きほれているようにも見えた、その顔には、
「産めばよいのですよ」
恍惚、がうかんでいた。
いい考えでしょう? と形のいい鼻がつぶれるのもおかまいなしに、ほこらしげに笑った。
「貴方の一番でしょう、貴方がもう一度、うみなおしてあげればよいのです、ジグソーパズルより、よほど建設的な案でしょう」
「……狂っているのか」
「貴方が言うのですか! 人体ジグソーパズルは面白かったですか? はは、うふふふふ。本当に、面白いお方です、ラディウス・スヴェトルーチェ、貴方は」
「……狂ってる!」
みるみる間に肉が削げ落ちたような不健康な薄い腹があらわになる。杏樹はそこに自身の手を当てた、逃げようと身をよじろうが、壁と血の海ぐらいしか見えなかった、では、一体どこに逃げれば正解なのか、そもそも正解などあるのか?
「いいのです、えぇえぇえぇえぇ。ハラがないならつくればいいのですよ、貴方は強いお方だ、内臓のひとつやふたつ、引きずり出してもなかないでしょう? 空いたところに、貴方の細君を孕めばいいのです、名案でしょう?」
「私の事を、食器棚か何かとでも思っているのか、狂人め、離せ、離せ!」
足を振り上げ、股間に一発、爪を立てて、首に一発、じゃあじゃあびゅうびゅう、そんな擬音が似合うように、壊れた蛇口をさらに叩いたように、とめどなく血があふれる。死ぬ気配はない。
「ひ、じご、じ、地獄に帰れ、バケモノが!」
どうやっても死にそうにない__いやむしろ生きているのかすらわからないこのバケモノは、何を考えている、そもそも何か考えている? 何か、自分が、触れてはいけないものに触れてしまったのではないか? 誰だ、やつは、いったい、何なのだ。
杏樹は気にもとめない。
「言ってみなさい、ほら、貴方の一番は誰ですか」
「くそ、くそったれが!」
「ねえ聞かせてください、私に、貴方の一番を」
耳元で、優しく、優しく、ささやいた。比喩じゃなくて、悪魔の声だ。甘く低く、腹の奥を膿ませるような声。首をふってのがれようとすると、手の甲と目があって、固まった。顔にあるものとちがい、球体ではなく、ひらべったく伸ばして張り付けたような赤い目は、じぃっと、責めるかのように、こちらを見てくる。
「ほらほら、ほラホらホラ! 怖がることはありません、おべっかも結構です、本当に、私には必要なのです、貴方の言葉が、貴方の心に巣食う最愛は、誰ですか、名前を、名前を言ってください!」
「黙れ、キャベツのクズ! 妻の名以外に誰を望む、お前は私に何を言わせようとしているんだ!」
杏樹は返答に満足したように、笑った。唇を閉じても自然と上がってしまう口角のせいで閉じきれず、不気味な、三日月型の笑み。ベットサイドの棺桶を一瞥して、幸福そうに、私の服をやぶった。
「おい、やめろ、まて」
「遠慮しないでください」
「やめろ、お前、何をする、何をしようとしているんだ!」
「だから、遠慮はいりませんよ、ラディウス・スヴェトルーチェ、なに、あなたは本当にいいお方です、私は貴方ほど一途で盲目な人間を知りませんよ、見た事も食べた事もない」
「脳天ぶち抜かれたいのか!」
部屋中に響く大声に、杏樹はおびえなかった。気にもしない。むしろ、うっとり、聞きほれているようにも見えた、その顔には、
「産めばよいのですよ」
恍惚、がうかんでいた。
いい考えでしょう? と形のいい鼻がつぶれるのもおかまいなしに、ほこらしげに笑った。
「貴方の一番でしょう、貴方がもう一度、うみなおしてあげればよいのです、ジグソーパズルより、よほど建設的な案でしょう」
「……狂っているのか」
「貴方が言うのですか! 人体ジグソーパズルは面白かったですか? はは、うふふふふ。本当に、面白いお方です、ラディウス・スヴェトルーチェ、貴方は」
「……狂ってる!」
みるみる間に肉が削げ落ちたような不健康な薄い腹があらわになる。杏樹はそこに自身の手を当てた、逃げようと身をよじろうが、壁と血の海ぐらいしか見えなかった、では、一体どこに逃げれば正解なのか、そもそも正解などあるのか?
「いいのです、えぇえぇえぇえぇ。ハラがないならつくればいいのですよ、貴方は強いお方だ、内臓のひとつやふたつ、引きずり出してもなかないでしょう? 空いたところに、貴方の細君を孕めばいいのです、名案でしょう?」
「私の事を、食器棚か何かとでも思っているのか、狂人め、離せ、離せ!」
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