華麗なる離婚同盟

ピグマリオン若口

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エピソード_18

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「ヴェロニカ様、すごい……。」

アイリーンは思わず感嘆の声を漏らした。

その言葉に、ルチアが小さく頷く。

「ヴェロニカ様は元舞台女優なのですよ。…アイリーン様はヴェロニカ・カルデナスというお名前をご存知ではないですか?」

ルチアの言葉に、アイリーンはハッとした。

「カルデナス……?」

その名前は、聞いたことがある。カルデナス家の話は、貴族社会では有名だった。

劇的な恋愛の末に結婚し、華やかな社交界を彩ったロマンス。

そして、突然の没落劇。華やかだった日々から一転しての転落。

それらの噂が頭をよぎり、アイリーンは目の前のヴェロニカを見つめた。

(そんな……すごい人だったなんて……)

なぜ気づかなかったのだろうか。

アイリーンは驚きで言葉を失ったまま、ヴェロニカの背中を見つめていた。



「随分と財力をお持ちの方だとお見受けするわ。…でも、その財を活かして作法をお学びになった方がも良いかもしれないわね。」

「なんだと……!」

ヴェロニカはまったく怯む様子を見せず、優雅に扇を開き、仰いだ。

エドワードは唇を震わせながら言葉を探したが、ヴェロニカの余裕のある態度に気圧されたのか、次の言葉が出てこない。

「あらあら、体調が優れない様子。お帰りになった方がよろしいのでは?」

ヴェロニカは穏やかに微笑み、しかし畳み掛けるような調子で言い放った。

エドワードは顔を真っ赤にして、唇を噛みしめる。

彼が怒りに拳を震わせた、その時だった。

「ええ、そのようですね。」

店の奥から落ち着いた声が聞こえてきた。

エドワードが驚いて振り返ると、店の奥に大きな影が見える。

整った顔立ちに、鋭い目つき。そして、店の入り口でエドワードを止めていた男達よりさらに体格のいい青年が現れたのだった。



青年はエドワードを目に留めると、にこやかに告げた。

「お客様、体調が良くなられてから改めてご訪問願います。」

その口調は丁寧だったが、声には強い圧が込められていた。

「くっそ…!」

彼は怒りを抑えきれない様子でそのまま俯いていたが、結局何も言い返せずにその場を去って言った。

背中を丸め、悔しさに震えるその姿を見送りながら、青年は動くことなく、じっと見つめていた。



「ヴェロニカ様、助かりました。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」

その背中を見送った青年は、やがてゆっくりとヴェロニカの方に向き直った。

「ルイ。あなたもいたのね?」

「ええ、接客で対応が遅くなり申し訳ありません。」

ルイと呼ばれた青年は、先ほどまでの威圧感が無くなり、穏やかな表情を見せた。

その様子に、ヴェロニカは満足げに頷く。

「お手を煩わせました、ヴェロニカ様と、お連れの方。どうぞ中へ。お詫びをさせて頂きますよ。」



---------------------------------------------

「こちらはルイ。私の弟です。」

応接室には温かい雰囲気が広がっていた。

先ほどの緊張感はすっかり消え、ルチア、ルイ、ヴェロニカ、そしてアイリーンは4人で談笑をしていた。



「姉さんが取り押さえればよかったんだ。そうすれば、あんな騒ぎにならずに済んだのに。」

ルイは冗談めかした口調で肩をすくめた。ルチアはそれを聞いて、ため息をつく。

「そんなことをしたら、余計に騒ぎが大きくなってしまうよ。どうやって収めるか、頭を悩ませていたんだから。」

ルチアは疲れが滲んでいる顔で苦笑した。

「でも、さすがヴェロニカ様です。あんな騒ぎを一瞬で鎮めてしまうなんて。本当に助かりました。」

ルチアはヴェロニカを見つめて感嘆の息を漏らした。ルイも深々とお辞儀をする。



「でも驚きました、あの男は従者なのですね。」

ルイがアイリーンの方を向いて言った。ルイもエドワードのことが気になるようだった。

「ええ、そうなんです。それに、屋敷にいた時よりも随分態度が横柄になっていたわ。」

アイリーンは首を傾げながら呟いた。

「まあ、彼は元々横柄だったんだけど…。でも、どうしてあんなにお金を持っていたのかしら…。」

ヴェロニカは腕を組み、険しい表情を浮かべた。

「あの金貨の入った袋、ルチアも見たでしょう?普通の従者ならあんなお金を持っているはずがないわ。」

ルチアとルイも顔を見合わせ、同じように眉をひそめる。

4人はしばし沈黙し、思考を巡らせた。



「待てよ……聞いたことがあるぞ。」

ルイが何かを思い出したように声を上げた。

「接客していたお客様が、別の店でおかしな男を見たと言っていた。もしかしてあいつのことじゃないのか?」

その言葉に、4人の表情が硬くなった。

「えっ、他のお店でも同じことをしていたの!?」

「そのお客様が言うには、貴族じゃないのに、高価な品を買っていたから、気になっていたんだと。」

「なんですって?」

ルチアが驚いたように目を瞬かせる。

「話を聞くと、自分用の買い物みたいだったそうなんだ。おかしいだろ、平民じゃ手を出せるはずもない高額な商品ばかりをだぞ。」

「どう考えても、おかしいわね。」

ヴェロニカは静かに扇を広げ、その瞳を鋭く光らせた。

4人の間に、重い沈黙が流れる。

「…何か、関係があるのかもしれないわね。アイリーンとの離婚騒動に。」

確信めいた調子で言うヴェロニカに、アイリーンは背筋が冷たくなるような感覚を覚えた。

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