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第八章
戦勝式典1
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「僕の顔に何かついてるのか?」
眉をしかめ、低い声を発したフリーデ。その様子は、すでに普段の彼女自身に戻っていた。
「いや。何もついておらん」
ばつが悪そうに答え、アドルフは顔を背けた。ついさっきまで相対していたネーヴェは、重要事項を伝達し終えると「また用事があったときに」と言い残し、フリーデの体を介した通信を絶った。
あれから二人は所長の部屋を出て、収容所を後にした。同胞の解放を済ませた幕僚、および兵士たちは戦勝式典の準備を滞りなく進めていたようで、待機中の兵士からそのことを告げられたアドルフたちは彼らの先導で行政府庁舎に向かった。
何もかもが予定どおりに進行しているなか、たった一つのイレギュラーがこのときアドルフの心に引っかかる。それは言わずもがな、ネーヴェと交わした会話とその内容だ。
天使は別れ際、アドルフに《勇者》の証となるべき宝呪を授けた。それはいま、手にはめた〈増幅器〉と一緒に彼の装飾となっている。澄みきった青い光を放つそのアイテムの使い途は、まだ不明な状態だ。「詳細は後日でいいじゃろ」と言い放ち、何の説明もせぬままネーヴェはそそくさと消え失せたからだ。
フリーデを通信媒体のように扱い、自己都合で出たり消えたりする天使のふるまいは傍若無人だったが、文句を言うゆとりもなかった。そのことを後悔しながら、アドルフがため息を吐いていると、
「どうも心ここにあらずだが、緊張しているのか?」
気づけばフリーデが数歩先を行っており、こちらを振り返っていた。視線をあげると庁舎の建物がそびえ立っており、彼らは瞬く間に目的地へ着いたようだ。
式典の会場は庁舎最上階のテラスで、その指示はもちろんアドルフが出している。自分の思い描いた舞台に本人が立ち遅れてどうするんだという話であり、意識を現実に引き戻すべく彼は両頬をぱしんと叩き、もやもやした気分に喝を入れた。
再び肩を並べて歩き出した二人は、兵士に導かれるまま庁舎へ入り、フロアの奥に設置された昇降機に乗り込んだ。
実はここに来るまでのあいだ、彼らは大きなどよめきを何度も耳にしていた。それが何かは言うまでもない。テラスに集った解放軍を一目見るべく、大勢の人々が庁舎を取り巻いているのだ。
「意外と気づかれないものだな」
昇降機が動きだしたとき、フリーデが言った。彼ら自身、群衆の脇を通り過ぎてきたのだが、まだ外見の認知がなされていないため、特に騒がれることはなかったのだ。
かわりにテラスの連中は盛大な喝采を浴びているらしく、昇降機の振動より大きな音がうねりのように響いてくる。会場が相当な騒ぎであることに疑問の余地はない。
「魔人族追放! 我らの勝利!」
最上階のテラスに出ると真っ先に、群衆の大合唱が耳をつんざく。思わず鼓膜を押さえたくなるほどの声量だが、アドルフには馴染み深い光景だった。
舞台をぐるりと見渡すと、群衆の視線の向き先が一目瞭然である。
テラスの左側では、解放された元三連星の二人が奇妙な踊りを見せていた。よく見るとそれはコントのようだったが、何をしているかは傍目に不明だ。けれど道化師に白タイツというえらく目立つ二人だけに、ちょっと面白そうなことをすればその百倍くらいの反応が返っている。
しかも彼らのすぐ隣には、冒険者然とした佇まいのノインがいた。こちらは特に動きはないが、最前列の群衆から大きな喝采を浴びている。
「チェイカでぶちかました女の子がいるぜ!」
断続的に聞こえる叫びは、ノインがどういう立場に置かれているかを物語っていた。戦闘を目撃した者たちがおり、その情報はあっという間に共有されたのだろう。彼女の特攻を知る者たちからすれば、ノインはまさに英雄だった。
そしてテラスの右側である。そこには軍服を着た男と、国民服をはぎ取られた肥満体の男がいた。傍らにはリッドが立ち、眼を凝らせば魔法のようなもので腕と足を拘束されている。
これまた状況は明白だ。肥満体の男は行政官のヴァインベルガー。もう一方の軍服は、収容所副所長のミシュカである。両名ともズボンからはみ出した白シャツの裾は破け、かなりの抵抗があったことが読みとれる。
「処刑しろ!」
出し抜けに不穏な声があがった。その声はたちまち唱和となる。無数の群衆が「処刑だ!」と連呼しはじめたが、それは面白半分の台詞ではなく、これまで大陸に君臨していた魔人族がどれほど恨みを買っていたかを端的に示していた。
いずれにしろとんでもない騒ぎとなっていることにアドルフは半分満足し、もう半分の冴えた頭はある種の無秩序を危惧した。解放を勝ち取った群衆の歓喜、支配者を引きずりおろせた彼らの怒り。それらは総統時代と同じく、アドルフの力になるが、同時に制御を誤るとたんなる暴徒になりかねない。
彼は絶句していたフリーデに呼びかけ、三連星のコントだか漫才だかをやめさせるように言った。そして自分は、ヴァインベルガーたちの元へ向かう。
「ご苦労だったな、リッド。よくやってくれた」
アドルフはリッドにたいし「ミシュカを晒し者にせよ」と命じていたから、その仕事ぶりを当然褒めた。けれど同時に「少々やりすぎだな」と言い添えた。
なぜならヴァインベルガーたちを生け贄にする気など、アドルフにはなかったからである。彼は呆れたような困り顔になって、リッドの肩に手を置き、軽く首を振った。
「すまん。どうせなら派手にやろうと思ったんだ」
首をすくめたリッドは、はにかんで苦笑を返す。処刑を煽りたてる真似をしたわりに、随分余裕のある態度だった。もちろんアドルフはそれを責めはしない。ただ、娘であるローゼを支援者とした彼にとって、ヴァインベルガーを殺害するのは得策とは言えなかった。いつ裏切られるかも知れぬ不安定な関係でありつつも、式典を血腥いものにするのは彼の本意ではない。
一方、それとはべつに、アドルフにはリッドを問いつめてやりたいことがあったはずだ。いわゆるスパイ疑惑。そのことを忘れた彼ではなかったが、このタイミングで聞くのは場違い過ぎる。
「じきに演説をはじめる。整列を指示せよ」
アドルフは歯切れよく命じて、腰に手をあてた。リッドは後は任せたといわんばかりに後方へ動き、兵士を集めだした。
こうなると、雲霞のごとく群れた人々の目は必然、アドルフへと集中する。特に、彼を全軍の指揮官と知る者たちはボルテージを上げ、ヴァインベルガーたちの隣に寄った意味を思わせぶりに受けとった。
しかしアドルフは処刑などはじめるわけがない。かわりに彼は、行政官と副所長の顔面に拳をめりこませた。
どっと湧く群衆。正義の鉄槌が下された瞬間を見て、テンションが上がらないわけがない。
けれど狼藉はここまでだった。混乱した秩序を取り戻すべく、アドルフは掌を上下させはじめた。群衆に向かって「落ち着け」と言っているのだ。
もっとも一度火のついた彼らが容易に静まるはずもないのだが、そこは稀代の演説家である。ただでさえ血湧き肉踊り、心身のコントロールを失いそうになるなか、アドルフは普段どおりの呼吸をゆっくりとくり返した。そうすることで自分の気持ちを平静に保ち、なおかつそのリズムに群れ集う人波を同調させようとしているのだ。
暴れ馬をなだめるような手の動きはしばらく続いた。そんなアドルフが顔をむけると、幕僚や兵士たちが慌ただしく隊列を整え、誇らしく胸を張る姿が目に入った。
ちょうど頃合いと見計らったのか、そこでアドルフは上下する手を止めた。群衆から乱れ飛ぶ声の嵐は徐々に収まっていき、彼らはやがてオペラの開演を待ちわびる観客のように大人しくなった。
こうなると、舞台はアドルフの独壇場である。彼は狙い澄ましたように髪をかきあげ、念入りな動作で黒い頭髪を後ろに撫でつけた。それにより前世の彼に少しだけ容姿が近づいた。どこまで意図しているかわからない。ただ一つはっきりしているのは、いまのアドルフは冒険者になるべきか否かを議論していた頃の彼とは別人だということだ。
揺るぎない実績を作り、集団を組織し、多くの人々の支持を得つつある。ナチス党を率い、大衆の海に飛び込んだときと同じだ。ドイツ国防軍を指揮し、欧州大陸を制覇していったときと。彼はもはや体制に異を唱える政治家の一人となった。このセクリタナでそのような地位を得た。
もちろん、危うい地位だろう。法的な裏づけこそ確保したが、いつ破棄されるかもわからない。しかしアドルフには確信があった。現在の地位を活用すれば、さらなる軍事力を動員でき、次なる戦いへと駒を進められると。
これからはじめようとする演説は、そうした動員力を手中に収めることが狙いだ。一時的な解放に酔うだけでなく、さらなる進撃の必要性を説き、群衆の心を焚きつけることが目的である。
そんなことを考えながら、アドルフは隊列を組んだ部下たちと端から順に握手を交わしていった。
同胞たる亜人族、とりわけ付き合いの長い者たちは本来仲間と呼ぶべき相手だが、なまじ関係性が近いため、彼は情実を排そうと心がけ、特別扱いしなかった。握手の時間も、交わす言葉も一律である。それでも冷たい男に見られないよう、口ひげの下には愛想笑いを浮かべている。
「あんた、ほんとに段取りが良いわね。全部計算ずくって感じで」
最後に手を握りあったノインが、驚きを隠せないように言った。口調こそ雑だが、呆れた様子はない。
「どうだか。群衆の前でずっこけんじゃねぇぜ」
隣にいたディアナが目を細めている。意地悪っぽいものの、手荒い激励なのは明白だった。
アドルフは鼻息を吐き、部下たちに背を向け、用意させた演壇へ歩を進めた。
ついに自分の出番だ。群衆に話すことは解放の間に固めていたから、あとはそれを情感たっぷりに演出するだけとなる。興奮を見事に抑え、まさに段取りを消化する心境のアドルフだったが、そんな彼を驚かすことが起きた。演壇に足をかけ、遠くの大地が見えないほどの群衆を一瞥した瞬間、背後に控えた兵士たちが軍靴を揃える音が響いたのだ。そして――
「勝利万歳!」
寸分違わぬ声で絶叫が折り重なった。(続く
眉をしかめ、低い声を発したフリーデ。その様子は、すでに普段の彼女自身に戻っていた。
「いや。何もついておらん」
ばつが悪そうに答え、アドルフは顔を背けた。ついさっきまで相対していたネーヴェは、重要事項を伝達し終えると「また用事があったときに」と言い残し、フリーデの体を介した通信を絶った。
あれから二人は所長の部屋を出て、収容所を後にした。同胞の解放を済ませた幕僚、および兵士たちは戦勝式典の準備を滞りなく進めていたようで、待機中の兵士からそのことを告げられたアドルフたちは彼らの先導で行政府庁舎に向かった。
何もかもが予定どおりに進行しているなか、たった一つのイレギュラーがこのときアドルフの心に引っかかる。それは言わずもがな、ネーヴェと交わした会話とその内容だ。
天使は別れ際、アドルフに《勇者》の証となるべき宝呪を授けた。それはいま、手にはめた〈増幅器〉と一緒に彼の装飾となっている。澄みきった青い光を放つそのアイテムの使い途は、まだ不明な状態だ。「詳細は後日でいいじゃろ」と言い放ち、何の説明もせぬままネーヴェはそそくさと消え失せたからだ。
フリーデを通信媒体のように扱い、自己都合で出たり消えたりする天使のふるまいは傍若無人だったが、文句を言うゆとりもなかった。そのことを後悔しながら、アドルフがため息を吐いていると、
「どうも心ここにあらずだが、緊張しているのか?」
気づけばフリーデが数歩先を行っており、こちらを振り返っていた。視線をあげると庁舎の建物がそびえ立っており、彼らは瞬く間に目的地へ着いたようだ。
式典の会場は庁舎最上階のテラスで、その指示はもちろんアドルフが出している。自分の思い描いた舞台に本人が立ち遅れてどうするんだという話であり、意識を現実に引き戻すべく彼は両頬をぱしんと叩き、もやもやした気分に喝を入れた。
再び肩を並べて歩き出した二人は、兵士に導かれるまま庁舎へ入り、フロアの奥に設置された昇降機に乗り込んだ。
実はここに来るまでのあいだ、彼らは大きなどよめきを何度も耳にしていた。それが何かは言うまでもない。テラスに集った解放軍を一目見るべく、大勢の人々が庁舎を取り巻いているのだ。
「意外と気づかれないものだな」
昇降機が動きだしたとき、フリーデが言った。彼ら自身、群衆の脇を通り過ぎてきたのだが、まだ外見の認知がなされていないため、特に騒がれることはなかったのだ。
かわりにテラスの連中は盛大な喝采を浴びているらしく、昇降機の振動より大きな音がうねりのように響いてくる。会場が相当な騒ぎであることに疑問の余地はない。
「魔人族追放! 我らの勝利!」
最上階のテラスに出ると真っ先に、群衆の大合唱が耳をつんざく。思わず鼓膜を押さえたくなるほどの声量だが、アドルフには馴染み深い光景だった。
舞台をぐるりと見渡すと、群衆の視線の向き先が一目瞭然である。
テラスの左側では、解放された元三連星の二人が奇妙な踊りを見せていた。よく見るとそれはコントのようだったが、何をしているかは傍目に不明だ。けれど道化師に白タイツというえらく目立つ二人だけに、ちょっと面白そうなことをすればその百倍くらいの反応が返っている。
しかも彼らのすぐ隣には、冒険者然とした佇まいのノインがいた。こちらは特に動きはないが、最前列の群衆から大きな喝采を浴びている。
「チェイカでぶちかました女の子がいるぜ!」
断続的に聞こえる叫びは、ノインがどういう立場に置かれているかを物語っていた。戦闘を目撃した者たちがおり、その情報はあっという間に共有されたのだろう。彼女の特攻を知る者たちからすれば、ノインはまさに英雄だった。
そしてテラスの右側である。そこには軍服を着た男と、国民服をはぎ取られた肥満体の男がいた。傍らにはリッドが立ち、眼を凝らせば魔法のようなもので腕と足を拘束されている。
これまた状況は明白だ。肥満体の男は行政官のヴァインベルガー。もう一方の軍服は、収容所副所長のミシュカである。両名ともズボンからはみ出した白シャツの裾は破け、かなりの抵抗があったことが読みとれる。
「処刑しろ!」
出し抜けに不穏な声があがった。その声はたちまち唱和となる。無数の群衆が「処刑だ!」と連呼しはじめたが、それは面白半分の台詞ではなく、これまで大陸に君臨していた魔人族がどれほど恨みを買っていたかを端的に示していた。
いずれにしろとんでもない騒ぎとなっていることにアドルフは半分満足し、もう半分の冴えた頭はある種の無秩序を危惧した。解放を勝ち取った群衆の歓喜、支配者を引きずりおろせた彼らの怒り。それらは総統時代と同じく、アドルフの力になるが、同時に制御を誤るとたんなる暴徒になりかねない。
彼は絶句していたフリーデに呼びかけ、三連星のコントだか漫才だかをやめさせるように言った。そして自分は、ヴァインベルガーたちの元へ向かう。
「ご苦労だったな、リッド。よくやってくれた」
アドルフはリッドにたいし「ミシュカを晒し者にせよ」と命じていたから、その仕事ぶりを当然褒めた。けれど同時に「少々やりすぎだな」と言い添えた。
なぜならヴァインベルガーたちを生け贄にする気など、アドルフにはなかったからである。彼は呆れたような困り顔になって、リッドの肩に手を置き、軽く首を振った。
「すまん。どうせなら派手にやろうと思ったんだ」
首をすくめたリッドは、はにかんで苦笑を返す。処刑を煽りたてる真似をしたわりに、随分余裕のある態度だった。もちろんアドルフはそれを責めはしない。ただ、娘であるローゼを支援者とした彼にとって、ヴァインベルガーを殺害するのは得策とは言えなかった。いつ裏切られるかも知れぬ不安定な関係でありつつも、式典を血腥いものにするのは彼の本意ではない。
一方、それとはべつに、アドルフにはリッドを問いつめてやりたいことがあったはずだ。いわゆるスパイ疑惑。そのことを忘れた彼ではなかったが、このタイミングで聞くのは場違い過ぎる。
「じきに演説をはじめる。整列を指示せよ」
アドルフは歯切れよく命じて、腰に手をあてた。リッドは後は任せたといわんばかりに後方へ動き、兵士を集めだした。
こうなると、雲霞のごとく群れた人々の目は必然、アドルフへと集中する。特に、彼を全軍の指揮官と知る者たちはボルテージを上げ、ヴァインベルガーたちの隣に寄った意味を思わせぶりに受けとった。
しかしアドルフは処刑などはじめるわけがない。かわりに彼は、行政官と副所長の顔面に拳をめりこませた。
どっと湧く群衆。正義の鉄槌が下された瞬間を見て、テンションが上がらないわけがない。
けれど狼藉はここまでだった。混乱した秩序を取り戻すべく、アドルフは掌を上下させはじめた。群衆に向かって「落ち着け」と言っているのだ。
もっとも一度火のついた彼らが容易に静まるはずもないのだが、そこは稀代の演説家である。ただでさえ血湧き肉踊り、心身のコントロールを失いそうになるなか、アドルフは普段どおりの呼吸をゆっくりとくり返した。そうすることで自分の気持ちを平静に保ち、なおかつそのリズムに群れ集う人波を同調させようとしているのだ。
暴れ馬をなだめるような手の動きはしばらく続いた。そんなアドルフが顔をむけると、幕僚や兵士たちが慌ただしく隊列を整え、誇らしく胸を張る姿が目に入った。
ちょうど頃合いと見計らったのか、そこでアドルフは上下する手を止めた。群衆から乱れ飛ぶ声の嵐は徐々に収まっていき、彼らはやがてオペラの開演を待ちわびる観客のように大人しくなった。
こうなると、舞台はアドルフの独壇場である。彼は狙い澄ましたように髪をかきあげ、念入りな動作で黒い頭髪を後ろに撫でつけた。それにより前世の彼に少しだけ容姿が近づいた。どこまで意図しているかわからない。ただ一つはっきりしているのは、いまのアドルフは冒険者になるべきか否かを議論していた頃の彼とは別人だということだ。
揺るぎない実績を作り、集団を組織し、多くの人々の支持を得つつある。ナチス党を率い、大衆の海に飛び込んだときと同じだ。ドイツ国防軍を指揮し、欧州大陸を制覇していったときと。彼はもはや体制に異を唱える政治家の一人となった。このセクリタナでそのような地位を得た。
もちろん、危うい地位だろう。法的な裏づけこそ確保したが、いつ破棄されるかもわからない。しかしアドルフには確信があった。現在の地位を活用すれば、さらなる軍事力を動員でき、次なる戦いへと駒を進められると。
これからはじめようとする演説は、そうした動員力を手中に収めることが狙いだ。一時的な解放に酔うだけでなく、さらなる進撃の必要性を説き、群衆の心を焚きつけることが目的である。
そんなことを考えながら、アドルフは隊列を組んだ部下たちと端から順に握手を交わしていった。
同胞たる亜人族、とりわけ付き合いの長い者たちは本来仲間と呼ぶべき相手だが、なまじ関係性が近いため、彼は情実を排そうと心がけ、特別扱いしなかった。握手の時間も、交わす言葉も一律である。それでも冷たい男に見られないよう、口ひげの下には愛想笑いを浮かべている。
「あんた、ほんとに段取りが良いわね。全部計算ずくって感じで」
最後に手を握りあったノインが、驚きを隠せないように言った。口調こそ雑だが、呆れた様子はない。
「どうだか。群衆の前でずっこけんじゃねぇぜ」
隣にいたディアナが目を細めている。意地悪っぽいものの、手荒い激励なのは明白だった。
アドルフは鼻息を吐き、部下たちに背を向け、用意させた演壇へ歩を進めた。
ついに自分の出番だ。群衆に話すことは解放の間に固めていたから、あとはそれを情感たっぷりに演出するだけとなる。興奮を見事に抑え、まさに段取りを消化する心境のアドルフだったが、そんな彼を驚かすことが起きた。演壇に足をかけ、遠くの大地が見えないほどの群衆を一瞥した瞬間、背後に控えた兵士たちが軍靴を揃える音が響いたのだ。そして――
「勝利万歳!」
寸分違わぬ声で絶叫が折り重なった。(続く
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