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2.伊勢くんが書いた小説「ダークムーンを救え!」
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次の日は、朝から西に向かう旅の準備をした。
フソウさんから、いろんなものを渡された。あらかじめ仕組まれてでもいたかのように、なにもかも用意されていた。
革の鞄。保存食と、水を入れる竹筒。携帯用の硯箱と紙。
武具と鎧も渡された。
鍛えられた鋼が美しい刀。藍の木綿で作られた小手。白い脚絆。そして、簡素な鎧。身につけると、自分が自分ではなくなったような不安を感じた。
カツキは平然としていた。この変わった貴人にとっては、武道は慣れ親しんだものなのかもしれなかった。
夕方、ミハルちゃんが母屋の客間に来た。
ミハルちゃんは落ちこんでいて、元気がなかった。
心ない人たちから、ひどいことを言われたらしい。神託の内容は知らない様子だったけれど、自分のせいで、おれとカツキが旅に出ることになってしまったと言って、泣いてしまった。
カツキと二人で、ミハルちゃんのせいではないと話したり、必死になぐさめたりした。そのかいあってか、ミハルちゃんは少しずつ元気になっていった。
ミハルちゃんと入れかわるように客間に来たミカちゃんからは、「命を大事にしなさい」と言われた。ありがたかった。
夜には出立することになった。
見送りはいらないというカツキの意を汲んで、誰も来ないことになった。
一人だけ、おれがカツキに頼んで、会うことを許してもらった人がいた。
ミハルちゃんだ。
約束の時間に、里の検問所で待っていた。
遠くから、ミハルちゃんが近づいてくるのが見えた。
「ミハルちゃん」
「聞こえないだろ。ここからじゃ」
「……分かっとる」
ミハルちゃんは、きれいな紅色の着物を着ていた。こんな着物を持っていたのかと思ってから、はっとした。これは、お母さんがよく着ていたものだ。
なつかしさと愛おしさを感じて、切なくなってしまった。
うすい布で巻かれた箱のようなものを二つ重ねて、腕に抱えていた。
「お弁当、作ったんよ。マサトくんとカツキくんの分」
「おー。ありがとうな」
「どうもー」
「いってらっしゃい。無事に帰ってきてね」
「うん」
「はーい」
カツキが、おれから離れていくのが分かった。
「おい」
「二人で話しなよ。僕は、このへんにいるから」
これが最後かもしれない。不吉な予感が胸を焦がした。
「ミハルちゃん。あのな……」
「うん?」
言えなかった。ミハルちゃんは、信じきったような目でおれを見ている。
この子を置いて、遠くへ行くのか。現実だとは思えなかった。
「行ってくるわ」
「うん。無理しないでね。待っとるから」
「うん……」
抱きしめたい。強く思った。できなかった。
なにも持たない手を、ぐっと握りこんだ。爪が手の平に食いこむくらいに。
「どうしたん?」
「ううん。なんもない。見送りは、ここまででええから。
ミハルちゃんも、気をつけてな」
「うん。ありがとうー」
ミハルちゃんから離れて、カツキのところへ戻った。
「お別れは、すんだ?」
「ミハルちゃんと別れるわけやない」
「知ってる。そろそろ行こうよ。夜明け前には出たい」
「分かった」
フソウさんから、いろんなものを渡された。あらかじめ仕組まれてでもいたかのように、なにもかも用意されていた。
革の鞄。保存食と、水を入れる竹筒。携帯用の硯箱と紙。
武具と鎧も渡された。
鍛えられた鋼が美しい刀。藍の木綿で作られた小手。白い脚絆。そして、簡素な鎧。身につけると、自分が自分ではなくなったような不安を感じた。
カツキは平然としていた。この変わった貴人にとっては、武道は慣れ親しんだものなのかもしれなかった。
夕方、ミハルちゃんが母屋の客間に来た。
ミハルちゃんは落ちこんでいて、元気がなかった。
心ない人たちから、ひどいことを言われたらしい。神託の内容は知らない様子だったけれど、自分のせいで、おれとカツキが旅に出ることになってしまったと言って、泣いてしまった。
カツキと二人で、ミハルちゃんのせいではないと話したり、必死になぐさめたりした。そのかいあってか、ミハルちゃんは少しずつ元気になっていった。
ミハルちゃんと入れかわるように客間に来たミカちゃんからは、「命を大事にしなさい」と言われた。ありがたかった。
夜には出立することになった。
見送りはいらないというカツキの意を汲んで、誰も来ないことになった。
一人だけ、おれがカツキに頼んで、会うことを許してもらった人がいた。
ミハルちゃんだ。
約束の時間に、里の検問所で待っていた。
遠くから、ミハルちゃんが近づいてくるのが見えた。
「ミハルちゃん」
「聞こえないだろ。ここからじゃ」
「……分かっとる」
ミハルちゃんは、きれいな紅色の着物を着ていた。こんな着物を持っていたのかと思ってから、はっとした。これは、お母さんがよく着ていたものだ。
なつかしさと愛おしさを感じて、切なくなってしまった。
うすい布で巻かれた箱のようなものを二つ重ねて、腕に抱えていた。
「お弁当、作ったんよ。マサトくんとカツキくんの分」
「おー。ありがとうな」
「どうもー」
「いってらっしゃい。無事に帰ってきてね」
「うん」
「はーい」
カツキが、おれから離れていくのが分かった。
「おい」
「二人で話しなよ。僕は、このへんにいるから」
これが最後かもしれない。不吉な予感が胸を焦がした。
「ミハルちゃん。あのな……」
「うん?」
言えなかった。ミハルちゃんは、信じきったような目でおれを見ている。
この子を置いて、遠くへ行くのか。現実だとは思えなかった。
「行ってくるわ」
「うん。無理しないでね。待っとるから」
「うん……」
抱きしめたい。強く思った。できなかった。
なにも持たない手を、ぐっと握りこんだ。爪が手の平に食いこむくらいに。
「どうしたん?」
「ううん。なんもない。見送りは、ここまででええから。
ミハルちゃんも、気をつけてな」
「うん。ありがとうー」
ミハルちゃんから離れて、カツキのところへ戻った。
「お別れは、すんだ?」
「ミハルちゃんと別れるわけやない」
「知ってる。そろそろ行こうよ。夜明け前には出たい」
「分かった」
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