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淫神の儀式 1
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身を翻したラシードの後ろを神官と共に続く。ハリルは「まるで雛だな」と呟いたが、それきり黙して後に従った。
パティオを通り抜けた神殿の奥には、禊を行うための水場があった。
まるで広い池のようなそこは白亜の石柱が輝き、透明な水が湛えられている。周囲には幾人もの神官が漆黒のローブを纏い、身じろぎもせず佇んでいる。それから少人数の召使いが控えていて、セナの皮膚に手が触れないよう慎重に衣服を脱がせられた。
既に儀式は始まっているのだ。
一糸纏わぬ姿になったセナを直視しているのは、傍らに佇むラシードとハリルのみ。
ふたりを振り返ると、ラシードは頷きを返した。禊を始めよという合図だ。
純白の石で造られた水場につま先をそっと入れる。水だが、心地良いくらいの温度だった。
ゆっくりと身を浸せば、水は腰くらいまでの高さがあった。緩やかな波紋を描きながら中央へ進む。神官たちは祈祷を始めた。
厳かな祈りが響き渡るなか、セナは神聖な水に肩まで浸かる。心の中でイルハーム神への祈りを捧げた。
ややあって、清めた体から雫を滴らせながら水場を出る。召使いの手により、ふわりと純白のガウンに包まれれば、同時に神官たちの祈祷も終わった。
「では、参ろう。イルハームのもとへ」
ラシードの先導により、皆はイルハーム神の鎮座する広間へ赴く。
足を踏み入れるとそこは、異様な雰囲気に包まれていた。セナの鼓動は嫌なふうに跳ね上がる。
昨日、棺かと思った石の祭壇には白い布がかけられていた。上には何も置かれていない。
その周りに腰布のみを纏った男性が数十名ほどいて、皆は頭を垂れていた。
イルハームに祈りを捧げているのかと思われたが、神像の前に膝を着いているわけではなく、何もない祭壇を取り囲んでいる。まるでそこに神が座しているかのように彼らは崇めているのだ。
跪く男たちの狭間を進み、祭壇の前に辿り着く。青と金色が織り成すモザイクタイルが今は禍々しさを醸し出していた。
「さあ、セナ。ここに体を横たえるのだ」
「はい……」
ラシードに祭壇へ上がるよう促される。やはりここは、神への供物を捧げるための祭壇らしい。セナという神の贄を、これからイルハーム神に捧げるのだ。
震えながら祭壇へ近づく。正面にはイルハームの神像が鎮座していた。幾つもの蝋燭の灯火に照らされた神像は薄闇の中に浮かび上がっている。アーチにかけられたカーテンが閉じられているため、朝陽は遮られているのだ。セナは初めて、神に怖れを感じた。
神官にガウンを剥がれ、露わになった裸身を祭壇に横たえる。白布は背にひんやりとした感触を与えた。体が小刻みに震えてしまうのは止めようがなかった。
神官たちは神像の前へ赴き、祈祷を始める。ラシードとハリルは中央の祭壇に横たわるセナと神像を見比べられるような位置にそれぞれ立つ。イルハームとセナが南北で結ばれた直線を境にして、東と西に別れる形だ。声は充分に届く距離だが、手を触れるには遠すぎる。
神の贄が捧げられた祭壇を中心にして白銀のシャルワニを纏う神の末裔を両手にしたイルハーム神は、数多くの神官と跪く男たちを従えている。その光景は神聖な魔方陣が描かれているようであった。
ラシードは呪詛のように延々と唱えられる祈祷の中で、朗々とした声を上げた。
「これより奉納の儀を執り行う。神の贄、セナよ。そなたは淫神イルハームのために、快楽を捧げよ」
「は、はい」
快楽を捧げるとは、どうすれば良いのだろう。眸を瞬かせて戸惑うセナの視界を、立ち上がった男たちが占める。彼らは情欲に目を爛々とさせて、セナを見下ろしていた。
「この者たちは選ばれしアルファだ。彼らを傅かせ、その身に快楽を刻め。イルハームの淫紋が快楽へと導いてくれる」
ラシードが手を掲げると、それを合図として男たちがセナの体に群がる。幾つもの腕が伸ばされて、無遠慮に滑らかな肌を撫で回した。
「ひあっ!? あ、あ……や、やめて……」
セナはようやく理解した。奉納の儀とは、快楽を司るイルハームのために贄であるセナが、己が得た肉体の快楽を捧げるという儀式だったのだ。つまり、ここにいる男たちに抱かれるということ。
欲情した男たちの手のひらが、象牙のような白い肌を這い回る。
胸にも腹にも、内股にも。待ち構えていた獣が群がるように揉みくちゃにされて、セナは悲鳴を上げて体を捩らせた。
「いやあっ、こんな……たすけて……っ」
こんなことだったなんて。
複数の男たちに弄ばれることは初めてではないはずだった。けれど奴隷市場では商品を吟味するという意味合いがあり、体は金具に固定されていたので特定の箇所を弄られるだけだった。そこにはまだ耐える余地があった。こんなにも欲望を剥き出しにされて複数の男に触れられたことはない。これではまるで犯される前提での愛撫のようだ。
縋るようにラシードを見上げるが、彼は泰然として儀式を見守っている。昨夜の夕食のとき、一生懸命に儀式を務めますとセナは言ったばかりだ。ここで投げ出すわけにはいかないのだ。それに儀式を遂行するのは王の務めでもある。ラシードが止めるわけはなかった。ハリルのほうを向けば、彼も静観の構えを見せていた。先ほどの笑みを収めて、セナが男たちに嬲られるさまを無表情に眺めている。
パティオを通り抜けた神殿の奥には、禊を行うための水場があった。
まるで広い池のようなそこは白亜の石柱が輝き、透明な水が湛えられている。周囲には幾人もの神官が漆黒のローブを纏い、身じろぎもせず佇んでいる。それから少人数の召使いが控えていて、セナの皮膚に手が触れないよう慎重に衣服を脱がせられた。
既に儀式は始まっているのだ。
一糸纏わぬ姿になったセナを直視しているのは、傍らに佇むラシードとハリルのみ。
ふたりを振り返ると、ラシードは頷きを返した。禊を始めよという合図だ。
純白の石で造られた水場につま先をそっと入れる。水だが、心地良いくらいの温度だった。
ゆっくりと身を浸せば、水は腰くらいまでの高さがあった。緩やかな波紋を描きながら中央へ進む。神官たちは祈祷を始めた。
厳かな祈りが響き渡るなか、セナは神聖な水に肩まで浸かる。心の中でイルハーム神への祈りを捧げた。
ややあって、清めた体から雫を滴らせながら水場を出る。召使いの手により、ふわりと純白のガウンに包まれれば、同時に神官たちの祈祷も終わった。
「では、参ろう。イルハームのもとへ」
ラシードの先導により、皆はイルハーム神の鎮座する広間へ赴く。
足を踏み入れるとそこは、異様な雰囲気に包まれていた。セナの鼓動は嫌なふうに跳ね上がる。
昨日、棺かと思った石の祭壇には白い布がかけられていた。上には何も置かれていない。
その周りに腰布のみを纏った男性が数十名ほどいて、皆は頭を垂れていた。
イルハームに祈りを捧げているのかと思われたが、神像の前に膝を着いているわけではなく、何もない祭壇を取り囲んでいる。まるでそこに神が座しているかのように彼らは崇めているのだ。
跪く男たちの狭間を進み、祭壇の前に辿り着く。青と金色が織り成すモザイクタイルが今は禍々しさを醸し出していた。
「さあ、セナ。ここに体を横たえるのだ」
「はい……」
ラシードに祭壇へ上がるよう促される。やはりここは、神への供物を捧げるための祭壇らしい。セナという神の贄を、これからイルハーム神に捧げるのだ。
震えながら祭壇へ近づく。正面にはイルハームの神像が鎮座していた。幾つもの蝋燭の灯火に照らされた神像は薄闇の中に浮かび上がっている。アーチにかけられたカーテンが閉じられているため、朝陽は遮られているのだ。セナは初めて、神に怖れを感じた。
神官にガウンを剥がれ、露わになった裸身を祭壇に横たえる。白布は背にひんやりとした感触を与えた。体が小刻みに震えてしまうのは止めようがなかった。
神官たちは神像の前へ赴き、祈祷を始める。ラシードとハリルは中央の祭壇に横たわるセナと神像を見比べられるような位置にそれぞれ立つ。イルハームとセナが南北で結ばれた直線を境にして、東と西に別れる形だ。声は充分に届く距離だが、手を触れるには遠すぎる。
神の贄が捧げられた祭壇を中心にして白銀のシャルワニを纏う神の末裔を両手にしたイルハーム神は、数多くの神官と跪く男たちを従えている。その光景は神聖な魔方陣が描かれているようであった。
ラシードは呪詛のように延々と唱えられる祈祷の中で、朗々とした声を上げた。
「これより奉納の儀を執り行う。神の贄、セナよ。そなたは淫神イルハームのために、快楽を捧げよ」
「は、はい」
快楽を捧げるとは、どうすれば良いのだろう。眸を瞬かせて戸惑うセナの視界を、立ち上がった男たちが占める。彼らは情欲に目を爛々とさせて、セナを見下ろしていた。
「この者たちは選ばれしアルファだ。彼らを傅かせ、その身に快楽を刻め。イルハームの淫紋が快楽へと導いてくれる」
ラシードが手を掲げると、それを合図として男たちがセナの体に群がる。幾つもの腕が伸ばされて、無遠慮に滑らかな肌を撫で回した。
「ひあっ!? あ、あ……や、やめて……」
セナはようやく理解した。奉納の儀とは、快楽を司るイルハームのために贄であるセナが、己が得た肉体の快楽を捧げるという儀式だったのだ。つまり、ここにいる男たちに抱かれるということ。
欲情した男たちの手のひらが、象牙のような白い肌を這い回る。
胸にも腹にも、内股にも。待ち構えていた獣が群がるように揉みくちゃにされて、セナは悲鳴を上げて体を捩らせた。
「いやあっ、こんな……たすけて……っ」
こんなことだったなんて。
複数の男たちに弄ばれることは初めてではないはずだった。けれど奴隷市場では商品を吟味するという意味合いがあり、体は金具に固定されていたので特定の箇所を弄られるだけだった。そこにはまだ耐える余地があった。こんなにも欲望を剥き出しにされて複数の男に触れられたことはない。これではまるで犯される前提での愛撫のようだ。
縋るようにラシードを見上げるが、彼は泰然として儀式を見守っている。昨夜の夕食のとき、一生懸命に儀式を務めますとセナは言ったばかりだ。ここで投げ出すわけにはいかないのだ。それに儀式を遂行するのは王の務めでもある。ラシードが止めるわけはなかった。ハリルのほうを向けば、彼も静観の構えを見せていた。先ほどの笑みを収めて、セナが男たちに嬲られるさまを無表情に眺めている。
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