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6 結婚しない理由(わけ)
しおりを挟む「葵(ひとみ)さん、お待たせしました」
静かに弥生が言った
「どうだった?」
葵(ひとみ)は期待と不安の入り交じったような声で言う
「大丈夫。貴方方は結婚するでしょう。水晶からのお告げです」
「マジ!?弥生っ、いや雲蘭先生!これで私幸せになれる!雲蘭先生!有り難うございます!」
「神の御加護を」
そういって電話を切ろうとすると
葵(ひとみ)がさえぎった
「所で弥生はどうなの?和茂さんて人と?結婚しないの?」
「う…うん…」
弥生は少し返答に困った
「何でよあの遊び人の弥生が4年も付き合ってるなんてギネスもんだよ」
確かに年下好き不倫オーケー最長付き合い期間半年の苦い恋愛経験をもつ弥生にとって和茂との付き合いは意外な現象だった
「別に結婚はしなくていいかな?今更家族増やしたくないし…体の事もあるから…」
少し落ち込むように言う弥生に
「そんな事気にしなくて大丈夫だよ。弥生、和茂さんと付き合いだしてから病気も良くなってるじゃん」
葵(ひとみ)が元気付けるように言った
「後…」
弥生が口ごもる
「和茂さん、デキナイし…あっちの方…」
「えっ? そーなの?」
「うん…。約4年間してない。私クモの巣張ってる」
「マジで? あの弥生がっ? あり得ない!」
和茂はエッチが不能な男で弥生は5年前の夏に肺ガンと診断された女なのだ
「葵(ひとみ)にがんだって言った時、『後5年だね』って泣かれたけどお陰様でまだ生き延びてるわ」
と2人で笑った
「デキナくても弥生が付き合ってるなんてどんな人なのかな?」
葵(ひとみ)が興味深そうに言った
「うん。デキナイんだけどね…あの…その…何て言うか…最高のテクニック持ってるのよ…」
弥生がモジモジと恥ずかしそうに言う
「最高のテクニック?どんな?」
葵が益々興味深々に聞いた
「内緒よ内緒」
弥生はほくそ笑みながら言う
「何?何?ズルい!教えてよ」
葵が突っ込んで聞く。
「フフフ」
弥生は勿体ぶる
「会ってみたいわぁ。その和茂さんて人に」
葵(ひとみ)の興味がピークに達していた
「今度『雅』に連れてくね」
弥生はそう言って電話を切った
すっかりお日様もお目見えしていた。
シャワーを浴び終え身支度を整えるとお薬タイム
「うぇー、気持ち悪りぃ。これでお腹一杯になるわ」
水晶の前で電話を待つ
般若心経が流れる
「はい。雲蘭(うんらん)です」
「初めまして雲蘭先生」
「こんにちは。お悩みはなんでしょう?」
「お付き合いしている人が既婚者なんですけど私の事本気でしょうか?それとも遊びでしょうか?」
「わかりました。ご相談者様のお名前フルネームを教えていただけますか?あと生まれた時のお名前を教えて下さい」
「杉山洋子です。生まれた時から変わっていません」
「わかりました。お相手のフルネームと生まれた時のお名前を教えて下さい」
「佐々木洋介。彼も名前変わっていないと思いますが…」
「わかりました。お待ち下さいね。水晶からのお告げをきいてみましょう」
水晶に手をかざす
「お待たせしました。大丈夫。洋介さんは奥さんよりも貴方の事の方が好きですよ」
「えっ!本当ですか?!有り難うございます!」
「神の御加護を」
午後4時半
ウエストミンスターの鐘の音
今日の雲蘭先生のお仕事は終了だ
弥生は水晶の前で深くため息をつくと首をゆっくり回した
キッチンに行き薬を飲み込んでからインスタント珈琲を入れる
実の所、弥生はインスタントも好きなのだ
冷凍庫からガラガラと氷を出してアイスにする
朝以外はいつもそうだ
リビングのベンチチェアに座りゆっくりとそれを飲んでいると部屋のチャイムが鳴る
(あっ、和茂さんだ)
弥生は小走りに玄関へ行き和茂を迎え入れる
「日が短くなったな」
「そーね」
弥生が言うと
何も言わずにリビングに上がり込みさっさとベンチチェアに座る和茂
「赤い水」
低い声で言う
「もう、それしか言うこと無いのかしら?全く呑み過ぎよ」
弥生が嗜めると
「ワインは酒じゃねぇ。赤い水っ」
弥生は呆れながらもいそいそとベランダに行き、赤ワインを持ってくる
「冷やして無いわよ」
「ベランダとはいい所見つけたな?お利口さんっ」
「あら、ありがとうございます」
弥生は皮肉を込めてそう言った
「つまみ、ポテサラでいい?」
弥生は冷蔵庫から、作っておいたポテトサラダを皿に盛り和茂の前に置いた
「おっ、気が利くじゃんか。弥生ちゃん。俺このポテサラ大好き!」
「免疫力がつく長芋のポテサラよ。飲み物私はウーロン茶でね」
と弥生は冷蔵庫からウーロン茶を取り出しグラスに注ぐと自分の前に置いた
「お疲れ様」
ワインとウーロン茶で乾杯しながらキスをする
2人の日課だ
和茂がテレビを付けるとグルメ番組が流れてきて食レポの女子アナの声
「口に入れた途端フワーっと広がって、誰でも美味しく食べ『れ』ます」
すると和茂がテレビに向かって言う
「食べ『れ』ますじゃなくて食べ『られ』ますだ。アナウンサーのくせに正しい日本語しゃべれねーのか?」
全く細かい所が気になるオヤジだ
「今や『ら』抜けは正当な日本語です」
弥生が反論する
「あれ?弥生ちゃん?また怒ってるの?」
和茂が機嫌をとる
「別に」
弥生がつんけんと言うと
「する?」
弥生は思わず笑い出す
「デキナイくせに」
と言いながらも、抱き合いキスをする2人…
弥生はそんなオヤジを新鮮に感じるのであった
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