上 下
156 / 206
15.スイート・キング7

1-1

しおりを挟む
 八月二十日に、礼慈さんが三十一才になった。
 お祝いは、わたしの分とまとめてしようと思っていたら、「俺の分はともかく、祐奈の誕生日は、ちゃんとお祝いしたい」と礼慈さんが言ってくれた。
 それで、歌穂とも相談して、二十日は歌穂と沢野さんと四人でお祝いして、わたしの分のお祝いは、二十七日に二人だけですることになった。

 今日は、朝から部屋の掃除をしていた。
 礼慈さんは、お昼ごはんの買い出しに行っていた。お昼は、買ってきたものを出すだけにするんだって。
 服は、一枚で着られるワンピースにした。赤い、綿のワンピース。ちょっと派手かなと思ったけれど、礼慈さんは「かわいい」とほめてくれた。うれしかった。

 十時すぎに、歌穂と沢野さんが来てくれた。
「こんにちはー。いらっしゃい」
「お邪魔します」
 歌穂と沢野さんの声がそろっていて、おかしかった。
「どうぞ。入ってください」
 二人が靴を脱いでから、玄関の鍵をしめた。
 歌穂は、上は半袖のTシャツ。下はスカートだった。
 藍色のTシャツは、沢野さんとおそろいになっていた。

「リビングでいい?」
「いいよ」
 リビングのラグマットの上に、座ってもらった。
「歌穂ー。ずいぶん、髪がのびた感じ」
「へん?」
「ううん。のばしたくなったの?」
「わかんない。ずっとボブだったから。
 のばしたら、どんなふうになるのか、興味はあった」
「かわいいよ!」
「……ありがと」
 てれてるみたいだった。
「沢野さんも、少し髪がのびたみたい」
「そうなんだよね。そろそろ、切らないと」
「のばすと、だめなんですか?」
「仕事のこと? まあ、そうだね。常識の範囲内で。
 海外だと、長髪の弁護士もいるけど。日本では、あまりいないね」
「そうなんですね……。お茶、入れてくるね」
 キッチンでお茶の用意をして、座卓まで持っていった。
「ありがとー」
「ありがとう。西東さんは?」
「お買い物してる。お昼はね、買ってきちゃうの」
「そうなんだ」
「うん」

 十時半くらいに、礼慈さんが帰ってきた。パン屋さんで、サンドイッチとかを買ったみたい。
「ここ?」
「はい」
 礼慈さんが、ラグマットの空いてるところに座った。
「お邪魔してます」
「うん。いらっしゃい」
「礼慈。祐奈ちゃん。お誕生日、おめでとうー。
これ。僕から」
 沢野さんから、プレゼントをいただいた。わたしと礼慈さんに、それぞれ用意してくれていた。
「ありがとうございます」
「商品券?」
「ちがうよ。図書カード」
「わあ、うれしい」
「ありがとう」
「あたしからも、あります」
 歌穂が、礼慈さんとわたしに、プレゼントをくれた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「おめでとう。ちょっと、早いけど」
「うん。ありがとうー」
 わたしの誕生日は、明後日の二十二日。
 だから、今はまだ二十四才。
 歌穂からのプレゼントは、大きめだった。
「開けていい?」
「うん」
 きれいな花柄の包装紙だった。そっと開けていくと、中に、白い箱が入っていた。
 箱のふたを開けた。
 籐でできたバッグだった。ころんとしてる。上から見ると、楕円形だった。
 バッグにはふたがあって、ぱちんと留められる金具がついてる。
 赤いリボンが、取っ手についてる。リボンは、つけたり、外したりできるみたい。取っ手に回されてる部分には、スナップがついていた。
 籐の色は白っぽくて、真新しい感じがした。手ざわりもいい。
「かわいい……」
「もう、持ってるかもしれないけど」
「ううん。ない。大事に使うね」
「……うん」
「礼慈さんは? なにをもらったの?」
 わたしの横にいる礼慈さんが、「モササウルス」と言った。
「えっ?」
「後期白亜紀の海の王者。それが、モササウルス」
「それ、めんどくさい話?」
 沢野さんが、まぜっかえした。
「そうでもない。陸の王者がティラノサウルス。海の王者がモササウルス」
「モササ……」
 言おうとしたけれど、うまく言えなかった。
「海の猛者もさなんだね」
「ああ……。そうですね」
「え、わかんない。どういうこと?」
「猛々しいっていう字は、『もう』って読むでしょ。それに者で、『もさ』って読むの。
 強い人ってこと」
「ただのオヤジギャグを、そういうふうに解説されると、はずかしいね」
 礼慈さんは、両手で持ったモササウルスのフィギュアを、愛おしそうに眺めていた。けっこう、大きい。
「これ、歌穂さんが選んでくれたの?」
「そうです」
「すごく嬉しい。ありがとう」
 指先で、モササウルスの頭を撫でている。
「僕には、さっぱりわからないんだよね。恐竜のよさが」
「俺には、チェスの楽しみ方は分からないよ。お互いさまだな」
「だよねー」
「飾ってくる」
 モササウルスのフィギュアを片腕で抱くように持って、礼慈さんが立ち上がった。
「いってらっしゃい」
 沢野さんが、礼慈さんの背中に向かって言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,435pt お気に入り:4,186

【R18】カラダの関係は、お試し期間後に。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:165

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,265pt お気に入り:33

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,519pt お気に入り:846

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:584

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,627pt お気に入り:139

処理中です...