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魔の宅急便
しおりを挟む都内下町。人通りがまばらな寂れた商店街の一角
洋服屋
「MADAM」
小顔でキュートな顔立ちで白いシャツにダメージ加工のデニムのパンツが良く似合う細身の若い女の姿
とてもじゃないがその店には似つかわしくない
自見凜(じげんりん)21歳
「MADAM」の唯一の販売員だ
凜のお陰でこの店は生き延びていると言っても過言ではない
午後7時
「お疲れ様。ほらほら宅急便が来ましたよ」
店の奥から中年でひげ面の店主が凜の側にやって来てそう言った
「はぁー」
凜はウィンドウの外に目を向けて深いため息を着く
「また来たかぁー」
そう呟くとレジの下の棚から自分のバッグとコートを取り出して羽織る
「お疲れ様でした」
接客の態度からは想像がつかないほどそっけなく店主に言って外に出た
ガードレールを跨いで反対側の道路まで渡ると止まっていたシルバーのBMWの助手席のドアを開けて乗り込む
「どうして毎日くるのよ」
凜はつっけんどんに言った。にも関わらず
「お疲れ様。凜ちゃん」
と、飛び切り嬉しそうに言う
竜崎龍一(りゅうざきりゅういち)25歳。凛が高校時代にバイトをしていた有名和菓子店の3代目社長
今時では珍しい凜のアッシー兼メッシーである
一応彼氏候補でもある
凜とは何とも釣り合いの取れない、ずんぐりむっくりであどけない容姿だがどこと無く憎めない男である
「今日はどこ行くの?」
龍一が聞いた
凜は
「今日も大雅(たいが)と会うからいつもの『Amico』まで行って」
と、命令口調で言う
「分かった」
龍一はまたもや喜び勇んでBMWを走らせる
20分程すると、トリコローレはためく「Amico」の前で車を止める
「有り難うね」
凜が言い、颯爽と車から降りる
窓を開け立ち去る凜に向かって
「帰る時連絡ちょーだい」
龍一が嬉しそうに叫ぶ
凜は振り向きもせず小さく手を挙げ「Amico」に向かう
階段を数段上がり少し奥まった大きなガラスの扉を片手で引いて開けると、黒を貴重にした落ち着いた店内
レンガの壁が印象的だ
1980年代の洋楽が流れている
「ウィーッス」
黒髪ロン毛に黒ずくめの制服を着たバイトの真司(しんじ)が言った
凛の小•中学の同級生だった平真司(たいらしんじ)21歳
凛の元カレだ
「来てるぜ。大雅(たいが)」
真司がカウンター席を見る
精悍な顔立ちの若い男の姿
凜の中学時代の同級生
森田大雅(もりたたいが)21歳。某有名大学生。中学の時には生徒会長もやっていた程の人気者。ガッチリとした体格に浅黒い肌
凜を見つけると
「おせーよっ!」
冗談混じりに言う。
「ごめん、ごめん」
凜は龍一に対する態度とは明らかに違う明るい笑顔でそう言うと大雅の隣に座った
暫くして、オーダーしていないのにアイスコーヒーを真司が持って来て凜の前に置く
「見かけによらず、凜ちゃんアルコールダメなんだもんね」
「そうなのよー。あっ、これ、この曲、今かかってるのって何て曲?」
「プライベートアイズ」
真司が空かさず答える
「へぇーウチこの曲好きなんだ」
「キミの事をいつも監視してるとかいう内容なんだぜ」
真司が含み笑いをしながら言う
「うわー、怖っ!」
凜がアイスコーヒーに口を付けるか付けないうちに大雅が
「例の話、上手く行ってるだろうな?」
と詰め寄った
「七海(ななみ)の事でしょ?大丈夫だよ。今、話進めてる最中だから」
早川七海(はやかわななみ)21歳。凜と大雅の中学時代の同級生。実家の屋形船屋を手伝っている。中学では正に全男子の注目の的だった美貌の持ち主。凜の幼なじみだ。
大雅も中学の時から七海に思いを寄せていた。
「俺、絶対付き合いたいんだよ。何とかしてよ。自見(じげん)様っ」
「よしよし、大雅君。私に任せなさい。七海とは幼稚園の時からの大親友なんだから」
「だよなー。だからお願いしてるんだ」
「分かったってば。でもね七海、彼氏居るから」
「そうなんだよ。俺も気になって探ってみたら、全然イケてないオヤジサーファーだったぜ」
と大雅は断然自分の方がイケてる男アピールをした
「探ったって大雅、それじゃストーカーじゃない?」
「俺?俺は大丈夫だよ。それよりお前の方が危なくね?あれ、そうだろ?」
と、窓の外に二人で目をやるとシルバーのBMW。
「ゲッ。参ったな、マジ勘弁」
と吐き捨てる様に凜が言った
「いくら金持ちでも、モテナイないヤツはヤバイぜっ」
「完全にストーカーだよね」
凛は少しとまどったが
「大雅、ごめん。今日は帰るわ。話は進めとくから」
大雅の肩をポンと叩きながら席を立つ
真司に手を振り店を出る
「カフェにツケって、アイツくらいだよ」
真司が呆れた様に呟く
BMWにゆっくり近づき、助手席のドアを開けて乗り込む
「もう来てたの?連絡するって言ったじゃん」
と不機嫌そうに凜が言うと
「うん。ずっと待ってた」
賑やかに言う龍一
「オーマイガー」
凜は天を仰ぐ
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