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3話◆アスモダイの尖鋭
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他愛ない雑談の後に、そう長くもない一服を終えてゲイラー子爵は部屋を後にした。シガーはまだ残りがかなり有るが、灰皿に放置されて火も消えかけている。甘みの有る独特の香りは、香を聴くにも似てそう悪いものでもないのだが、部屋に満ちる少し強めの香りが今のカイには焦燥感を齎した。
(……普段はこんなに気にならないのに)
安っぽい紙巻煙草の苦いだけの煙は不快感の方が先に立つが、葉巻に関しては香りを楽しむものだというのもあってそれほど嫌いではない。勿論香を焚くように強い匂いのするものだから、匂いによっては好き嫌いも有るが、嗜好品として肯定的に捉えてもいる。それが、大切な者を脅かすと知った途端、こんなにも忌まわしいものに変化する。
「もうそろそろ宴もたけなわという頃なのかな。……でももう少し休んでいたいなぁ」
今出ていくと、では最後に一曲、となるのかもしれない。そんな懸念にゴルディニア公爵はうだうだと駄々っ子のようにソファに寝転びかける。休むこと自体は別に構わないし、カイも護衛対象と離れずに居られればその方が有難い。
「ええ。……ただ、申し訳ございません、お部屋だけ替えましょう」
「部屋?……そっか、コリンズの煙草はちょっと匂いが強いものな」
くん、と自身の袖のにおいを嗅いで公爵は納得する。カイは曖昧に頷いて、ゴルディニア公を伴い部屋の外に出た。観音開きの扉の横には、先程部屋の外に出したイルが控えている。ゲイラー子爵に続いて部屋から出てきた二人に気付いている筈だが、こちらに視線を向けるでもなく壁の前に立ち尽くしている。近付いて声を掛けようとして、カイは彼の傍で立ち止まった。観察眼をじっと向けなければ分からない程度の違いだが、呼吸が浅いように感じられる。カイはそっとイルの片手を取った。体調は悪くない筈なのにひんやりと冷たい。焦る自身を落ち着けるためにも、カイは彼に優しく微笑んだ。
「……おいで、イル」
廊下に面する部屋はほぼ全てが開け放たれ、休憩室として開放されている。先ほどまではこの殆どが埋まっていたが、今はちらほらと空き部屋も見受けられる。カイはイルの手を引きつつ、公爵を振り返った。
「閣下、そちらのお部屋に」
「……うん」
自分のこととなるとポンコツな人だが、職業柄細かなことに気が付く人である。ゴルディニア公はカイの言動で、イルが少なくとも不調であることを察したのだろう。カイが指定した部屋に三人が入ると、そっと扉を閉めてくれる。部屋は特に香水やシガーの残り香といったものを感じない。ここならイルも安心してくれるだろうか。
「有難うございます、閣下……」
公爵に対するカイの謝辞が終わらぬうちに、ふらりと傾いだイルがその場で膝をつく。はっとしてカイはすぐさまその場で腰を落とした。
「イル……!」
繋いだままの片手にイルの力が籠り、ぎゅう、と痛いくらいに握り込んでくる。彼のもう片手は床に触れているが、爪が絨毯に食い込んで、こちらも強い力が籠められた緊張状態であることが窺える。やがてその身体が小刻みに震え始めた。浅い息を繰り返し、項垂れたままの相手を、カイはもう片方の腕でそっと抱き締める。
「大丈夫だ。……もう大丈夫だよ、イル」
体に回した方の腕でゆっくり背を撫でてやりながら、かたかたと痙攣めいた震えを受け止める。
(……これは……苦手なんてものじゃない)
床を見つめる形で項垂れるイルの身体は、いつも以上に小さく感じられる。
(怯えている……これは心に傷を負った反応だ)
例えば幼子が大人の怒鳴り声や折檻に怯えて震え、縮こまるような。勿論イルは身体も精神も大人だが、今の彼の反応はそんな光景を思わせる。紫煙の立ち上る火の付いたシガーは、財力の有る大人の嗜好品だ。そんなものが心的外傷の引き金となるなど、碌なものではない。カイは見知らぬ何者かに、内から燃えるような怒りを覚えるが、今はそれどころではない。強い感情に心を乱せば、カイ自身の身体にも必要以上に力が入る。そうなれば憎悪や忿懣といった負の感情がイルにも伝わってしまうだろう。カイはゆっくりと呼吸しながら緩やかな手付きでイルの背を撫で続けた。彼の為に、そして己の為に。
「……イルはどうしてしまったんだ。大丈夫なのか……」
すぐ傍で床に膝と手をつき、おろおろと見つめてくるゴルディニア公の不安げな声に、カイは却って冷静になる。半ば感謝する気持ちで、カイは相手に微笑んだ。
「驚かせて申し訳ございません。……恐らく、少しすれば落ち着きます」
「そ、そうか……。それなら良いんだが……」
イルの浅い息遣いはまだ続いているが、一時の酷い震えは少しずつ収まりつつあった。カイは途切れることなくゆっくりと背を撫でてやりながら、彼の症状が収まるのを待つ。視界の端に、床に置かれた公爵の両手が有る。こうして、身分に関係なく地べたに手をついて案じてくれるゴルディニア公の人の好さが窺える。カイはそっと切り出した。
「……イルは、煙草が駄目なんです」
苦手、という言葉は使わなかった。カイ自身が、こうして自分の眼で見て、苦手などという生易しいものではないと判断したのもある。カイの言葉に公爵はサッと青褪めた。
「それは……もしかしたらコリンズの……?だとしたら吸うのを断らなかった私の所為だ」
「いえ、閣下もゲイラー卿も、お二人には何の咎も有りません。知っていながらこの状況を招いた私の責です」
しおしおとした表情で項垂れる公爵に、カイは柔らかく笑む。
「……お伝えしたのは、貴方を責めるためじゃない。イルを案じて下さる貴方が、訳も分からないままなのはお辛いだろうと思ったのです」
「アシュフォード……」
半べそで涙ぐむゴルディニア公に、にこりと目を細めたカイの胸の中で、もそもそとイルが頭を起こした。背を撫でていた手を肩に置いて、カイは相手の顔を覗き込む。
「……少し落ち着いたか、イル」
ヴェールの掛かった顔は未だ青白く、米神には冷や汗が浮かんでいる。それでも発作的な苦しみは越えたようで、呼吸を落ち着けながらイルは小さく頷いた。こちらを見つめ返す視線もしっかりしている。カイは安堵の息をついた。隣で涙目のゴルディニア公が項垂れる。
「イル、ごめん……。知らなかったとはいえ、酷い目に遭わせてしまった……」
「…………」
黙したまま息を整えていたイルは、公爵を一瞥してぽつりと口にする。
「……こいつが今言った通りだ。故意ではないことを恨む気は無い」
ふらつきながらも立ち上がろうとするイルを支えて一緒に立ち、カイはゴルディニア公爵にも片手を伸べる。
「もう大丈夫そうです。……閣下、お気遣い有難うございます」
「……うん」
どこかばつの悪いものではあったが、公爵は口角を上げながらカイの手を取り、その場で立ち上がる。
「では、行きましょうか」
カイはそっと部屋の扉を開けた。遮断されていた三拍子の音楽が廊下の奥の広間から流れてくる。宴も終盤とはいえ、まだ戯れにもう一曲、と洒落込む何組かは居るようだ。流石に離脱して時間も経つゴルディニア公爵を追いかける者も居まい、とカイは二人を促して広間へと足を踏み入れる。
「……イル、平気そうか」
広間にシガーの残り香は感じられないが、香水や食べ物の甘い香りは依然として残っている。カイは後ろからついてくる相棒を振り返って気遣うが、当の本人はついさっき倒れたとは思えないほどの涼しい顔で小さく頷いた。それが真実なのか不調を隠しているのかは分からないが、少なくとも任務を続行する心算でいるらしい。
(……ほんと、猫っぽいというか、野生動物というか……)
人の間を縫って進みながらカイは微苦笑する。先ほどの出来事を知らなければ、とてもイルが苦しい思いをした直後の身体だとは思えない。僅かな唾液で鞭打たれた傷が全快するのを目にしているので、高い回復力が有るのも知っているが、それを抜きにしてもけろりとした顔をする。そうして生きてこなければならなかったイルの境遇を思って、カイは物憂い気持ちになる。
(……平気そうに見えても、労わってあげないとな)
立って歩くのも、もしかしたら辛かったりするのかもしれない。それを念頭に置きながらカイは背後の二人を気に掛けつつ広間の隅の方へと移動する。ワルツを奏でるアンサンブルからは少し離れた場となり、程よい遠さから音楽が聞こえてくる。消耗している二人もここなら比較的楽に過ごせるだろう。
(……普段はこんなに気にならないのに)
安っぽい紙巻煙草の苦いだけの煙は不快感の方が先に立つが、葉巻に関しては香りを楽しむものだというのもあってそれほど嫌いではない。勿論香を焚くように強い匂いのするものだから、匂いによっては好き嫌いも有るが、嗜好品として肯定的に捉えてもいる。それが、大切な者を脅かすと知った途端、こんなにも忌まわしいものに変化する。
「もうそろそろ宴もたけなわという頃なのかな。……でももう少し休んでいたいなぁ」
今出ていくと、では最後に一曲、となるのかもしれない。そんな懸念にゴルディニア公爵はうだうだと駄々っ子のようにソファに寝転びかける。休むこと自体は別に構わないし、カイも護衛対象と離れずに居られればその方が有難い。
「ええ。……ただ、申し訳ございません、お部屋だけ替えましょう」
「部屋?……そっか、コリンズの煙草はちょっと匂いが強いものな」
くん、と自身の袖のにおいを嗅いで公爵は納得する。カイは曖昧に頷いて、ゴルディニア公を伴い部屋の外に出た。観音開きの扉の横には、先程部屋の外に出したイルが控えている。ゲイラー子爵に続いて部屋から出てきた二人に気付いている筈だが、こちらに視線を向けるでもなく壁の前に立ち尽くしている。近付いて声を掛けようとして、カイは彼の傍で立ち止まった。観察眼をじっと向けなければ分からない程度の違いだが、呼吸が浅いように感じられる。カイはそっとイルの片手を取った。体調は悪くない筈なのにひんやりと冷たい。焦る自身を落ち着けるためにも、カイは彼に優しく微笑んだ。
「……おいで、イル」
廊下に面する部屋はほぼ全てが開け放たれ、休憩室として開放されている。先ほどまではこの殆どが埋まっていたが、今はちらほらと空き部屋も見受けられる。カイはイルの手を引きつつ、公爵を振り返った。
「閣下、そちらのお部屋に」
「……うん」
自分のこととなるとポンコツな人だが、職業柄細かなことに気が付く人である。ゴルディニア公はカイの言動で、イルが少なくとも不調であることを察したのだろう。カイが指定した部屋に三人が入ると、そっと扉を閉めてくれる。部屋は特に香水やシガーの残り香といったものを感じない。ここならイルも安心してくれるだろうか。
「有難うございます、閣下……」
公爵に対するカイの謝辞が終わらぬうちに、ふらりと傾いだイルがその場で膝をつく。はっとしてカイはすぐさまその場で腰を落とした。
「イル……!」
繋いだままの片手にイルの力が籠り、ぎゅう、と痛いくらいに握り込んでくる。彼のもう片手は床に触れているが、爪が絨毯に食い込んで、こちらも強い力が籠められた緊張状態であることが窺える。やがてその身体が小刻みに震え始めた。浅い息を繰り返し、項垂れたままの相手を、カイはもう片方の腕でそっと抱き締める。
「大丈夫だ。……もう大丈夫だよ、イル」
体に回した方の腕でゆっくり背を撫でてやりながら、かたかたと痙攣めいた震えを受け止める。
(……これは……苦手なんてものじゃない)
床を見つめる形で項垂れるイルの身体は、いつも以上に小さく感じられる。
(怯えている……これは心に傷を負った反応だ)
例えば幼子が大人の怒鳴り声や折檻に怯えて震え、縮こまるような。勿論イルは身体も精神も大人だが、今の彼の反応はそんな光景を思わせる。紫煙の立ち上る火の付いたシガーは、財力の有る大人の嗜好品だ。そんなものが心的外傷の引き金となるなど、碌なものではない。カイは見知らぬ何者かに、内から燃えるような怒りを覚えるが、今はそれどころではない。強い感情に心を乱せば、カイ自身の身体にも必要以上に力が入る。そうなれば憎悪や忿懣といった負の感情がイルにも伝わってしまうだろう。カイはゆっくりと呼吸しながら緩やかな手付きでイルの背を撫で続けた。彼の為に、そして己の為に。
「……イルはどうしてしまったんだ。大丈夫なのか……」
すぐ傍で床に膝と手をつき、おろおろと見つめてくるゴルディニア公の不安げな声に、カイは却って冷静になる。半ば感謝する気持ちで、カイは相手に微笑んだ。
「驚かせて申し訳ございません。……恐らく、少しすれば落ち着きます」
「そ、そうか……。それなら良いんだが……」
イルの浅い息遣いはまだ続いているが、一時の酷い震えは少しずつ収まりつつあった。カイは途切れることなくゆっくりと背を撫でてやりながら、彼の症状が収まるのを待つ。視界の端に、床に置かれた公爵の両手が有る。こうして、身分に関係なく地べたに手をついて案じてくれるゴルディニア公の人の好さが窺える。カイはそっと切り出した。
「……イルは、煙草が駄目なんです」
苦手、という言葉は使わなかった。カイ自身が、こうして自分の眼で見て、苦手などという生易しいものではないと判断したのもある。カイの言葉に公爵はサッと青褪めた。
「それは……もしかしたらコリンズの……?だとしたら吸うのを断らなかった私の所為だ」
「いえ、閣下もゲイラー卿も、お二人には何の咎も有りません。知っていながらこの状況を招いた私の責です」
しおしおとした表情で項垂れる公爵に、カイは柔らかく笑む。
「……お伝えしたのは、貴方を責めるためじゃない。イルを案じて下さる貴方が、訳も分からないままなのはお辛いだろうと思ったのです」
「アシュフォード……」
半べそで涙ぐむゴルディニア公に、にこりと目を細めたカイの胸の中で、もそもそとイルが頭を起こした。背を撫でていた手を肩に置いて、カイは相手の顔を覗き込む。
「……少し落ち着いたか、イル」
ヴェールの掛かった顔は未だ青白く、米神には冷や汗が浮かんでいる。それでも発作的な苦しみは越えたようで、呼吸を落ち着けながらイルは小さく頷いた。こちらを見つめ返す視線もしっかりしている。カイは安堵の息をついた。隣で涙目のゴルディニア公が項垂れる。
「イル、ごめん……。知らなかったとはいえ、酷い目に遭わせてしまった……」
「…………」
黙したまま息を整えていたイルは、公爵を一瞥してぽつりと口にする。
「……こいつが今言った通りだ。故意ではないことを恨む気は無い」
ふらつきながらも立ち上がろうとするイルを支えて一緒に立ち、カイはゴルディニア公爵にも片手を伸べる。
「もう大丈夫そうです。……閣下、お気遣い有難うございます」
「……うん」
どこかばつの悪いものではあったが、公爵は口角を上げながらカイの手を取り、その場で立ち上がる。
「では、行きましょうか」
カイはそっと部屋の扉を開けた。遮断されていた三拍子の音楽が廊下の奥の広間から流れてくる。宴も終盤とはいえ、まだ戯れにもう一曲、と洒落込む何組かは居るようだ。流石に離脱して時間も経つゴルディニア公爵を追いかける者も居まい、とカイは二人を促して広間へと足を踏み入れる。
「……イル、平気そうか」
広間にシガーの残り香は感じられないが、香水や食べ物の甘い香りは依然として残っている。カイは後ろからついてくる相棒を振り返って気遣うが、当の本人はついさっき倒れたとは思えないほどの涼しい顔で小さく頷いた。それが真実なのか不調を隠しているのかは分からないが、少なくとも任務を続行する心算でいるらしい。
(……ほんと、猫っぽいというか、野生動物というか……)
人の間を縫って進みながらカイは微苦笑する。先ほどの出来事を知らなければ、とてもイルが苦しい思いをした直後の身体だとは思えない。僅かな唾液で鞭打たれた傷が全快するのを目にしているので、高い回復力が有るのも知っているが、それを抜きにしてもけろりとした顔をする。そうして生きてこなければならなかったイルの境遇を思って、カイは物憂い気持ちになる。
(……平気そうに見えても、労わってあげないとな)
立って歩くのも、もしかしたら辛かったりするのかもしれない。それを念頭に置きながらカイは背後の二人を気に掛けつつ広間の隅の方へと移動する。ワルツを奏でるアンサンブルからは少し離れた場となり、程よい遠さから音楽が聞こえてくる。消耗している二人もここなら比較的楽に過ごせるだろう。
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