レベルが上がりにくい鬼畜な異世界へ転生してしまった俺は神スキルのお陰で快適&最強ライフを手にしました!

メバル

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第二章【激動編】

【49】ダラル閣下の虐殺

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 ダラルという魔王軍筆頭幹部がいる。
 この世界が創造されて魔王が生まれてから、常に何代にも渡り魔王を支え続けた男だ。
 死んでも何度も蘇り、魔王の為に全てを捧げている男。
 神の領域に達する社畜とも言える。

 今、俺と魔王は将来的に ”こういう世界になったらいいよね” っていう1つの理想を何処かに掲げながら密かに動いている。
 動いていたんだけどねー……

 本当にどの世界にも空気の読めないクズというのは存在するもんだよね。
 俺にも魔王にも予想できなかったおぞましい事件が起こる。

 起こした奴はダラルである。

 ダラルは任された赴任地で、魔王にも知らせず人間の捕虜を掻き集めていたようだ。
 結論的言うと集めた捕虜500人を拷問の上、全員を虐殺したのである。
 その知らせが王国に届いたのは意外と早かった。
 早いのも当然である。
 ダラルは国境の一番目立つ場所に500人の首を刺し並べていたからであった。
 当然知らせを聞いたレーニアは激昂する。
 俺はその時城で、ラーメンを食った食後の一服で至福の瞬間を味わっていたが、知らせを聞いて大きく頭を抱えてしまう。

 魔王は直接ダラルの配下から知らせを聞き、魔王もまた頭を抱えたのであった。

 奇しくも俺と魔王は、同じ言葉を吐露していた。

「クソが……結局こうなるのか……」

 今までの魔王なら良くやったとダラルを褒め称えているだろう。
 今までの俺なら単純に魔王軍に対し即座に臨戦態勢となるだろう。
 だが多少なりとも状況が変わっていた両者にとっては、この上なく不都合な状況であった。

 レーニアがタバコを吸ってる俺の所へ血相を変えて来た。

「ザハル!緊急事態よ!」

「ああ……聞いた」

「何でそんなに落ち着いてるの!?
 大量虐殺されたのよ!もう貴方が止めても私は魔王と戦うわよ!」

「止めておけ」

「何言ってるの!?私は女王以前に勇者なの!
 勇者としての責務を全うするわ!」

「今のレーニアでは勝てん。無駄死にするだけだ」

「例え死ぬことになったとしても、私の責務を……」

「今お前が死んだら残された子供たちや、国民、せっかく1つになりかけた人間たちはどうなるんだ!
 瞬間の感情に支配されてんじゃねー!」

 なんだろう……すげームカついた。
 何となくだけど絶対に勝てない相手に戦いを挑んで、レーニアが死んだとしたら、俺はもう魔王も死んだレーニアも許せなくなる気がした。
 そうなったら俺はもう人間に肩入れをしないだろう。
 それは全てを放棄してしまうことになるので、俺”も”ネグレクト認定になるだろう。

 別に今更言う必要も無かったから言わなかったけど、俺は前世では虐待子である。
 母や兄や親戚から今思っても壮絶な虐待と、成人してからも身内として存在を認めてもらえなかった。
 ずっと寂しい思いをしていたし、ずっと居場所がなかった。正直若くして余命宣告をされた瞬間に、やっと解放されるという安堵の気持ちが大きかった。
 だからこそというのか、俺は自分の子供たちにはそんな思いをさせたくない。勿論、甥っ子や姪っ子達にもね。

 何となく今レーニアが死んでしまうと、張り詰めていた糸が切れてしまう恐怖が大きかったのだろう。それもあり俺は恐らくレーニアに怒ってしまったのだろう。

「レーニア、軍は動かすな。せっかく復興が進んできているんだ。今はこれ以上、人が死んでしまうと復興が大きく遅れる」

「じゃあ見過ごせって言うの!?ありえないわ!」

「そうは言ってない。この件、全て俺に任せてくれ。ダラルの行為は許せない。虐殺の件も見過ごせない。だが軍を動かせばダラルの思う壺。
 たがらこそ俺1人で解決する。俺にはその力がある」

「1週間。1週間以内に解決して戻って来なければ、連合軍で攻撃を開始するわ」

「分かった。恩に着る」

「あんた何するつもり?」

「話した所で理解はしてもらえないだろうが……そうだな、お前には話しておこう。
 魔王と直接話す」

「はぁ!?話して何になるわけ!?」

「な?理解してもらえんだろ?」

「出来るわけないじゃない!」

「じゃあ1つだけ。俺が帰ってくるまでに少し考えてろ。
 理由は魔王は俺たちと同じ日本生まれで、強制召喚された転移者だ。
 転生ではなく転移って所を重要視して考えてみてくれ。じゃあ行ってくる。
 マイム、クラーヌ、ペスカ、レーニアが暴走しないように見張っとけ。
 何かあったらすぐ知らせろ」

「分かった」

「承知」

「御意!」

 俺はそのまま魔王城へ転移した。


 あの日笑い合った城の雰囲気はない。
 物々しい雰囲気に変わっており、俺の出現でこの場に敵意が剥き出しの殺気の目が俺1人に向けられる。

「魔王に会いたい。伝えてくれ」

「誰が会わせるか!」

 ダラルの配下が俺を怒鳴りつけ攻撃態勢に入る。

「今の所、俺に敵意はないんだがな」

「誰が信じるか!お前たち!あの人間を殺せ!」

「まじで面倒臭いな」

 取り囲まれて今にも攻撃がされる瞬間に魔王の声により攻撃が寸前の所で止まる。

「止めよ!ザハルか……入れ」

 俺と魔王は、無言のまま2人だけで話せる場所へ移動した。
 部屋の中でも2人は暫く沈黙し、深い溜息を吐く。
 先に話したのは俺だった。

「お前の配下……空気読めなさ過ぎだろ。
 タイミングがクソ悪くない?」

「お前と会談する前ならば、余はアイツを褒め称えてただろう。
 お前と親睦し、余の中で2つの感情が渦巻いてる。
 1つは、魔王としての感情だ。
 魔王として産まれてしまった為に、どうしても余の中には魔物の王として人間を敵と見なす感情がある。
 もう1つは、お前のお陰で取り戻した人としての感情だ。
 そしてこれは感情ではないのだが、流石にダラルへ対して……今じゃないんじゃない?って思いはお前の言う通りある」

「俺のせいで迷わせちまったのか」

「いや、それは気にしないでくれ。
 この迷いは必要な思いだと思ってる。
 ザハルよ、そなたの望みを聞かせてほしい」

「そうだな。望みは2つかな。
 捕虜として虐殺された者の胴体と首の全返還。
 皆にもそれぞれ国があり、家族があるだろう……残念な結果になったが、最低限として故郷に返してあげたい」

「分かった」

「ダラルに関しては放置できない気持ちはあるが……俺がボコって、はい終わり。ってやっても結局の所、遺恨しか残らんだろう。
 なので、魔王が判断を下してくれ。
 この問題はお前たちで解決したほうがいい」

「よかろう。ん?と、なるともう1つの望みは何だ?」

「この際、停戦と言う名の同盟を結ばねーか?
 ヒューマン属との同盟ではなく、あくまでも俺個人とのだ。
 ヒューマン属も俺には逆らえない。
 結局、俺がキーマンなら俺とお前が同盟を結ぶほうが早い気がするんだ」

「なるほど……余はお前との同盟は歓迎するぞ。
 何よりお前と話しているときは腐った世界や状況を忘れられる」

「俺モテモテじゃん」

「いや、キモいから。余は女が好きだから」

「分かっとるわ!そんな事!」

「人間の遺体を回収次第、お前に連絡すればよいか?」

「頼む」

「少しだけ待っておいてくれ。片付いたら直ぐに連絡する」

「じゃあ俺は一旦戻るよ」

「1つ聞きたいんだけどさぁ、お前はなぜこの魔王城の空気に触れておいて、平気な状態なんだ?ここの空気は人間が吸えば10分と持たずに死滅する毒素が含んであるんだぞ」

「あー、俺には効かないよ。
 毒とか呪いとか、そういう系は触れた瞬間に無効化されるスキルを持ってるからね」

「マ○オが星取ったときくらい無敵じゃん」

「お前もなれると思うよ。多分……」

「何でもありかよ……」

「じゃ、連絡を待ってる」

 俺はその場で転移して城へ戻った。


「ただいま」

「まだ1日も経ってないのに解決したの?
 で?どう解決したのか聞かせてもらいましょうか?」

「いや、まだ解決してない。
 解決したら連絡が来るようになってる。
 それまで待ちって感じかな」

「待ち?何を待つわけ?相手の出方を待つわけ?何を考えてるの?」

「あーもう!うるせーな!だったらお前らで解決できる話か!?
 さらに大勢の人を死なせる結果になって、お前も死んで双方に遺恨だけ残して、無駄な殺し合いを永遠に続けたい訳!?
 そんなに死にてーなら、もう好きにしろよ!
 クソ腹立つわ!おい!マイム!クラーヌ!ペスカ!着いて来い!ダンジョンに行くぞ!
 こんな所に居たら冷静な状態を保てん!」

 俺は魔物たちを強制的に近くに寄せ、無言でダンジョンへ転移した。
 レーニアの気持ちも分かるが、一度任せると決めた以上は任せて欲しいものである。
 俺もだが、今は俺とレーニアが一緒に居るのはネガティブになる。
 少し距離を置こうと考えた。

 マイムが心配そうにしていた。

「ねぇザハルの気持ちも分かるけど、陛下も相当頭を抱え悩んでいたんだよ」

「分かってる!」

「だったらもう少し寄り添ってあげなよ」

「お言葉ですがマイム殿、主はレーニア陛下が自分の命を捨ててでも無謀な手段を選ぼうとしているから、止める為に敢えてきつく接している事をご理解下さい」

「うん……ごめんね、ザハル」

「いい。
 マイム……今アイツを失う訳にはいかないんだ。
 それだけなんだ……それだけは譲れないんだ」

「うん」

「マイム、クラーヌ。よく聞いておいてくれ。
 そうは言っても最悪の事態が起きないとも言い切れない。
 その瞬間が訪れるまでは、レーニアの側で支えてやってくれ……取り敢えずお前たちだけ城に帰す」

「うん」

「勿論だ」

 マイムとクラーヌは俺の覚悟を理解したであろう。賢い奴らだ。見た目はトゥルントゥルンの丸い奴と骸骨だけど、知能は高い。
 一旦レーニアの事は任せよう。
 ペスカには別の話をしておこう。

「ペスカ、それを踏まえての話になるが……
 最悪のときは分かってるな?」

「承知しております。フィリックス皇太子を全力でお守りし私の妻と子供たちでご兄弟たちをお守りすることです」

「それでいい。それと俺は子供たち皆が成人し、レーニアが逝ってしまったら俺は去る。
 後のことは任せるぞ」

「!?それは!」

「永遠にお前たちと会えないわけではない。
 ダンジョンに仲間である魔物達だけで来るときは、会えるさ。
 その時は連絡してくれ」

「し……承知しました」

「すまんな。じゃペスカも戻ってくれ」

 遅れてペスカも城へ帰した。

 これでいい……今はこれでいい。
 繰り返し言い聞かせてる自分がいた。

 数日後、魔王から連絡が入り俺は魔王城へ向かった。当初の予定通り遺体の返還とダラルの処遇を聞いて、そのまま魔王と停戦及び同盟を結んだのであった。

 ダラルの処遇とは、殺した人間の数と拷問内容と拷問時間の合計時間数分、ダラルへ罰として執行したという話であった。

 なかなかエグい罰である。
 言わばダラルは500回、首チョンパされたわけである。
 魔王半端ねー!

 全てのことをレーニアに話すと一応は落ち着いてくれた。
 国境付近で悲運にも亡くなってしまった民たちの為に各国で慰霊碑を建てることになった。
 こんな事をしても誰も帰ってこないけど、何か気休め程度のことでもやらないと、こういう場合は生きている人間が耐えられないのだろう。

 その後に国境付近の警備は、より強固になり悍ましい事件が起きないように徹底した監視体制が敷かれたという。
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