ステイ・ウィズ・ミー -狭いワンルームに、友人たちが集まってくる話-

福守りん

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 翌朝。ヒサが荷物をまとめていた。
「ヒサ。帰るのか」
「さっき、電話かかってきてさー。帰っておいでって、有紗に言われたから」
「よかったな。もう、ケンカするなよ」
「わかってるよ。どこにも行かないで、二人だけでいると、つい……。お前らと話して、気持ちがずいぶん変わったわ。
 俺は仕事もあるし、彼女もいるし。何が不満なんだよって言われても、しょうがないよなー」
「気づけて、よかったな。気をつけろよ。どこで感染するか、わからないから」
「うん。ありがとうなー。オカモン、栄ちゃん。またなー」
「まだなー」
「バイバイ。気をつけてね」

 ヒサを見送ってすぐに、栄ちゃんが「帰る」と言いだした。
「僕も、実家に戻るよ。借りてる部屋は、退去するつもり」
「そうだ。そもそも栄ちゃんは、どうして、俺のところに来たんだよ」
「親とケンカして……。『大学院なんかに行ったから、就職先がなくなったんだ』って、言われて……。でも、違うんだ。本当はアンロックのせいだって、僕も親も、わかってる。内定を取り消されたのは、僕のせいじゃない……と、思う」
「それ……。なんで、言わなかったの」
「言っても、どうしようもない。研究したかったのは事実だし……。栃木の大学院にしたのは、少しでも家族のそばにいたかったから……。
 こんなことになるって知ってたら、きっと、院は諦めてた」
「間違ってないよ。その選択が正しかったって思える日が、ちゃんと来るから」
「だと、いいね……。『フリーターにさせるために、院まで行かせたんじゃない』って言われて、切れちゃって。学費も生活費も、全部親持ちで、東京まで出てきて……。その結果が、これってね。僕が親だったら、がっかりするだろうなって。
 親の気持ちがわかるから、余計につらかった……」
「頑張れよ。たまには、帰ってきていいから。まあ……数ヶ月とかなら」
「いいね。それ。東京の方が、時給も高いしね。
 ありがとう! またね!」

 岡田と俺だけが残された部屋で、とほうに暮れた。
 岡田は、疲れたような顔をして座りこんでいる。向かい合うように腰を下ろした。
「お前は、帰らない……よな」
「んだな」
「家、どうなったんだよ。全壊したのか?」
「わがんね。まー建てかえになるべな。でごじゃれちったんだ。しゃーあんめー」
「お前の言葉って、雰囲気で受けとめてるけど、まじで意味不明な時あるぞ」
「かまねよ。好きなよーに、聞いてくれっけ」
 どこか投げやりに聞こえた。
 ふっと顔を上げて、岡田が俺を見る。
「アンロックが人だったら、ひゃっぺんくれー、殺してやりてーな」
「おい。岡田……」
「ウイルスだかんな。なじょーにも、できねーな」
 狂気をはらんだ目をしていた。ぼんやりしているように見えて、実のところ、岡田はとても鋭い。大学の頃から、わかっていた。
「就職、どこか決めてるのか」
「なんも」
「そう、か」
 殺気のようにも感じられた気配が、岡田からはがれ落ちていく。
 視線を下に落とした姿は、ひどく弱々しく見えた。
「俺の会社は、まだ体力ありそうだからさ。不本意かもしれないけど、バイトとかから始めて……。また就職するまでは、ここにいていいから」
「そげなわけには……」
「いいから。家が建つまで、家族は仮設住まいなんだろ? ここの方が気楽……かもしれないだろ」
「んー」
「家事とか、してくれれば」
「家事は、すっけど。ふつうに」
「つらい思いをしてるのは、お前だけじゃないからな。バカなこと、考えるなよ」
「んだ、な」
「ヒサも、栄ちゃんも、お前自身も、忘れてるみたいだけど……。
 お前は女の子なんだから。ほんとは、俺のところになんか、来ちゃだめだったんだよ」
「ほーかい」
「仕事してた時の写真とか、ある?」
「……ん」
 スマートフォンをいじって、画面を俺に向けた。
 マスクをしていない岡田薫が、口をあけて、楽しそうに笑っていた。紺色の小さな帽子をかぶって。同じ色の、ジャケットとスカートの制服を着て。
「美人……だよな」
「いや、どーも」
「かわいい」
「……」
「どうして、俺に会いに来てくれたの?」
「会いたかったから。そんだけ」
「嬉しい」
「そんなら、いがった」
 空気の色が変わった。落ちつかない気分だった。
 二人きりになってから、手汗がひどい。
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