人類消滅計画

スーツ女子

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第一章 思想の形成

思想の形成

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 現在の世界を言葉で表すなら、混沌。この言葉に尽きる。
終わらない戦争、生産され続ける核兵器、埋まらない貧富の差、常に感じる人間の負の感情。
これらは全て私たち人間が生み出したものだ。
人間は賢い。それはどの生物より優れているといえるだろう。
だが、この負の連鎖から脱することができなくなってしまった。
そこには感情があるからなのだろうか。
私は人類が怖く、それと同時に愚かだと感じた。



「はい!」
「それじゃあ、田中くん。」
「道徳と正義によって、葛藤が起きたのだと思います!」
「そうだね。主人公はここで道徳や倫理を優先するか、秩序や社会的正義のどちらを優先するか判断を迫られたわけです。」

今は現代文の時間だ。今、私は授業を受けている。小学校と中学校を無難に過ごし、普通に入った偏差値54の高校。何もかも普通に生きていたと自覚している。親は共働き、そして一人っ子だ。
でもそんな私も、一つだけ普通じゃないところがある。
それは昔から思想が強すぎることだった。
小学生の頃に私は疑問を抱いてしまった。
なんでみんな平等じゃないの?と。
私は給食費を毎回遅れて出すクラスメイトを見てそう思った。私はこんなものは払えて当然。たかだか5000円でしょ?なんで払えないことがあるの?
そして私は、クラスメイトのいじめに加担した。給食費の払えない彼に貧乏神とあだ名をつけて呼んだり、貧乏がうつるからこっちくるな!と言ったり、時にはコラスメイト全体で無視したりした。
私は主犯格ではないが、加担者であることは間違いない。
そして彼は小学6年の春に川に飛び込んで自殺した。浮いていた黒いランドセルが今でも夢に出てくる。その後、みんなで罪を隠した。あいつがふざけて橋から飛び降りたのだと証言した。本当は皆で飛び降りろと言ったのに。
私はその日から、人は簡単に同族を殺せること、そして償うことは非常に難しいことを学んだ。
そしてクラスメイトの主犯格の女の子の父が、その事件を事故として処理した。
その女の子の父は警察署長だった。私はそれを知り、権力は盾にも矛にもなることを知った。
中学に入ってからは、いろんな本でとにかく世界中の統治者、独裁者、思想、政治学について勉強した。
5教科の勉強は全くしなかった。唯一できたのは、社会だけだった。
そんなこんなで今に至る。

キーンコーンカーンコーン

「はい授業はこれまで。みんなプリントの問3だけやっといてね。」
「「はーい」」


私は本を取り出した。
ドイツのとある独裁者について書かれた本だ。
「もう!雪はいつも本読んでる!せっかく可愛いんだから、もっと高校生らしく生きようよ!」
「うーん。あんまり興味ないかな。」
この話しかけてきた子は小学校の頃からの友達の夏樹。私が唯一話す人でもある。
「流石に女子高生が独裁者の本はないよw」
「私が好きで読んでるだけだから、色々気になるし。」
「ふーん。相変わらず変わってるね!そういえば今日クラスメイト6人とカラオケに行くんだけど、雪も来ない?」
「私は行かない。」
「りょーかーい。」
彼女はそれを聞くと離れていった。こんな素っ気ない私にも話しかけてくれる、優しい友達だ。
そして授業が始まり、また本を読む。私の高校生活はこの繰り返しだ。部活には入ってないから、家には速攻で帰れる。いわゆる陰キャ女子なのだろう。


帰り道、私は揺れる電車の中で、本を読んでいた。大衆は無知で愚かである。この言葉について考えてもいた。
確かに大衆は無知であり、愚かであると言う点にも共感はできるが、さらに言うなら、それを世に出したら、自分も愚か者の一人なのかもしれないと感じた。
その発言が独裁者の発言として書かれている時点でその本を読んだ人々はその発言によって、彼に対する評価を良くも悪くも変えるだろう。私はこの独裁者には人を小馬鹿にしたような気持ちもあったのかなと思った。

「次は、近衛島~近衛島~お出口は左側です。」
そんなことを考えてる間に駅に着いてしまった。こんな本ばかり読んでいるから、中学生の頃から、狂人と呼ばれるのだろう。


だが、私もそして周りも皆、その人が狂人なんてものではなく、一人の破壊者であり、世界最悪の独裁者になるということは、知る由もなかった。


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