淫神の孕み贄

沖田弥子

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宰相の奸計 1

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 気さくな人のようで、親しみやすさを覚えたセナは笑顔を見せた。
 だが、ファルゼフは柔和な笑みを収めると、セナに冷徹な瞳を向けた。それを隠すかのように、眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。

「さて。セナ様はわたくしから呼び出された理由に、思い当たることはございますか?」

 ぎくりとしたセナは体を強張らせる。
 ファルゼフがセナと話し合いたいという内容は、王子たちのことしかない。ラシードの前では、王子たちが勉学に不真面目すぎるなどと言いにくいからだろう。

「はい……あの、申し訳ありません。アルとイスカは決して不真面目なわけではないのです。ただ、まだ小さいので、講義が長いと飽きてしまうのです」

 懸命に話したセナに、ファルゼフは片眉を跳ね上げた。

「セナ様と本日話し合いたい内容は、特別講義での王子様がたの態度のことではありません」
「え……そうなんですか?」
「おふたりは真剣にわたくしの講義を受けてくださいました。もっとも、わたくしは講師を務めるときは教本など見ませんので、生徒から一瞬たりとも目を離しません。わたくしの講義を受講する生徒は皆、瞬きができないようで、講義のあとは大変目が乾いてしまうと一様に言います」

 ファルゼフの講義は、ある意味で厳しそうだ。この冷徹な眼差しで見つめられたら、蛇に睨まれた蛙のごとく、逸らせなくなってしまうのだろう。

「……そうですか。ファルゼフは、どうして教本を見ないのですか?」
「すべて頭に入っているからです。教本には理屈に則ったことしか書いていませんから、それを暗記するのは造作もありません」

 さすが王立大学院を首席で卒業した秀才だ。
 セナは奴隷オメガとして育ったので、まともな教育を受けなかった。王宮に来て儀式を終えてから、教師をつけてもらって基礎の勉学を覚えたくらいだ。
 ファルゼフの語ることは逐一説得力があり、少々話が長い……ので、やはり秀才は頭の作りから異なるということなのだろう。
 セナはふと、首を捻る。
 王子たちのことでないとしたら、ファルゼフが人払いをしてまでセナと話し合いたいこととはなんだろう?
 セナの仕草から心を読んだかのように、ファルゼフは瞳を煌めかせる。

「それではなんの話かというと、セナ様はおわかりになりますか? 王子様がたにも関係のあることでございます」
「アルとイスカにも? でも、ふたりの勉強についてではないんですよね。なんでしょう……」

 首を傾げるセナの答えが出るのを待つわけでもなく、ファルゼフは静かに問いかけた。

「セナ様。王子様がたはおいくつになられましたか?」
「ふたりとも、四歳になりました」
「ということは、セナ様は王子様がたが産まれてから四年間、懐妊していないことになります」
「ええ……そうですけど」
「医師の報告によりますと、お体は健康で今後も子を産むのに、なんの支障もないそうです。ただ定期的な発情期が訪れていないとのことですが、初めからセナ様はゆっくりと発情される体質だそうなので、これが懐妊から遠ざかっている原因であるとは一概に言えないでしょう」

 ファルゼフの言いたいことがわかったセナは唇を噛んで俯く。
 次の子を産んでほしいということなのだ。
 毎夜のようにラシードとハリルに愛されているのに、一向に孕まないのはなぜだろうと思わなかったわけではない。大臣からは次の御子様をという声が上がっているのも知っている。けれどラシードとハリルは何も言わないし、王子たちもまだ小さくて手がかかるので、自然に任せていたのだ。
 きっぱりと、ファルゼフは言い放った。

「セナ様、どうか懐妊してください。トルキア国のためにも、御子様を三人は産んでいただかねばなりません」
「そう言われても……アルとイスカがいますから、無理に子を産まなくてもいいのではありませんか?」

 ファルゼフは大仰に目を瞠った。セナの発言が信じられないことだと、衝撃を受けたようだ。

「何を仰います。神の贄となる資格を有しているのは、あなた様ただおひとりなのですよ? 神の子を孕めるのはセナ様しかいないのです。一般家庭とは異なります。考えてもみてください。もしも、アルダシール殿下とイスカンダル殿下の双方がオメガであったなら、王位は空席になってしまいます。そうなれば我こそは王と名乗る者により、血で血を洗う争いが起きてしまいます。その未来を避けるためにも、御子様は多いほうがよろしい」

 トルキア国では、王となる者は儀式によって産まれた神の子のアルファでなければならないと定められている。オメガであれば、王のつがいとして神の贄になる。
 子がたくさんいれば、王や神の贄の候補は増えるだろう。
 けれど、世の中はままならないものである。ラシードは神の末裔という地位だが、王の嫡子なので王位を継ぐことができた。それも彼がアルファゆえである。
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