『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』

髙橋彼方

文字の大きさ
16 / 18
リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン

『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』3

しおりを挟む
「私の家でアンタたち、一体何してんのよ!?」

 破裂音で目を覚ましたリプイは、急いで台所へ向かうと、蒸気と豚臭さのせいで思わず咳き込んだ。

「ゲホゲホ……。もう勘弁して!」

 段々と蒸気が晴れると、そこには黒光りで今まで以上にパンプアップしている、全身がまるで鋼鉄の様なシュリルの姿があった。
 シュリルの顔を見ると、白目をむいて小刻みに震えていた。

「おい! 大丈夫か!」

 急いで龍拓とリプイが駆け寄ると、意識を取り戻して黒目へ戻り、とろけるような満面の笑みを浮かべた。

「うまあぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 シュリルが思いっきり叫ぶと、その風圧で目の前に居た龍拓の顔がブルブルと揺れた。

『バキバキバキ!』

 座っていた椅子が、シュリルの体重に耐えきれずに壊れた

「もう、何やってんのよ! 後で弁償してよね!」

 リプイの声を気にもせず、シュリルはあぐらをかいて一心不乱に食べ続けた。

「この肌は一体……」

 恐る恐る龍拓はシュリルの肩を軽く叩く。

『キィィイン!』

 甲高い金属音の様な音が聞こえて、不機嫌だったリプイも目を見開くと、テーブルのアイテムボックスから青い眼鏡型のデバイスを取り出した。

「まさか!」

 リプイはデバイスを掛けてシュリルをスキャンすると、額から汗を流していた。

『レベル49 攻撃力120 守備力115 魔力18 スピード56』

 思わず息を呑むと、リプイはシュリルが持つどんぶりを凝視した。

「攻撃力値が120なんて、国代表勇者選手権・・・・・・・・の出場基準を大きく上回っているわ……」
「その国代表勇者選手権って何なんだ?」

 龍拓の質問を聞くとリプイは顔が曇ると少し俯く。

「三十三年に一度、魔王が世界征服をするため目覚めるの」
「魔王!?」
「ええ。魔王が目覚めると魔王城へ続くゲートが現れるんだけど、通れるのは六人だけなの」
「たった六人しか通れないのか。魔王ってくらいだから強いんだろ?
 それに三十三年に一度目覚めてるってことは誰も……」
「そう。魔王を完全に葬ることは出来ていないの。
 体の中にコアがあって、それを破壊さえ出来れば良いみたいなんだけど……。
 そのコアがどうしても破壊出来ないんだって」
「じゃあ、その国代表勇者選手権ってのは魔王を倒すための勇者を選ぶものなんだな」
「その通りよ。勇者のパーティーは三人一組っていう決まりがあるから、各国の代表同士が戦って、勝ち抜いた二組が魔王に挑めるの」
「じゃあ、俺らも勝ち抜いたら魔王に会えるんだな! どんな出汁が出るんだろう」

 龍拓は目をキラキラさせる。

「魔王を食べる気!? どんな神経してるのよ! 
 それに選手権を勝ち抜くなんて……」
「そんなに勇者のパーティっていっぱい居るのか?」
「一応、この世界は大きく分けて四つの王国によって出来ているの。
 そして、それぞれの国が公認勇者というのを五人まで任命できる。
 シュリルもその一人。勇者はギルドに加入しているハンターの中から、今までに討伐したモンスターのレベルで選ばれているわ」

 一心不乱にラーメンを食べるシュリルを、龍拓はじっと眺める。

「なるほどな。どうりで強いわけだ。
 出場するには何人倒せば良いんだ?」
「私たちを含めて、ロイアルワには勇者パーティーが五組居るわ。
 その中から、大会前までに討伐したモンスターのレベルが高い二組が代表戦に出場できる。
 それを、各国がおこなって最終的には八組で争う感じね」
「なら確率高いじゃないか! シュリルは強いし、リプイもパワーアップしたしな」
「ちょっと! 私は代表勇者パーティーになんてなりたく無いわ! そんなのになったら、凄い強い奴らと戦う羽目になるのよ!」
「そうなのか。残念だな。リプイの場合、昨日会ったパーティと因縁があるみたいだったから、負かす良いチャンスだと思ったんだがな」
「それは……」

 リプイは俯くと、話を逸らす様に再びシュリルのステータスを見出した。

「他に大きく変わった数値は……。
 げっ! 守備力値115だなんてA級モンスター程度では傷一つさえ付けられないよ!」
「そんなに強くなったのか! A級って昨日戦ったギウマニールたちのことだろ……」

 二人がステータス値の話で夢中になっている間に、シュリルはどんぶりのスープを一気に飲み干した。

「なぁ、龍拓! このラーメンは本当に最高だ!
 おかわりを頼む!」

 そう言うと、シュリルは龍拓に向かってどんぶりを差し出した。

「お、おう。ラーメン旨かったんだな! 良かった!」

 龍拓は嬉しそうにどんぶりを受け取ると、急いで二杯目の準備を始める。

「なぁリプイ! お前もラーメン食えよ!
 味も絶品だし、きっとパワーアップするぞ!」

 シュリルの言葉を聞き、リプイは台所に立ち込めていた嫌な豚臭さを思い出した。

「ちなみに、ラーメンの具は何なの?」
「ああ。 ホルモンだ」

 龍拓が答えると、リプイは首を傾げた。

「ホルモンは内臓だぞ! これが旨いんだぁ!」

 答えを知った途端、リプイの顔は引き攣らせた。

「内臓なんて食べる場所じゃないわ! だって……」

 顔を青くして俯くリプイを、龍拓とシュリルは不思議そうに見つめた。

「だってどうしたんだよ?内臓は旨いんだぞ?」
「美味いとかそういう問題じゃ無いのよ!
 だって……。見た目がグニュグニュしてて気持ち悪いじゃない!
 それに、腸にはウンチが通るのよ! そんな場所を食べるなんて……」

 腕を組んでシュリルはリプイに向かって頷いた。

「なぁリプイ。好き嫌いはダメだぞ! 強くなりたければ食うのだ!
   そういう訳で龍拓、もう一杯頼む!」
「あいよ!」
「わ、私は……」

 リプイが躊躇している間に、龍拓は手早く二杯のホルモンラーメンを作ってテーブルに置く。

「出来たぞ! 冷めないうちに食べてくれ!」

 いざ目の前に置かれると、豚臭さの中に紛れたコッテリとして食欲をそそる香味油の香りが、リプイの胃袋を意識とは別に刺激した。

『ぐぅぅぅう……』

 リプイは恥ずかしさから、頬を赤らめて俯いた。

「よし、俺が食べさせてやる!」

 シュリルは笑みを浮かべて、リプイの目の前に立つと、席に座らせて左手で顎あごを掴むと無理やり口を開けた。

「はい、アーン!」

 右手でフォークを掴み、大きく掬くったホルモンラーメンを口に放り入れると、口を左手で塞いだ。
 口パンパンに詰め込まれたリプイは、動揺して手足をばたつかせた。

 うっ……美味いぃぃぃぃ!
 クネクネ、そしてねっとりとしたホルモンが私の舌を絡めとってる……。

 リプイの脳内では顔がやたらと美化された、王冠を被った特殊個体ギウマニールに、顎クイをされて見つめ合っているビジョンが流れていた。
 そして、優しい接吻をされるとリプイの目がとろけた。

『ズギュュュン』

 最初、噛んだ瞬間は何だかガムを噛んでいるような食感だなと思ったんだけど、噛めば噛むほど旨みのあるジュースが出てくる!

 堪らずリプイは蓮華を持つと、スープを一口飲んだ。

「はぁ~ぁ」

 幸福に溢れたため息を吐くと、リプイは再び自分の世界へ飛んだ。


 更に美化され、ただ豚鼻を付けたイケメンの見た目をしている特殊個体ギウマニールがリプイを優しく抱擁ほうようした。

「リプイ。俺の味はどうだい?」

 野太くて甘い声で喋る美化特殊個体へ目をトロンとさせると、目を見ながらゆっくりと頷いた。

「最高ですぅ♡」

 リプイの返事を聞くと、美化特殊個体は安堵の表情を浮かべた。

「良かった……。最初にホルモンは苦手って言ってたから、凄く心配だったんだ」
「ごめんなさい。私、内臓って聞いたから偏見で警戒しちゃっていたの……。
 そんな部位、食べる場所じゃ無いって」

 悲しそうな表情を浮かべる美化特殊個体の頬を、リプイは優しく撫でた。

「でも、あなたのお陰で変わったわ! だから、そんな顔しないで」

 美化特殊個体は頬にあるリプイの手を優しく握ると、優しく微笑んだ。

「じゃあ、俺のこと最後まで食べてくれるか?」
「もちろんよ」

 お互いを見つめ合うと、二人は熱いキスを交わした。


 一心不乱に食べるシュリルとは違い、リプイは味わうように噛み締めて食べていた。

「ダーリン……」

 龍拓は思いもよらないリプイの一言に凝視する。

「えっ?」

 リプイは視線に気が付くと頬を赤くして、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「なぁ、龍拓は食べないのか?」
「ああ。俺はさっき味見で食べたからな」

 シュリルは再びどんぶりを空にすると、龍拓を見つめた。

「まだあるか?」
「あるぞ。でも、まだ食うのか?シュリルのやつは麺も二玉入れてるんだけど」
「ラーメンが旨いからな! これならいくらでも食べられるぞ!」
「そりゃ最高の褒め言葉だ! だけど、鶏がらスープが一杯分しか残ってないからこれが最後だな」
「え! もう無いのか……」

 シュリルはまるで子犬の様にシュンとすると、魔術鍋を物欲しそうに見つめた。

「また近いうちに作ってやるさ。材料はまだあるからな」
「本当か! 頼んだぞ!」
「おう」

 どんぶりを受け取ると、龍拓はスープを温め直した。


To Be Continued…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

処理中です...