緋黒の焔〜ヒトラー異世界戦記〜

影山ろここ

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第二章

晩餐会4

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「なに、事故と言っても依頼したいのは〈積み荷〉の回収だ。それは南方大陸の〈開拓〉の最前線で見つかった稀少種、すなわち妖精だ。空想上の存在だと思われてきた妖精が発見されたとあって、余はそれを父上に献上する役目を負ったのだ。しかしその〈積み荷〉を載せた飛空艇が魔獣との戦闘に巻き込まれ、〈死の森〉に落下したと生き延びた冒険者から連絡が入ってな。遭遇したのは〈ルアーガ〉という名前のウィザード・ドラゴン、魔法を唱える最強クラスの竜だ。〈死の森〉は中央大陸を縦断する際、必ず通過しなければならない場所がいくつもあり、移送部隊はいわば地雷を踏んでしまったわけだ。もっとも生き残った連中がいても墜落したのが〈死の森〉では長くはあるまい。お前に頼みたいのはただひとつ、落下した〈積み荷〉の回収のみである」

 長い話を終えると、パベルは忙しなくグラスを傾けた。たいするアドルフは、いまの話に王族の傲慢を読みとって不快な気分になった。

 移送に責任を負っていた以上、部隊の人員とその命に配慮するのは指揮官の務めだ。しかしパベルは、早々に彼らの救助を諦め、命を粗末に扱ってみせた。

 同じくらい兵士の命を祖末にしたアドルフだが、そこには崇高な使命があった。しかし今回の移送任務は珍しい献上品を運び、パベルの父親を喜ばすことだけが目的だ。

 そんな理由で死にゆく者がいることに彼は腹が立った。しかしその憤慨をぶつける無意味さにすぐさま気づき、意識を現実にむけながら悄然と言った。

「だいたい承知した。ちなみに〈積み荷〉を回収できなかったときは?」

 その発言は明らかに、依頼の受諾を意味するひと言だった。しかしその発言に異を唱える者はこの場にだれもいなかった。

 まず司祭のリッドだが、彼女は黙々とステーキを食んでいて、ろくに話を聞いていない。

 そして彼女の向かい側では、ディアナとノインが沈黙している。ふたりの顔はほのかに赤らみ、高揚感に包まれていることが端的に見てとれた。

 最後に隣席のフリーデだが、ちらりと横を見ると、彼女は普段の十倍くらい怖い顔をしている。その表情は集中力を存分に発揮している証拠だ。付き合いの長いアドルフがそれを読みとるのは造作もなかった。

「やれやれ、承諾する前から回収できなかったときのことが気になるのか。思いのほか小心だな?」

 アドルフが観察をひと通り終えたとき、彼の疑問に応えてパベルがからかうように言った。
 普通なら気を悪くする場面だが、達観したアドルフは平然と言い返す。

「べつに尻込みしたわけではない。こちらは危険を負うのだ。〈死の森〉に命懸けで探索へむかうだけで報酬を得るに値する。〈積み荷〉の回収までが成功条件なら、この依頼は受けかねる」

 相手が王族でもアドルフは普段どおりだった。状況を観察して、つねに先手を打つ。しかも洞察力があるから、その打ち筋は正確きわまりない。

 たぶんパベルとしては、交渉のつねで、相手が目下だと思えばこそ、自分の言いなりにさせたかったに違いない。しかしアドルフは断った。雲を仰ぐような王族相手に大胆な行動をとった。

 注目すべき点は、今回の〈積み荷〉がパベルの父親、すなわち《魔王》に献上される予定だったことである。

 パベルはその役目を負ったことをみずから告白した。これは言い換えるなら、本来彼は逃げられない立場にいるはずなのだ。ところがパベルは命を危険にさらすことから逃れ、目的を遂行する考えを思いついた。収容所の囚人を利用し、かわりに褒美を用意してやる案を。

 つまりこのとき、依頼の交渉はアドルフのほうが遥かに優位だったのだ。目的をかなえるためには優秀な人材が欲しい。しかしアドルフに白羽の矢を立てた以上、彼にかわる人物はいないに等しいだろう。

 そこまで先読みしたからこそ、アドルフは強気に出た。パベルが愚か者でない限り、自分の言った条件をのむとわかりきったうえで。

 やがてその読みは現実となった。根負けしたような表情を浮かべ、パベルはあきれた声で言った。

「いいだろう、アドルフ。〈積み荷〉の回収に失敗したとしても解放は約束しよう。かわりに察しはついているだろうが、ここにいるラグラウ司祭をお前たちの目付けに就ける。異論はないな?」

 パベルはそう言って視線をリッドにむけた。彼女は切りとった肉片を頬張りながら、片手を挙げた。
 アドルフはそのしぐさを見てから、班員の顔を見まわしつつ言った。

「むろん問題ないが、彼女らの考えも訊かねばならん。意見はあるかね?」

 問いかけにナイフの動きをとめた班員たちは、三者三様の答えをアドルフに対してむけた。

「べつに異議はねぇぜ。解放が得られるなら断る理由がねぇし」
「僕も問題ない。解放が何より欲しい」
「解放が条件なら断れないけど、あたしたちだけで何とかなるのかしら?」

 ディアナとフリーデが意欲的な顔で応じたのにたいし、ノインだけが不安を口にした。しかし彼女の懸念は瞬く間に打ち消された。

「案ずるな、そのためのラグラウ司祭だ。彼女は魔法の腕がたち、教育係としてもすぐれている」

 パベルは分厚い肉を細かくカットしながらノインの不安をなだめた。そしてすぐさま、会話をアドルフへと振った。

「むろん隊長にはお前に就いて貰うが、収容所幹部から聞き取った話だと魔法が不得手という話だった。しかし〈死の森〉は危険な魔獣が多く生息する場所。それにお前は力自慢な剣士という体つきでもない。だとすれば魔法の修得は必須条件だろう。明日の午前中まで時間をやる。そこの司祭から魔法を学び、最低限の技量を身につけよ」

「……我が魔法を?」

 アドルフはワイングラスを片手に怪訝な声を洩らした。その声はリッドにむけたものだったが、彼女はすぐさま反応した。

「安心しろ、こう見えて私は冒険者の資格をもってるし、戦闘経験も豊富だ。できるだけ強力な攻性魔法を授けてやる。B以上のクラスはないが、D以下もない。オールCの位階は教師にうってつけだ」

 口をもぐもぐさせながら、リッドは返事をかえしてきた。相変わらず小動物的な動作だが、アドルフはここでひとつ疑問を抱き、低めた声をリッドにむける。

「魔法を学ぶ件は是非もないが、少々引っかかることがある。我々は解放という報酬があり、それを求め危険な任務に赴く。しかしお前は何のために協力するのだ?」

 アドルフが気をとめたのは、ちょっとした危惧である。大きくはないが、決して小さくもない疑問。そんな問いを発したアドルフにたいし、ワインで喉を潤したリッドは思いのほか鋭い反応をしてのけた。

「なるほど、私が足手まといになると思ったか?」
「ありていに言えばな。目的があやふやでは一体感に欠ける」

 アドルフの問い質したことはきわめて自然で、他の班員たちもその疑問を共有したようだ。その証拠にフリーデをはじめとする三人の少女は真剣な眼差しをリッドに注ぐ。
 普通そこまで視線が集まると、人間は鬱陶しく感じるものだ。しかし教会の説教で注目されることに慣れているのか、リッドは顔色ひとつ変えずに頷きながら言った。

「私が所属する聖隷教会は国家機関だ。それにくわえ、王族の方々はあらゆる命令系統に優越する。私ごときに殿下の話を断る道理はない。依頼があれば、丁重に承るまでさ」
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